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結婚編
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「公爵様、それはいけませんぞ。嫁というのは甘やかしたら図に乗るもんです」
「ほう?」
エリアストたちがそんなやり取りをしているとき。公爵夫妻もまた同じ会場にいた。
周りは一斉に静まり返る。ディレイガルド公爵に絡んでいるのは、クシャラダナ侯爵だ。宰相補佐を務める野心家の男。その野心が透けて見え過ぎて、ディレイガルド公爵は時々いじって遊んでいた。それを、ディレイガルド家に目を掛けられていると勘違いしているのも織り込み済みだ。
だが、この発言はいただけなかった。話の流れで、アリスの侍女と一緒に嫁いでもらうことを話したら、先の発言だ。公爵は片眉を上げて続きを促す。
「ひとつわがままを聞いたらまた次、その次、と際限なく要求してくる。最初が肝心なのですよ。侍女など誰でも一緒。嫁ぎ先の侍女を嫌がって自分の侍女と一緒に嫁ごうなんて、甘えもいいところです。嫁は嫁ぎ先に従っておればいい。図に乗らせたらいかんのですぞ、公爵様」
酒の勢いも手伝ってか、クシャラダナ侯爵は熱弁する。女性を軽んじる傾向にあることはわかっているが、ここまであからさまな女性蔑視の発言は、自身の首を絞めるだけだ。現に、会場の女性が敵視している。公爵は嗤った。
「なるほどなるほど。嫁がせてやっている家は違いますね」
言い方に棘を感じ、侯爵は己の失態に気付く。
「あ、いや、その」
「ディレイガルドは代々嫁いでもらっている家なので、妻の要望くらいいくらでも聞きますよ」
ニッコリと笑うと、周囲から感嘆の息が漏れる。
「何でも聞く代わりに嫁いでもらっていると言っても過言ではない。だってそうでしょう?」
側にいた夫人の腰を引き寄せる。
「筆頭公爵家ですよ?誰でもいいわけではありません。こちらが頼んで来てもらうのです」
公爵は夫人の頭に軽くくちづける。周囲から黄色い声が上がった。ディレイガルド当主は、婚約者のいた現公爵夫人を決闘で手に入れたことは有名な話だ。
「況してウチの愚息は選り好みも激しくて困ってしまいました。エリアストが気に入ったのであれば、平民にだって頭を下げて嫁いでもらわないと」
筆頭公爵家当主の言葉とは思えない発言に、ざわめきが広がる。
「アリス嬢は伯爵家。しかもコーサを賜る家柄だ。とんでもなく幸運でしたよ。侍女の件なんてこちらが提案したこと。幼い頃からの者が一緒であれば、少しでも安心して嫁いで来られるだろうというこちらの配慮です。まさかそんなことにケチをつけられるとは」
「い、いえ、ケチなどと」
「嫁いでもらう側はどうもその辺りに疎い。いやいや、勉強になりました」
「公爵様っ」
「まあ本当にどんなわがままでも聞ける権力と財力があって良かった」
「こ、公爵様、申し訳ありませんっ。出過ぎた真似を」
「何を謝るんです?勉強になったと言っているでしょう。でも不思議なことに、嫁いでもらう女性は代々慎ましい。お陰でもっとわがままを言ってくれとお願いするばかりです。お願いしてやっとわがままとも言えないわがままを言ってくれるんです。際限なくわがままを言ってもらいたいものです。では」
「公爵様っ」
公爵は振り返ることなく夫人を連れ立ってその場から離れた。残された侯爵は、ガックリとその場に崩れ落ちた。
*つづく*
「ほう?」
エリアストたちがそんなやり取りをしているとき。公爵夫妻もまた同じ会場にいた。
周りは一斉に静まり返る。ディレイガルド公爵に絡んでいるのは、クシャラダナ侯爵だ。宰相補佐を務める野心家の男。その野心が透けて見え過ぎて、ディレイガルド公爵は時々いじって遊んでいた。それを、ディレイガルド家に目を掛けられていると勘違いしているのも織り込み済みだ。
だが、この発言はいただけなかった。話の流れで、アリスの侍女と一緒に嫁いでもらうことを話したら、先の発言だ。公爵は片眉を上げて続きを促す。
「ひとつわがままを聞いたらまた次、その次、と際限なく要求してくる。最初が肝心なのですよ。侍女など誰でも一緒。嫁ぎ先の侍女を嫌がって自分の侍女と一緒に嫁ごうなんて、甘えもいいところです。嫁は嫁ぎ先に従っておればいい。図に乗らせたらいかんのですぞ、公爵様」
酒の勢いも手伝ってか、クシャラダナ侯爵は熱弁する。女性を軽んじる傾向にあることはわかっているが、ここまであからさまな女性蔑視の発言は、自身の首を絞めるだけだ。現に、会場の女性が敵視している。公爵は嗤った。
「なるほどなるほど。嫁がせてやっている家は違いますね」
言い方に棘を感じ、侯爵は己の失態に気付く。
「あ、いや、その」
「ディレイガルドは代々嫁いでもらっている家なので、妻の要望くらいいくらでも聞きますよ」
ニッコリと笑うと、周囲から感嘆の息が漏れる。
「何でも聞く代わりに嫁いでもらっていると言っても過言ではない。だってそうでしょう?」
側にいた夫人の腰を引き寄せる。
「筆頭公爵家ですよ?誰でもいいわけではありません。こちらが頼んで来てもらうのです」
公爵は夫人の頭に軽くくちづける。周囲から黄色い声が上がった。ディレイガルド当主は、婚約者のいた現公爵夫人を決闘で手に入れたことは有名な話だ。
「況してウチの愚息は選り好みも激しくて困ってしまいました。エリアストが気に入ったのであれば、平民にだって頭を下げて嫁いでもらわないと」
筆頭公爵家当主の言葉とは思えない発言に、ざわめきが広がる。
「アリス嬢は伯爵家。しかもコーサを賜る家柄だ。とんでもなく幸運でしたよ。侍女の件なんてこちらが提案したこと。幼い頃からの者が一緒であれば、少しでも安心して嫁いで来られるだろうというこちらの配慮です。まさかそんなことにケチをつけられるとは」
「い、いえ、ケチなどと」
「嫁いでもらう側はどうもその辺りに疎い。いやいや、勉強になりました」
「公爵様っ」
「まあ本当にどんなわがままでも聞ける権力と財力があって良かった」
「こ、公爵様、申し訳ありませんっ。出過ぎた真似を」
「何を謝るんです?勉強になったと言っているでしょう。でも不思議なことに、嫁いでもらう女性は代々慎ましい。お陰でもっとわがままを言ってくれとお願いするばかりです。お願いしてやっとわがままとも言えないわがままを言ってくれるんです。際限なくわがままを言ってもらいたいものです。では」
「公爵様っ」
公爵は振り返ることなく夫人を連れ立ってその場から離れた。残された侯爵は、ガックリとその場に崩れ落ちた。
*つづく*
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