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デビュタント編
最終話
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「欲しいものを手に入れる方法」
繋いだ親指の腹で、アリスの手のひらを撫でる。
「大事なものに手を伸ばす方法」
絡めた指を摩るようにゆるりと動かす。
「大切なものを守る方法」
もう一度、その指先にくちづける。
一緒に考えながら、歩みましょう、といつか言ってくれた。
「難しい、エルシィ」
傷つけたくないのに。悲しませたくないのに。ずっと笑っていて欲しいのに、上手くいかない。
「ふたりで、ずっと」
そう言って抱き締めた自分を、優しく抱き締め返してくれたあの日。あれから二人で今日まで歩んできた。アリスが優しく、時には厳しく、自分の手を放さずに導いてくれた。自分には、何が出来るだろう。この無償の愛に、どう応えられるだろう。
アリスから、思いやりを知った。
アリスから、慈しみを知った。
アリスから、幸せを知った。
アリスから
愛を、知った。
「エルシィ」
何度も指先に唇を落とす。
「エルシィ」
名前を呼ぶだけで幸せになる。
エリアストはゆっくり起き上がると、空いた方の手でアリスの頬を優しく撫でる。アリスの瞼が震えた。
「エルシィ」
覚醒を促すように優しく名を呼ぶと、アリスの夜明け色の瞳がエリアストを捉えた。
「えるさま」
寝起きの愛らしい声で微笑むアリスに、堪らず抱き締めた。アリスはゆるゆるとエリアストの背中を撫でる。心配をかけたことを詫びるように、何度も何度も。
「エル様、悩んで、いらっしゃるのですね」
アリスはそっとエリアストの頬に唇を寄せた。エリアストは、何をされたかわからなかったが、一瞬の間の後、顔を上げてアリスを向く。真っ赤なアリスが照れ笑いをしている。エリアストの顔が真っ赤に染まる。
アリスからの、キス。
「え、る、しぃ」
「エル様」
火照る顔をそのままに、アリスは言葉を紡ぐ。
「一緒に、考えましょうと、申しました」
エリアストは目を見開く。
「二人で、ずっと。考えながら歩みましょうと、申しました」
アリスが起き上がる素振りを見せると、エリアストはその背を支えて起き上がらせる。アリスは笑った。
「ありがとうございます、エル様。わたくしは幸せです」
エリアストはキョトンとした。今のどこに幸せと言える要素があるのか。
「わたくしの体を慮って支えてくださいました」
アリスは両手を伸ばして、エリアストの両頬を包む。
「わたくしの傷を見て、悲しんでくださいました。わたくしのために、怒ってくださいました。わたくしを守ろうと、動いてくださいました」
アリスの言葉が、エリアストの心を温かくしていく。
「わたくしが心やすくあるよう、考えてくださいました」
愛しさで胸が苦しくなる。
「わたくしのキスに、喜んでくださいました」
堪らなくなった。
「エル様にとっては些細なことかも知れません。けれど、その小さなことを大切に思います。小さなことを積み重ねていけることが、とても幸せなのです」
何気ない日常の、何気ない行動。そこに思いやりを感じたとき。そこに幸せを見つける美しい少女。
「初めてエル様を訪ねてこのお屋敷に伺ったときの、エル様の言葉。間違いありませんでした」
”他の者たちは私といるだけで、私を見るだけで幸せだと言った”
エリアストは目を見開く。まったく意味合いが違う。自分が無知であっただけ。しかしアリスは首を振る。他の人が真実どうあったかはわからない。けれど、その言葉はアリスの真実だったのだ。
「わたくしはエル様と一緒でしたら、エル様がお側にいてくださるなら、どんなことがあっても幸せになれるのです」
なんと清らかなものか。
エリアストは苦しそうに眉を寄せ、貪るようにアリスの唇を奪う。
愛しくて愛しくて堪らない。
アリスの小さな口から、飲み込みきれない唾液がこぼれる。激しさに滲む涙は、苦しさからか、幸せからか。頭を抱えられ、ゆっくりベッドに倒される。歯列をなぞられ舌を吸われ、喉の奥まで犯される。ようやく離れた唇だが、互いの想いを表わすように繋がったままの銀の糸。間近で交わる視線に、また唇が重なる。
「エルシィ」
唇が離れる微かな時間で、何度も何度も名前を呼ばれる。アリスは胸が苦しくて仕方がなかった。これ程までに求められる存在であることが嬉しかった。こんなにも求める存在がいてくれることが幸せだった。そしてそれは、エリアストも同じだった。
「エルシィ、私も、幸せだ」
キミが存在する限り、幸せなんだ。
*デビュタント編 おわり*
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
わかりづらい、矛盾している、などございましたら申し訳ありません。
このあと、結婚編へと続きますので、よろしかったら引き続き読んでいただけると嬉しいです。
繋いだ親指の腹で、アリスの手のひらを撫でる。
「大事なものに手を伸ばす方法」
絡めた指を摩るようにゆるりと動かす。
「大切なものを守る方法」
もう一度、その指先にくちづける。
一緒に考えながら、歩みましょう、といつか言ってくれた。
「難しい、エルシィ」
傷つけたくないのに。悲しませたくないのに。ずっと笑っていて欲しいのに、上手くいかない。
「ふたりで、ずっと」
そう言って抱き締めた自分を、優しく抱き締め返してくれたあの日。あれから二人で今日まで歩んできた。アリスが優しく、時には厳しく、自分の手を放さずに導いてくれた。自分には、何が出来るだろう。この無償の愛に、どう応えられるだろう。
アリスから、思いやりを知った。
アリスから、慈しみを知った。
アリスから、幸せを知った。
アリスから
愛を、知った。
「エルシィ」
何度も指先に唇を落とす。
「エルシィ」
名前を呼ぶだけで幸せになる。
エリアストはゆっくり起き上がると、空いた方の手でアリスの頬を優しく撫でる。アリスの瞼が震えた。
「エルシィ」
覚醒を促すように優しく名を呼ぶと、アリスの夜明け色の瞳がエリアストを捉えた。
「えるさま」
寝起きの愛らしい声で微笑むアリスに、堪らず抱き締めた。アリスはゆるゆるとエリアストの背中を撫でる。心配をかけたことを詫びるように、何度も何度も。
「エル様、悩んで、いらっしゃるのですね」
アリスはそっとエリアストの頬に唇を寄せた。エリアストは、何をされたかわからなかったが、一瞬の間の後、顔を上げてアリスを向く。真っ赤なアリスが照れ笑いをしている。エリアストの顔が真っ赤に染まる。
アリスからの、キス。
「え、る、しぃ」
「エル様」
火照る顔をそのままに、アリスは言葉を紡ぐ。
「一緒に、考えましょうと、申しました」
エリアストは目を見開く。
「二人で、ずっと。考えながら歩みましょうと、申しました」
アリスが起き上がる素振りを見せると、エリアストはその背を支えて起き上がらせる。アリスは笑った。
「ありがとうございます、エル様。わたくしは幸せです」
エリアストはキョトンとした。今のどこに幸せと言える要素があるのか。
「わたくしの体を慮って支えてくださいました」
アリスは両手を伸ばして、エリアストの両頬を包む。
「わたくしの傷を見て、悲しんでくださいました。わたくしのために、怒ってくださいました。わたくしを守ろうと、動いてくださいました」
アリスの言葉が、エリアストの心を温かくしていく。
「わたくしが心やすくあるよう、考えてくださいました」
愛しさで胸が苦しくなる。
「わたくしのキスに、喜んでくださいました」
堪らなくなった。
「エル様にとっては些細なことかも知れません。けれど、その小さなことを大切に思います。小さなことを積み重ねていけることが、とても幸せなのです」
何気ない日常の、何気ない行動。そこに思いやりを感じたとき。そこに幸せを見つける美しい少女。
「初めてエル様を訪ねてこのお屋敷に伺ったときの、エル様の言葉。間違いありませんでした」
”他の者たちは私といるだけで、私を見るだけで幸せだと言った”
エリアストは目を見開く。まったく意味合いが違う。自分が無知であっただけ。しかしアリスは首を振る。他の人が真実どうあったかはわからない。けれど、その言葉はアリスの真実だったのだ。
「わたくしはエル様と一緒でしたら、エル様がお側にいてくださるなら、どんなことがあっても幸せになれるのです」
なんと清らかなものか。
エリアストは苦しそうに眉を寄せ、貪るようにアリスの唇を奪う。
愛しくて愛しくて堪らない。
アリスの小さな口から、飲み込みきれない唾液がこぼれる。激しさに滲む涙は、苦しさからか、幸せからか。頭を抱えられ、ゆっくりベッドに倒される。歯列をなぞられ舌を吸われ、喉の奥まで犯される。ようやく離れた唇だが、互いの想いを表わすように繋がったままの銀の糸。間近で交わる視線に、また唇が重なる。
「エルシィ」
唇が離れる微かな時間で、何度も何度も名前を呼ばれる。アリスは胸が苦しくて仕方がなかった。これ程までに求められる存在であることが嬉しかった。こんなにも求める存在がいてくれることが幸せだった。そしてそれは、エリアストも同じだった。
「エルシィ、私も、幸せだ」
キミが存在する限り、幸せなんだ。
*デビュタント編 おわり*
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
わかりづらい、矛盾している、などございましたら申し訳ありません。
このあと、結婚編へと続きますので、よろしかったら引き続き読んでいただけると嬉しいです。
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