美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛

らがまふぃん

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出会い編

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 あまりに戻らない二人を心配して、公爵夫人がエリアストの部屋を訪れた。扉をノックするが、返事がない。庭園にでも出たのだろうか、と思いつつ、念のため扉を開く。夫人は思わず手で口を押さえた。
 「え、エリアスト、何を、何をしているのです」
 床に散らばる髪と、左手に握られた髪の束。その腕には気を失うアリスの姿があった。右手では愛おしそうにアリスの頬を撫でている。
 「返事もないのに勝手に部屋に入るとは、感心しませんね、母上」
 何事もなく話す息子の姿に、夫人はゾッとした。
 「旦那様、旦那様をお呼びなさい!」
 夫人の言葉に侍女は急ぎ公爵を呼びに戻る。
 「エリアスト、どういうことですかこれは。なぜ部屋に控えの者がいないのです。いないのであれば、なぜ扉を閉めていたの」
 「エルシィとの時間を邪魔されたくなかったからですよ」
 「アリスさんの立場をお考えなさい。こんな醜聞、年頃の令嬢には命取りですよ!」
 エリアストは鼻で嗤った。
 「エルシィは私のものだ。醜聞?私のものなのに?誰の目を気にする必要が?」
 夫人は眩暈がした。誰にも興味を示さず、淡々と物事を行う息子に不安があった。ずっとこのままだと跡継ぎが出来ない。公爵家を運営する力は充分あるので、それだけが気がかりだった。
 そんな息子が、我が家に招待したい人がいる、と言った。一も二もなく頷いた。この際爵位など何でもよい。もういっそ平民だって良かった。それだと言うのに。
 「では、その髪は?なぜそのようなことに?」
 そこで公爵と伯爵が走って来た。
 「どうした、何が…」
 公爵は言葉を失い、伯爵は卒倒した。公爵は慌てて伯爵を客間のベッドに横にするよう指示を出す。
 「エリアスト、おまえ、自分が何をしているのかわかっているのか」
 「ええ、これでエルシィは私だけのものになるのです」
 冷酷な部分はディレイガルドを継ぐ者として必要だったが、異常性を隠せないことは問題だった。
 「こんなこと、許されることではない」
 公爵は首を横に振り、鋭く息子を見た。
 「許されないとは。誰が許さないのでしょうか」
 「アリス嬢が許すはずがない」
 その言葉にエリアストは昏い目を向けた。
 「エルシィが許さない?おまえがエルシィの何を知っている」
 勝手にエルシィの気持ちを推し量るな。殺気の籠もったオーラが部屋に満ちる。公爵は思わず一歩後退あとじさる。
 「まあそうですね、これではエルシィはとても人前になど出られない」
 両親の目の前でアリスにくちづける。
 「責任を持って私がこの家で守っていきましょう」
 見たこともない、本当に幸せそうな顔で笑った。


*~*~*~*~*


 伯爵の剣幕は凄まじかった。公爵夫妻は頭を下げることしか出来ない。
 「リズをお返しください!責任など取っていただかなくて結構!金輪際ファナトラタ家と関わりを持たないと契約してくだされば!もう、それだけ、それだけでいい」
 娘を返してくれ。最後は力なく座り込み、顔を手で覆っていた。
 エリアストはアリスを離さなかった。力尽くで引きはがそうと近付くと、エリアストは抜き身の剣を構えた。
 「何人たりとも邪魔はさせない」
 出て行け、と絶対零度のオーラを放つ。それでも公爵夫妻は説得を続ける。エリアストは溜め息を一つつくと、剣を下ろした。公爵夫妻は安堵の息を漏らす。
 しかし。
 エリアストは左腕に抱えていたアリスを背後から抱きしめるように抱え直すと、
 「エルシィ、今世では雑音が多過ぎたようだ」
 剣を自分たちに向ける。
 「また来世」
 躊躇ためらいもなくアリスと自身を貫く。しかし、間一髪のところで護衛が横から剣を叩き落とすことに成功した。公爵は安堵の息をつき、夫人は力が抜けて床に座り込んだ。あまりのことに、誰も言葉を発せない。エリアストが酷く不機嫌に護衛を睨む。
 「私の邪魔をしたな」
 護衛は息をのんで後退あとじさる。
 「わかった、とりあえず私たちは下がる。だから早まるな。決して悪いようにはしない。いいな。早まるなよ」
 焦燥が滲む声の公爵を、エリアストは睨む。
 「私とエルシィの邪魔はしない、いいな」
 公爵は何度も頷く。
 「ああ。だからくれぐれも」
 「早く出て行け」
 固く扉は閉ざされた。
 目覚めた伯爵は一部始終を聞いて、半狂乱に叫んだのだ。
 「リズ、リズ、可愛い、私の、りず」
 床に伏して泣き崩れる伯爵に、公爵夫妻は俯くことしか出来なかった。


 *つづく*

 また来世、と言っているエル様は、輪廻転生を信じているわけではありません。
 死んでもまた会えると確信しているほど、アリスを愛しているだけです。
 その考え自体が輪廻転生だろう、というお話は、まあ、そうですね。
 うん、そうですよね。難しいですね。うまく表現出来ずに申し訳ないです。
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