婚約破棄をしようとしたら

らがまふぃん

文字の大きさ
上 下
8 / 17

そのはち

しおりを挟む
 ロナことザガラ曰く、若さを持続させるために、魔力が必要不可欠だと言う。若く愛らしい姿にするため、日々魔力をせっせと集めているようだ。世界からしたら、魔法の国の人間というだけで桁違いの魔法使いなのだが、魔法の国の民であるザガラは、国においては可もなく不可もなくというレベルなのだという。

 ロナの容姿がザガラの好みの容姿だったため、本物と入れ替わったようだ。ロナを模写した姿のザガラだ。魔力があるに決まっている。この国の基準に収まるよう魔力値をコントロールし、学園生活を始めた。当然、天才的な使い手になる。そんなザガラは、魔力の多い人物に擦り寄る。ザガラから見て、一番魔力があったのが、ギャレット。練度の高さはミレイが群を抜いていたが、あくまでも量が必要だった。

 魔法の国において、ザガラは極々普通。ジュエルやカインのように、トップクラスとまではいかなくても、上位に入るレベルの者たちであれば、上辺の魔力量に踊らされたりしない。潜在的な魔力量を見る。そのためジュエルは、ギャレットではなく、エティハ・グレイアンジュを選んだのだ。

 その程度のザガラが、何故覇王ほどの人物に知られているのか。

 倫理観ゼロの魔法の国において、たった一つだけ法がある。

 同族殺しは死刑。

 魔法の国の人間が世界中を殺して回ったとしても、魔法の国は我関せず。強いて言うなら、魔力どのくらい集まった?くらいの関心しか寄せない。それなのに、自国の民に刃を向ける者には、例え自国の民でも赦さない。そんな身勝手な国。

 「さて。楽しい余興も終わりました。本題に入りましょうか」

 カインの言葉に、ザガラは蒼白になりながら体を震わせる。

 「わ、わたし、の、姿は、元のものと、かけ離れた、ものなのに」

 ザガラがカインを見て逃げようとした理由。

 「嫌ですね。これだから無能は。姿なんて知りませんよ。我々は魂の形で判断しているのですから」

 本当に次元が違う。ザガラは、バレないと思っていた。けれど、何がきっかけになるかわからない。だから、逃げようとしたのに。

 「おまえを追いかけながら、世界中で魔力を集めていただけですよ。けれど、そろそろ飽きてきました」

 いつでも捕まえられた。けれど、追いかけっこも暇潰しにいいかもしれない。
 言外に含まれる言葉に、ザガラは崩れ落ちた。

 「何故逃げられると思ったのでしょうね。本当に、彼我の差がわからない無能はこれだから。ああ、だから同族殺しなんて出来るのでしょう」

 にっこり嗤うカインが、ザガラに左の手のひらを向けると。

 「さて。追いかけっこの次は、どんな暇潰しをしましょうか」

 ロナ・マルアレアだった者の姿が、枯れ枝のような老人の姿へと変わっていた。

 「は私に任せていただいても?」

 カインの言葉にジュエルが頷くと、カインは、枯れ枝のようになり、動けずにいるロナことザガラを振り返る。その側で呆然としているギャレットへ、邪魔ですね、と呟いたカインは、クイ、と指を動かした。

 「ふおおっ?!」

 壇上から反対側にある入り口に飛ばされ、扉に背中を打ちつけるギャレットの口から、潰れたカエルのような声が漏れた。近くにいた者が、一応助け起こす。目が回っているようなので、とりあえずもう一度寝かせておくことにした。アホ王子なんぞより、魔法の国の人たちの動向が気になって仕方がないから、仕方がない。

 あのロナを、赤子のように扱うカインに、みんなは少なからず恐怖し、また、興奮してもいた。

 魔法の天才と言われていたロナ。魔法の国の人間であれば、それはそうだろう。誰もがロナの魔法だけは称賛していた。誰も追いつけない、凄まじい使い手だった。もしかしたら、魔法の国の人々さえ、ロナには敵わないのではないか、などと夢を見た。

 魔法の国の人間の魔法を、知らなすぎた。

 魔法の国の人間は、滅多にお目にかかれないから仕方がないかもしれない。それでも、あまりにも桁違いすぎやしないだろうか。

 ロナが、無能と呼ばれ、赤子のように手も足も出ないなんて。



*つづく*
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私は愛する婚約者に嘘をつく

白雲八鈴
恋愛
亜麻色の髪の伯爵令嬢。 公爵子息の婚約者という立場。 これは本当の私を示すものではない。 でも私の心だけは私だけのモノ。 婚約者の彼が好き。これだけは真実。 それは本当? 真実と嘘が入り混じり、嘘が真実に置き換わっていく。 *作者の目は節穴ですので、誤字脱字は存在します。 *不快に思われれば、そのまま閉じることをお勧めします。 *小説家になろうでも投稿しています。

私の完璧な婚約者

夏八木アオ
恋愛
完璧な婚約者の隣が息苦しくて、婚約取り消しできないかなぁと思ったことが相手に伝わってしまうすれ違いラブコメです。 ※ちょっとだけ虫が出てくるので気をつけてください(Gではないです)

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

婚約破棄されて追放された私、今は隣国で充実な生活送っていますわよ? それがなにか?

鶯埜 餡
恋愛
 バドス王国の侯爵令嬢アメリアは無実の罪で王太子との婚約破棄、そして国外追放された。  今ですか?  めちゃくちゃ充実してますけど、なにか?

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました

かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中! そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……? 可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです! そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!? イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!! 毎日17時と19時に更新します。 全12話完結+番外編 「小説家になろう」でも掲載しています。

【完結】仕事を放棄した結果、私は幸せになれました。

キーノ
恋愛
 わたくしは乙女ゲームの悪役令嬢みたいですわ。悪役令嬢に転生したと言った方がラノベあるある的に良いでしょうか。  ですが、ゲーム内でヒロイン達が語られる用な悪事を働いたことなどありません。王子に嫉妬? そのような無駄な事に時間をかまけている時間はわたくしにはありませんでしたのに。  だってわたくし、週4回は王太子妃教育に王妃教育、週3回で王妃様とのお茶会。お茶会や教育が終わったら王太子妃の公務、王子殿下がサボっているお陰で回ってくる公務に、王子の管轄する領の嘆願書の整頓やら収益やら税の計算やらで、わたくし、ちっとも自由時間がありませんでしたのよ。  こんなに忙しい私が、最後は冤罪にて処刑ですって? 学園にすら通えて無いのに、すべてのルートで私は処刑されてしまうと解った今、わたくしは全ての仕事を放棄して、冤罪で処刑されるその時まで、押しと穏やかに過ごしますわ。 ※さくっと読める悪役令嬢モノです。 2月14~15日に全話、投稿完了。 感想、誤字、脱字など受け付けます。  沢山のエールにお気に入り登録、ありがとうございます。現在執筆中の新作の励みになります。初期作品のほうも見てもらえて感無量です! 恋愛23位にまで上げて頂き、感謝いたします。

初夜に「私が君を愛することはない」と言われた伯爵令嬢の話

拓海のり
恋愛
伯爵令嬢イヴリンは家の困窮の為、十七歳で十歳年上のキルデア侯爵と結婚した。しかし初夜で「私が君を愛することはない」と言われてしまう。適当な世界観のよくあるお話です。ご都合主義。八千字位の短編です。ざまぁはありません。 他サイトにも投稿します。

あなたを忘れる魔法があれば

美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。 ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。 私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――? これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような?? R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。 ※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます

処理中です...