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そのさん
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その姿に女性陣からは黄色い悲鳴が上がり、男性陣は茫然とした。
艶のある黒髪が腰まで伸び、同じく黒い、黒曜石のような隻眼が呆れたように細められている。左眼にはワインレッドの布地に黒い刺繍が施された眼帯。この世のものとは思えないほど美しい人物が、ゆっくりグレイアンジュの元へと降り立った。
「うむ。このような罠が仕掛けられているとはな」
グレイアンジュは真剣な眼差しで、その人物に告げる。
「罠でも何でもありません。あなた様が虚弱すぎるだけです」
その人物はニッコリと否定する。
「俯せになれますか」
「無理だな。金縛りに遭っている」
「金縛りではありませんよ。どれだけ虚弱なのですか」
そう言って丁寧にグレイアンジュを起き上がらせると、躊躇いもなく背中のボタンやリボンを外していく。その様子に、女性陣は青ざめて悲鳴を上げ、男性陣は顔を真っ赤にして見ないように背を向ける。
すべてのボタンなどを外し終えると、緩んだ胸元に両手を差し込み、脇を掴んでドレスからグレイアンジュを解放する。そして、どこからともなく取り出した服を、慣れた様子で着付けた。
その、着付けられた服を見て、女性陣は驚きに目を見開く。その様子に、男性陣も恐る恐るグレイアンジュを振り返り。
一気に会場は静まり返った。
この世界には、“魔法の国”と呼ばれる国がある。
魔法を使える世界で何を、と思うかもしれないが、この“魔法の国”においての魔法とは、世界の魔法とは次元が異なると言っていい。そもそも“魔法の国”が、どこにあるのか世界は知らない。“ある”ことは確かなのだが、誰も辿り着けない。そんな、すべてにおいての魔法のレベルもそうだが、倫理観を疑う魔法も存在している国が、“魔法の国”だ。と言うより、倫理という言葉が存在していない。とにかく“魔法の国”の国民は、頭がおかしいのだ。
そんな国の衣装を身につけたグレイアンジュ。眼帯の人物のマントの下も、恐らく同じ衣装を纏っているのだろう。
「そこの少年」
グレイアンジュは、助けようとしてくれた男子生徒に声をかける。
「は、はいっ」
「この少女の、グレイアンジュというのは名か?家名か?」
突然の質問に、何とか男子生徒は答えた。
「か、家名、です」
「では名は?爵位があるなら爵位も教えてくれ」
「エティハ、です。エティハ・グレイアンジュ男爵令嬢です」
エティハ(仮)は頷く。
何故そんなことを訊くのだろう。信じ難いが、見た目エティハの中身は別人、ということなのだろうか。倒れたときに頭をぶつけて記憶喪失、何てことも有り得るが。
みんながそんなことを考えていると、記憶喪失の線はなさそうな発言をされた。
「男爵か。なら問題ないな。この少女は、この学園で、一番大きな魔力を持っていたからな。この体を貰い受けた」
みんなが首を傾げる。
この国において、下位貴族は確かに跡継ぎ問題は然程重要ではないし、国の要職にも就けない。何かあった場合、高位貴族より確かに問題はないが、体をもらったとは?
「しかし、宝の持ち腐れとはこのことだな。これほどの魔力量があるというのに、ちっとも使いこなせていない。まだ私の魂が馴染んでいないが、それでも私の方が余程うまくこの体を使ってやれる。なあ、カイン」
眼帯の人物カインに、楽しそうに告げるエティハ(仮)が、得体の知れないものに見える。
「ああ、自己紹介が遅れた。私は魔法の国の者だ。名をジュエルと言う」
カインが魔法で用意した豪奢な椅子にゆったりと座るエティハ(仮)ことジュエルが、艶然としている。
もうみんな、わけがわからなかった。一体何が起こっているというのか。
魔法の国でジュエルと言ったら、まさか。
そんな混乱する一同を余所に、さらなる混乱の言葉を吐く。
「どこへ行く、ザガラ」
ニヤリ、と言う言葉がしっくりくる笑みで、ジュエルと名乗った人物が見つめる先には。
「へ?」
何故バレた、と言いた気な、ゆっくりフェードアウトしようとしている、ザガラと呼ばれたロナ・マルアレアがいた。
*つづく*
艶のある黒髪が腰まで伸び、同じく黒い、黒曜石のような隻眼が呆れたように細められている。左眼にはワインレッドの布地に黒い刺繍が施された眼帯。この世のものとは思えないほど美しい人物が、ゆっくりグレイアンジュの元へと降り立った。
「うむ。このような罠が仕掛けられているとはな」
グレイアンジュは真剣な眼差しで、その人物に告げる。
「罠でも何でもありません。あなた様が虚弱すぎるだけです」
その人物はニッコリと否定する。
「俯せになれますか」
「無理だな。金縛りに遭っている」
「金縛りではありませんよ。どれだけ虚弱なのですか」
そう言って丁寧にグレイアンジュを起き上がらせると、躊躇いもなく背中のボタンやリボンを外していく。その様子に、女性陣は青ざめて悲鳴を上げ、男性陣は顔を真っ赤にして見ないように背を向ける。
すべてのボタンなどを外し終えると、緩んだ胸元に両手を差し込み、脇を掴んでドレスからグレイアンジュを解放する。そして、どこからともなく取り出した服を、慣れた様子で着付けた。
その、着付けられた服を見て、女性陣は驚きに目を見開く。その様子に、男性陣も恐る恐るグレイアンジュを振り返り。
一気に会場は静まり返った。
この世界には、“魔法の国”と呼ばれる国がある。
魔法を使える世界で何を、と思うかもしれないが、この“魔法の国”においての魔法とは、世界の魔法とは次元が異なると言っていい。そもそも“魔法の国”が、どこにあるのか世界は知らない。“ある”ことは確かなのだが、誰も辿り着けない。そんな、すべてにおいての魔法のレベルもそうだが、倫理観を疑う魔法も存在している国が、“魔法の国”だ。と言うより、倫理という言葉が存在していない。とにかく“魔法の国”の国民は、頭がおかしいのだ。
そんな国の衣装を身につけたグレイアンジュ。眼帯の人物のマントの下も、恐らく同じ衣装を纏っているのだろう。
「そこの少年」
グレイアンジュは、助けようとしてくれた男子生徒に声をかける。
「は、はいっ」
「この少女の、グレイアンジュというのは名か?家名か?」
突然の質問に、何とか男子生徒は答えた。
「か、家名、です」
「では名は?爵位があるなら爵位も教えてくれ」
「エティハ、です。エティハ・グレイアンジュ男爵令嬢です」
エティハ(仮)は頷く。
何故そんなことを訊くのだろう。信じ難いが、見た目エティハの中身は別人、ということなのだろうか。倒れたときに頭をぶつけて記憶喪失、何てことも有り得るが。
みんながそんなことを考えていると、記憶喪失の線はなさそうな発言をされた。
「男爵か。なら問題ないな。この少女は、この学園で、一番大きな魔力を持っていたからな。この体を貰い受けた」
みんなが首を傾げる。
この国において、下位貴族は確かに跡継ぎ問題は然程重要ではないし、国の要職にも就けない。何かあった場合、高位貴族より確かに問題はないが、体をもらったとは?
「しかし、宝の持ち腐れとはこのことだな。これほどの魔力量があるというのに、ちっとも使いこなせていない。まだ私の魂が馴染んでいないが、それでも私の方が余程うまくこの体を使ってやれる。なあ、カイン」
眼帯の人物カインに、楽しそうに告げるエティハ(仮)が、得体の知れないものに見える。
「ああ、自己紹介が遅れた。私は魔法の国の者だ。名をジュエルと言う」
カインが魔法で用意した豪奢な椅子にゆったりと座るエティハ(仮)ことジュエルが、艶然としている。
もうみんな、わけがわからなかった。一体何が起こっているというのか。
魔法の国でジュエルと言ったら、まさか。
そんな混乱する一同を余所に、さらなる混乱の言葉を吐く。
「どこへ行く、ザガラ」
ニヤリ、と言う言葉がしっくりくる笑みで、ジュエルと名乗った人物が見つめる先には。
「へ?」
何故バレた、と言いた気な、ゆっくりフェードアウトしようとしている、ザガラと呼ばれたロナ・マルアレアがいた。
*つづく*
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