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そのに
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ロナは一部の生徒にもて囃されたが、大多数の者からは敬遠されていた。ミレイを蹴落としたい連中にとって、ロナはとても使い勝手が良かった。ロナにないことないこと吹き込んで、ロナにミレイを蹴落とさせようと画策する。
それにまんまと乗せられたロナの言葉を信じた第二王子ギャレットは、どうにかしてミレイに恥をかかせてやろうと考えた。自分の愛しいロナへの仕打ちが赦せなかった。
王家から婚約破棄をされたミレイが、どんな顔をするだろう。あの澄ました顔が、驚きに、悲しみに歪むのだろうか。ギャレットは、自分を敬わないミレイのことが、大いに不満だった。だから、泣いて謝らせてやろう、恐怖に震えさせてやろう、そう考えたのだ。
王家からの婚約破棄。どう考えても醜聞でしかない。傷物令嬢として、もうどこにも嫁げない。まあ、金にものを言わせた人非人や、美しい者を好む色欲変態ジジイのところになら、可能性はあるだろう。
そう考えたギャレットは、プロムナードという大勢が集まる場所で、ロナへのイジメの数々を暴露し、澄まし顔を歪めてやろうと、一人ほくそ笑んだ。
「私の愛しいロナに、これ程非道をおこなったのだ!」
プロムナードの談笑の中、壇上に上がったギャレットがみんなの注目を集めると、隣には婚約者ではない女性、何かと噂のロナ・マルアレア男爵令嬢。そのロナの腰を抱きながら、ギャレットはこれまでロナが受けたイジメの数々を声高に告げ、先程のセリフを投げつける。視線の先には、婚約者であるミレイ・オーレイル侯爵令嬢。
ミレイはあまりのバカバカしさに、何も言えなかった。それを肯定と受け取ったギャレットは、ニタリと嗤った。
「おまえのような者は私の隣に並ぶ資格などない!よっておまえとの」
クライマックス。
正にその時。
悲鳴が響く。
「ど、どうしたっ。大丈夫かっ」
一人の女子生徒が突然倒れた。側の男子生徒が慌てて膝をつき、倒れた女子生徒を覗き込む。突然のことに驚き悲鳴を上げた生徒たちは、倒れた女子生徒から少し離れて見つめている。
「ダメだな。これはいかん」
倒れた女子生徒は遠い目をしながらそう言った。
「なっ、し、しっかりしろっ」
男子生徒がオロオロと声をかけるが、女子生徒は仰向けに倒れたまま首をぐりんぐりんと振る。
「いやいやいやいやむりむりむりむり」
意識はあるが、突然倒れたのだ。何故、何が起こったのかさっぱりわからないが、このままにしておけない。最早、先程までの断罪寸劇を気に止める者などいない。
「誰かっ、グレイアンジュ嬢を医務室へ運ぶのを手伝ってくれ!」
そう言って、男子生徒は周囲に声をかける。そして、失礼、とグレイアンジュと呼ばれた女子生徒を抱き起こそうとすると。
「やめておけ。死にたいのか」
「はっ?!」
抱き起こそうとしただけで、とんでもなく物騒な発言をいただきました。
男子生徒はグレイアンジュを見る。グレイアンジュは至極真面目な顔で言った。
「おまえのような華奢な者が、このドレスという名の鎧を身につけた人間一人を抱えられるとは思えん」
男子生徒のみならず、周囲もグレイアンジュを見る。
「全身の骨が砕けるだけならまだいい。下手をすると重さに耐えきれず、潰されるぞ。圧死だ」
全員がグレイアンジュを見ている。壇上の二人もどうしていいかわからず、とりあえず見ている。
「だから私のことは構わなくていい。これは私のミス。心優しいおまえを巻き込むわけにはいかない」
ここは戦場だっただろうか。そして何を言っているのだろう。いや、ドレスが重い、と言いたいのはわかった。が、急に?なんで?
ちなみに男子生徒は中肉中背。いたって普通の体型だ。華奢ではない。
そんな周囲の混乱を余所に、天井近くから声が降ってきた。
「まったく。だから先に行かないようにと言ったのですよ」
*つづく*
それにまんまと乗せられたロナの言葉を信じた第二王子ギャレットは、どうにかしてミレイに恥をかかせてやろうと考えた。自分の愛しいロナへの仕打ちが赦せなかった。
王家から婚約破棄をされたミレイが、どんな顔をするだろう。あの澄ました顔が、驚きに、悲しみに歪むのだろうか。ギャレットは、自分を敬わないミレイのことが、大いに不満だった。だから、泣いて謝らせてやろう、恐怖に震えさせてやろう、そう考えたのだ。
王家からの婚約破棄。どう考えても醜聞でしかない。傷物令嬢として、もうどこにも嫁げない。まあ、金にものを言わせた人非人や、美しい者を好む色欲変態ジジイのところになら、可能性はあるだろう。
そう考えたギャレットは、プロムナードという大勢が集まる場所で、ロナへのイジメの数々を暴露し、澄まし顔を歪めてやろうと、一人ほくそ笑んだ。
「私の愛しいロナに、これ程非道をおこなったのだ!」
プロムナードの談笑の中、壇上に上がったギャレットがみんなの注目を集めると、隣には婚約者ではない女性、何かと噂のロナ・マルアレア男爵令嬢。そのロナの腰を抱きながら、ギャレットはこれまでロナが受けたイジメの数々を声高に告げ、先程のセリフを投げつける。視線の先には、婚約者であるミレイ・オーレイル侯爵令嬢。
ミレイはあまりのバカバカしさに、何も言えなかった。それを肯定と受け取ったギャレットは、ニタリと嗤った。
「おまえのような者は私の隣に並ぶ資格などない!よっておまえとの」
クライマックス。
正にその時。
悲鳴が響く。
「ど、どうしたっ。大丈夫かっ」
一人の女子生徒が突然倒れた。側の男子生徒が慌てて膝をつき、倒れた女子生徒を覗き込む。突然のことに驚き悲鳴を上げた生徒たちは、倒れた女子生徒から少し離れて見つめている。
「ダメだな。これはいかん」
倒れた女子生徒は遠い目をしながらそう言った。
「なっ、し、しっかりしろっ」
男子生徒がオロオロと声をかけるが、女子生徒は仰向けに倒れたまま首をぐりんぐりんと振る。
「いやいやいやいやむりむりむりむり」
意識はあるが、突然倒れたのだ。何故、何が起こったのかさっぱりわからないが、このままにしておけない。最早、先程までの断罪寸劇を気に止める者などいない。
「誰かっ、グレイアンジュ嬢を医務室へ運ぶのを手伝ってくれ!」
そう言って、男子生徒は周囲に声をかける。そして、失礼、とグレイアンジュと呼ばれた女子生徒を抱き起こそうとすると。
「やめておけ。死にたいのか」
「はっ?!」
抱き起こそうとしただけで、とんでもなく物騒な発言をいただきました。
男子生徒はグレイアンジュを見る。グレイアンジュは至極真面目な顔で言った。
「おまえのような華奢な者が、このドレスという名の鎧を身につけた人間一人を抱えられるとは思えん」
男子生徒のみならず、周囲もグレイアンジュを見る。
「全身の骨が砕けるだけならまだいい。下手をすると重さに耐えきれず、潰されるぞ。圧死だ」
全員がグレイアンジュを見ている。壇上の二人もどうしていいかわからず、とりあえず見ている。
「だから私のことは構わなくていい。これは私のミス。心優しいおまえを巻き込むわけにはいかない」
ここは戦場だっただろうか。そして何を言っているのだろう。いや、ドレスが重い、と言いたいのはわかった。が、急に?なんで?
ちなみに男子生徒は中肉中背。いたって普通の体型だ。華奢ではない。
そんな周囲の混乱を余所に、天井近くから声が降ってきた。
「まったく。だから先に行かないようにと言ったのですよ」
*つづく*
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