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カダージュの献身
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新年あけましておめでとうございます。
HOTランキング入りのおかげで、たくさんの方々の目にこの作品が触れたことに、望外の喜びを感じております。
感謝の気持ちを込めて、一話お届けしたいと思います。
たくさんのお気に入り登録、しおり、エール、読んでくださったみなさま、本当にありがとうございます。
本年もほそぼそと活動して参りますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。
*∽*∽*∽*∽*
「リオ、リオ」
「なりません。ご自身の部屋へお戻りください、旦那様」
「僕は、なんて無力なんだろう」
リシアンサス大公カダージュは、床に崩れ落ちた。
初冬のある日。
「お帰りなさいませ、カダ様」
「ただいま、リオ。リオ?」
登城して帰り、愛しい妻の出迎えに破顔する。しかし、すぐに違和感に気付く。
「どうしたの、リオ」
「ほえ?わたくし、何かありますか?」
急ぎ駆け寄り、その額に手をあてる。
「熱がある!朝は何ともなかったのに!いやだ!リオ、死んじゃいやだ!」
「へえええぇ?」
本人すら気付いていないような体調不良に、いち早く気付くカダージュ。どこにも行かせないように抱き締める。この手から離れてしまわないように、強く、強く。
一緒に出迎えていた使用人たちも慌てて動き出す。
「旦那様、奥様の不調に気付かず申し訳ございません。とにかく横になっていただきましょう」
家令の言葉にすぐにハッとする。
「あ、ああ、そうだよね、リオを、寝かせないと」
まったく頭の働いていない様子のカダージュに代わり、家令が周囲に指示を出す。
「あの、わたくし、大丈夫ですわ」
「こんなに熱があるのに大丈夫じゃないよ!」
お姫様抱っこをして、急ぎ寝室へ連れて行く。ちなみにこの時のメリオラーザの熱は、平熱よりも少し高め。つまり微熱。微熱でこれほどポンコツになってしまう愛情に、家人たちは密かにほっこりしていた。
「リオ、リオ」
離れようとしないカダージュを、メリオラーザは何とか説得して部屋から出てもらうが、やはり心配で。名を呼びながらメリオラーザの所へ戻ろうとするカダージュを、家令が止める。
「なりません。ご自身の部屋へお戻りください、旦那様」
「僕は、なんて無力なんだろう」
カダージュは、床に崩れ落ちた。
「リオが元気になるなら僕は悪魔にだって魂を売る!」
「魂を売らなくとも元気になります。そこの乾燥した葉をゆっくり磨り潰してください。摩擦熱程度でも効能が失われてしまいますから、本当にゆっくりですよ」
「わかった!」
少し落ち着いてから、国一番の医師であり薬師であるゼランを城から呼び寄せた。うつるといけないからと部屋を追い出されたカダージュは、少しでもメリオラーザに何かしたくて、ゼランを訪ねた。
一生懸命手伝いをするカダージュに、ゼランは目元を緩めた。
「本当に奥方様を大切にされていますね。一生懸命な殿下を見られるのは、この国には数えるほどしかいない。その中に入れることを嬉しく思いますよ」
「リオはね、僕の光なんだ」
手を休めることなくカダージュは話す。
「私利私欲に塗れた薄汚い貴族共の中で、綺麗に、本当に綺麗に咲いていたんだよ」
「リオ」
「かだ、さま。うつってしまいます。どうか、おへやへ、おもどりください」
案の定熱の上がったメリオラーザ。どうしても部屋に入れてくれない扉前に控える使用人と、どうしてもメリオラーザの側にいたいカダージュの攻防は、カダージュに軍配が上がる。使用人を気絶させることによって。
「うん。ごめん。リオ、つらいのに、ごめん。でも」
キュッと唇を噛む。
「リオが側にいなくて、僕もつらい」
ぽろぽろとカダージュの頬に涙が零れた。
「リオ、お願い。側にいさせて。我慢、できなくて、ごめん」
部屋に控えていた使用人も、犠牲者となっている。
「かださま」
困った人。
本当に、なんて愛しい人なんだろう。
布団からそっと手を差し出す。
「手を、つないでいただいて、よろしいですか」
熱で潤んだ瞳が、優しく揺れている。
「っ、うん、うんっ」
いつもよりずっと熱い手を、強く握った。
………
……
…
「リオ!熱下がったんだね!良かった!」
翌朝。
ずっと付き添って看病をしていたカダージュが、目覚めたメリオラーザの額に手を当て、熱が下がっていることに喜んだ。
「カダ、さま、もしや、一晩中?」
カダージュはニコッと笑うと、横になったままのメリオラーザを抱き締めた。
「初期対応が早いと、回復も早いね。本当に良かった。リオが苦しむ姿は見たくないもの」
そう言って、額同士をコツリと合わせた。
「今日はおとなしく寝ていてね」
「あの、ありがとうございます。カダ様は、体調はいかがですか?うつっていませんか?」
カダージュは嬉しそうに微笑む。
「大丈夫だよ。今日はね、僕が全部やる。リオの食事も、寝かしつけもする。動きたいときは僕が抱っこして連れて行くから」
カダージュの献身的な愛に、メリオラーザは、涙が零れた。
その涙にカダージュが慌て、理由を知り、さらに甘やかしたのは言うまでもない。
*おしまい*
一生懸命なカダージュ、いかがでしたか。
メリオラーザへの一層の愛を感じていただけたなら、幸いです。
また何かしらの形でお会い出来ることを祈って。
ありがとうございました。
HOTランキング入りのおかげで、たくさんの方々の目にこの作品が触れたことに、望外の喜びを感じております。
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たくさんのお気に入り登録、しおり、エール、読んでくださったみなさま、本当にありがとうございます。
本年もほそぼそと活動して参りますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。
*∽*∽*∽*∽*
「リオ、リオ」
「なりません。ご自身の部屋へお戻りください、旦那様」
「僕は、なんて無力なんだろう」
リシアンサス大公カダージュは、床に崩れ落ちた。
初冬のある日。
「お帰りなさいませ、カダ様」
「ただいま、リオ。リオ?」
登城して帰り、愛しい妻の出迎えに破顔する。しかし、すぐに違和感に気付く。
「どうしたの、リオ」
「ほえ?わたくし、何かありますか?」
急ぎ駆け寄り、その額に手をあてる。
「熱がある!朝は何ともなかったのに!いやだ!リオ、死んじゃいやだ!」
「へえええぇ?」
本人すら気付いていないような体調不良に、いち早く気付くカダージュ。どこにも行かせないように抱き締める。この手から離れてしまわないように、強く、強く。
一緒に出迎えていた使用人たちも慌てて動き出す。
「旦那様、奥様の不調に気付かず申し訳ございません。とにかく横になっていただきましょう」
家令の言葉にすぐにハッとする。
「あ、ああ、そうだよね、リオを、寝かせないと」
まったく頭の働いていない様子のカダージュに代わり、家令が周囲に指示を出す。
「あの、わたくし、大丈夫ですわ」
「こんなに熱があるのに大丈夫じゃないよ!」
お姫様抱っこをして、急ぎ寝室へ連れて行く。ちなみにこの時のメリオラーザの熱は、平熱よりも少し高め。つまり微熱。微熱でこれほどポンコツになってしまう愛情に、家人たちは密かにほっこりしていた。
「リオ、リオ」
離れようとしないカダージュを、メリオラーザは何とか説得して部屋から出てもらうが、やはり心配で。名を呼びながらメリオラーザの所へ戻ろうとするカダージュを、家令が止める。
「なりません。ご自身の部屋へお戻りください、旦那様」
「僕は、なんて無力なんだろう」
カダージュは、床に崩れ落ちた。
「リオが元気になるなら僕は悪魔にだって魂を売る!」
「魂を売らなくとも元気になります。そこの乾燥した葉をゆっくり磨り潰してください。摩擦熱程度でも効能が失われてしまいますから、本当にゆっくりですよ」
「わかった!」
少し落ち着いてから、国一番の医師であり薬師であるゼランを城から呼び寄せた。うつるといけないからと部屋を追い出されたカダージュは、少しでもメリオラーザに何かしたくて、ゼランを訪ねた。
一生懸命手伝いをするカダージュに、ゼランは目元を緩めた。
「本当に奥方様を大切にされていますね。一生懸命な殿下を見られるのは、この国には数えるほどしかいない。その中に入れることを嬉しく思いますよ」
「リオはね、僕の光なんだ」
手を休めることなくカダージュは話す。
「私利私欲に塗れた薄汚い貴族共の中で、綺麗に、本当に綺麗に咲いていたんだよ」
「リオ」
「かだ、さま。うつってしまいます。どうか、おへやへ、おもどりください」
案の定熱の上がったメリオラーザ。どうしても部屋に入れてくれない扉前に控える使用人と、どうしてもメリオラーザの側にいたいカダージュの攻防は、カダージュに軍配が上がる。使用人を気絶させることによって。
「うん。ごめん。リオ、つらいのに、ごめん。でも」
キュッと唇を噛む。
「リオが側にいなくて、僕もつらい」
ぽろぽろとカダージュの頬に涙が零れた。
「リオ、お願い。側にいさせて。我慢、できなくて、ごめん」
部屋に控えていた使用人も、犠牲者となっている。
「かださま」
困った人。
本当に、なんて愛しい人なんだろう。
布団からそっと手を差し出す。
「手を、つないでいただいて、よろしいですか」
熱で潤んだ瞳が、優しく揺れている。
「っ、うん、うんっ」
いつもよりずっと熱い手を、強く握った。
………
……
…
「リオ!熱下がったんだね!良かった!」
翌朝。
ずっと付き添って看病をしていたカダージュが、目覚めたメリオラーザの額に手を当て、熱が下がっていることに喜んだ。
「カダ、さま、もしや、一晩中?」
カダージュはニコッと笑うと、横になったままのメリオラーザを抱き締めた。
「初期対応が早いと、回復も早いね。本当に良かった。リオが苦しむ姿は見たくないもの」
そう言って、額同士をコツリと合わせた。
「今日はおとなしく寝ていてね」
「あの、ありがとうございます。カダ様は、体調はいかがですか?うつっていませんか?」
カダージュは嬉しそうに微笑む。
「大丈夫だよ。今日はね、僕が全部やる。リオの食事も、寝かしつけもする。動きたいときは僕が抱っこして連れて行くから」
カダージュの献身的な愛に、メリオラーザは、涙が零れた。
その涙にカダージュが慌て、理由を知り、さらに甘やかしたのは言うまでもない。
*おしまい*
一生懸命なカダージュ、いかがでしたか。
メリオラーザへの一層の愛を感じていただけたなら、幸いです。
また何かしらの形でお会い出来ることを祈って。
ありがとうございました。
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