上 下
14 / 20

番外編 劇的☆びふぉーあふたー

しおりを挟む
 「羨ましいことですね、殿下。あなたのような方でも、皇族と言うだけで守られて。誰も近付こうともしないことを、あまり使用されない頭でお考えになった方がよろしいかと愚考いたします」

 皇族のとある夜会での出来事。

 子爵家の次男、おまえの発言は、本当に愚考であり、愚行だ。思わず吹き出しそうになり、グッと堪える。震えまでは止められなかったが仕方がない。
 何も出来ない怠惰な僕は、皇族という身分だけの男であると。身分だけはどう足掻いても勝てないけれど、身分が上そんな人間こそを、貶めて優越感に浸りたいのか。上の人間を下に見ることで得られる優越感モノがある人間。

 メリオラーザは伯爵家。
 コイツは子爵家。

 よし、潰そう。

 サッと周囲を探るが、誰もいない。僕の右手が次男の口を塞ぐように、両頬を掴む。

 「むぐうぅっ?!」
 「ビズ」

 誰もいないはずの廊下に話しかける。

 「ビズ。今回の噂は、“身分しか取り柄のない第四皇子とからかわれ、何も言い返せず震えていた情けない皇子”、だよ」

 側近のビズは、顔をしかめる。姿は見えないが、それがありありと伝わってくる。

 「そんな顔しないの。ああ、子爵家自体はまだ様子見でいい」

 それだけ伝えると、空き部屋に次男を引きずり込んだ。

 部屋に入ると、次男を投げ捨てるように手を離す。床に倒れ込む次男は、目を白黒させている。まったく状況が把握出来ていない。その状態の内に、次男のポケットからハンカチを取り出し、丸めてその口に突っ込んだ。ジャケットを着させたまま両肩から外し、肘の辺りで止めておく。これで両腕は動かせない。素早く次男のベルトを抜き取ると、それで足首を拘束する。

 「さて、子爵家の次男」

 次男は驚いている。僕が、コイツのことを誰だかわからないと思っていたのだろう。

 「おまえには二つ、選択肢がある」

 次男を見下ろしながら、指を一つ立てた。

 「ひとつ。私の実験台となり、生きて子爵家へ帰る」

 二本目の指を立てる。

 「ひとつ。私の実験台となり、死んで子爵家へ帰る」

 実験台は確定。生きて帰るか死んで帰るか。

 「もう一度聞く。選んだ方に頷け」

 次男はワケがわからなすぎて、抵抗らしい抵抗も見せない。所詮その程度の器なのだ。瞬時に状況を把握出来ず、頭も切り換えられない。だから、提示された二択からしか選べない。選ぶことしか出来ない。

 「そう。生きていたいんだね。いいよ」

 僕は嗤う。

 「ああ、実験台になる時間は、この夜会が終わるまで」

 まだまだ時間はある。

 「お互い、楽しもうか」

………
……


 「次男は、監視付きアフターケア。とりあえず三ヶ月。になったら報せてね」

 自室でビズに湯浴みをされながら伝える。

 「あーあ。リオとゆっくりしたかったのに、とんだ邪魔が入った」
 「ティシモ嬢の方は問題なく」
 「それなら良かった。リオには、僕以外のことで煩わされることはないようにしたいからね」



 子爵家の次男は、少々やんちゃなところがあった。それは家族に向けられるもので、外に向けていなかったために、子爵家は問題にすることはなかった。だが、そういう性質を持っている者なのだ。何をきっかけに、それが表に出てしまうかわからない。それを、子爵家は危惧するべきだった。いや、しなかったから良かったのか。

 カダージュの手によりを施された次男は、些細な物音にも怯え、小動物のように目を潤ませる、愛くるしい人物へと変貌を遂げたのでした。




*おしまい*
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王女殿下の秘密の恋人である騎士と結婚することになりました

鳴哉
恋愛
王女殿下の侍女と 王女殿下の騎士  の話 短いので、サクッと読んでもらえると思います。 読みやすいように、3話に分けました。 毎日1回、予約投稿します。

当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!

朱音ゆうひ
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」 伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。 ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。 「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」 推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい! 特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした! ※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。 サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )

【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。

三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。 それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。 頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。 短編恋愛になってます。

好きな人と友人が付き合い始め、しかも嫌われたのですが

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
ナターシャは以前から恋の相談をしていた友人が、自分の想い人ディーンと秘かに付き合うようになっていてショックを受ける。しかし諦めて二人の恋を応援しようと決める。だがディーンから「二度と僕達に話しかけないでくれ」とまで言われ、嫌われていたことにまたまたショック。どうしてこんなに嫌われてしまったのか?卒業パーティーのパートナーも決まっていないし、どうしたらいいの?

ついうっかり王子様を誉めたら、溺愛されまして

夕立悠理
恋愛
キャロルは八歳を迎えたばかりのおしゃべりな侯爵令嬢。父親からは何もしゃべるなと言われていたのに、はじめてのガーデンパーティで、ついうっかり男の子相手にしゃべってしまう。すると、その男の子は王子様で、なぜか、キャロルを婚約者にしたいと言い出して──。  おしゃべりな侯爵令嬢×心が読める第4王子  設定ゆるゆるのラブコメディです。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

貴族との白い結婚はもう懲りたので、バリキャリ魔法薬研究員に復帰します!……と思ったら、隣席の後輩君(王子)にアプローチされてしまいました。

ぽんぽこ@書籍発売中!!
恋愛
秀才ディアナは、魔法薬研究所で働くバリキャリの魔法薬師だった。だが―― 「おいディアナ! 平民の癖に、定時で帰ろうなんて思ってねぇよなぁ!?」 ディアナは平民の生まれであることが原因で、職場での立場は常に下っ端扱い。憧れの上級魔法薬師になるなんて、夢のまた夢だった。 「早く自由に薬を作れるようになりたい……せめて後輩が入ってきてくれたら……」 その願いが通じたのか、ディアナ以来初の新人が入職してくる。これでようやく雑用から抜け出せるかと思いきや―― 「僕、もっとハイレベルな仕事したいんで」 「なんですって!?」 ――新人のローグは、とんでもなく生意気な後輩だった。しかも入職早々、彼はトラブルを起こしてしまう。 そんな狂犬ローグをどうにか手懐けていくディアナ。躾の甲斐あってか、次第に彼女に懐き始める。 このまま平和な仕事環境を得られると安心していたところへ、ある日ディアナは上司に呼び出された。 「私に縁談ですか……しかも貴族から!?」 しかもそれは絶対に断れない縁談と言われ、仕方なく彼女はある決断をするのだが……。

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

早稲 アカ
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。 宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。 彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。 加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。 果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

処理中です...