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7.ティシモ家の覚悟

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 “第四皇子との婚約を”

 要約すると、そういうことだった。

 「なんで?なんでカダージュ第四皇子なの?ラーザはラウェージュ第三皇子の交流会だよね、行ったの」
 「候補ですらないですよ。婚約しろと書いてある」

 メリオラーザの父も兄も混乱中。母は現実から目を背けるように、一心不乱に刺繍を始めた。

 「これならばラウェージュ殿下の候補の方がマシだったではないか」

 候補であれば、褒められたことではないが、外されるような行動をとれば良いだけだった。

 「カダージュ殿下の婚約者とは」

 皇家の打診を断ることなど出来ない。しかし、相手が問題だ。皇家に嫁ぐことに賛成しかねるが、どうすることも出来ない。だが、カダージュはダメだ。皇家の意向に反するなど、貴族籍を剥奪されても仕方のないこと。それを覚悟の上で断ろうとするくらい、カダージュへの印象は悪かった。

 怠惰。

 まだ十一歳であるにもかかわらず、誰もがそう口にするほどのダメッぷりが、貴族の間の共通認識だ。その怠惰さを自分の目で見たわけではないが、その噂を肯定するように、カダージュの姿を見ることはない。部屋に籠もって出て来ないのだ。それだけで、噂通りだと判断してしまうのは仕方のないことと言えた。そんな皇子を支えるなんて、苦労が目に見えている。

 「断ろう」

 貴族ではいられなくなるだろう。それでも、娘を犠牲にしてまで守りたいと思えるものではなかった。

 「お待ちくださいませ、お父様」

 メリオラーザが待ったをかけた。

 「ラーザ?」
 「わたくしのために貴族籍をお捨てになる覚悟に、感謝申し上げます」

 深々と家族に頭を下げる。

 「明日、殿下がお見えになるとのこと」

 そう。手紙には、カダージュ訪問の旨も記されていた。

 「噂通りの方なのか、殿下とお会いしてからご判断なさってもよろしいのではないかと」
 「だが、そちらの方が不敬に当たる」

 会って、その為人ひととなりを見てからの判断だ。皇家にダメ出しをするようなものになる。

 「一週間後にお返事を受け取りにいらっしゃるのですよね。どちらにせよ、お返事はお会いしてからではないですか」

 断るなら会おうが会うまいが、返事のタイミング的に不敬は免れないのだから、そこはもう気にしなくてもいいのでは。そう言いたげなメリオラーザに、家族は苦笑した。

 「そうね。不敬の一つや二つ、無茶振りの皇家に比べればたいしたことないわ。やりたいことやって皇家に一矢報いてやりましょう」

 伯爵夫人の言葉は外に聞かれたら大変なことだが、家族は、その通りだと笑った。

 しかし、この時メリオラーザは覚悟を決めていた。家族を犠牲にしてまで、皇家に嫁ぎたくないわけではない。みんな、犠牲だなんて思わないだろう。本当に貴族をしていることが不思議なくらい、貴族に執着のない家族。けれど、そんな家族だからこそ、領民たちはこれほど豊かで笑顔に溢れているのだ。

 恐ろしく怠惰だという第四皇子カダージュ。皇子妃として支えるのは、並大抵のことではないだろう。メリオラーザは優秀ではない。可もなく不可もない、ごく普通の娘である。皇家に望まれる水準に達するには、人の三倍も五倍も努力しなくてはならないだろう。さらには、そんな皇子のフォローまで。

 けれど、メリオラーザは思う。

 出来なくても仕方ないわ。そんなわたくしを望んだ皇家が、なんとかなさるでしょう。

 努力はする。出来なかったらごめんあそばせ。そんな、楽観的な考えだった。




*つづく*
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