-MGLD- 『セハザ《no1》-(2)- 』

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第2話 リプクマの眠れる猫

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「君らが事件の解決に貢献したのは認めているよ。ただね、私が君らを呼び出しているのは、咎める必要があるからだ。」
EAUの責任者、オライデウ・ノーマス主任の長いお話はまだまだ続きそうだった。

彼は、『EAUの現最高責任者』である。
リプクマ内に創設されたばかりの新進気鋭の『私設特能研究部隊 - EAU』のトップだ。
・・といっても、彼は、リプクマ、研究所内から選出された生粋の研究・技術者らしいので、EAUでの実働・戦闘面に関してはまた別の人の方が詳しく担当している。
現に彼は中肉中背の中年男性といった外見で、日焼けもしておらず実戦に立ったこともなさそうな体つきである。
少しくたびれたような表情の無精ひげと眼鏡の奥の柔和な眼差し、ノーマス主任は主にEAU全体を総合管理しているらしい。
確かに白衣が似合いそうな彼とは、ミリアも面と向かって話したことはあまり無かった。
たしか、EAUに入隊する前に最後の面接で質問をされたときくらいか。
あのときは白衣を着ていたような、着てなかったような。
今回の急な呼び出しはやっぱり、相応の特別な意味があるんだろう、とはミリアも思ってる。
だから、ちょっとは緊張したいが。
なんだか、頭のどこか、遠くでぼうっとするような感覚がここ数日は抜けきれていない。
家でもベッドの上で、ソファで、ぼうっと天井や窓の外を眺めていた気がする。

「今日はゆっくり君らと話そうと思って、呼び出したんだ。」
・・今は、ボスの前なのだから、ちゃんとしないとダメだ。
ミリアは、背筋を強く正しく伸ばして、彼の言葉に集中する。

「厳しく言うと、君らが今後、ここEAU内でやっていけるかどうかの話だ。」
って。
「・・・え?」
ミリアがちょっと、瞬いた。
――――え、クビ・・?
なにか悪い事したっけ・・・?
―――少し焦ったミリアの隣に立つガイも、ちょっと眉を上げて驚いた表情を見せる。
逆隣のケイジは、眠い瞼が開きにくく。
その隣のリースは、ぼうっと眠そうな顔のままだ。

4人それぞれの面持ちを見回したノーマス主任は、隠そうともしないような彼らの様子がとてもわかりやすかったので、ため息交じりのように口を開く。
「時間はある。ゆっくり話そう。」
彼はにっこり笑顔を見せたけど、実は不敵に歪んだ警戒すべき笑顔、のように見えたのはミリアの気のせい、かもしれない。
・・でも、なんだか違和感がある。
彼は偉い人なのだけど、前はもう少しのんびりした感じがある人の印象だった。
この違和感の原因は、たぶん、考えられるのは1つだけで。
今の彼が、怒り心頭なのかもしれない、ってことだった。


リプクマの本部へ到着したミリア達は、手当や有給休暇を含めた連休が明けたばかりで、1週間、数日ぶりに出勤する直前から偉い人に呼び出されている最中だ。
一週間前、自分たちが遭遇した例の事件についてちゃんと報告にまとめたのだが、今回はその件で呼び出されたのに間違いないだろう。
あのときは早く家に帰って休みたいのを我慢して、ちゃんと不備なく仕事を終えたと思ったのに。
今朝からミリアもガイも、ケイジもリースも、隊の4人全員がこのボスの気品のある部屋に集められた。
「例の事件の経過は聞いたかい?」
「いいえ?」
「そうか。情報は秘匿されて、緘口令《かんこうれい》が敷かれている。これ以上の詮索は無用だ。君たちも普段通りにタスク仕事をこなしてくれ。」
あの件はもうおしまい、触れてもいけない、ということだろう。
「了解」
「君たちへの私からの質問は1つだけで、『あのとき』は、なぜもっと早く連絡をよこさなかったのか?聞く必要がある。」
急に訊ねられて、ミリアはちょっと反応が遅れた。
「えっと・・」
『あのとき』というのは例の事件、ブルーレイクに滞留していたときのことで・・それも報告書にまとめたはずだけど。
「事件が起こる前、不穏な話を聞いたそうじゃないか。間違いないね?」
「はい」
「そのときに君らは警備部の方と連絡は取っている。しかし、EAUの方にはその不穏な事実を報告していない。では、なぜ報告をしなかったのか。警備部は法規に則り、当然動かなかった。それは仕方ない。だが、リプクマは違う。何より、リプクマは君らの所属だ。言わんとしていることは・・・勢いのまま喋ったが、ここまでの事実に間違いはないよね?」
って、えっと・・・。
ミリアは一呼吸置いて。
「正確に言うと、警備部の方にもその不穏な噂を強く、強調した報告はしていないです。規則の確認を含めて対応を聞いた程度で、それ以外は事実です。」
「そうか。だが、僕が言いたいことはわかるね。警備部に連絡するついでにリプクマへの連絡を入れるべきだったはずだ――――」
彼はそう言うけど、その警備部の法規内ではあのときの私たちが外部への情報漏洩をすると、重罪に問われる可能性がある。
明確な法規は覚えてないけれど、ブルーレイクがある補外区域で得られる情報は規制されることが多いからだ。
私たちが特務協戦《法に則る協力者》として動くなら先ず警備部への連絡、そして指示待ち、これは鉄則だ。
けど、それらの事情を無視するなら、私たちの装備はEAUやリプクマへの直接連絡は確かに可能ではあった。
通信の証拠が残るとか可能性はあるけれど、もし警備部にバレても、こちらでなんとかする、というのが彼の意図なんだろうか。
警備部相手に知らぬ存ぜぬ、で通すのかな?それで大丈夫なのかな?ってちょっと思うけど。
まあ、EAUは新設されたばかりの組織だからか、その辺はだいぶ『ゆるゆる』なのかもしれない。
少なくとも、普段の彼らを知っているミリアはそう思う心当たりがいくつかあるし、実際そう思ってる。
「―――君は・・・私ばかり話していたな。もう1つ聞きたいことがあるんだ。例の事件から一週間経った。冷静になって振り返ってみて、何か思ったこととか、あるかい?」
急に、私への質問に。
「なにか、とは?」
「・・なにか、今思い返して想うところはあるか聞いておきたい。」
「反省点ですか?」
「・・まあ、そうだな。」
「反省点は、たくさんあります。ですが、判断が間違ったとは思っていません。難しい状況でしたし、その辺りは戦術部《Tactics Department》で評価を出すはずです。既に出ているかもしれないので、そちらへ寄ってまとめた資料と参考意見を聞いて、学べるものが出てくると思います。」
彼は真っ直ぐに私を見ていて、話を聞いていて、数度頷いていた。
「滞留中に報告をしなかった理由は?」
そして、先ほどの質問と同じ、彼にとって重要なのか、もう一度聞いてきた。
でも、私からの理由はシンプルだ。
「規則に則ったまでです。事実の確認ができなかった、および私のチームの走査要員の能力で得た情報もありませんでした。よって客観的な事実のみを警備部へ、適切な部署へ報告していました。」
それを聞いて、彼は少し頷いていた。
「判断は間違っていない。」
って。
「・・が、考えが足りてないと僕は思っている。」
って・・・、言われたミリアは、口を閉じて彼を見据えていた。
「君は、実力を評価されてチームリーダーに推薦された。なってから日が浅いとはいえ、評価は間違いないと思う。君らも全員、立派なEAUだ。今回の事件では、大変だったろう。働きは充分に評価している。その上で、僕らが危惧した反省点を改めてはっきりさせたい。」
彼は、そう・・・。
「・・・」
彼は何かを待っているのか、少し・・・。
「なにか、わかるかい?」
私を、試すように。
だから、少し考えて、私は息を吸う。
「敵性勢力の存在の有無とその情報収集が遅れました。後手に回ったのは認めています。」
それらはあの時の状況では、間違いなく、好くない要素だ。
「警備本部と情報共有して危険な兆候が無かったのかちゃんと確認しても良かったし、村の人たちにもちゃんと・・・話しておくべきでした。追及が厳しくなっても。」
例え彼らがどんなに『なにか』を秘密にしたがっていても、彼らに嫌がられても、嫌われても。
「あと、S級に評価されるかもしれない、極めて特殊な特能力者が軍部に回収されました。彼をこちらが捕縛していれば、リプクマでまた貴重な研究データが採れたはずでした。その機会は残念だと思いますが・・・―――」
―――ミリアがそう・・・。
気づいたけど、ノーマス主任がぎろりとこちらを見てた。
じろり、というか、『ぎろり』・・・。
「あのときの、私たちの戦力じゃ、どうしようも無かったと思います・・・。」
「それが重要な事か・・・。」
「・・彼、ミューテーション(変形)タイプでした。全身の。とても珍しいタイプと・・・」
「報告書は読んだ。確かにとても珍しいサンプル研究対象になると思う。」
「はい。あの状況でも私たちが彼を捕縛する方法があったのか、研究チームにも今後の提案を兼ねて相談するつもりです・・・」
彼が大きくため息を吐いたようだ・・なので、ミリアは話すのを止めていた・・・今日一番の感情を、彼が見せたかもしれない、って思ったから。
「わかった、」
って、彼は手のひらを見せて、私に止めるよう伝えたみたいだ。
それに、彼は疲れたような表情でこっちを見ていた。
ミリアは瞬いて、彼の言葉を待っていた。

「私が伝えるべき言葉は、『リプクマは、君らの身を案じた。』」

って。

「先に言うべきだった。」

・・・。

「えっと・・」
つまり・・・どういうことだろうか。
ミリアは、口を開くのを、少しためらう。
「君らは、仲間をうまく頼りなさい。」
って・・・。
「時には仲間をうまく使いなさい。君らが連絡を取れれば、リプクマは何かしらの手立てを講じる。その準備がある。」
って。
・・なるほど。
つまり・・・。

なんか、そういうことみたいだ。

「わかったかい?」
私は、たぶん。
EAUという組織をちょっと、勘違いしていたみたいだった。
「了解しました・・」
リプクマが組織として、何かしらのメリットが欲しかったのかと思っていた。
私たちが失敗すれすれの行動をしていたから、リプクマは警告や処罰を与えるのかと思っていた。
リプクマは研究のためのサンプルデータを重要視していて、成果が欲しいのかと思っていた。
リプクマは・・・――――考えればキリが無いけれど。

――――それらが、なんか違うみたいで。

それは、軍部での意識と考え方とを比べても、リプクマは異なってるみたいだから。
「よろしい。今後の反省に期待する」

つまり、EAUは、やっぱり、『ゆるゆる』なのかもしれない。

「わかったかい?」
問われて、ミリアは息を吸い込んだ。
「はい。」
「ミリアネァ・C君だけかい?」
「はい。」
隣のガイも、元軍人よろしく、ミリアに倣って胸を張ってまっすぐに返事する。
「うっす、」
「・・はい」
その横でケイジとリースが、まあ彼らなりに頑張った返事をしたんだろう、たぶん。
眠そうで、覇気は無いけれど。
ミリアがとりあえず横目で睨んだ。
2人は気づいてないけど。

「EAUはあくまでリプクマの延長だから、その思想だって同じなんだ。リプクマでは医療を重点に置いていて、人命が尊し。そして、人が持つ特能力を個性と捉える。それをポジティブなものであり続けるよう研究する。それがリプクマだよ。きっと何度か聞かされたと思うが。君らがリプクマに所属するEAUであるならば、それを心に刻んで行動しなさい。」
『はい。』
「うっす、」
「・・はい」
ミリアとガイのいい返事と、マイペースなケイジとリースの声は遅れて聞こえてくる。

でも、ノーマス主任は少し相好を崩していた。

「君らはよく頑張ったよ。凄くよくやってくれた。では、お説教は終わろう。通常のタスクに戻ってくれ。」
「はい、失礼します。」
ミリアたちは踵を返し、その部屋を出ていく―――。

「―――ああそれと、」
そう背中に呼びかけられ、ミリア達は振り返る。
ケイジだけは気にせずそのままあくびをしながら、出ていこうとしている。
「すでに伝えられているだろうが、例の事件は詳細が秘匿されている。君たちも誰にも言わないように。」
「了解しました」
ミリアが向き直り、背筋を正した。
それに倣う隣のガイも、同じように背筋を正していた。
傍のリースは、斜めに立ったまま、彼らの顔を覗き見るように首を回して見ていて。
主任が頷くとそれを合図に、ミリアが踵を返し扉から部屋を出ていく。
それから扉が閉まる前には、先に外で暢気《のんき》に斜めに立って待っていたケイジが、横腹をミリアに殴られたのまで、ちらりと見えてた。

「まったく・・」
見送ったノーマス主任は苦笑いにため息を吐いていた。
彼はそれから、デスクに戻って椅子に座り――――
―――ぷぃー、っとブザーが鳴って、デスクにある応答ボタンを押す。
『クロイトです。入室します』
外から入れ違いに彼ら2人が入ってきた。
クロイトと名乗った青年と、もう1人。
「技術部の部長もかい?」
リベダ・カナラ、彼女はいつもの少しおっとりした印象の微笑みを向けてくる。
「ええ。本部長は活躍した隊員にきっちりやりましたか?」
「からかわないでくれよ」
「尊敬は込めてますよ」
明かなからかいの言葉から、少し懐っこそうに口端を持ち上げるカナラの笑みは、やはり、からかい半分だろう。
「やっぱり慣れないな、こういう仕事は。」
「慣れてください。EAUは上手くいってますから」
クロイトはそんな会話を聞きながら手に持つノートを操作しながら、この部屋のモニタに接続して必要なデータをピックアップしていた。
「君らは彼らの噂を知ってるのかい?」
「ええ、時の有名人ですからね。狭いEAUの中での大きなニュースですよ。」
「他のチームでも噂がすごいですね、」
「それだよ。耳に挟む噂が尾ひれが付き過ぎている気がするんだがな。」
「噂好きどもには良いネタですから」
少し皮肉めいたクロイトに、ノーマスも笑っていた。
「彼女も元々、目立ってましたからね」
「ふむ。」
彼女、ミリアの事だ。
彼女は少々、特殊な経歴の持ち主だ。
だが、それ以上でも以下でもない。
「・・で、君らの要件は?」
「はい。協議の諸々などで、例のシミュレーター施設の利用についても、ほぼ最終決定の運びになりました。予算の追加が決まり、邪魔する問題はもう無いでしょう、との報告です。で、この資料を見てもらいたいんです。」
「カナラは?わざわざ来たのは?」
「少し提言があって」
「あまり無理は言ってくれるなよ?しかしそうか。それは良かった。今回の実戦でも、データが取れなかったのを研究部の彼らが残念に言ってたくらいだよ。圧倒的に経験とデータが少ないんだ、私たちは、」
「さすがに法律を曲げるのは難しいでしょうし。」
「そこだけは軍部が羨ましいよ」
クロイトはノートのモニタに触れ、部屋の大画面に議事録や予定、参加予定の人員、それからいくつかの資料を映し出す。
「これから研究が捗りますよ。学術研究に対する理解が深い上司がいて頼もしいです。」
「私の事かい?」
「あ、はい。」
「君は正直だな。わかってるよ。彼の事だろう。まあ我々も、EAUをようやく形にできてきたところだ。研究に精を出してミグリルラルさんに見限られないよう、貢献していかないとな。さて、長話は終わりだ。仕事に戻ろう。」
ノーマス主任はモニタに映る、これからの大きなイベントを目の前にしていた。
「カナラさん、コーヒーは?」
「頂きます。」
「主任、コーヒーのお代わりは?」
「ありがとう、どうしたんだ?気が利くな」
「お説教の時から喋りっぱなしでしょうから」
「あれは、必要なことだ、ってみんな言うからさぁ・・」
思い出してげんなりしたようなノーマス主任に、悪戯のようなクロイトの笑みに、カナラも微笑みを見せて。
ノーマスは、肩を竦めて見せるしかないようだった。
それから芳香揺蕩うたゆたうコーヒーのお代わりが来るまで、そのモニタの仔細が映る文字と設計開発の資料へ目を移していた。
「で、私からの提言はいいかしら?」
「ああ、どうぞ」
「これから人を募集するにあたって、技術部の方からも数人興味がある子たちがいるの。彼らの帯同の許可と、施設へのある程度のシステム同期の許可を・・・――――」



――――ノーマス主任、彼は、その責任ある役職に就く前から『主任』と呼ばれているらしい。
それはたぶん、みんなに慕われてるからなんだと思う。
あと、EAUってたまに役職名がなんか適当な事が多い気がする。
あと、あのボスらしい気品ある部屋はノーマス主任のものみたいだけれど、私物もあまり置かれていないので、来客用みたいだった、のかもしれない。

 携帯を見ながらロビーを歩いていたミリアは、ガラス張りのドアが開き、それから建物の外へ出て行くと日光の眩しさに顔を上げ、青空でプリズム・ディバイダを透過する日の光に目を細める。
相変わらず、鮮烈な虹混じりの空だ。
「アミョさんから通知が来てた。午前中は部屋に寄らなくていいから、各自の予定に沿ってくれってさ」
傍のガイがそう伝えてくれて、ミリアは携帯をポケットに仕舞った。
・・歩きながらまた見上げる遠いプリズム色の大空は、高層ビルの傘に映っている。
携帯で予定などのチェックをしてたけれど、あまり代り映えしない日常のタスクがあるだけだった。
そして、これからの予定を考えてる中でも、思考の中でちらつくのは1週間前の・・・光景《できごと》だった。

――――私たちが採るべき行動は、何が最善だったのか。
どうすれば最も被害を抑えることができたのか。
どうすれば、誰も死なずにすんだのか。
・・・あのとき、敵が攻めてくる確証さえ無かった。
あの戦いが戦後に記録された中でも、稀に見る大きな戦いだったと聞いた。
ドームでは事件の詳細はあまり報道されていないようで、情報規制が行われているみたいだから、マスメディア上ではこれ以上の広がりは無いだろう。

ただ、状況が落ち着いた今でも、当事者だった私なのに、やっぱり、判断は難しかったと思ってる。
隊長として、やれるべきことはまだあったのかもしれない・・・とか。

隊長として・・・。

――――あの時の私は、ベストだった・・・?

――――――・・・村の人たちは、戦いの後、笑ってた。
村の人たちは・・・。
・・帰る時、アシャカさんたちへの挨拶はできなかったな。
・・・それから、メレキ少女を思い出すと、笑顔が浮かんだ――――。

―――――大空を覆うプリズム色の煌めき、高層ビルを見上げながら歩くミリアはその歩道の上で、なんだか脱力する。
「どした?」
ガイに聞かれて、ミリアは肩を竦めて返す。
「なんだか、」
ミリアは、眼前に広がるリリー・スピアーズの景色へ目を向ける。
・・・なにか、違う、という気持ちがある。
みんなに聞かせる話ではないんだけれど。
なんか、なんだろう。
なんだか、私がここにいることが、上手くハマらない感じ。
たぶん、そんな感じ・・・。
「説教くらって凹んでんだろ」
って、にやついたケイジに言われて、ミリアは横目でジト目になってた。
別に、からかってくるのには慣れているから、イラついたわけではないけども。

ケイジはそれを可笑しそうに笑って、それからあくびをしてた。
・・・まだ寝たりないんだろうか、こいつ。
というか、説教って、ケイジも含まれてるはずなんだけれど。

何にも考えてなさそうだなぁ、ってケイジを見ていてなんとなく思ってたミリアは、その暢気《のんき》な横顔へ暫く半眼を決めていた。

「なんだよ、本気でへこんでんのかよ、」
って、その視線に気が付いたケイジが突っかかってくる。
「別にヘコんでない。」
やっぱり、ミリアはうるさそうに返していた。
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