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第2章 - Sec 2
Sec 2 第18話
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――――――なんで、あいつらの言う事を聞くんですか?」
壁際に立ってタブレット端末を操作していた彼は、隊長らへ多少の驚きと多少の不満とも取れる様な質問をしていた。
・・少し待ったが、返事がないので顔を上げて隣を見たが、その筋肉隆々でひげ面の無骨な先輩は向こうを眺めていた顔をこちらへ向けて、太い肩を軽く竦めて見せただけのようだ。
『今回の場は交流の側面がある。多少の変更も問題ないだろう。いつもと同じような訓練になっては今回の場の意義が薄れる。』
その耳元から聞こえた声は無線からのアイフェリア隊長の声らしく、繋がっている彼女へすらすらと弁明する機会を与えたようだ。
むしろ、愚痴っぽいことを聞かれてしまったことに、彼は向こうの壇上に立つ彼女の姿をちょっと驚きつつ、やべっと内心で思ったが。
『あいつらの言い分も間違っちゃいねぇってこったな。』
『――――甘いっすね、』
そう傍の彼の独り言のような声も。
『まあ、俺はそういうのいいっすね、って方なんすけど、』
苦笑いが混じるような声が無線から耳に入って、壇上のアイフェリアはふと横目を向けつつ、横顔で少し笑った。
そして、正面に集まる彼らへ芯の通った声を再び発する。
「引いては、さらなる募集をかける。もちろん、演習中でも希望は受け付けるが―――――――」
――――――あいつらと?やんのか?」
「なんか怖ぇえなぁ~」
「『C』にびびってんのか?」
「『A』かもよ?」
「どっちも気が引けるっつうか、」
「それな、」
「でも滅多にない・・」
「あん?」
「おいおいおい、どうすんだよ?デン、セイガ、」
「はぁ~、どうっすっかな~?――――――――」
――――――ヤルプ、お前だって昔はあんな感じだったろ』
『いつのガキの頃の話っすか』
「それで。諸々の管理はどうするんです?」
彼が、檀上のアイフェリアの背中を見ながら、少し声を控えて隣のメンバーに訊ねた。
『そのためのバックアップスタッフだ。』
『大急ぎでやってるよ』
「えっ?システム作業ぜんぶ丸投げっすか??」
『お互いに得だろ?普段取れないようなデータも増やせる、奴らの仕事もできる』
『『C』の偉い人たちに怒られないんですか?勝手に予定変更して、』
「前提のデータ収集ができるなら、あとはこっちに任せるって、そういうことだろ?」
『いい感じの拡大解釈、あざっす』
『俺、そういう系の会話、苦手なんですよねぇ、』
「喜んでるのはデータマニアの変態と模擬戦をやりたい奴らだけだよ」
『わかりやすい』
『いま、その『マニア』たちが嬉々として再設定している、数分でできるそうだ。』
『ヤバいっすね、』
『記録も録られてるぞ』
「あれ?会話も録られているんですっけ?」
『耳に入ったら怒るぞ』
「もう何も言わないっすよ」
『へっへっへ、』
「我々はあとで詳細を確認します。それでいいですね?隊長、」
『今日はお前らに一任している。好きにやれよ、アイフェリア』
『はい、』
『自由にやらせすぎじゃねぇか?』
『へっへ。まあ、待たせ過ぎだな、』
『了解。あともう少しです。・・あともう少し―――――――』
――――――前へ出て行った彼らへ、離れた場所の檀上に立つアイフェリアがアイコンタクトで、会話していた彼らへまた示し伝えたのを。
傍に立つケプロが目の端に、彼らが動く様子を認めていたが。
アイフェリアの冷静な目が、静かに前面の集団へ向けられると、彼らはまた少し緊張を見せる。
アイフェリアが前を向いて再び口を開きかける。
「―――――度胸だけはあるな、生意気だが、」
と、ケプロが小声でぼそりと、呟いた愚痴が、近くて聞こえたアイフェリアは、微かな苦笑いがまた漏れたが。
『ここは軍部じゃないっすからね?グーパンとかダメっすよ、』
「わぁかってるよ、」
少しは愉快な会話に、ほんの僅かに口元を移した、無線からの声を聞き流してアイフェリアは、再びみんなへ口を開く。
『準備もじきに整えられるそうだ。
希望者はあちらへ集まってもらおう。
演習の時間を削って、実戦形式に近い模擬戦をやろうと思う。
だが、君たち4人だけじゃエリアが広すぎる。
人数を増やす。
こちらからもメンバーを出し、チームに・・・』
「ちょちょ、ちょ、ちょっ、ちょっ・・・」
って、提案を認められたはずの『C』の彼が少し慌てたように、まるで|小動物を呼ぶかのようなパチン、パチンと指を鳴らして周りの目を集めた。
太々《ふてぶて》しい態度には周りの目がまたきつくなるが、檀上の彼ら、アイフェリアさんたちもそれには気が付いてはいるような目線の動きだった。
「――――逃げんの?」
そう、彼は。
さっき聞いたような言葉を今度も、もう1度。
ねめつける様な彼の顔を一瞬・・・それは、はっきりと挑発をする彼らの・・・。
『まだ不服か?』
でも、アイフェリアさんは冷静だ、表情を崩しもしない。
「言ったよね?俺たちは、最前線に出てるようなのとヤりたいんだって・・!」
『・・なるほど。つまり、それは・・?』
「1VS1だよ、タイマン!」
『・・・』
「負けんのが怖ぇーのかよ~!?――――――
――――――――こういうときってさっ、タイマンなん?」
と、知らない声が聞こえた。
その声をかけてきた、『C』の彼らの背後に立つ彼の姿は。
「4人と4人でやるつもりなんか?1VS1って、そりゃ無理だろう?」
ニヤニヤと笑いながら、彼らの傍まで歩いてきていた彼の姿は、見覚えがある。
「ぁん?」
「誰だお前?」
「おん?『Class - B』のデンってんだ、」
そのデンと名乗った彼の後ろにも、その仲間らしい人たちもそれぞれの面持ちで付いてきている。
ミリアは知っている、『B』と名乗った彼、さっき見た、募集の呼びかけに手を上げかけた人たちだ。
まあ、さっき手を挙げかけたけど、『C』の人に邪魔されていたわけだけど。
その中にはたしか、前の合同トレーニングで上位の成績だった人もいる。
デンと名乗った彼の後ろに3人、それが『C』の彼らの傍へ合流するように立つ・・・、それは、まるで・・・。
「1VS1するなら賭けるもんが絶対必須、だろ?」
って、デンはそう言って、檀上のアイフェリアさんたちへ顔を向ける。
『1VS1で、賭けか?』
「そういうもんじゃないっすか?」
デンのちょっと屈託のない笑みは、『C』の彼らとはまた違う感じで太々しく見えたけど。
「勝ったらなにか良い事ないかな?ってさ、思わん?」
「それな、」
独り言のように言うデンを、ミリュモが言い案だと指差して。
当たり前のように、仲間の輪を作った彼らは、『C』の彼らの傍に立っている、つまり、同じ方を向いて。
「ハハハっ、いーじゃん!?それ!」
急に、ガリナ・エルポがまるで、無邪気な少年のように、大人しそうだったけど、今はちょっと目を輝かせていた。
「やろーよー!?」
―――――周りが目線で問うのはアイフェリアたちの方だ。
集まり終えたその視線らを受けて、彼女はなにか思案をしていたのか。
「調子に乗り過ぎだな・・・」
ふと、周りで反感の声が聞こえてくる、けれど。
たしかに、賭けなんて、そんなの、訓練中だし、許可が出るわけが・・・―――――――
『勝負か・・・』
アイフェリアさんの声が少し漏れたようだ。
壇上で、そう・・・まだ何かを考えているようだったが。
誰かが動いて口を開きかける、けれど、それをアイフェリアさんは軽く手の平で制止したようだ。
静かな佇まいで、時折、周りの仲間たちに何かを伝える様な冷静な目線を送る。
口元が、無線通信を通してわずかに動いていたようだ。
無線の向こうの彼らへ微かに口元を移したように、一瞬だけ緩めたような気がした。
『逃げはしない』
一瞬きで、そう、さらりと言ってのけたアイフェリアさんは。
彼らへ、かすかな微笑は不敵に。
―――――で、何を賭ける?』
そう、問い返した―――――――
―――――静かに、周囲がざわめく――――――その場のすべての視線の中心にいた。
「・・え、マジでっ?」
「ちょま、賭けって?」
逆に、ふっかけた方が、すごい驚いているけど。
「賭けるって?え?」
「普通あっちが決めるんじゃね?」
「欲しいもんなんかあるか??」
「欲しい・・?」
「新しいゲームが出るんだけど・・」
「おいルガリっ、そういうことじゃない―――――」
色めき立って揉める彼らのようだけど。
『負けた方が腕立て伏せとか、がいいか?』
「げ、罰ゲームか・・?」
「―――――『A』の編入を、」
そう・・・。
彼、マイヤーがその中で、1人、アイフェリアさんへ伝えていた。
『・・なに?』
「あぁそれっ!」
「それだそれ、それそれ」
「ちょウイいーじゃン!」
「っぶはっ、」
「え、マジで?」
「ぶぁっはっはっは・・、」
「それしかねーだろ・・」
そう、静かな声を、闘志を秘めた声で、前に立つディーが、その鋭い目つきでマイヤーを振り返る――――――――冷静なマイヤーは、ディーへかすかに頷き返した。
―――――ぉお・・?
周囲のどよめきを余所にして。
―――本気で・・言ってんのか・・・?
―――――周囲の声に気が付く、ミリアは一瞬、周りを見回していた。
誰かが顔を見合わせて話す様子も、彼らが行こうとしている先を見つめている眼差しも。
『・・君たちは『A』への異動を希望か。』
アイフェリアさんは、そう受け止めたようだ。
「それしかないっす!」
「マジかよ~」
彼らの中でも意見はちょっとバラツキがあるかもしれないけど。
『・・その件は私の一存じゃ決められない。
ただ、模擬戦の結果はしっかり残し、報告する。
その上で君たちの希望をしっかりと上へ伝える、そんな形で、いいかい?』
どよめきが起きている、そんな中で『C』と『B』が混ざった彼らは、拳を強く握りしめた。
「おっしっ・・・、」
「忘れんなっよっ・・!」
「『A』に勝ちゃあいいってことか?」
「余裕っしょ・・」
「ぶぁっ、はっはっ、やべーな、おんもしれーな、こいつら、」
「・・マジで、」
『その代わり。
こちらが提案するルールで多少は譲歩してもらう。
タイマン勝負などはできないが、それに近い公平なルールでやろう。
いいね?』
・・仲間を振り返るミリュモも。
頷くマイヤーたちも。
「・・・」
無言で斜に立つエルポも。
・・見つめるディーも、・・アイフェリアを見据えるその顔の顎を引いた。
それは肯定の合図なのか。
それらを少し傍観していたような、可笑しそうに口端を持ち上げているデンも。
「デン、お前・・はぁマジかよ、」
その傍の3人の仲間たちに、多少は呆れられているようだったが。
「なんだよ、結果良かったろ?」
「何が良いのかもうわからん」
「良かったろ?なあセイガ?」
「・・・」
「っふ、もうワクワクが止まらないってヤツだな、」
「セイガはなんも言ってねぇぞ、――――――」
『――――――よし、話を進めようか』
アイフェリアさんの一声は、そうやって、話がまとまったようだ。
『さて、そこの君たちも希望者にカウントするのに異存は無いな?
名前を。』
「うっす、俺は『デンシャラ・アズミック』でっす。うっす、『B』っす。」
「・・イガ・・・デ。」
って、彼は声が小さかった。
「はい、こいつは『セイガ・ギュウデ』って言ってます、『B』です。」
「『エリケ・デッサ』っす。同じ『B』っす。」
「『コリヴァ・イートン』だ、ぞ。『B』だ。」
―――――どこかで見た事のある、追って加わった彼らは以前のトレーニングの時間でも見かけていたような人たちだ。
確か、直近の合同トレーニングでも成績優秀者たちだったはず。
立ち並ぶ彼らの横顔は、わずかに見上げるように壇上を見据えている。
各々のそれぞれの表情は対照的だったりするけれど、中には口端を持ち上げていった彼もいる。
まるで、それらが不敵《ふてき》な笑みに見えてくる、それは気のせいなのか。
でもそれは、さっき見た、『C』の彼らと同じ、見据えるものが『そこ』にあると―――――――
『君たちも向こうへ。
これで計8人だ。上々だ。もっと増やそう。』
って―――――まだ増やす・・・見守っていた人たちが、どよめき始めた。
模擬戦の人数集め、9人以上は、けっこう大きな人数だが、相手チームも含めて総勢で2倍の18人以上が参加することになるはずだし。
『他にいないか?』
アイフェリアさんたちが見まわす中で、戸惑っている人たちが多い気がする。
『先ず、私たちも出る。賭けの当事者が逃げるわけにはいかないからな。どうだい?』
アイフェリアさんたちも出るって・・・。
「おぃ、マジかよ・・・」
「お前ら、幸せもんだな、稽古つけてくれるってよ、」
「お前も手を上げろよ、」
「俺はいい、――――――
『他に希望者は?』
―――――――マジか、」
「隊長たちが戦うのを見れんのか?」
「遊びだろ?」
「あんな奴ら、くっと軽く捻られて終わりだ、」
「だろうな、」
「勝つかもしれないぞ?」
「そんなん、ありえねぇって・・」
「どんだけ差があるんだろうな・・?」
「『C』の特能力者って、どんな?」
「隠し玉が多いっていうしな、『C』は、」
「研究所の秘蔵っ子たち・・・俺も見るのは初めてだ、」
「お守りがいなくても、やれんのか?」
「――――――おい、いいのか?アイフェリア、」
彼らがざわつく様子を目の端に、一時的にマイクを切ってアイフェリアたちが顔を合わせて少し言葉を交わしていて。
「問題ない。あれだと収拾がつかないだろう、」
「既にだいぶ予定が変わってるぞ・・?」
「目的からは逸れていない。」
「そりゃあそう言えるのか?」
「・・・ですよね?隊長、」
そう、アイフェリアは少し離れた場所で、高みの見物をしていたらしいエヴィン・バーダーと目線を交わし。
『ああ。面白けりゃそれでいい。だろ?最初に決めたとおりだ。』
耳元の無線から、彼が頷き返したのも確認した。
『ま、俺も賛成っすよ、』
「お前『も』、だろ?お前『だけ』じゃない。」
『うるっせぇな、グランス、』
「勝ち目はないな」
「・・・ったく、しょうがない人だ。『C』のお目付け役たちにはちゃんと話をつけといてくださいよ?」
『お?彼らならいま、隊長の隣で震えてるよ』
『そりゃ、かわいそうに、―――――――』
――――――壇上のアイフェリアが目の端に気が付く、人の群れから前に歩み出た、1人の・・・――――――
「―――――――希望します。ロアジュです。『Class - B』所属、」
『来てくれたか。』
わずかに、口元を柔らかくしたアイフェリアと、それを見上げ見据えるロアジュの、その後ろに続いてきた彼らも。
「うぉ、おま、ロアジュ、」
「ゃ、やんのか、おま・・」
『君たちもか?』
「ぁー・・」
「お前らは行かないのか?」
そう、肩越しに振り返ったロアジュを。
「そりゃ・・、」
「行くに決まってんだろ。」
彼らも、ニヤっと笑った。
「『B』のラッド、でーす!」
「『B』のニール!でぃーす!」
『はは、元気がいいな。これで・・、君もか?』
そのさらに後ろに立った、彼女にも、アイフェリアは目が合う。
「・・フィジー、『B』の、です。」
『OK、計4名追加だ。』
―――――彼らも――――――――優秀者たちだ。
見覚えがある、『B』の人たち、同年代、それに近い、訓練で見かけるとき、常に目立っていたような。
――――――これで、12人?」
「若い奴らばっかだな、同年代か?」
「『A』からも同じ人数出るってことだろ?」
「24人?マジか、やべぇな?」
「誰を出すんだ・・?」
「―――――――ま?・・え、本気?出んの?うわぁ~?」
「―――――」
『他に・・・?』
――――――横目に留めて気が付いた、アイフェリアの声に合わせて、見つけた。
――――人を掻き分けて、前に出た、彼女たちも。
「クロ、『C』から、です」
アイフェリアが、その姿たちを、真っ直ぐに受け止める。
「あ、うー、アーチャっ、同じくっでっすっ、以下、おなじくっ、」
「ぇ、えぇー?」
その傍で慌てていた彼女は戦闘員じゃないから。
勇気を出して手を上げたような彼女たちを心配しているようだ。
『2名、追加だ。』
希望者が、今のところ計14名・・・―――――――――認められていく度に、周囲の人たちがざわめく様子は、驚いたり笑っていたり、困惑や怪訝な、いろんな表情や様子で・・・―――――――
――――その視界の端に、気が付いた、ミリアが――――――アイフェリアさんが、集まる彼らを眺めていたはず―――――少し目を彷徨わせるように。
――――――――何人もの人が集まる中を――――――――その目は―――――その双眸と、正面で――――――
―――――――・・・正面と、衝突した――――――――
『私を見た』―――――――ミリアは、ちょっと、どきっとしていた―――――――
ミリアが―――――どきっとした、のかもしれない。
アイフェリアさんが、こちらを見た気がして。
でも、気のせいかもしれない。
アイフェリアさんは、また別の場所を見ているから。
少し、どきっとしただけで。
瞬くミリアは、きょとんと。
食べかけのサンドイッチをまだ、持っていたことを、思い出した。
だから口へ運んで、齧って。
咀嚼して――――――――
――――――ルールだ。』
そう、檀上のアイフェリアさんが耳元を操作しつつ歩き、周りへスピーカーを通して声を届ける。
『集団戦。
混成チームと『A』の選抜チームで戦う。
基本装備だが、装備品は最低限でいく、』
「ぇえ?『混成チーム』?ってなんだよ?」
「あん?」
「俺らは『Class - A』とやり合いたいって言っただろ?ばらばらになったら意味ないじゃんか?」
『大丈夫だ。
こちらが『A』の選抜チーム。
そちらが参加希望者で分かれてやろう』
「なんだよ、そういうことかよ。」
「いいね、」
「タイマンに近い、かな?」
「んん?混成ってぇと・・・?」
『既に『A』から出る者もだいたい決めてある』
――――――あはー」
無線通信を通して聞いてた彼らの顔も引きつるが。
「あいつ、俺らも巻き込むつもりだ、きっと今も頭の中で参加リストを作ってるぜ、」
「俺も嫌な予感しかしてねぇ、」
「こんだけやったら、負けるわけにもいかねぇじゃんか」
「はっはは、祭りらしくなってきたな」
「おいバーク、当然お前らは入るだろ。あれだけ息まいてたんだ、逃げるわけないよな?」
「んげぇ・・っ!」
「後先考えねぇからだぞ、バーク、」
「うっせぇ、こりゃあ、あれだ。バタフライ効果ってやつだな、」
「なんかちげぇ、」
「ルぅぅぅううおぉっしあぁーっ!」
「ロヌマが喜んでるのは何でだ?」
「知るか、さっきの根に持ってんじゃねぇの?――――――」
『――――――もちろん、参加者に合わせてこちらも人数は合わせる。
・・・そろそろ時間か。
・・もう一度だけ言おう。
この中から『A』の選抜と戦う希望者を、募る』
――――――アイフェリアさんのその一声で、ざわつきから、静かになりかける、彼らは周りを探すように。
――――――――アイフェリアさんは、周りを見回しているから。
また、私と、ちょっと目が合う、気がする。
そんな気がした、だけで。
――――――本当は、どっちなんだろう?
『もう、いないか?』
それは、数瞬。
ふと気が付いた、もくもく食べてたサンドイッチが、もう手には無くて。
最後の1口だった。
ミリアは。
ごくんと飲みこんだ。
「まだ人数がいるのか?もういらないんじゃないか?」
「『A』で評価されるチャンスだってよ、」
「じゃあ俺も行ってみようかぁ?」
「お前じゃボコボコにされる」
「あんだと?」
――――――――ふむ。
サンドイッチが無くなった、と思ったら。
思いのほか、右手は軽くて。
手を広げたら、すんなり開く。
――――だから、だ。
真っ直ぐに。
緊張はしていないと思う。
ミリアが、ただ手を挙げることに、なにも必要は無く。
ただ、手を伸ばした―――――――
―――――すると、アイフェリアさんが私を見つけた。
ちょっとだけ、笑ったのかもしれない。
そんな気がした。
『所属と名前は?』
―――――その場のすべての視線が、私に集まったのを感じていた。
「ミリアネァ・C、『Class - A』所属です。あ、うちのチーム全員も。」
私の背後で、ちょっと遅れて、『チーム全員』と聞いて驚いたのか変な声がすぐ聞こえてきた。
「参加希望します」
壁際に立ってタブレット端末を操作していた彼は、隊長らへ多少の驚きと多少の不満とも取れる様な質問をしていた。
・・少し待ったが、返事がないので顔を上げて隣を見たが、その筋肉隆々でひげ面の無骨な先輩は向こうを眺めていた顔をこちらへ向けて、太い肩を軽く竦めて見せただけのようだ。
『今回の場は交流の側面がある。多少の変更も問題ないだろう。いつもと同じような訓練になっては今回の場の意義が薄れる。』
その耳元から聞こえた声は無線からのアイフェリア隊長の声らしく、繋がっている彼女へすらすらと弁明する機会を与えたようだ。
むしろ、愚痴っぽいことを聞かれてしまったことに、彼は向こうの壇上に立つ彼女の姿をちょっと驚きつつ、やべっと内心で思ったが。
『あいつらの言い分も間違っちゃいねぇってこったな。』
『――――甘いっすね、』
そう傍の彼の独り言のような声も。
『まあ、俺はそういうのいいっすね、って方なんすけど、』
苦笑いが混じるような声が無線から耳に入って、壇上のアイフェリアはふと横目を向けつつ、横顔で少し笑った。
そして、正面に集まる彼らへ芯の通った声を再び発する。
「引いては、さらなる募集をかける。もちろん、演習中でも希望は受け付けるが―――――――」
――――――あいつらと?やんのか?」
「なんか怖ぇえなぁ~」
「『C』にびびってんのか?」
「『A』かもよ?」
「どっちも気が引けるっつうか、」
「それな、」
「でも滅多にない・・」
「あん?」
「おいおいおい、どうすんだよ?デン、セイガ、」
「はぁ~、どうっすっかな~?――――――――」
――――――ヤルプ、お前だって昔はあんな感じだったろ』
『いつのガキの頃の話っすか』
「それで。諸々の管理はどうするんです?」
彼が、檀上のアイフェリアの背中を見ながら、少し声を控えて隣のメンバーに訊ねた。
『そのためのバックアップスタッフだ。』
『大急ぎでやってるよ』
「えっ?システム作業ぜんぶ丸投げっすか??」
『お互いに得だろ?普段取れないようなデータも増やせる、奴らの仕事もできる』
『『C』の偉い人たちに怒られないんですか?勝手に予定変更して、』
「前提のデータ収集ができるなら、あとはこっちに任せるって、そういうことだろ?」
『いい感じの拡大解釈、あざっす』
『俺、そういう系の会話、苦手なんですよねぇ、』
「喜んでるのはデータマニアの変態と模擬戦をやりたい奴らだけだよ」
『わかりやすい』
『いま、その『マニア』たちが嬉々として再設定している、数分でできるそうだ。』
『ヤバいっすね、』
『記録も録られてるぞ』
「あれ?会話も録られているんですっけ?」
『耳に入ったら怒るぞ』
「もう何も言わないっすよ」
『へっへっへ、』
「我々はあとで詳細を確認します。それでいいですね?隊長、」
『今日はお前らに一任している。好きにやれよ、アイフェリア』
『はい、』
『自由にやらせすぎじゃねぇか?』
『へっへ。まあ、待たせ過ぎだな、』
『了解。あともう少しです。・・あともう少し―――――――』
――――――前へ出て行った彼らへ、離れた場所の檀上に立つアイフェリアがアイコンタクトで、会話していた彼らへまた示し伝えたのを。
傍に立つケプロが目の端に、彼らが動く様子を認めていたが。
アイフェリアの冷静な目が、静かに前面の集団へ向けられると、彼らはまた少し緊張を見せる。
アイフェリアが前を向いて再び口を開きかける。
「―――――度胸だけはあるな、生意気だが、」
と、ケプロが小声でぼそりと、呟いた愚痴が、近くて聞こえたアイフェリアは、微かな苦笑いがまた漏れたが。
『ここは軍部じゃないっすからね?グーパンとかダメっすよ、』
「わぁかってるよ、」
少しは愉快な会話に、ほんの僅かに口元を移した、無線からの声を聞き流してアイフェリアは、再びみんなへ口を開く。
『準備もじきに整えられるそうだ。
希望者はあちらへ集まってもらおう。
演習の時間を削って、実戦形式に近い模擬戦をやろうと思う。
だが、君たち4人だけじゃエリアが広すぎる。
人数を増やす。
こちらからもメンバーを出し、チームに・・・』
「ちょちょ、ちょ、ちょっ、ちょっ・・・」
って、提案を認められたはずの『C』の彼が少し慌てたように、まるで|小動物を呼ぶかのようなパチン、パチンと指を鳴らして周りの目を集めた。
太々《ふてぶて》しい態度には周りの目がまたきつくなるが、檀上の彼ら、アイフェリアさんたちもそれには気が付いてはいるような目線の動きだった。
「――――逃げんの?」
そう、彼は。
さっき聞いたような言葉を今度も、もう1度。
ねめつける様な彼の顔を一瞬・・・それは、はっきりと挑発をする彼らの・・・。
『まだ不服か?』
でも、アイフェリアさんは冷静だ、表情を崩しもしない。
「言ったよね?俺たちは、最前線に出てるようなのとヤりたいんだって・・!」
『・・なるほど。つまり、それは・・?』
「1VS1だよ、タイマン!」
『・・・』
「負けんのが怖ぇーのかよ~!?――――――
――――――――こういうときってさっ、タイマンなん?」
と、知らない声が聞こえた。
その声をかけてきた、『C』の彼らの背後に立つ彼の姿は。
「4人と4人でやるつもりなんか?1VS1って、そりゃ無理だろう?」
ニヤニヤと笑いながら、彼らの傍まで歩いてきていた彼の姿は、見覚えがある。
「ぁん?」
「誰だお前?」
「おん?『Class - B』のデンってんだ、」
そのデンと名乗った彼の後ろにも、その仲間らしい人たちもそれぞれの面持ちで付いてきている。
ミリアは知っている、『B』と名乗った彼、さっき見た、募集の呼びかけに手を上げかけた人たちだ。
まあ、さっき手を挙げかけたけど、『C』の人に邪魔されていたわけだけど。
その中にはたしか、前の合同トレーニングで上位の成績だった人もいる。
デンと名乗った彼の後ろに3人、それが『C』の彼らの傍へ合流するように立つ・・・、それは、まるで・・・。
「1VS1するなら賭けるもんが絶対必須、だろ?」
って、デンはそう言って、檀上のアイフェリアさんたちへ顔を向ける。
『1VS1で、賭けか?』
「そういうもんじゃないっすか?」
デンのちょっと屈託のない笑みは、『C』の彼らとはまた違う感じで太々しく見えたけど。
「勝ったらなにか良い事ないかな?ってさ、思わん?」
「それな、」
独り言のように言うデンを、ミリュモが言い案だと指差して。
当たり前のように、仲間の輪を作った彼らは、『C』の彼らの傍に立っている、つまり、同じ方を向いて。
「ハハハっ、いーじゃん!?それ!」
急に、ガリナ・エルポがまるで、無邪気な少年のように、大人しそうだったけど、今はちょっと目を輝かせていた。
「やろーよー!?」
―――――周りが目線で問うのはアイフェリアたちの方だ。
集まり終えたその視線らを受けて、彼女はなにか思案をしていたのか。
「調子に乗り過ぎだな・・・」
ふと、周りで反感の声が聞こえてくる、けれど。
たしかに、賭けなんて、そんなの、訓練中だし、許可が出るわけが・・・―――――――
『勝負か・・・』
アイフェリアさんの声が少し漏れたようだ。
壇上で、そう・・・まだ何かを考えているようだったが。
誰かが動いて口を開きかける、けれど、それをアイフェリアさんは軽く手の平で制止したようだ。
静かな佇まいで、時折、周りの仲間たちに何かを伝える様な冷静な目線を送る。
口元が、無線通信を通してわずかに動いていたようだ。
無線の向こうの彼らへ微かに口元を移したように、一瞬だけ緩めたような気がした。
『逃げはしない』
一瞬きで、そう、さらりと言ってのけたアイフェリアさんは。
彼らへ、かすかな微笑は不敵に。
―――――で、何を賭ける?』
そう、問い返した―――――――
―――――静かに、周囲がざわめく――――――その場のすべての視線の中心にいた。
「・・え、マジでっ?」
「ちょま、賭けって?」
逆に、ふっかけた方が、すごい驚いているけど。
「賭けるって?え?」
「普通あっちが決めるんじゃね?」
「欲しいもんなんかあるか??」
「欲しい・・?」
「新しいゲームが出るんだけど・・」
「おいルガリっ、そういうことじゃない―――――」
色めき立って揉める彼らのようだけど。
『負けた方が腕立て伏せとか、がいいか?』
「げ、罰ゲームか・・?」
「―――――『A』の編入を、」
そう・・・。
彼、マイヤーがその中で、1人、アイフェリアさんへ伝えていた。
『・・なに?』
「あぁそれっ!」
「それだそれ、それそれ」
「ちょウイいーじゃン!」
「っぶはっ、」
「え、マジで?」
「ぶぁっはっはっは・・、」
「それしかねーだろ・・」
そう、静かな声を、闘志を秘めた声で、前に立つディーが、その鋭い目つきでマイヤーを振り返る――――――――冷静なマイヤーは、ディーへかすかに頷き返した。
―――――ぉお・・?
周囲のどよめきを余所にして。
―――本気で・・言ってんのか・・・?
―――――周囲の声に気が付く、ミリアは一瞬、周りを見回していた。
誰かが顔を見合わせて話す様子も、彼らが行こうとしている先を見つめている眼差しも。
『・・君たちは『A』への異動を希望か。』
アイフェリアさんは、そう受け止めたようだ。
「それしかないっす!」
「マジかよ~」
彼らの中でも意見はちょっとバラツキがあるかもしれないけど。
『・・その件は私の一存じゃ決められない。
ただ、模擬戦の結果はしっかり残し、報告する。
その上で君たちの希望をしっかりと上へ伝える、そんな形で、いいかい?』
どよめきが起きている、そんな中で『C』と『B』が混ざった彼らは、拳を強く握りしめた。
「おっしっ・・・、」
「忘れんなっよっ・・!」
「『A』に勝ちゃあいいってことか?」
「余裕っしょ・・」
「ぶぁっ、はっはっ、やべーな、おんもしれーな、こいつら、」
「・・マジで、」
『その代わり。
こちらが提案するルールで多少は譲歩してもらう。
タイマン勝負などはできないが、それに近い公平なルールでやろう。
いいね?』
・・仲間を振り返るミリュモも。
頷くマイヤーたちも。
「・・・」
無言で斜に立つエルポも。
・・見つめるディーも、・・アイフェリアを見据えるその顔の顎を引いた。
それは肯定の合図なのか。
それらを少し傍観していたような、可笑しそうに口端を持ち上げているデンも。
「デン、お前・・はぁマジかよ、」
その傍の3人の仲間たちに、多少は呆れられているようだったが。
「なんだよ、結果良かったろ?」
「何が良いのかもうわからん」
「良かったろ?なあセイガ?」
「・・・」
「っふ、もうワクワクが止まらないってヤツだな、」
「セイガはなんも言ってねぇぞ、――――――」
『――――――よし、話を進めようか』
アイフェリアさんの一声は、そうやって、話がまとまったようだ。
『さて、そこの君たちも希望者にカウントするのに異存は無いな?
名前を。』
「うっす、俺は『デンシャラ・アズミック』でっす。うっす、『B』っす。」
「・・イガ・・・デ。」
って、彼は声が小さかった。
「はい、こいつは『セイガ・ギュウデ』って言ってます、『B』です。」
「『エリケ・デッサ』っす。同じ『B』っす。」
「『コリヴァ・イートン』だ、ぞ。『B』だ。」
―――――どこかで見た事のある、追って加わった彼らは以前のトレーニングの時間でも見かけていたような人たちだ。
確か、直近の合同トレーニングでも成績優秀者たちだったはず。
立ち並ぶ彼らの横顔は、わずかに見上げるように壇上を見据えている。
各々のそれぞれの表情は対照的だったりするけれど、中には口端を持ち上げていった彼もいる。
まるで、それらが不敵《ふてき》な笑みに見えてくる、それは気のせいなのか。
でもそれは、さっき見た、『C』の彼らと同じ、見据えるものが『そこ』にあると―――――――
『君たちも向こうへ。
これで計8人だ。上々だ。もっと増やそう。』
って―――――まだ増やす・・・見守っていた人たちが、どよめき始めた。
模擬戦の人数集め、9人以上は、けっこう大きな人数だが、相手チームも含めて総勢で2倍の18人以上が参加することになるはずだし。
『他にいないか?』
アイフェリアさんたちが見まわす中で、戸惑っている人たちが多い気がする。
『先ず、私たちも出る。賭けの当事者が逃げるわけにはいかないからな。どうだい?』
アイフェリアさんたちも出るって・・・。
「おぃ、マジかよ・・・」
「お前ら、幸せもんだな、稽古つけてくれるってよ、」
「お前も手を上げろよ、」
「俺はいい、――――――
『他に希望者は?』
―――――――マジか、」
「隊長たちが戦うのを見れんのか?」
「遊びだろ?」
「あんな奴ら、くっと軽く捻られて終わりだ、」
「だろうな、」
「勝つかもしれないぞ?」
「そんなん、ありえねぇって・・」
「どんだけ差があるんだろうな・・?」
「『C』の特能力者って、どんな?」
「隠し玉が多いっていうしな、『C』は、」
「研究所の秘蔵っ子たち・・・俺も見るのは初めてだ、」
「お守りがいなくても、やれんのか?」
「――――――おい、いいのか?アイフェリア、」
彼らがざわつく様子を目の端に、一時的にマイクを切ってアイフェリアたちが顔を合わせて少し言葉を交わしていて。
「問題ない。あれだと収拾がつかないだろう、」
「既にだいぶ予定が変わってるぞ・・?」
「目的からは逸れていない。」
「そりゃあそう言えるのか?」
「・・・ですよね?隊長、」
そう、アイフェリアは少し離れた場所で、高みの見物をしていたらしいエヴィン・バーダーと目線を交わし。
『ああ。面白けりゃそれでいい。だろ?最初に決めたとおりだ。』
耳元の無線から、彼が頷き返したのも確認した。
『ま、俺も賛成っすよ、』
「お前『も』、だろ?お前『だけ』じゃない。」
『うるっせぇな、グランス、』
「勝ち目はないな」
「・・・ったく、しょうがない人だ。『C』のお目付け役たちにはちゃんと話をつけといてくださいよ?」
『お?彼らならいま、隊長の隣で震えてるよ』
『そりゃ、かわいそうに、―――――――』
――――――壇上のアイフェリアが目の端に気が付く、人の群れから前に歩み出た、1人の・・・――――――
「―――――――希望します。ロアジュです。『Class - B』所属、」
『来てくれたか。』
わずかに、口元を柔らかくしたアイフェリアと、それを見上げ見据えるロアジュの、その後ろに続いてきた彼らも。
「うぉ、おま、ロアジュ、」
「ゃ、やんのか、おま・・」
『君たちもか?』
「ぁー・・」
「お前らは行かないのか?」
そう、肩越しに振り返ったロアジュを。
「そりゃ・・、」
「行くに決まってんだろ。」
彼らも、ニヤっと笑った。
「『B』のラッド、でーす!」
「『B』のニール!でぃーす!」
『はは、元気がいいな。これで・・、君もか?』
そのさらに後ろに立った、彼女にも、アイフェリアは目が合う。
「・・フィジー、『B』の、です。」
『OK、計4名追加だ。』
―――――彼らも――――――――優秀者たちだ。
見覚えがある、『B』の人たち、同年代、それに近い、訓練で見かけるとき、常に目立っていたような。
――――――これで、12人?」
「若い奴らばっかだな、同年代か?」
「『A』からも同じ人数出るってことだろ?」
「24人?マジか、やべぇな?」
「誰を出すんだ・・?」
「―――――――ま?・・え、本気?出んの?うわぁ~?」
「―――――」
『他に・・・?』
――――――横目に留めて気が付いた、アイフェリアの声に合わせて、見つけた。
――――人を掻き分けて、前に出た、彼女たちも。
「クロ、『C』から、です」
アイフェリアが、その姿たちを、真っ直ぐに受け止める。
「あ、うー、アーチャっ、同じくっでっすっ、以下、おなじくっ、」
「ぇ、えぇー?」
その傍で慌てていた彼女は戦闘員じゃないから。
勇気を出して手を上げたような彼女たちを心配しているようだ。
『2名、追加だ。』
希望者が、今のところ計14名・・・―――――――――認められていく度に、周囲の人たちがざわめく様子は、驚いたり笑っていたり、困惑や怪訝な、いろんな表情や様子で・・・―――――――
――――その視界の端に、気が付いた、ミリアが――――――アイフェリアさんが、集まる彼らを眺めていたはず―――――少し目を彷徨わせるように。
――――――――何人もの人が集まる中を――――――――その目は―――――その双眸と、正面で――――――
―――――――・・・正面と、衝突した――――――――
『私を見た』―――――――ミリアは、ちょっと、どきっとしていた―――――――
ミリアが―――――どきっとした、のかもしれない。
アイフェリアさんが、こちらを見た気がして。
でも、気のせいかもしれない。
アイフェリアさんは、また別の場所を見ているから。
少し、どきっとしただけで。
瞬くミリアは、きょとんと。
食べかけのサンドイッチをまだ、持っていたことを、思い出した。
だから口へ運んで、齧って。
咀嚼して――――――――
――――――ルールだ。』
そう、檀上のアイフェリアさんが耳元を操作しつつ歩き、周りへスピーカーを通して声を届ける。
『集団戦。
混成チームと『A』の選抜チームで戦う。
基本装備だが、装備品は最低限でいく、』
「ぇえ?『混成チーム』?ってなんだよ?」
「あん?」
「俺らは『Class - A』とやり合いたいって言っただろ?ばらばらになったら意味ないじゃんか?」
『大丈夫だ。
こちらが『A』の選抜チーム。
そちらが参加希望者で分かれてやろう』
「なんだよ、そういうことかよ。」
「いいね、」
「タイマンに近い、かな?」
「んん?混成ってぇと・・・?」
『既に『A』から出る者もだいたい決めてある』
――――――あはー」
無線通信を通して聞いてた彼らの顔も引きつるが。
「あいつ、俺らも巻き込むつもりだ、きっと今も頭の中で参加リストを作ってるぜ、」
「俺も嫌な予感しかしてねぇ、」
「こんだけやったら、負けるわけにもいかねぇじゃんか」
「はっはは、祭りらしくなってきたな」
「おいバーク、当然お前らは入るだろ。あれだけ息まいてたんだ、逃げるわけないよな?」
「んげぇ・・っ!」
「後先考えねぇからだぞ、バーク、」
「うっせぇ、こりゃあ、あれだ。バタフライ効果ってやつだな、」
「なんかちげぇ、」
「ルぅぅぅううおぉっしあぁーっ!」
「ロヌマが喜んでるのは何でだ?」
「知るか、さっきの根に持ってんじゃねぇの?――――――」
『――――――もちろん、参加者に合わせてこちらも人数は合わせる。
・・・そろそろ時間か。
・・もう一度だけ言おう。
この中から『A』の選抜と戦う希望者を、募る』
――――――アイフェリアさんのその一声で、ざわつきから、静かになりかける、彼らは周りを探すように。
――――――――アイフェリアさんは、周りを見回しているから。
また、私と、ちょっと目が合う、気がする。
そんな気がした、だけで。
――――――本当は、どっちなんだろう?
『もう、いないか?』
それは、数瞬。
ふと気が付いた、もくもく食べてたサンドイッチが、もう手には無くて。
最後の1口だった。
ミリアは。
ごくんと飲みこんだ。
「まだ人数がいるのか?もういらないんじゃないか?」
「『A』で評価されるチャンスだってよ、」
「じゃあ俺も行ってみようかぁ?」
「お前じゃボコボコにされる」
「あんだと?」
――――――――ふむ。
サンドイッチが無くなった、と思ったら。
思いのほか、右手は軽くて。
手を広げたら、すんなり開く。
――――だから、だ。
真っ直ぐに。
緊張はしていないと思う。
ミリアが、ただ手を挙げることに、なにも必要は無く。
ただ、手を伸ばした―――――――
―――――すると、アイフェリアさんが私を見つけた。
ちょっとだけ、笑ったのかもしれない。
そんな気がした。
『所属と名前は?』
―――――その場のすべての視線が、私に集まったのを感じていた。
「ミリアネァ・C、『Class - A』所属です。あ、うちのチーム全員も。」
私の背後で、ちょっと遅れて、『チーム全員』と聞いて驚いたのか変な声がすぐ聞こえてきた。
「参加希望します」
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