48 / 52
第2章 - Sec 2
Sec 2 - 第16話
しおりを挟む
『先ず、『ここ』は特殊な施設だ。』
小さなステージ上の彼がマイクを通して話す言葉を聴く人たちから、少し小声の会話が漏れてくる。
『気になっていたんじゃないか?ここはどこだ?って。俺も、お前らをすっきりさせてやりたいところだが、・・まあ、どう言ったらいいか、』
少し歯切れの悪くなった彼へ、聴く人たちの反応はそれぞれで。
近くの人と短い言葉を交わしたり、じっと彼を見つめている人もいたり、それでも彼らは今はみんな黙って待っている。
そんな中でミリアも、説明を始めようとしている彼を見ながら、サンドイッチの包みを持ってるままに、もぐもぐと咀嚼していた。
――――――なにかの異音がそんな雑音の中に聞こえ始めていた、のに気が付いて。
顔を上げたミリアが、横へ視線を移すと、檀上の彼らの後ろ、壁の一面が動いたのか、穴が開いたような隙間が下側から広がっていくように。
動いている、ゆっくりとシャッターのような構造が、壁の広い面から広がる穴のような向こう側に見えてくる。
『お、もういいのか』
とても大きな窓なのか、複層のスムーズなモーター音がちょっとだけ耳に残るような中で壁が開いていくと、大窓になっていく向こう側には外の景色が、まるで一望できるような光景に変わっていく。
「ぉお・・?」
「なんだあれ・・・?・・」
『ヌぁ・・・!?』
周囲が戸惑う中で、ちょっと聞き覚えのある声、大きくて甲高い興奮した声も聞こえた気がするけれど。
「マジかよ、」
「わー、」
それより、気がついていく周りの人たちが、驚く歓声も零れ始めているみたいだった。
『ちょうどいいな。
お前ら、直接見てくれ。
手間が省ける、移動していいぞ、よく見える方へ』
彼の言葉が出る前にも足を向ける彼らがいる、向こうの壁へ、透き通るガラス窓のような、天井の端までも開いていく向こう側の光景へ、一斉に歩み寄り始めている。
「ぅわーう!」
「おい、走るんじゃねぇ、ロヌマ・・おぉ、なんっだ?」
「ぅお、すっげぇ、」
すぐ駆け寄った人たちもいたけれど、ミリアも一歩目の足を出して、ちょっと気が付いて隣へ顔を上げた。
向こうを見ていたガイが気が付いて自分と目が合って、って右目でウィンクしてきたガイの意思も同じようで、ミリアも一緒に、周りの人の流れと同じく窓の方へ歩き出した。
それから、ちらっとミリアは、ケイジとリース達も付いて来てるのを、一瞬だけでも確かめながら歩き出していた。
向かう先は人が集まるその大きな窓の、白い壁の景色があるようだった。
普通のベランダのそれよりも大きな窓ガラスか、と遠目には思ったけど。
ガラスの表面に走るホログラムのような淡い光の欠片が一瞬だけ、端から移動したような、綻ぶように淡い光の反射が窓から見えた気がした、けれど。
その向こう側の、外の景色は想像していたよりも白いのか。
屋外の景色じゃない・・それ以上に、はるかに広くて遠くが見えない、もっと白の景色だった。
『ひゅぅ・・♪』って、隣のガイが口笛を吹いたようで、驚いたようだ。
「ぉぉ・・?」
『それ』は白色ベースの壁に天井も囲まれた、巨大な建造物の内側らしき景色で。
床には緑色の・・木々?が生えている一部のエリアも見えるが、目を凝らせばかなり遠くの遮蔽物も、建造物もあるので見えないが。
『俺たちは、この場所で訓練をする予定だ。』
・・壁の広さは何百mもありそう、なのか・・?
『広いだろ?
調整に時間を食ったのが、納得してもらえて何よりだ。』
ステージ上の彼が話していたのに気が付くのに、少し時間がかかってミリアは振り返った。
周りでは、まだ窓の外を見ている人たちも多いけれど。
「わぁーっはっ!!っはぁ・・!」
「なんっっだぁこりゃぁあ?」
周りの興奮を交えた声に、ミリアもまたそっちの窓の外を見てしまう。
「ぉお、すっげぇ、」
「わー・・、」
「すご・・・なんだろ、あれ、ねぇクロ、アレアレ、」
「なんだこれ?なんでこんな所に、こんな・・?」
・・そう、そもそも、こんな人工的でシンプルな光景の施設内に、緑の木々が生えていたり、建造物があるのも、異様だ。
『
もっとかぶりついてもいいぜ、はっは。
こいつは最新のMR(複合現実)訓練施設だ。
名前は『STRA+D』、『STRAD』とか言うらしい。
多分なにかの略だな。
それ以外は知らん。
俺たち・・、ぁー、『EAU』と、協力関係にある他の組織とで共同の扱いになってるけどな。
』
「それって、軍部が関係してるのか?」
『ん?・・まぁ。
・・・お互いに詮索しない方がいい相手だろうが。
まぁ、一枚噛んでるかもな?とだけは言っておこうか、常識的な範囲での話だよな、』
そんなやり取りを片耳にしつつ、ミリアが窓の上を、天井の端の一部の向こうを見上げて覗き込めば。
まるで、シェルターか、壁だった場所が高くまで上がっていき、照明も見づらいが、天井全体が明るい複雑な機構になっているようだ。
鉄骨のような骨組みが重なり合っている影も多少は見える気がする。
・・って、窓に頬っぺたがちょっと付いたので、窓に片手をちょっと添えたけど。
指先に無機質な硬いガラスの、ひんやりした感触がして、すると、ふと光の波紋のような、わずかな揺らぎが透明なそれの表面か内側に見えた気がした。
さっきもだけど、これはただの窓じゃなくて機械的な機能が付いているものみたいだ。
『
おっと、忘れてた。
お前らが今見てるのは高度の機密扱いでもある。
ベラベラ喋るバカもこの中にはいないと思うが、あとで各自の責任者から注意されるぞ。
必要なら改めて誓約書も書かされるかもな、ぜったいバックレるなよ?
』
「え、マジ・・?・・・」
「そんなもん勝手に見せんなよ、同意が・・・」
「おいおい、いつもサインしてるだろ」
「あ、そういやそんなんあったヤツだった、」
『自覚がねぇやつらも混じってるみたいだな。こりゃちゃんといろいろ説明した方が良さそうだ。』
まあ、そう、今回もトレーニングだからと、事前にいくつかの書類にサインを私もしたけれど。
いくつかの同意書・確認書やらの中に『任務中に見聞きしたことを他言しないこと』っていう、いつもの基本的な、そんな主旨の条項もあって、今回のこれにも当てはまるのは当然なわけで。
そもそも、ここへバスで向かう時も行き方は隠されていたし。
『
ちなみに『こいつ』は、実際には『MR(複合現実)』でもあるし、『RAシミュレーター』と言う分類でも正しいらしいが。
こいつは、そのハイブリッド、拡張版みたいなもんだ。
『EAU』の施設にもあるヤツ、知ってるだろ?あれがMR(複合現実)シミュレータだ、ほぼな。
まぁ、この辺はめんどくせぇなら、忘れてもいいが。
』
―――――窓の向こうの景色は見渡す限りの、最初は白いと思ったけど。
よく見れば灰色に近い色が混ざるような景色が陰影を作って、地形のまだらな輪郭を作っている。
多少は眉を寄せるくらい遠い床も壁も、巨大な灰色の素材でできているようだ。
シェルターみたいなもの、なのか・・・?
人工的な、そんな光景に少し不自然さを感じるのは、小屋か、それ以上に大きな建造物もいくつか、遠くに見えているからか。
あれらが、『環境再現』に重きを置いている、と彼の言った機能に関係はあるんだろう。
『
俺もここで模擬戦をやったことが数回ある。
控えめに言って、かなり昂る。
全体の広さは・・、俺も知らされていないが。
極秘事項ってヤツだ。
今回は70万㎡程度のエリアが俺らに割り当てられている。
』
「マジかよ・・?」
「こんなでっかいシミュレーター・・聞いた事ねぇ・・・」
「70万㎡って、4ブロックぐらいの広さか?」
「そんくらいか?」
「広すぎるし殺風景だな・・・、」
「よく見ろよ、いろいろあるじゃんか、」
そんな広さのシミュレータが・・?・・・そんなの・・・・そもそも、そんな広い訓練施設や、軍部の基地なんて、リリー・スピアーズの中にあったのか・・・。
聞いた事無いけれど・・・。
確かに、ドームのリリーには密集した建物が多いから、外観では中がわからない施設はたくさんあるし、フロアで管理されたり、別の建物が中でくっついているものもある。
特に、軍部が利用する区画にはいろいろ秘匿されているものもある、って聞く。
だから、ここも研究用の、訓練用の・・?・・・特殊な施設・・・ふむ。
なんだか、本当に、『EAU』や『リプクマ』も、私たちに秘密にしてる事が他にももっとありそうだ。
もしかして、ここはリリーのドームの外まではみ出しているんじゃ・・?っていうのは考えすぎか。
あと、今気が付いたけど、ステージの後ろのモニタディスプレイがいつの間にか消えている。
というか、向こう側の景色を映す壁一面の、窓の一部に変わっていたようだ。
継ぎ目が無いフレームレス(ベゼルレス)だからディスプレイの跡も無くなっている。
「これは、あれか?もしかして、『EPF』用のヤツなのか?」
そう、大きな声を上げて質問する誰かがいた。
それで、周りの人たちの視線がステージから降りて来ていた彼へ集まる。
『ぁあ。いまのは、いい質問だ。
ここは、特能力者、に向けた調整をするためのものでもある。』
「ぉお・・?」
「特能力者用の試験場・・・?」
「そんなの作ったのかよ、すげぇな」
『訓練場は広けりゃ広いほどいい、ってモノでもある。
特に、特能力者にはな。
少なくとも俺はそう思っている。
でもそれ以上に、面白い機能もたくさんあるぞ。』
―――――窓の向こう。
その向こうにある広大で灰色がかったフィールド、・・ちょっと違和感があったのだ、最初から。
動いているのだ、少しずつ、建物のようなシルエットが。
ほぼ音も無くモニタ越しなのかわからないけど。
メンテナンスなのか作業をする人が数人は、歩いているのも見える。
目を凝らさないと、彼らはほんの小さなシルエットにしか見えない。
ここは本当に、以前、『リプクマ』の方でやった合同訓練の施設よりもかなり大きいだろう。
この壁の窓も大きく開いたように最初は見えたけれど、よく見れば強化ガラスっぽい窓のようで、実際にはこの部屋のスペースを色んな想定から、こちらを守っているようだ。
『高級な『模擬戦《シミュレーター》』に触れるんだ。
お前たちはラッキーだな。
技術的な説明は省くが、使い勝手は俺たちが普段から使用している訓練施設と大体同じだ。
ガジェット、ライフルの各種デバイスに、IIS(連統合システム)や、そのほかのガジェットの互換もある。
ここまで言えばわかるよな?
でっかい広場を用意した。
楽しそうな公園に来たら、やる事は1つだな?
』
「マジか・・?」
「はぁっはっはっは、」
「えっ、なに!?」
『模擬戦をやるぞ。』
おおぉおおお・・・と、周囲のみんなからいろんな声が溢れてきた。
ぴゅぅ~♪っと指笛を鳴らす人もいるし。
みんな楽しい事は好きなようだ。
『よし、じゃあぁ・・、後は頼んます、』
と、彼が、ステージの上を振り返れば、次に前に出てきた彼がいた。
また身体のがっしりした人で、大きな風格のある人だ。
さっきまで説明してた彼よりも年上っぽいし、厚い胸板に二の腕の筋肉が盛り上がっていて、シンプルなTシャツの裾がはち切れそうな、見るからに身体をとても鍛えている人だ。
それに、深いしかめっ面で、強面で強そうな、軍人のような人だ。
彼は口元のマイクを通して、その落ち着いた様子でこちらを見回した後、口を開いた。
ゆっくりと。
『EAUは死ぬ、可能性がある。』
そう。
・・・マイクを通した低い声は静かで、落ち着いた・・、物静かな、でも存在感があるから。
周りの人たちが振り返る。
ひゅぅ~♪、って誰かが軽い口笛を吹いたけれど。
みんなの前に立ち、場を受け取った彼は、その威圧するような強い目を私たちに向ける。
全員を見ているようで、私とも目が合っているかのような、そんな存在感なのか・・。
・・彼は決して睨んでいるわけじゃない、とは思う。
けれど、みんなも静かになっていった。
『
・・俺は、『ライダン・ケプロ』だ。
今回の仕切りを任されている1人。
訓練のコーチもたまにやっている。
知っている奴らもいるだろう。
よろしく。
本題に入ろう。
お前らが今回は訓練をするという事だが・・・。
模擬戦をやる前に、俺から言いたいことが1つある。
EAUは、特務協戦だ。
特殊な仕事である。
戦う事だ。
普段からうんざりするほど言われ続けていると思うが。
特能力者と相対する、特能力者じゃない奴との場合もある。
お前たちは銃を持つ。
目の前のヤツを制圧するため、銃を構える。
お前たちには特能力者の仲間もいる。
世間では・・特能力者が何でもできる、危険だ、うらやましい、・・ああだこうだ、毎日のように、妄想が垂れ流されているが。
しょせん特能力者なんて、脆いもんだ。
アサルトライフルを用意しろ。
俺が撃つ。
その弾は身体を貫通する。
即死だ。
特能力者だろうと、非特能力者だろうと、そこに大きな差は無い。
だが、兵士に差はある。
熟練した兵士には、なにが差を作るか?
『差』は特能力の有無だけじゃない。
技術が要る。
あらゆる技術が、人間の生死を分ける。
そう教え込まれているはずだな?
』
・・彼が一旦、口を閉じた。
息をついた、のかもしれない。
誰かの息を呑む音も聞こえた気がした。
『
・・だが、何度も聞いたその言葉を繰り返すだけじゃ、芸が無い。
だろう?
俺が常日頃、思っていることだ。
好い訓練ができると、今日は。
『これ』の世話になる。
』
彼は、そのシミュレータ・・、『STRAD・・』だったか、窓の向こう側へ親指を立てた。
『
観測もできる、優れものだ。
ギミックも、いくつかある。
俺も推したギミックを挙げるなら。
死ぬことを含めた訓練ができる。
』
・・そう・・・・―――――――
『実際に体感してみろ、と言いたかった。
なかなか、衝撃的な体験ができるだろうな、・・はは、』
・・って、初めて彼が笑った気がする。
噛みしめたように、口端を持ち上げて、ニヤリと。
・・・。
周囲がちょっと、静かになっているけれど。
・・・むぅ。
彼の含み笑いのような様子も、ちょっと引っかかるけど。
ただ・・・『死ぬことも含めた訓練』って、なんだろうか?
『ケプロ、あんまり脅かし過ぎるなよ?』
『・・そんなつもりじゃないですよ、隊長。
でも、全員|賛成しましたよね?』
ステージの上と、向こうで見守っている隊長の誰かか、が軽く声を掛けてた。
『それで・・、』
「質問していいですか?」
と、聴いていた中で、軽く手を上げた彼がいて。
『なんだ?』
「それは、どういう意味ですか?」
『・・死ぬ訓練が?』
「はい、シミュレータっすよね?怪我までやるんですか?」
『・・まぁ、そういうようなことだ』
「マジかよ、どうやって?」
『やってみりゃわかる』
「・・・」
「・・頭おかしいよな、」
近くで誰かが呟いたようなのが聞こえた。
『少し、補足をしたい』
と、凛とした女性の声、聞き覚えのある・・向こうで、アイフェリアさんが動くのが見えて、マイクを通して伝えてきた。
周囲のみんなも少し、さわっとしたけれど。
『ああ。』
『
ここでは『RA』の技術を用いた訓練が可能だ。
それに加えて、特殊装備を用いる事による疑似的な感覚を作ること、体験するというような事が可能だ。
ケプロが言ったのは、撃たれれば、それなりに痛い。
そういったようなことだ。
』
アイフェリアさんは、そう、・・って、事も無げにすっと言ってたけど。
「はぁ・・?」
「ちょ、怖いんですけど・・」
「どういうことだ・・・?」
『安心してくれ。
安全性は確認してある。
実戦に近い経験に優る訓練は無いということだ。』
って、アイフェリアさんが追加で補足して、口を閉じたようだけど。
ちょっと、えっと・・・今の説明だと、・・・どういうことだろう?
『事故が無ければな、』
って、低い声が、言ったのは壇上の彼か。
『・・ケプロ、』
『冗談だ、』
呆れたような声と、ぜんぜん、笑えない冗談だけど。
「オレ、痛いの嫌なんだけど。」
「オレもだよ、つうか好きっていうヤツいねぇだろ」
って、周りの人たちのは素直だ。
「なんなんだろうな、一体・・」
「怪我すんのか?」
「どうやって・・?」
「やばいのか・・・?」
「頭おかしいって、」
なんだか、ざわめき始めている。
ミリアは、傍のガイをちょっと見上げれば。
ガイも向こうをじっと見ていて、浮かべた表情も無い、真顔なのかもしれない、少なくとも、いつものように、柔和な感じじゃなくって。
ミリアは少し・・窓から離れつつ、周りをもう一度、さり気なく見回してみる。
ちょっとずつ、周りの人たちの顔つきも変わってきているような気がして。
『
楽しいサバイバルゲームだぞ?俺が保証する。
』
って、最初に説明してた彼が、横から、だいぶ軽い調子で言ってたけど。
『ここは待合室みたいなものだ。』
って、ケプロさんは。
『そして、向こうは戦場だ。』
それは、窓の外を言っているようだ。
ふむ。
・・待合室にしては広くて、すごく洗練されているから、VIPルームとかそんな感じの居心地の良さだと思ってたけど。
『安心しろよ、無理強いはしないぞ?
見学者なんかもいるんだ。
強制参加なんかやったら後で、こっちが偉い人に文句を言われちまうからな、』
って対して、軽い彼がそう言ってるけど。
ふむ・・・。
『だが、これだけは言っておく。
お前たちが目指すのは、訓練を完ぺきにこなす事じゃあない。
現場に出る、耐えきる実動隊としての力だ。
技術、特能力、運、何でもいい。
何が起きても対応できる能力が、何を差し置いても優先される。
俺たちは死ぬことはできない。
自分と、救助者と、関わる命を全て生かして戻る事が本懐だ。
』
そう、低い声で、彼は静かに大切な事を伝えてくる。
『本番ならな。』
って。
『
ここに来たからには、何度でも死ねる。
仕留められる感覚をしっかり覚えろよ。
』
・・彼の言っている事は。
「・・・・」
そんなに間違いはないと思う。
「・・そのために訓練をしてきたんだろう?日ごろの訓練の成果を見せてみろ」
「ここでびびるのは無しだぜ?へっへっへ、」
「誰がびびってるって?ぁあ?」
周りの声が、熱が徐々に上がってきているみたいだ。
ミリアは、その少し戸惑いもまだある、周りにある異様な圧も感じながら・・また少し窓から離れる。
コーチからそのステージへ、冷静な目を向けて、周りの施設の様子や、天井なども見回していた。
『
今から希望した者たち、あるいは選ばれた者たちで、実戦に即した模擬戦をやる。
最初に出られる希望者を今から募る。
』
「いきなり模擬戦かよ・・っ?」
「手を上げないのか?」
「お前が行けよ」
『
ルールは、殲滅戦だ。
プレイヤーは混合、その場でチームを入れ替える、人数は先ず10人ってところか。
今日はたっぷりと時間がある。
』
「10 VS 10?多いな・・?・・・」
「あの広さだぜ?ぜんぜんだろ、」
「機動系の事も考えてるんじゃないか?」
「さっき誰がやるって言った?やらねぇのか?」
『・・先ずはやってみて実感する方が早いだろう。
または、こちらが予定した者達がやる模擬戦を見てからでもいい。
希望者がいれば、優先して組み込もう・・・―――――、』
――――――周りが少しざわめいたのに、ミリアは気が付いて、辺りを見回していた。
その理由はすぐにわかった、ステージ下の、そこに立ってる人が、最初に手を高く上げていたからだ。
『・・判断が早いな。
希望者だな?
所属と名前を言え、』
そう訊ね終える前にも、挙手をした彼の周りの、おそらく同年代の青年たちも、3人、全員で4人がまばらに、彼ら自身のタイミングで手を上げ始めていた。
「・・ディー ・・ ハロゥ = ギッパ。『Class - C』、だ」
「俺も同じく、ミリュモ = ル = サラマン、で~す、」
「オルビ = マイヤーです、同じく、『C』」
「ガリナ・・ エルポ、同じ・・・、」
「俺らもやりたいんすけど~、いけるんすかー?」
『ほう。4人だな。希望者は歓迎だ。』
ステージ上では向こうのスタッフへ目配せをして、携帯用のデバイスでチェックや手続きを始めているようだ。
――――――なんだか、言動とか雰囲気に、それぞれ癖がちょっとありそうな彼らだけど。
周囲の中でミリアも、彼らを横目に眺めている分には、別に気にする必要もない・・・。
「Cのやつらか・・」
そう・・・。
「おいおい、大丈夫かぁ?そんな細くてよぉ、」
なんだか、野次っぽい何かも出てるみたいなのが耳に入ってくるけれど。
彼らは聞こえているのか、いないのか、気にするそぶりも見せずに振り返らない。
ニヤニヤ笑っている横顔も見える。
『他には、いないか?』
・・そんな感じから、その声で、ミリアはふと思い出して。
手に持ってた食べかけのサンドイッチ、残りあともうちょっとのそれを齧った。
まだ柔らかくて美味しいタマゴサンドイッチをモグモグ、咀嚼し始めて。
顔を上げ、動きがありそうな周りの様子にその目を移す――――――
小さなステージ上の彼がマイクを通して話す言葉を聴く人たちから、少し小声の会話が漏れてくる。
『気になっていたんじゃないか?ここはどこだ?って。俺も、お前らをすっきりさせてやりたいところだが、・・まあ、どう言ったらいいか、』
少し歯切れの悪くなった彼へ、聴く人たちの反応はそれぞれで。
近くの人と短い言葉を交わしたり、じっと彼を見つめている人もいたり、それでも彼らは今はみんな黙って待っている。
そんな中でミリアも、説明を始めようとしている彼を見ながら、サンドイッチの包みを持ってるままに、もぐもぐと咀嚼していた。
――――――なにかの異音がそんな雑音の中に聞こえ始めていた、のに気が付いて。
顔を上げたミリアが、横へ視線を移すと、檀上の彼らの後ろ、壁の一面が動いたのか、穴が開いたような隙間が下側から広がっていくように。
動いている、ゆっくりとシャッターのような構造が、壁の広い面から広がる穴のような向こう側に見えてくる。
『お、もういいのか』
とても大きな窓なのか、複層のスムーズなモーター音がちょっとだけ耳に残るような中で壁が開いていくと、大窓になっていく向こう側には外の景色が、まるで一望できるような光景に変わっていく。
「ぉお・・?」
「なんだあれ・・・?・・」
『ヌぁ・・・!?』
周囲が戸惑う中で、ちょっと聞き覚えのある声、大きくて甲高い興奮した声も聞こえた気がするけれど。
「マジかよ、」
「わー、」
それより、気がついていく周りの人たちが、驚く歓声も零れ始めているみたいだった。
『ちょうどいいな。
お前ら、直接見てくれ。
手間が省ける、移動していいぞ、よく見える方へ』
彼の言葉が出る前にも足を向ける彼らがいる、向こうの壁へ、透き通るガラス窓のような、天井の端までも開いていく向こう側の光景へ、一斉に歩み寄り始めている。
「ぅわーう!」
「おい、走るんじゃねぇ、ロヌマ・・おぉ、なんっだ?」
「ぅお、すっげぇ、」
すぐ駆け寄った人たちもいたけれど、ミリアも一歩目の足を出して、ちょっと気が付いて隣へ顔を上げた。
向こうを見ていたガイが気が付いて自分と目が合って、って右目でウィンクしてきたガイの意思も同じようで、ミリアも一緒に、周りの人の流れと同じく窓の方へ歩き出した。
それから、ちらっとミリアは、ケイジとリース達も付いて来てるのを、一瞬だけでも確かめながら歩き出していた。
向かう先は人が集まるその大きな窓の、白い壁の景色があるようだった。
普通のベランダのそれよりも大きな窓ガラスか、と遠目には思ったけど。
ガラスの表面に走るホログラムのような淡い光の欠片が一瞬だけ、端から移動したような、綻ぶように淡い光の反射が窓から見えた気がした、けれど。
その向こう側の、外の景色は想像していたよりも白いのか。
屋外の景色じゃない・・それ以上に、はるかに広くて遠くが見えない、もっと白の景色だった。
『ひゅぅ・・♪』って、隣のガイが口笛を吹いたようで、驚いたようだ。
「ぉぉ・・?」
『それ』は白色ベースの壁に天井も囲まれた、巨大な建造物の内側らしき景色で。
床には緑色の・・木々?が生えている一部のエリアも見えるが、目を凝らせばかなり遠くの遮蔽物も、建造物もあるので見えないが。
『俺たちは、この場所で訓練をする予定だ。』
・・壁の広さは何百mもありそう、なのか・・?
『広いだろ?
調整に時間を食ったのが、納得してもらえて何よりだ。』
ステージ上の彼が話していたのに気が付くのに、少し時間がかかってミリアは振り返った。
周りでは、まだ窓の外を見ている人たちも多いけれど。
「わぁーっはっ!!っはぁ・・!」
「なんっっだぁこりゃぁあ?」
周りの興奮を交えた声に、ミリアもまたそっちの窓の外を見てしまう。
「ぉお、すっげぇ、」
「わー・・、」
「すご・・・なんだろ、あれ、ねぇクロ、アレアレ、」
「なんだこれ?なんでこんな所に、こんな・・?」
・・そう、そもそも、こんな人工的でシンプルな光景の施設内に、緑の木々が生えていたり、建造物があるのも、異様だ。
『
もっとかぶりついてもいいぜ、はっは。
こいつは最新のMR(複合現実)訓練施設だ。
名前は『STRA+D』、『STRAD』とか言うらしい。
多分なにかの略だな。
それ以外は知らん。
俺たち・・、ぁー、『EAU』と、協力関係にある他の組織とで共同の扱いになってるけどな。
』
「それって、軍部が関係してるのか?」
『ん?・・まぁ。
・・・お互いに詮索しない方がいい相手だろうが。
まぁ、一枚噛んでるかもな?とだけは言っておこうか、常識的な範囲での話だよな、』
そんなやり取りを片耳にしつつ、ミリアが窓の上を、天井の端の一部の向こうを見上げて覗き込めば。
まるで、シェルターか、壁だった場所が高くまで上がっていき、照明も見づらいが、天井全体が明るい複雑な機構になっているようだ。
鉄骨のような骨組みが重なり合っている影も多少は見える気がする。
・・って、窓に頬っぺたがちょっと付いたので、窓に片手をちょっと添えたけど。
指先に無機質な硬いガラスの、ひんやりした感触がして、すると、ふと光の波紋のような、わずかな揺らぎが透明なそれの表面か内側に見えた気がした。
さっきもだけど、これはただの窓じゃなくて機械的な機能が付いているものみたいだ。
『
おっと、忘れてた。
お前らが今見てるのは高度の機密扱いでもある。
ベラベラ喋るバカもこの中にはいないと思うが、あとで各自の責任者から注意されるぞ。
必要なら改めて誓約書も書かされるかもな、ぜったいバックレるなよ?
』
「え、マジ・・?・・・」
「そんなもん勝手に見せんなよ、同意が・・・」
「おいおい、いつもサインしてるだろ」
「あ、そういやそんなんあったヤツだった、」
『自覚がねぇやつらも混じってるみたいだな。こりゃちゃんといろいろ説明した方が良さそうだ。』
まあ、そう、今回もトレーニングだからと、事前にいくつかの書類にサインを私もしたけれど。
いくつかの同意書・確認書やらの中に『任務中に見聞きしたことを他言しないこと』っていう、いつもの基本的な、そんな主旨の条項もあって、今回のこれにも当てはまるのは当然なわけで。
そもそも、ここへバスで向かう時も行き方は隠されていたし。
『
ちなみに『こいつ』は、実際には『MR(複合現実)』でもあるし、『RAシミュレーター』と言う分類でも正しいらしいが。
こいつは、そのハイブリッド、拡張版みたいなもんだ。
『EAU』の施設にもあるヤツ、知ってるだろ?あれがMR(複合現実)シミュレータだ、ほぼな。
まぁ、この辺はめんどくせぇなら、忘れてもいいが。
』
―――――窓の向こうの景色は見渡す限りの、最初は白いと思ったけど。
よく見れば灰色に近い色が混ざるような景色が陰影を作って、地形のまだらな輪郭を作っている。
多少は眉を寄せるくらい遠い床も壁も、巨大な灰色の素材でできているようだ。
シェルターみたいなもの、なのか・・・?
人工的な、そんな光景に少し不自然さを感じるのは、小屋か、それ以上に大きな建造物もいくつか、遠くに見えているからか。
あれらが、『環境再現』に重きを置いている、と彼の言った機能に関係はあるんだろう。
『
俺もここで模擬戦をやったことが数回ある。
控えめに言って、かなり昂る。
全体の広さは・・、俺も知らされていないが。
極秘事項ってヤツだ。
今回は70万㎡程度のエリアが俺らに割り当てられている。
』
「マジかよ・・?」
「こんなでっかいシミュレーター・・聞いた事ねぇ・・・」
「70万㎡って、4ブロックぐらいの広さか?」
「そんくらいか?」
「広すぎるし殺風景だな・・・、」
「よく見ろよ、いろいろあるじゃんか、」
そんな広さのシミュレータが・・?・・・そんなの・・・・そもそも、そんな広い訓練施設や、軍部の基地なんて、リリー・スピアーズの中にあったのか・・・。
聞いた事無いけれど・・・。
確かに、ドームのリリーには密集した建物が多いから、外観では中がわからない施設はたくさんあるし、フロアで管理されたり、別の建物が中でくっついているものもある。
特に、軍部が利用する区画にはいろいろ秘匿されているものもある、って聞く。
だから、ここも研究用の、訓練用の・・?・・・特殊な施設・・・ふむ。
なんだか、本当に、『EAU』や『リプクマ』も、私たちに秘密にしてる事が他にももっとありそうだ。
もしかして、ここはリリーのドームの外まではみ出しているんじゃ・・?っていうのは考えすぎか。
あと、今気が付いたけど、ステージの後ろのモニタディスプレイがいつの間にか消えている。
というか、向こう側の景色を映す壁一面の、窓の一部に変わっていたようだ。
継ぎ目が無いフレームレス(ベゼルレス)だからディスプレイの跡も無くなっている。
「これは、あれか?もしかして、『EPF』用のヤツなのか?」
そう、大きな声を上げて質問する誰かがいた。
それで、周りの人たちの視線がステージから降りて来ていた彼へ集まる。
『ぁあ。いまのは、いい質問だ。
ここは、特能力者、に向けた調整をするためのものでもある。』
「ぉお・・?」
「特能力者用の試験場・・・?」
「そんなの作ったのかよ、すげぇな」
『訓練場は広けりゃ広いほどいい、ってモノでもある。
特に、特能力者にはな。
少なくとも俺はそう思っている。
でもそれ以上に、面白い機能もたくさんあるぞ。』
―――――窓の向こう。
その向こうにある広大で灰色がかったフィールド、・・ちょっと違和感があったのだ、最初から。
動いているのだ、少しずつ、建物のようなシルエットが。
ほぼ音も無くモニタ越しなのかわからないけど。
メンテナンスなのか作業をする人が数人は、歩いているのも見える。
目を凝らさないと、彼らはほんの小さなシルエットにしか見えない。
ここは本当に、以前、『リプクマ』の方でやった合同訓練の施設よりもかなり大きいだろう。
この壁の窓も大きく開いたように最初は見えたけれど、よく見れば強化ガラスっぽい窓のようで、実際にはこの部屋のスペースを色んな想定から、こちらを守っているようだ。
『高級な『模擬戦《シミュレーター》』に触れるんだ。
お前たちはラッキーだな。
技術的な説明は省くが、使い勝手は俺たちが普段から使用している訓練施設と大体同じだ。
ガジェット、ライフルの各種デバイスに、IIS(連統合システム)や、そのほかのガジェットの互換もある。
ここまで言えばわかるよな?
でっかい広場を用意した。
楽しそうな公園に来たら、やる事は1つだな?
』
「マジか・・?」
「はぁっはっはっは、」
「えっ、なに!?」
『模擬戦をやるぞ。』
おおぉおおお・・・と、周囲のみんなからいろんな声が溢れてきた。
ぴゅぅ~♪っと指笛を鳴らす人もいるし。
みんな楽しい事は好きなようだ。
『よし、じゃあぁ・・、後は頼んます、』
と、彼が、ステージの上を振り返れば、次に前に出てきた彼がいた。
また身体のがっしりした人で、大きな風格のある人だ。
さっきまで説明してた彼よりも年上っぽいし、厚い胸板に二の腕の筋肉が盛り上がっていて、シンプルなTシャツの裾がはち切れそうな、見るからに身体をとても鍛えている人だ。
それに、深いしかめっ面で、強面で強そうな、軍人のような人だ。
彼は口元のマイクを通して、その落ち着いた様子でこちらを見回した後、口を開いた。
ゆっくりと。
『EAUは死ぬ、可能性がある。』
そう。
・・・マイクを通した低い声は静かで、落ち着いた・・、物静かな、でも存在感があるから。
周りの人たちが振り返る。
ひゅぅ~♪、って誰かが軽い口笛を吹いたけれど。
みんなの前に立ち、場を受け取った彼は、その威圧するような強い目を私たちに向ける。
全員を見ているようで、私とも目が合っているかのような、そんな存在感なのか・・。
・・彼は決して睨んでいるわけじゃない、とは思う。
けれど、みんなも静かになっていった。
『
・・俺は、『ライダン・ケプロ』だ。
今回の仕切りを任されている1人。
訓練のコーチもたまにやっている。
知っている奴らもいるだろう。
よろしく。
本題に入ろう。
お前らが今回は訓練をするという事だが・・・。
模擬戦をやる前に、俺から言いたいことが1つある。
EAUは、特務協戦だ。
特殊な仕事である。
戦う事だ。
普段からうんざりするほど言われ続けていると思うが。
特能力者と相対する、特能力者じゃない奴との場合もある。
お前たちは銃を持つ。
目の前のヤツを制圧するため、銃を構える。
お前たちには特能力者の仲間もいる。
世間では・・特能力者が何でもできる、危険だ、うらやましい、・・ああだこうだ、毎日のように、妄想が垂れ流されているが。
しょせん特能力者なんて、脆いもんだ。
アサルトライフルを用意しろ。
俺が撃つ。
その弾は身体を貫通する。
即死だ。
特能力者だろうと、非特能力者だろうと、そこに大きな差は無い。
だが、兵士に差はある。
熟練した兵士には、なにが差を作るか?
『差』は特能力の有無だけじゃない。
技術が要る。
あらゆる技術が、人間の生死を分ける。
そう教え込まれているはずだな?
』
・・彼が一旦、口を閉じた。
息をついた、のかもしれない。
誰かの息を呑む音も聞こえた気がした。
『
・・だが、何度も聞いたその言葉を繰り返すだけじゃ、芸が無い。
だろう?
俺が常日頃、思っていることだ。
好い訓練ができると、今日は。
『これ』の世話になる。
』
彼は、そのシミュレータ・・、『STRAD・・』だったか、窓の向こう側へ親指を立てた。
『
観測もできる、優れものだ。
ギミックも、いくつかある。
俺も推したギミックを挙げるなら。
死ぬことを含めた訓練ができる。
』
・・そう・・・・―――――――
『実際に体感してみろ、と言いたかった。
なかなか、衝撃的な体験ができるだろうな、・・はは、』
・・って、初めて彼が笑った気がする。
噛みしめたように、口端を持ち上げて、ニヤリと。
・・・。
周囲がちょっと、静かになっているけれど。
・・・むぅ。
彼の含み笑いのような様子も、ちょっと引っかかるけど。
ただ・・・『死ぬことも含めた訓練』って、なんだろうか?
『ケプロ、あんまり脅かし過ぎるなよ?』
『・・そんなつもりじゃないですよ、隊長。
でも、全員|賛成しましたよね?』
ステージの上と、向こうで見守っている隊長の誰かか、が軽く声を掛けてた。
『それで・・、』
「質問していいですか?」
と、聴いていた中で、軽く手を上げた彼がいて。
『なんだ?』
「それは、どういう意味ですか?」
『・・死ぬ訓練が?』
「はい、シミュレータっすよね?怪我までやるんですか?」
『・・まぁ、そういうようなことだ』
「マジかよ、どうやって?」
『やってみりゃわかる』
「・・・」
「・・頭おかしいよな、」
近くで誰かが呟いたようなのが聞こえた。
『少し、補足をしたい』
と、凛とした女性の声、聞き覚えのある・・向こうで、アイフェリアさんが動くのが見えて、マイクを通して伝えてきた。
周囲のみんなも少し、さわっとしたけれど。
『ああ。』
『
ここでは『RA』の技術を用いた訓練が可能だ。
それに加えて、特殊装備を用いる事による疑似的な感覚を作ること、体験するというような事が可能だ。
ケプロが言ったのは、撃たれれば、それなりに痛い。
そういったようなことだ。
』
アイフェリアさんは、そう、・・って、事も無げにすっと言ってたけど。
「はぁ・・?」
「ちょ、怖いんですけど・・」
「どういうことだ・・・?」
『安心してくれ。
安全性は確認してある。
実戦に近い経験に優る訓練は無いということだ。』
って、アイフェリアさんが追加で補足して、口を閉じたようだけど。
ちょっと、えっと・・・今の説明だと、・・・どういうことだろう?
『事故が無ければな、』
って、低い声が、言ったのは壇上の彼か。
『・・ケプロ、』
『冗談だ、』
呆れたような声と、ぜんぜん、笑えない冗談だけど。
「オレ、痛いの嫌なんだけど。」
「オレもだよ、つうか好きっていうヤツいねぇだろ」
って、周りの人たちのは素直だ。
「なんなんだろうな、一体・・」
「怪我すんのか?」
「どうやって・・?」
「やばいのか・・・?」
「頭おかしいって、」
なんだか、ざわめき始めている。
ミリアは、傍のガイをちょっと見上げれば。
ガイも向こうをじっと見ていて、浮かべた表情も無い、真顔なのかもしれない、少なくとも、いつものように、柔和な感じじゃなくって。
ミリアは少し・・窓から離れつつ、周りをもう一度、さり気なく見回してみる。
ちょっとずつ、周りの人たちの顔つきも変わってきているような気がして。
『
楽しいサバイバルゲームだぞ?俺が保証する。
』
って、最初に説明してた彼が、横から、だいぶ軽い調子で言ってたけど。
『ここは待合室みたいなものだ。』
って、ケプロさんは。
『そして、向こうは戦場だ。』
それは、窓の外を言っているようだ。
ふむ。
・・待合室にしては広くて、すごく洗練されているから、VIPルームとかそんな感じの居心地の良さだと思ってたけど。
『安心しろよ、無理強いはしないぞ?
見学者なんかもいるんだ。
強制参加なんかやったら後で、こっちが偉い人に文句を言われちまうからな、』
って対して、軽い彼がそう言ってるけど。
ふむ・・・。
『だが、これだけは言っておく。
お前たちが目指すのは、訓練を完ぺきにこなす事じゃあない。
現場に出る、耐えきる実動隊としての力だ。
技術、特能力、運、何でもいい。
何が起きても対応できる能力が、何を差し置いても優先される。
俺たちは死ぬことはできない。
自分と、救助者と、関わる命を全て生かして戻る事が本懐だ。
』
そう、低い声で、彼は静かに大切な事を伝えてくる。
『本番ならな。』
って。
『
ここに来たからには、何度でも死ねる。
仕留められる感覚をしっかり覚えろよ。
』
・・彼の言っている事は。
「・・・・」
そんなに間違いはないと思う。
「・・そのために訓練をしてきたんだろう?日ごろの訓練の成果を見せてみろ」
「ここでびびるのは無しだぜ?へっへっへ、」
「誰がびびってるって?ぁあ?」
周りの声が、熱が徐々に上がってきているみたいだ。
ミリアは、その少し戸惑いもまだある、周りにある異様な圧も感じながら・・また少し窓から離れる。
コーチからそのステージへ、冷静な目を向けて、周りの施設の様子や、天井なども見回していた。
『
今から希望した者たち、あるいは選ばれた者たちで、実戦に即した模擬戦をやる。
最初に出られる希望者を今から募る。
』
「いきなり模擬戦かよ・・っ?」
「手を上げないのか?」
「お前が行けよ」
『
ルールは、殲滅戦だ。
プレイヤーは混合、その場でチームを入れ替える、人数は先ず10人ってところか。
今日はたっぷりと時間がある。
』
「10 VS 10?多いな・・?・・・」
「あの広さだぜ?ぜんぜんだろ、」
「機動系の事も考えてるんじゃないか?」
「さっき誰がやるって言った?やらねぇのか?」
『・・先ずはやってみて実感する方が早いだろう。
または、こちらが予定した者達がやる模擬戦を見てからでもいい。
希望者がいれば、優先して組み込もう・・・―――――、』
――――――周りが少しざわめいたのに、ミリアは気が付いて、辺りを見回していた。
その理由はすぐにわかった、ステージ下の、そこに立ってる人が、最初に手を高く上げていたからだ。
『・・判断が早いな。
希望者だな?
所属と名前を言え、』
そう訊ね終える前にも、挙手をした彼の周りの、おそらく同年代の青年たちも、3人、全員で4人がまばらに、彼ら自身のタイミングで手を上げ始めていた。
「・・ディー ・・ ハロゥ = ギッパ。『Class - C』、だ」
「俺も同じく、ミリュモ = ル = サラマン、で~す、」
「オルビ = マイヤーです、同じく、『C』」
「ガリナ・・ エルポ、同じ・・・、」
「俺らもやりたいんすけど~、いけるんすかー?」
『ほう。4人だな。希望者は歓迎だ。』
ステージ上では向こうのスタッフへ目配せをして、携帯用のデバイスでチェックや手続きを始めているようだ。
――――――なんだか、言動とか雰囲気に、それぞれ癖がちょっとありそうな彼らだけど。
周囲の中でミリアも、彼らを横目に眺めている分には、別に気にする必要もない・・・。
「Cのやつらか・・」
そう・・・。
「おいおい、大丈夫かぁ?そんな細くてよぉ、」
なんだか、野次っぽい何かも出てるみたいなのが耳に入ってくるけれど。
彼らは聞こえているのか、いないのか、気にするそぶりも見せずに振り返らない。
ニヤニヤ笑っている横顔も見える。
『他には、いないか?』
・・そんな感じから、その声で、ミリアはふと思い出して。
手に持ってた食べかけのサンドイッチ、残りあともうちょっとのそれを齧った。
まだ柔らかくて美味しいタマゴサンドイッチをモグモグ、咀嚼し始めて。
顔を上げ、動きがありそうな周りの様子にその目を移す――――――
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
=KBOC= 『セハザ《no1》-(1)-』L.ver
AP
キャラ文芸
1話を短いバージョンもあります。
読みやすい方をご覧になってください。内容は同じです。
******あらすじ********
のんびり砂漠をパトロールしてたミリアのチーム。
そんな警備部の仕事は重要だけれど、いつもの通りなら退屈で、お菓子を摘まんだりうたた寝するような時間のはずだった。
通信連絡があったのだ。
急な救援要請、説明は要領を得ないものでも仕事であるから仕方ない。
軽装甲車を動かし目的地へたどり着くと、そこにあった辺境の村はとても牧歌的だった。
『ブルーレイク』は、リリー・スピアーズ領の補外区に属する、NO.11の村である。
チームメンバーのミリアとケイジ、リースとガイの4人は戸惑う気持ちを少し持ちながらも。
もしかすれば・・、なかなかない経験ができるかもしれない、とちょっと期待したのは村の人たちには秘密だった。
****************
以下は、説明事項です。
・《no1》のお話について
<----------------:『KBOC』は『MGLD』へお話が続きます ->
*****ちなみに*****
・この作品は「カクヨム」、「小説家になろう」にも掲載しています。
=KBOC= 『セハザ《no1》-(1)- 』s
AP
キャラ文芸
L.verと内容は同じです。読みやすい方をお読みください。
******あらすじ********
のんびり砂漠をパトロールしてたミリアのチーム。
そんな警備部の仕事は重要だけれど、いつもの通りなら退屈で、お菓子を摘まんだりうたた寝するような時間のはずだった。
通信連絡があったのだ。
急な救援要請、説明は要領を得ないもので。
仕事であるから仕方ない。
軽装甲車を動かし目的地へたどり着くと、そこにあった辺境の村はとても牧歌的だった。
『ブルーレイク』は、リリー・スピアーズ領の補外区に属する、NO.11の村である。
チームメンバーのミリアとケイジ、リースとガイの4人は戸惑う気持ちを少し持ちながらも。
もしかすれば・・、なかなかない経験ができるかもしれない、とちょっと期待したのは村の人たちには秘密だった。
あ、もちろん、お仕事は忘れてないです。
****************
以下は、説明事項です。
・《no1》『KBOC』の続きは→『《MGLD》 『セハザ《no1》-(2)-』』です ->
*****ナンバリング説明*****
・セハザno1の『no1』の部分は。主人公の違いです。(たぶん。
セハザシリーズに世界観の繋がりはありますが、話は独立しています。
前後の経過はありますが、基本的にはどのナンバーから読んでも大丈夫です。
*****ちなみに*****
・この作品は「カクヨム」、「小説家になろう」にも掲載しています。
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
【R18】もう一度セックスに溺れて
ちゅー
恋愛
--------------------------------------
「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」
過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。
--------------------------------------
結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。
【R-18】クリしつけ
蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる