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第2章 - Sec 2
Sec 2 - 第14話
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ロアジュとフィジーが振り返ったそのとき、2人だけじゃなく、周りの誰かも顔を同じ方へ向けていた――――――
気が付く複数の人たちが目に留めるのは、そこで相対し揉めている男女の様子だった。
――――――オレは話してただけなんですけどー?」
「はい、はい。ウソ。ずっと私がクロと一緒にいたのは見えてなかったのー?」
軽い調子の青年が、軽い態度でからかうように挑発しているようで。
それに対して邪険にあしらおうとするその娘の、言い合う声が大きくなってきている。
少し険悪な、そしてお互いが強くなって周りの目をまた少し集めるのだが。
「あのさー、邪魔すんなよ、俺は『こいつ』にしか用が無いっての、」
「私がいたらダメなの?なんで?」
その彼女の返答に彼はまたちょっとイラっとしたらしい。
眉をピクっと動かした彼を、邪魔するように立っている彼女も表情から明らかにイラついていて、その胸の前で両腕を組み直す。
そんな揉める2人の傍で、間近でその様子を見ていたもう1人、クロがいる。
彼女は、クロは口を開かずに・・冷静な目づかいで2人の様子や顔の変化を交互に観察し、注視していたぐらいだが・・・。
青年が軽い苛立ちを隠すようにしていた、その状況も少し変わってきているのを見かねて、クロは友達へとうとう口を開いた。
「アーチャ、話だけなら・・」
「クロ、こいついい加減にしないと、」
「『コイツ』もそう言ってんじゃんか。こっちは何にもしてねぇのになー?つっかかってくんなよなー、『1研』はこえぇーなぁー・・!」
「ぬぐぅ・・・っ」
2人ともに、少なくとも歯を噛んだアーチャが冷静じゃないし、相手の青年は笑みを見せて挑発している。
そんな剣呑な2人をクロはまた交互に、静かに目を配るが、冷静に見えてもクロにもやれることに迷いが少し見えていた。
彼とアーチャ、そしてクロも同じくらいの年の頃だ。
クロの背丈は彼ら2人と同じくらいか、もうちょっとだけ高く見える。
短くしてある髪に、容姿などからもどことなく中性的な雰囲気もある。
3人とも普段から運動トレーニングを積んでいて、それなりなその体格に似合う『EAU』支給の運動着を着ている。
そのトレーニングウェアは白を基調としたスポーティーなデザインに、明るい青色や黄色などがポイントに入っていて、全体的には3人共に統一感を感じさせるものだ。
ただそれが、周りの人たちとは異なるデザインのトレーニングウェアだったり、他にも私服にラフな格好の人たちもいる中で、クロたちの統一感のあるその服装は、周りから少し浮いているのかもしれない。
「なんでそんなムキになってんの?」
「・・あんたこそね。」
それでも、2人が噛み合わない言葉をぶつけて張り合うのは、彼が明らかに嫌味の響きを含ませているから、そして友達のアーチャはクロを気にかけてくれるからだ。
「おい、なにやってんだ、ミモ、」
別の青年の声がかけられた。
気が付けば向こうに立つ・・・3人、こっちを見つけたらしい。
アーチャは彼らを見て、さらに口を閉じてむいっと嫌そうな顔をしたが、クロもちょっと顔を引き締めたのも無意識だ。
「は?・・あぁ、なんでもないよ、」
顔も知っているその3人の青年は、この軽薄そうに絡んでくるウザい彼、ミモの仲間だ。
「君らも来てたのか・・、」
その仲間の1人、オルビ、縁の細い眼鏡なのか、いつもアイウェアをかけている彼は。
感情も特に見せない涼しい目線を、こちらに送るなり、ジロジロと観察してくる。
クロはあまり話したことは無いが、見るからに固そうな性格をしていそうな態度だ。
「・・他の奴らは来てないのか。ああ、そうか、戦闘向きじゃないもんな?」
オルビがこちらに向かって話す言葉も、どことなく引っかかる言い様に、またちょっとアーチャの眉が少し動いていたが。
「だろ?だろ?」
・・少し嬉しそうにミモがニヤニヤっと笑っていたが、本当に何を考えてるのか、それを見てアーチャはまた眉が動くのだった。
「どうでもいい・・」
搾りだしたような声だ、かろうじて聞こえた、もう1人、ルガリはこちらを一瞥しただけだ。
彼らの中では一番小さい方だが、猫背だからかもしれない、ルガリはこっちにあまり興味がなさそうだ。
いつもそんな感じで、あと、目の下にクマがある。
理由はゲームの寝不足らしい、噂だけど。
「・・・・」
そして、もう1人、彼らの中でも少し異質な雰囲気を、クロは彼を見る度に感じる。
切れ長の黒い目、黒髪のディー。
彼、ディーの横顔からは鋭い目が動き、じろりとこっちを捉える。
今も、その射すくめるような黒いディーの視線が、じっとクロを見つめて来ていた―――――――
「おいおい、揉めてんのか?」
・・って、急に横から声を掛けられた。
全員が顔を向けたが、知らない男だ・・・ミモやクロたちに歩いて近づいてきていたようで、3人よりも大きく体格が良い、それに見た目からしてけっこう年上のようで。
「・・あ?誰だ?」
ミモが短く、クロたちに聞いたのかもしれないが。
「俺?名前なんか聞いてどうすんだ?」
彼がそう答えた。
「はぁ?そんなん聞いてねぇっての、」
ミモの口が悪いが。
そしてクロは気が付いた、自分たちが周囲から数人の目を引いていたことにも。
「うわ、ひどい言いようだな。」
少し大げさにも見える反応が、茶化すようなそいつの動きが、なんだかミモをイラっとさせたようだ。
「ほぉぅ・・、絡んでたのか、・・女と男・・・」
彼は少しこっちをじっと見て、しばし考慮したようだ。
「・・痴話ゲンカか?って感じか?だろ?当たりか?」
って、そいつがおどけたようにヘラヘラすれば、周りの人たちも低い声で笑ったようだった。
「他でやれよ、へっへ、」
「いや、もっとやれ、」
「うらやましいな、おい」
「お前ら『C』か?見ない顔だもんな?」
って・・、急にそう言われて。
ミモもその男へ、それにアーチャも、クロも、微かに眉を一瞬だけ動かした―――――――
「ほぉ、『C』か・・・」
「マジかよ、初めて見るかもなぁ、」
周りから聞こえてくる声、さっきまでとは少し違う反応が増えた気がする、ジロジロと囲む好奇心か他の意味の視線に変わった気がする。
「っち・・っ」
小さく舌打ちをしたミモが、横顔の表情が変わったのにもクロも気が付いたが。
「俺らも新人には負けられないからよ、」
それは低い声・・、だったのか、クロが振り返ると、声を掛けてきたその男が見せていた、重く強そうにニヤリと笑った・・・本音、なのか・・・。
「・・・」
―――――クロは、わずかに口を閉じて、彼らをまた少し正面から見据えた。
「お?ちょぉっと、待てよ、」
って、彼が急に大きな口を開けたのは、話していたミモが、ふいっと歩き出していたからだ、ここから離れて行くつもりみたいだ。
「なんだあいつ?」
「さあ?知るか」
ミモたちは言葉を交わして・・・。
「・・・ちょ・・ちょっと何してるのっ・・?」
ってまた、誰かが来た、慌てて現れた私服の女性は。
「あ、うわ、カキルトさん・・」
アーチャがちょっと、ばつの悪い顔をしたけれど、それは揉め事を起こしたから、彼女に何か言われると思ったからだ。
「あ、貴方たちは・・?」
でも、事情があまり分かっていないカキルトさんは、強面の彼らにビクビク、オロオロしてたけれど。
「おっと、俺は話しかけてみただけだ。交流だよ、交流。・・あんたはリプクマの人か?」
カキルトさんの、オフィスシャツとスウェットパンツ姿の格好を、あと首から下げていたIDカードホルダーにも、彼は目を留めてくれたようだ。
「あ、はい。えぇと、関係者で・・、この子たちの、今日は、責任者・・などでして・・」
しどろもどろな彼女も、それなりになにかを察したようだ。
「変に注目させちまったなぁ?」
彼がそう、頭を掻きながら、少し口端を上げて見せてた。
それは強面な笑顔だった、けどどこか少し愛嬌が、ちょっと見えた気がした、クロは。
「大丈夫ですか?」
と、数人、遅れて来た2人ほどの、体格の良い職員なのか、カキルトさんの後ろを追ってきたようだ。
「あ、だ、大丈夫です。」
「何がありました?」
「大したことは無いみたいで・・・」
「俺たちは揉めてないぜ?―――――
―――――おい、ミモ」
静かな低い声がかかる、・・そこでずっと見ていた彼らの、ディーの声だ。
「行くぞ、」
「んぁ、おう」
「一体、何をやったんだ?」
「なんもしてない、ってのに」
気が付いたクロたちが、とぼけるような態度の彼、ミモが・・目があって、ニヤっと笑うのを見た。
こっちへわざわざ近づいてきたミモの。
「もう絡んでくんなよなぁー?」
「だれが・・、」
覗き込むようなミモの、こっそりと言ってくる捨て台詞に、アーチャがまたイラっとしていたが。
ミモが、仲間たちを軽い足取りで追っていく。
「わーりぃ、わりぃ、なに?俺がいなくて探してたの?」
「うっぜぇ・・・」
明るい声で、さっきとはまるで態度が違うミモを、クロたちは少し怪訝そうに見ていたが。
仲間のその3人はこちらを見ていたまま、踵を返し、肩越しに一瞥するディーの横顔の目つきは鋭くクロに触れた―――――――
「はっ、生意気な奴らだな」
「・・・」
その声に気が付いたクロは、にやっと笑った年上の彼に振り返った・・。
・・・知らないこの人はたぶん、自分たちの間に入ってくれたらしい。
ただ・・、彼がこちらに気が付いて、こっちを一瞥して目が合った。
クロもアーチャも、ちょっと瞬くように口元をきゅっと結んでた・・のは、自然とだ。
それでも、何かを言おうとする前に彼は・・踵を返して、何も言わずに仲間の彼らとも離れて行った。
「・・・」
・・それを見ていたカキルトさんが、少し置いてけぼりな、ようやく一息吐いたのだった。
「はあぁ・・なんだったの。・・大丈夫だった?でも、いい人たちなんだろうけど、やっぱり・・・はぁ、・・何かあったらウェチェスさんたちにすごい言われるわ・・・ふう。合同でやるっていつも勝手が違ってて・・・で、何かあったの?」
まだ少しパニックの様だけど。
「こっちは何も、です。あいつら、ミモが勝手にきて、」
「あーまったく・・。あとで報告するから。あー、はいはい、大丈夫。なんでもなかったみたい。」
って、カキルトさんは耳に着けた機械で通信もしているようだ。
そんな彼女を横に、アーチャとクロは目線が自然と合って。
・・・・ちょっと何とも言えない顔で固まっているまま、お互いが瞬いたので。
・・・ぷっ、と微かに、どちらからか笑っていた。
「『交流』って言ってた。ええ、・・・向こうの室長たちには相応の罰を受けるよう、できれば・・お願いします・・・うふ、ふふ、」
って、カキルトさんがなにかを思い出したのか、怒ってるみたいだけど、笑っているのかもしれない。
「・・・、」
アーチャやクロが黙っているまま、瞬いたら、その目にカキルトさんも気が付いたようだ。
「あっ、と。失礼、おほほほ、」
取り繕っているみたいだ。
「じゃあ、私は行くからね。ちゃんと見守ってるから。なにかあったらまたすぐ来るからね。」
彼女はそう言ってくれた。
「この貴重な時間を楽しんで、」
って、そうも言ってくれた。
「はい。」
「ありがと、です。」
「・・んー、やっぱり、そろそろ準備が終わるから、もう少しでここで待ちましょうかね」
やっぱり、いっしょに待っててくれるようだ。
「俺らは戻りますが、大丈夫ですか?1人でも残して・・・」
「あ、大丈夫です~」
護衛らしい人と彼らが話している間も、静かにしてはいるけれど、・・・クロが・・隣のアーチャの顔を少し横目に盗み見れば、まだ眉を少し寄せてぶすっとしている顔が、複雑なものが、ちょっと残っているようだった。
「・・アーチャ?」
クロが、静かに名前を呼んだのに気が付き、アーチャは振り返った。
その目と目が合うアーチャは別に、いつもの彼女だ。
「・・まあ、・・あいつら『機動系』だからって、調子に乗り過ぎてんだよ。・・ミニーたちが来なくて正解だったわ、」
って、清々しようとしてるアーチャが、まだ溜まっていたような不満を漏らしていても。
「雰囲気わる・・っ・・」
少し、舌打ちみたいな言い方だったけども。
ちょっと頬を膨らませる様な彼女は、ちょっとわざとらしかった。
だから、クロも口元を少し緩めていた――――――――
―――――でも、・・楽しみたい」
って、クロが、前方のステージを見ていたのにアーチャも気が付いて。
「はぁ・・っ、だよね、」
ため息のように、力を抜いて、そして、ぐぐっと胸を伸ばし始める。
固まってた肩回りもぐぐっと鳴らし始めた――――――――
―――――そんなちょっとした小さな騒ぎを。
遠目から見ていた中に、その青年たちの姿がある。
彼らは少し退屈になってきた時間に、少しだけあれを眺めていただけだ―――――――
「―――――あいつら元気有り余ってんのかな、」
「知り合いだって?マシュテッド、」
「いや、あいつらとは話したことはないよ。トレーニングで見かけるぐらいかな」
―――――飄々と話す彼らも、顔を知らない『EAU』のメンバーたちには興味があるようだった。
気が付く複数の人たちが目に留めるのは、そこで相対し揉めている男女の様子だった。
――――――オレは話してただけなんですけどー?」
「はい、はい。ウソ。ずっと私がクロと一緒にいたのは見えてなかったのー?」
軽い調子の青年が、軽い態度でからかうように挑発しているようで。
それに対して邪険にあしらおうとするその娘の、言い合う声が大きくなってきている。
少し険悪な、そしてお互いが強くなって周りの目をまた少し集めるのだが。
「あのさー、邪魔すんなよ、俺は『こいつ』にしか用が無いっての、」
「私がいたらダメなの?なんで?」
その彼女の返答に彼はまたちょっとイラっとしたらしい。
眉をピクっと動かした彼を、邪魔するように立っている彼女も表情から明らかにイラついていて、その胸の前で両腕を組み直す。
そんな揉める2人の傍で、間近でその様子を見ていたもう1人、クロがいる。
彼女は、クロは口を開かずに・・冷静な目づかいで2人の様子や顔の変化を交互に観察し、注視していたぐらいだが・・・。
青年が軽い苛立ちを隠すようにしていた、その状況も少し変わってきているのを見かねて、クロは友達へとうとう口を開いた。
「アーチャ、話だけなら・・」
「クロ、こいついい加減にしないと、」
「『コイツ』もそう言ってんじゃんか。こっちは何にもしてねぇのになー?つっかかってくんなよなー、『1研』はこえぇーなぁー・・!」
「ぬぐぅ・・・っ」
2人ともに、少なくとも歯を噛んだアーチャが冷静じゃないし、相手の青年は笑みを見せて挑発している。
そんな剣呑な2人をクロはまた交互に、静かに目を配るが、冷静に見えてもクロにもやれることに迷いが少し見えていた。
彼とアーチャ、そしてクロも同じくらいの年の頃だ。
クロの背丈は彼ら2人と同じくらいか、もうちょっとだけ高く見える。
短くしてある髪に、容姿などからもどことなく中性的な雰囲気もある。
3人とも普段から運動トレーニングを積んでいて、それなりなその体格に似合う『EAU』支給の運動着を着ている。
そのトレーニングウェアは白を基調としたスポーティーなデザインに、明るい青色や黄色などがポイントに入っていて、全体的には3人共に統一感を感じさせるものだ。
ただそれが、周りの人たちとは異なるデザインのトレーニングウェアだったり、他にも私服にラフな格好の人たちもいる中で、クロたちの統一感のあるその服装は、周りから少し浮いているのかもしれない。
「なんでそんなムキになってんの?」
「・・あんたこそね。」
それでも、2人が噛み合わない言葉をぶつけて張り合うのは、彼が明らかに嫌味の響きを含ませているから、そして友達のアーチャはクロを気にかけてくれるからだ。
「おい、なにやってんだ、ミモ、」
別の青年の声がかけられた。
気が付けば向こうに立つ・・・3人、こっちを見つけたらしい。
アーチャは彼らを見て、さらに口を閉じてむいっと嫌そうな顔をしたが、クロもちょっと顔を引き締めたのも無意識だ。
「は?・・あぁ、なんでもないよ、」
顔も知っているその3人の青年は、この軽薄そうに絡んでくるウザい彼、ミモの仲間だ。
「君らも来てたのか・・、」
その仲間の1人、オルビ、縁の細い眼鏡なのか、いつもアイウェアをかけている彼は。
感情も特に見せない涼しい目線を、こちらに送るなり、ジロジロと観察してくる。
クロはあまり話したことは無いが、見るからに固そうな性格をしていそうな態度だ。
「・・他の奴らは来てないのか。ああ、そうか、戦闘向きじゃないもんな?」
オルビがこちらに向かって話す言葉も、どことなく引っかかる言い様に、またちょっとアーチャの眉が少し動いていたが。
「だろ?だろ?」
・・少し嬉しそうにミモがニヤニヤっと笑っていたが、本当に何を考えてるのか、それを見てアーチャはまた眉が動くのだった。
「どうでもいい・・」
搾りだしたような声だ、かろうじて聞こえた、もう1人、ルガリはこちらを一瞥しただけだ。
彼らの中では一番小さい方だが、猫背だからかもしれない、ルガリはこっちにあまり興味がなさそうだ。
いつもそんな感じで、あと、目の下にクマがある。
理由はゲームの寝不足らしい、噂だけど。
「・・・・」
そして、もう1人、彼らの中でも少し異質な雰囲気を、クロは彼を見る度に感じる。
切れ長の黒い目、黒髪のディー。
彼、ディーの横顔からは鋭い目が動き、じろりとこっちを捉える。
今も、その射すくめるような黒いディーの視線が、じっとクロを見つめて来ていた―――――――
「おいおい、揉めてんのか?」
・・って、急に横から声を掛けられた。
全員が顔を向けたが、知らない男だ・・・ミモやクロたちに歩いて近づいてきていたようで、3人よりも大きく体格が良い、それに見た目からしてけっこう年上のようで。
「・・あ?誰だ?」
ミモが短く、クロたちに聞いたのかもしれないが。
「俺?名前なんか聞いてどうすんだ?」
彼がそう答えた。
「はぁ?そんなん聞いてねぇっての、」
ミモの口が悪いが。
そしてクロは気が付いた、自分たちが周囲から数人の目を引いていたことにも。
「うわ、ひどい言いようだな。」
少し大げさにも見える反応が、茶化すようなそいつの動きが、なんだかミモをイラっとさせたようだ。
「ほぉぅ・・、絡んでたのか、・・女と男・・・」
彼は少しこっちをじっと見て、しばし考慮したようだ。
「・・痴話ゲンカか?って感じか?だろ?当たりか?」
って、そいつがおどけたようにヘラヘラすれば、周りの人たちも低い声で笑ったようだった。
「他でやれよ、へっへ、」
「いや、もっとやれ、」
「うらやましいな、おい」
「お前ら『C』か?見ない顔だもんな?」
って・・、急にそう言われて。
ミモもその男へ、それにアーチャも、クロも、微かに眉を一瞬だけ動かした―――――――
「ほぉ、『C』か・・・」
「マジかよ、初めて見るかもなぁ、」
周りから聞こえてくる声、さっきまでとは少し違う反応が増えた気がする、ジロジロと囲む好奇心か他の意味の視線に変わった気がする。
「っち・・っ」
小さく舌打ちをしたミモが、横顔の表情が変わったのにもクロも気が付いたが。
「俺らも新人には負けられないからよ、」
それは低い声・・、だったのか、クロが振り返ると、声を掛けてきたその男が見せていた、重く強そうにニヤリと笑った・・・本音、なのか・・・。
「・・・」
―――――クロは、わずかに口を閉じて、彼らをまた少し正面から見据えた。
「お?ちょぉっと、待てよ、」
って、彼が急に大きな口を開けたのは、話していたミモが、ふいっと歩き出していたからだ、ここから離れて行くつもりみたいだ。
「なんだあいつ?」
「さあ?知るか」
ミモたちは言葉を交わして・・・。
「・・・ちょ・・ちょっと何してるのっ・・?」
ってまた、誰かが来た、慌てて現れた私服の女性は。
「あ、うわ、カキルトさん・・」
アーチャがちょっと、ばつの悪い顔をしたけれど、それは揉め事を起こしたから、彼女に何か言われると思ったからだ。
「あ、貴方たちは・・?」
でも、事情があまり分かっていないカキルトさんは、強面の彼らにビクビク、オロオロしてたけれど。
「おっと、俺は話しかけてみただけだ。交流だよ、交流。・・あんたはリプクマの人か?」
カキルトさんの、オフィスシャツとスウェットパンツ姿の格好を、あと首から下げていたIDカードホルダーにも、彼は目を留めてくれたようだ。
「あ、はい。えぇと、関係者で・・、この子たちの、今日は、責任者・・などでして・・」
しどろもどろな彼女も、それなりになにかを察したようだ。
「変に注目させちまったなぁ?」
彼がそう、頭を掻きながら、少し口端を上げて見せてた。
それは強面な笑顔だった、けどどこか少し愛嬌が、ちょっと見えた気がした、クロは。
「大丈夫ですか?」
と、数人、遅れて来た2人ほどの、体格の良い職員なのか、カキルトさんの後ろを追ってきたようだ。
「あ、だ、大丈夫です。」
「何がありました?」
「大したことは無いみたいで・・・」
「俺たちは揉めてないぜ?―――――
―――――おい、ミモ」
静かな低い声がかかる、・・そこでずっと見ていた彼らの、ディーの声だ。
「行くぞ、」
「んぁ、おう」
「一体、何をやったんだ?」
「なんもしてない、ってのに」
気が付いたクロたちが、とぼけるような態度の彼、ミモが・・目があって、ニヤっと笑うのを見た。
こっちへわざわざ近づいてきたミモの。
「もう絡んでくんなよなぁー?」
「だれが・・、」
覗き込むようなミモの、こっそりと言ってくる捨て台詞に、アーチャがまたイラっとしていたが。
ミモが、仲間たちを軽い足取りで追っていく。
「わーりぃ、わりぃ、なに?俺がいなくて探してたの?」
「うっぜぇ・・・」
明るい声で、さっきとはまるで態度が違うミモを、クロたちは少し怪訝そうに見ていたが。
仲間のその3人はこちらを見ていたまま、踵を返し、肩越しに一瞥するディーの横顔の目つきは鋭くクロに触れた―――――――
「はっ、生意気な奴らだな」
「・・・」
その声に気が付いたクロは、にやっと笑った年上の彼に振り返った・・。
・・・知らないこの人はたぶん、自分たちの間に入ってくれたらしい。
ただ・・、彼がこちらに気が付いて、こっちを一瞥して目が合った。
クロもアーチャも、ちょっと瞬くように口元をきゅっと結んでた・・のは、自然とだ。
それでも、何かを言おうとする前に彼は・・踵を返して、何も言わずに仲間の彼らとも離れて行った。
「・・・」
・・それを見ていたカキルトさんが、少し置いてけぼりな、ようやく一息吐いたのだった。
「はあぁ・・なんだったの。・・大丈夫だった?でも、いい人たちなんだろうけど、やっぱり・・・はぁ、・・何かあったらウェチェスさんたちにすごい言われるわ・・・ふう。合同でやるっていつも勝手が違ってて・・・で、何かあったの?」
まだ少しパニックの様だけど。
「こっちは何も、です。あいつら、ミモが勝手にきて、」
「あーまったく・・。あとで報告するから。あー、はいはい、大丈夫。なんでもなかったみたい。」
って、カキルトさんは耳に着けた機械で通信もしているようだ。
そんな彼女を横に、アーチャとクロは目線が自然と合って。
・・・・ちょっと何とも言えない顔で固まっているまま、お互いが瞬いたので。
・・・ぷっ、と微かに、どちらからか笑っていた。
「『交流』って言ってた。ええ、・・・向こうの室長たちには相応の罰を受けるよう、できれば・・お願いします・・・うふ、ふふ、」
って、カキルトさんがなにかを思い出したのか、怒ってるみたいだけど、笑っているのかもしれない。
「・・・、」
アーチャやクロが黙っているまま、瞬いたら、その目にカキルトさんも気が付いたようだ。
「あっ、と。失礼、おほほほ、」
取り繕っているみたいだ。
「じゃあ、私は行くからね。ちゃんと見守ってるから。なにかあったらまたすぐ来るからね。」
彼女はそう言ってくれた。
「この貴重な時間を楽しんで、」
って、そうも言ってくれた。
「はい。」
「ありがと、です。」
「・・んー、やっぱり、そろそろ準備が終わるから、もう少しでここで待ちましょうかね」
やっぱり、いっしょに待っててくれるようだ。
「俺らは戻りますが、大丈夫ですか?1人でも残して・・・」
「あ、大丈夫です~」
護衛らしい人と彼らが話している間も、静かにしてはいるけれど、・・・クロが・・隣のアーチャの顔を少し横目に盗み見れば、まだ眉を少し寄せてぶすっとしている顔が、複雑なものが、ちょっと残っているようだった。
「・・アーチャ?」
クロが、静かに名前を呼んだのに気が付き、アーチャは振り返った。
その目と目が合うアーチャは別に、いつもの彼女だ。
「・・まあ、・・あいつら『機動系』だからって、調子に乗り過ぎてんだよ。・・ミニーたちが来なくて正解だったわ、」
って、清々しようとしてるアーチャが、まだ溜まっていたような不満を漏らしていても。
「雰囲気わる・・っ・・」
少し、舌打ちみたいな言い方だったけども。
ちょっと頬を膨らませる様な彼女は、ちょっとわざとらしかった。
だから、クロも口元を少し緩めていた――――――――
―――――でも、・・楽しみたい」
って、クロが、前方のステージを見ていたのにアーチャも気が付いて。
「はぁ・・っ、だよね、」
ため息のように、力を抜いて、そして、ぐぐっと胸を伸ばし始める。
固まってた肩回りもぐぐっと鳴らし始めた――――――――
―――――そんなちょっとした小さな騒ぎを。
遠目から見ていた中に、その青年たちの姿がある。
彼らは少し退屈になってきた時間に、少しだけあれを眺めていただけだ―――――――
「―――――あいつら元気有り余ってんのかな、」
「知り合いだって?マシュテッド、」
「いや、あいつらとは話したことはないよ。トレーニングで見かけるぐらいかな」
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