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第2章 - Sec 2
Sec 2 - 第11話
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ミリアが突き出している右手はその子の顔の前に、正面から対峙する格好になっていたミリアの手指の隙間からは、その子の元気な目が、爛々として落ち着きがないくらいに、好奇心に動くのは見えていた――――――――
「―――――なにしてんだ?」
「困ってんじゃないか?もしくは挨拶か、」
「なんだそれ、笑える」
・・後ろで、好き勝手言っているケイジやガイや、ガーニィの声が耳に入ってきてるけど。
ミリアはほんのちょっとだけ、しかめっ面になったくらいで――――――――ぬぁははははっ!』
・・・!って・・、甲高い声で急に笑ったこの子に、ビクく・・っ・・と、またも、ミリアは目を瞑らされた・・・。――――――この子に悪気が無いのはわかってるけど、これで何度目だろうか・・・。
・・どうしてこの子が笑ったのかは、ケイジが横腹を右手で押さえているのを見つけたからか、私の後ろにいるケイジを覗《のぞ》いたりしてる。
「・・ふんぬぅー、・・・。」
それからまた急に、こっちをパっと振り返って、じっ・・・と私を見てくる。
私を、難しく顔を顰めて見て来ていて、何かを考えてるみたいだ・・・。
でも、今なら話を聞いてくれそうな気がする・・・なんとなくだけど、そう思った。
「えっと、」
私は、口を開いて。
と思ったけど、何を話せばいいんだろう?・・えーと・・、落ち着いて、話すために次につなげる言葉・・・?・・とは。
そもそも、今なら、っていうか・・・私たちのこの状況も別に、振出しに戻っただけなんじゃないか、って思うけれど、冷静になってみれば―――――――いや、この子が話を聞こうとしてくれてるだけ、進展してるのかもしれない・・・この子が私の名前を呼んだあの時からは―――――――それが、なんか遠い昔の事のようで。
・・いや、この子とは、ついさっき会ったばっかりなんだけれど。
―――――なんにも思いつかない。
ケイジがこの子とちょっと話してた、・・会話になってたような、なってかったような?・・えっと、たまに、わからない言葉を発してたけど――――――
―――――って、一瞬の間で、ミリアはちょっと、言葉に詰まってたけど。
左手の指の間から、この子がじっと見つめてきてくれているのは、わかってる。
その子の目とも何度か合っている、活発《かっぱつ》で、光の具合で煌めく様なときもあるその目は、こっちの言葉を待っているんだ、たぶん。
だから、えっと。
そう。
落ち着いて話そう。
「あのね?」
この子には、はっきり言った方が良いと思う。
遠慮したらその分、話が変に遠回りしてしまうから、きっと。
「私たちに用があるなら・・」
「・・ぬっ?」
――――――って、丁寧を心掛けていたミリアの、話してる途中で。
その子が急に何かに気が付いた、その視線がミリアを飛び越えて、後ろの方、・・ケイジを見てるような・・・。
「・・ん?」
気が付いたケイジもそれを見つけて、というか、ケイジは左手に黒い丸いなにかを持っていて、食べているようだ、いつの間に。
「それどコにあったぁ!?」
って。
その子がまっすぐ指差《ゆびさ》して、ケイジに向かって行ってた・・・1番近くのミリアが急な、その元気過ぎる声に、またも耳を劈《つんざ》かれていったけど。
目を瞑りかけて、ビク・・っ!と・・・させられたミリアは・・、それから両耳を両手で押さえてむにむにマッサージしつつ、ちょっと・・とうとう、刹那にも『イラっと』した気持ちが芽生えたのは、自分でも何となくわかった・・・。
ので、耳のマッサージついでに、ちょっとだけ眉間の間の顰めも指の関節でほぐしておくけど・・・えっと、その間にも、その子がすれ違《ちが》って、ケイジの方へまた自《みずか》ら突っかかりに行ってるので。
その後ろを追って振り返るミリアの口の隙間からも、両耳をさすりながら・・「ぇえ・・?・・・」――――と、零れたのは自然な気持ちだった。
「ヤらねーぞ。」
「イらなイ!」
ケイジとその子がまた、正面で語気が強い。
まあ、食べかけみたいだし・・。
「ドコにあったんだヨっ、」
って、怒って聞かれてケイジは、ちょっと考えたように・・・。
「教えねぇ、」
そっけなくしてた。
「・・ナぁーっー!」
その子が、もっと怒ったみたいだった。
・・・・はぁ・・。ケイジがそれを見て、・・ニヤリとしたようだった、悪い顔だ。
・・・・はぁ・・。
なんか、もうどうでもよくなってきた。
事情を聞くとか、必要ないんじゃないかって。
「ぬっ?」
ぴくっと、その子は。
「・・うはははははぁっ・・!」
って、ガイの方、テーブルの方に素早い身のこなしで跳びかかるように。
「あ、おい、俺らんだぞっ・・!」
「まあいいじゃんか、」
ガイもケイジを窘めているけど。
テーブルの上のサンドイッチの包みを頭の上へ掲げるその子は。
「おんなじのが無い!」
・・あぁ。
「・・っくっはっはっはっは・・・!」
今度はケイジが勝ち誇っている、まるで魔王のような。
やっぱり悪い顔だ。
・・まあ、からかって遊んでるだけみたいだし。
というか、もう普通に喋ってるな、この2人。
「ドコにあっタぁ・・!・・?」
「おしえねー」
「ぬぁんだヨぉおーっ!オマえぇーっ!」
・・元々、この子は元気な声らしくて。
ケイジはなんか、普通に話しているし、怒らせてるけど。
いや、いじめたがりなのかな・・・どっちかっていうと、ケイジは。
小さい子と遊ぶケイジは――――――あのブルーレイクのときの、あの砂漠の村の光景も少しだけ思い出した。
子供たちに、まとわりつかれてたっけ。
・・・。
ちゃんと話してる、2人は。
なんとなく。
・・ふむぅ。
いろいろあったけど。
わかったような気がする。
まあ、それより、その子が欲しがっているのは、どうやら・・・ケイジが左手に持ってる、黒くて丸い、手のひらに納まるサイズのライスボールのようだ。
たぶん『おにぎり』というもので、黒いのは海藻を乾燥させた独特な香りがする海苔っていうもので包まれているからだ。
その中のお米の塊の中にも、混ぜられた『なにか』の具が入ってると思うけど、それはよく見えなかった。
いつの間に、ケイジがそのライスボールを持っていたんだろうか、っていうのも不思議だけど。
食べかけのそれは、食いしん坊なケイジだし、そこのテーブルに置いてあるサンドイッチとかの内の1つだったんだろう。
「おしえね」
「んがあぁあぁ!」
その子がもう、嫌そうな、なんだか泣きそうな気がした。
ケイジもいつも通り過ぎるので、ミリアもつい口を開いてた。
「そんな・・意地わるしちゃダメだよ」
ため息っぽくなったミリアだけど、ちゃんと注意しといた。
ケイジに、小さな子供に向ける言い方かもしれないけど、一応、言葉もちょっとは選んだ。
さすがに、『ダメ・・っ』と小さな子供に言うような言い方ではないけど。
「へっへぇ、」
ケイジはまだニヤニヤ笑ってて、こっちの注意を聞いてないし・・。
「ケイジ、もうちょっと優しくしてやれよ?」
って、ガイも見かねたように言ってた。
ガーニィと世間話してた合間みたいだけど。
「やさしくってなんだー!」
その子がガイにも怒ってた。
「おっ、ごめん、ごめん。あいつが親切じゃないんだよね?」
ガイも苦笑いだ。
「うん!ん?」
「わかってねぇんじゃねぇか?」
「ダマレ!」
「ぁあぁん?」
「おいおい、ケイジ、ケイジ、」
もう、いつの間にか、あの子のこととか、当たり前のようにみんな、気にしてないみたいだ。
「こいつが突っかかってきてんだろ・・?」
ケイジが納得いってないみたいだけど。
「ンガぁーっ・・!」
あの子が、吼えてる。
「まあいいじゃんか、それくらい、」
ガイが口端を上げて、さわやかだ。
「よくはネェ。」
「コッチモだかんナ!」
「お前はなにがだよ、」
・・ケイジのライスボールは、指の形にちょっと潰れてる。
力《ちから》が入ってて、さっきもそんなサンドイッチを見た気がするのは既視感、かもしれない。
だから、ミリアは、とりあえず声を、あの子へ、声をかける。
ケイジに悔しそうな、あの子に。
「一緒に探しに行く?」
「行く!」
―――――って、こっちを振り向いたその子が。
こっちを、見たほんの一瞬で。
1つ瞬きをすると・・私を見つけて。
それから、にいっ・・って。
笑った、私へ、
――――うん。
笑顔を、私へ。
その子は、爛々な大きな目を、楽しそうに細めてる。
めいっぱい、口の端も持ち上がってる。
私は、ちょっと吃驚したんだと思う。
急だったから。
鼻がちょっと鳴って。
――――――ちょっと、笑ったのかもしれない。
あと、やっぱり。
『用事は無かった』ってことで。
まあ。
――――――私が、ちょっと息を吐いたのは。
ほんの少しの肩の力も抜けたみたいだった。
どうでもいっか。
この子が、こんなに、めいっぱい笑うなら。
「―――――ロヌマ。こんな所にいやがった、」
―――――・・って、こっちへ声を掛けられたのは、不意で。
ミリアは少し、遅れて振り返っていた・・・?
「誰にでも絡んでんじゃねえぇってぇの、・・ん?」
この子を呼んだのか、横から大きな影がぬぅっと現れた・・・、私とその子を覆い隠すぐらいに大きな人影が・・・とても大きな男の人が近づいて来ていたのだ。
「ぬっ?・・シン!」
あの子が名前を呼んだ―――――・・一瞬、ミリアはちょっと、立ち位置を、足の位置を直したのは、少し警戒をしたからだ・・でも。
その子の知り合いらしい、なら『EAU』の隊員だろう。
その大きな男の人、ガイよりもだいぶ背《せ》も大きいけど。
見た目は動きやすそうなTシャツにズボン、ラフな格好にがっしりとした均整の取れたその体格は服の上からでもわかる。
「なにしてんだ?ったく・・、いちいちお前は、どっか行きやがって・・、」
って、静かに見下ろしている彼の口元が全く動いていない・・・、その声は彼からじゃなかった、その横からもう1人、別の男の人が顔をひょいと覗かせていた。
『ゴドー!』
って、この子がちょっと驚いた感じで、その、『ゴドー』って呼ばれた彼は、めんどくさそうに、ダルそうに頭の後ろを搔《か》いている。
さっきからの声は、このゴドーっていう人のもののだったようだ。
というより、最初に見つけた『シン』っていう人が見上げるくらい大きいから、目に入らなかったのかも。
ちらっと、こっちを見た彼、ゴドーさんと私は目が合ったけど。
彼らは、私たちよりもけっこう年上だろう。
それに、ゴドーさんは大きな彼、シンさんの隣にいるからちょっと小さな印象《いんしょう》を持ったけど、よく見ればそのゴドーさんも一般的な体格と比べればガッチリしていて、かなり良い方だ。
日頃からちゃんと鍛錬を積んでいる人だと思う。
そして、その後ろに立ってるシンと呼ばれていた大きな彼は、その佇まいだけで目立ちそうだけど、物静かというか、こちらや周りを静かに『見ている』ようだ。
「で、何してたって?」
そのゴドーさんがその子に状況を聞いていた。
何をしてたか・・私達もわかってないけど。
・・おしゃべり?
その子、渦中の本人は、でも一回きょとんとしたように。
そして素早く振り返って、またケイジを睨むようにしてた。
急にさっきの続きを思い出したのかもしれない。
なんか、わかる気がする、この子の考えていることが。
「あん?」
ケイジがまた眉を寄せて、再び応戦しそうな雰囲気を出してるけど。
まあ、もう放っておいても害は無い2人だろう。
それに、ほんとに、ころころ表情が変わる子だな、って。
名前、確か『ロヌマ』って呼ばれていた。
そう、この子の名前は『ロヌマ』だ。
たぶん。
初めて名前がわかったけど。
逆に、『初めまして』って感覚がもう無いな、って・・・くらいの感じは、なんだかとっくに距離が近いんだと思う。
「なんだ?やるか?あぁん・・?」
「ぅぬぁあーるっ・・!」
特に、ケイジには遠慮がないし。
今も距離が近過ぎて、噛みつきそうだ。
って、大きな彼がぬっと静かに動いていた、のに気が付いたときには、シンさんがロヌマのその後ろに立って、ネコの首根っこを捕まえるように、じゃなくって、両脇を手でひょいっと軽々と持ち上げてた。
「ヌぬぁあーっ!?」
驚《おどろ》いたロヌマが元気に鳴いてたけど、シンさんの肩まで上げられて、ちょっと大人しくなったかもしれない。
・・・あ。
あれが、ロヌマの正しい扱い方、・・なのか・・・?
「で、何してたんだ?ロヌマ、」
ゴドーさんがそう、シンさんが距離をおいて床に下ろそうとして、跳ねるように着地した、身軽なロヌマに聞いてた。
ロヌマは彼らへ向けてか、って、その胸の前で腕組みをし直して、誇らしげに大きく胸を反らした。
「センパイだからな!」
って、大きく胸を張って言ってた。
元気の良い、気持ちのいい声は、とてもまっすぐで、耳によく響《ひび》く―――――――――
――――その後に訪れる、少しの静寂が、あった。
いや、私達の音が消えたようなだけで、他の音は、周りの喧騒にずっと紛れて聞こえてはいたみたいだけど。
――――・・・・―――――・・・あー。
なんとなく、わかったような。
わからない部分も、まあ、あるけど。
それはまあ、謎だから置いておくとして。
周りのみんなも、本当にみんな、きょとんとしているようだし。
私には・・じわじわと伝わってきてる。
そもそも、みんな黙ったからなのか、その子、ロヌマって呼ばれてるその子は得意げにちょっと鼻を高くしてて、掲げるような笑顔がどっしりと顔に鎮座してた。
えっと、今までに、わかったことをまとめると。
『この子は、ロヌマっていう』らしい。
そして、『先輩』なのか。
・・なるほど。
情報量は、とても少ない。
「・・ぶはははっ!」
って、ゴドーさんが噴き出してたけど。
「ぬ!」
ロヌマが警戒してた、今度は訝しげに、ゴドーさんを変なものを見る目で。
「ソレがなんだよ、」
って、ケイジが不躾だけど。
「せンパイならっガァアーーっていくの!当たり前だロ!」
ケイジにはとっても強気なこの子、ロヌマがすごく堂々と言っている。
・・なるほど・・・。
いや、ぜんぜん納得はできてないんだけど。
つまり、たぶん、そういうロヌマのプライドがあるらしい。
最初に私たちとバッタリ会ったときに、・・好意的に考えるなら、挨拶をしてくれた、ってことなんだと思う。
逆に、悪く捉えるなら、ずっと先輩風を吹かそうとしてたってことで・・・吹かしてたのかな・・・?・・当てはまる節が思い出しにくいけれど・・・。
まあ、なんとなく、『そんなようなこと』の気はしていたけれど・・・。
ロヌマにとっては、そういうものらしい・・・?・・。
「ぶぁっはっははっ、まあっ、そうだなっ・・・」
遠慮《えんりょ》なく笑ってるゴドーさんは、ロヌマを甘やかしてるみたいだ・・普通は、注意する所だと思うんだけど。
だからロヌマはもうちょっと得意げな顔になってて・・・。
「また誰かに吹き込まれたんだろー?」
って、ゴドーさんがニヤニヤしてて・・・。
「・・ぬ??」
ロヌマが、不思議そうに、きょとんとしてた。
眉を顰めたまま、それから小首を傾げてた。
ぁ、ゴドーさんの、これは違う、甘やかしてるんじゃなくて・・・ゴドーさんは、ロヌマをからかっているだけだ、たぶん。
ふぇっ、へっへぇぃ、と余韻を引きずって笑ってるゴドーさんと。
きょとんとしているロヌマが、それを訝しげで。
そして、何も言わない大きなシンさんは、一番冷静そうだけど、無表情で、憮然としているようにしか見えなくて。
その対面で誰も何もしゃべらないこっちのチームの中で、ミリアは、なんか、大きめの息を胸へ吸って。
そして・・・、最奥からの、自然な疲れが溜まった息が、・・はぁ・・・・と、出ていた。
「―――――なにしてんだ?」
「困ってんじゃないか?もしくは挨拶か、」
「なんだそれ、笑える」
・・後ろで、好き勝手言っているケイジやガイや、ガーニィの声が耳に入ってきてるけど。
ミリアはほんのちょっとだけ、しかめっ面になったくらいで――――――――ぬぁははははっ!』
・・・!って・・、甲高い声で急に笑ったこの子に、ビクく・・っ・・と、またも、ミリアは目を瞑らされた・・・。――――――この子に悪気が無いのはわかってるけど、これで何度目だろうか・・・。
・・どうしてこの子が笑ったのかは、ケイジが横腹を右手で押さえているのを見つけたからか、私の後ろにいるケイジを覗《のぞ》いたりしてる。
「・・ふんぬぅー、・・・。」
それからまた急に、こっちをパっと振り返って、じっ・・・と私を見てくる。
私を、難しく顔を顰めて見て来ていて、何かを考えてるみたいだ・・・。
でも、今なら話を聞いてくれそうな気がする・・・なんとなくだけど、そう思った。
「えっと、」
私は、口を開いて。
と思ったけど、何を話せばいいんだろう?・・えーと・・、落ち着いて、話すために次につなげる言葉・・・?・・とは。
そもそも、今なら、っていうか・・・私たちのこの状況も別に、振出しに戻っただけなんじゃないか、って思うけれど、冷静になってみれば―――――――いや、この子が話を聞こうとしてくれてるだけ、進展してるのかもしれない・・・この子が私の名前を呼んだあの時からは―――――――それが、なんか遠い昔の事のようで。
・・いや、この子とは、ついさっき会ったばっかりなんだけれど。
―――――なんにも思いつかない。
ケイジがこの子とちょっと話してた、・・会話になってたような、なってかったような?・・えっと、たまに、わからない言葉を発してたけど――――――
―――――って、一瞬の間で、ミリアはちょっと、言葉に詰まってたけど。
左手の指の間から、この子がじっと見つめてきてくれているのは、わかってる。
その子の目とも何度か合っている、活発《かっぱつ》で、光の具合で煌めく様なときもあるその目は、こっちの言葉を待っているんだ、たぶん。
だから、えっと。
そう。
落ち着いて話そう。
「あのね?」
この子には、はっきり言った方が良いと思う。
遠慮したらその分、話が変に遠回りしてしまうから、きっと。
「私たちに用があるなら・・」
「・・ぬっ?」
――――――って、丁寧を心掛けていたミリアの、話してる途中で。
その子が急に何かに気が付いた、その視線がミリアを飛び越えて、後ろの方、・・ケイジを見てるような・・・。
「・・ん?」
気が付いたケイジもそれを見つけて、というか、ケイジは左手に黒い丸いなにかを持っていて、食べているようだ、いつの間に。
「それどコにあったぁ!?」
って。
その子がまっすぐ指差《ゆびさ》して、ケイジに向かって行ってた・・・1番近くのミリアが急な、その元気過ぎる声に、またも耳を劈《つんざ》かれていったけど。
目を瞑りかけて、ビク・・っ!と・・・させられたミリアは・・、それから両耳を両手で押さえてむにむにマッサージしつつ、ちょっと・・とうとう、刹那にも『イラっと』した気持ちが芽生えたのは、自分でも何となくわかった・・・。
ので、耳のマッサージついでに、ちょっとだけ眉間の間の顰めも指の関節でほぐしておくけど・・・えっと、その間にも、その子がすれ違《ちが》って、ケイジの方へまた自《みずか》ら突っかかりに行ってるので。
その後ろを追って振り返るミリアの口の隙間からも、両耳をさすりながら・・「ぇえ・・?・・・」――――と、零れたのは自然な気持ちだった。
「ヤらねーぞ。」
「イらなイ!」
ケイジとその子がまた、正面で語気が強い。
まあ、食べかけみたいだし・・。
「ドコにあったんだヨっ、」
って、怒って聞かれてケイジは、ちょっと考えたように・・・。
「教えねぇ、」
そっけなくしてた。
「・・ナぁーっー!」
その子が、もっと怒ったみたいだった。
・・・・はぁ・・。ケイジがそれを見て、・・ニヤリとしたようだった、悪い顔だ。
・・・・はぁ・・。
なんか、もうどうでもよくなってきた。
事情を聞くとか、必要ないんじゃないかって。
「ぬっ?」
ぴくっと、その子は。
「・・うはははははぁっ・・!」
って、ガイの方、テーブルの方に素早い身のこなしで跳びかかるように。
「あ、おい、俺らんだぞっ・・!」
「まあいいじゃんか、」
ガイもケイジを窘めているけど。
テーブルの上のサンドイッチの包みを頭の上へ掲げるその子は。
「おんなじのが無い!」
・・あぁ。
「・・っくっはっはっはっは・・・!」
今度はケイジが勝ち誇っている、まるで魔王のような。
やっぱり悪い顔だ。
・・まあ、からかって遊んでるだけみたいだし。
というか、もう普通に喋ってるな、この2人。
「ドコにあっタぁ・・!・・?」
「おしえねー」
「ぬぁんだヨぉおーっ!オマえぇーっ!」
・・元々、この子は元気な声らしくて。
ケイジはなんか、普通に話しているし、怒らせてるけど。
いや、いじめたがりなのかな・・・どっちかっていうと、ケイジは。
小さい子と遊ぶケイジは――――――あのブルーレイクのときの、あの砂漠の村の光景も少しだけ思い出した。
子供たちに、まとわりつかれてたっけ。
・・・。
ちゃんと話してる、2人は。
なんとなく。
・・ふむぅ。
いろいろあったけど。
わかったような気がする。
まあ、それより、その子が欲しがっているのは、どうやら・・・ケイジが左手に持ってる、黒くて丸い、手のひらに納まるサイズのライスボールのようだ。
たぶん『おにぎり』というもので、黒いのは海藻を乾燥させた独特な香りがする海苔っていうもので包まれているからだ。
その中のお米の塊の中にも、混ぜられた『なにか』の具が入ってると思うけど、それはよく見えなかった。
いつの間に、ケイジがそのライスボールを持っていたんだろうか、っていうのも不思議だけど。
食べかけのそれは、食いしん坊なケイジだし、そこのテーブルに置いてあるサンドイッチとかの内の1つだったんだろう。
「おしえね」
「んがあぁあぁ!」
その子がもう、嫌そうな、なんだか泣きそうな気がした。
ケイジもいつも通り過ぎるので、ミリアもつい口を開いてた。
「そんな・・意地わるしちゃダメだよ」
ため息っぽくなったミリアだけど、ちゃんと注意しといた。
ケイジに、小さな子供に向ける言い方かもしれないけど、一応、言葉もちょっとは選んだ。
さすがに、『ダメ・・っ』と小さな子供に言うような言い方ではないけど。
「へっへぇ、」
ケイジはまだニヤニヤ笑ってて、こっちの注意を聞いてないし・・。
「ケイジ、もうちょっと優しくしてやれよ?」
って、ガイも見かねたように言ってた。
ガーニィと世間話してた合間みたいだけど。
「やさしくってなんだー!」
その子がガイにも怒ってた。
「おっ、ごめん、ごめん。あいつが親切じゃないんだよね?」
ガイも苦笑いだ。
「うん!ん?」
「わかってねぇんじゃねぇか?」
「ダマレ!」
「ぁあぁん?」
「おいおい、ケイジ、ケイジ、」
もう、いつの間にか、あの子のこととか、当たり前のようにみんな、気にしてないみたいだ。
「こいつが突っかかってきてんだろ・・?」
ケイジが納得いってないみたいだけど。
「ンガぁーっ・・!」
あの子が、吼えてる。
「まあいいじゃんか、それくらい、」
ガイが口端を上げて、さわやかだ。
「よくはネェ。」
「コッチモだかんナ!」
「お前はなにがだよ、」
・・ケイジのライスボールは、指の形にちょっと潰れてる。
力《ちから》が入ってて、さっきもそんなサンドイッチを見た気がするのは既視感、かもしれない。
だから、ミリアは、とりあえず声を、あの子へ、声をかける。
ケイジに悔しそうな、あの子に。
「一緒に探しに行く?」
「行く!」
―――――って、こっちを振り向いたその子が。
こっちを、見たほんの一瞬で。
1つ瞬きをすると・・私を見つけて。
それから、にいっ・・って。
笑った、私へ、
――――うん。
笑顔を、私へ。
その子は、爛々な大きな目を、楽しそうに細めてる。
めいっぱい、口の端も持ち上がってる。
私は、ちょっと吃驚したんだと思う。
急だったから。
鼻がちょっと鳴って。
――――――ちょっと、笑ったのかもしれない。
あと、やっぱり。
『用事は無かった』ってことで。
まあ。
――――――私が、ちょっと息を吐いたのは。
ほんの少しの肩の力も抜けたみたいだった。
どうでもいっか。
この子が、こんなに、めいっぱい笑うなら。
「―――――ロヌマ。こんな所にいやがった、」
―――――・・って、こっちへ声を掛けられたのは、不意で。
ミリアは少し、遅れて振り返っていた・・・?
「誰にでも絡んでんじゃねえぇってぇの、・・ん?」
この子を呼んだのか、横から大きな影がぬぅっと現れた・・・、私とその子を覆い隠すぐらいに大きな人影が・・・とても大きな男の人が近づいて来ていたのだ。
「ぬっ?・・シン!」
あの子が名前を呼んだ―――――・・一瞬、ミリアはちょっと、立ち位置を、足の位置を直したのは、少し警戒をしたからだ・・でも。
その子の知り合いらしい、なら『EAU』の隊員だろう。
その大きな男の人、ガイよりもだいぶ背《せ》も大きいけど。
見た目は動きやすそうなTシャツにズボン、ラフな格好にがっしりとした均整の取れたその体格は服の上からでもわかる。
「なにしてんだ?ったく・・、いちいちお前は、どっか行きやがって・・、」
って、静かに見下ろしている彼の口元が全く動いていない・・・、その声は彼からじゃなかった、その横からもう1人、別の男の人が顔をひょいと覗かせていた。
『ゴドー!』
って、この子がちょっと驚いた感じで、その、『ゴドー』って呼ばれた彼は、めんどくさそうに、ダルそうに頭の後ろを搔《か》いている。
さっきからの声は、このゴドーっていう人のもののだったようだ。
というより、最初に見つけた『シン』っていう人が見上げるくらい大きいから、目に入らなかったのかも。
ちらっと、こっちを見た彼、ゴドーさんと私は目が合ったけど。
彼らは、私たちよりもけっこう年上だろう。
それに、ゴドーさんは大きな彼、シンさんの隣にいるからちょっと小さな印象《いんしょう》を持ったけど、よく見ればそのゴドーさんも一般的な体格と比べればガッチリしていて、かなり良い方だ。
日頃からちゃんと鍛錬を積んでいる人だと思う。
そして、その後ろに立ってるシンと呼ばれていた大きな彼は、その佇まいだけで目立ちそうだけど、物静かというか、こちらや周りを静かに『見ている』ようだ。
「で、何してたって?」
そのゴドーさんがその子に状況を聞いていた。
何をしてたか・・私達もわかってないけど。
・・おしゃべり?
その子、渦中の本人は、でも一回きょとんとしたように。
そして素早く振り返って、またケイジを睨むようにしてた。
急にさっきの続きを思い出したのかもしれない。
なんか、わかる気がする、この子の考えていることが。
「あん?」
ケイジがまた眉を寄せて、再び応戦しそうな雰囲気を出してるけど。
まあ、もう放っておいても害は無い2人だろう。
それに、ほんとに、ころころ表情が変わる子だな、って。
名前、確か『ロヌマ』って呼ばれていた。
そう、この子の名前は『ロヌマ』だ。
たぶん。
初めて名前がわかったけど。
逆に、『初めまして』って感覚がもう無いな、って・・・くらいの感じは、なんだかとっくに距離が近いんだと思う。
「なんだ?やるか?あぁん・・?」
「ぅぬぁあーるっ・・!」
特に、ケイジには遠慮がないし。
今も距離が近過ぎて、噛みつきそうだ。
って、大きな彼がぬっと静かに動いていた、のに気が付いたときには、シンさんがロヌマのその後ろに立って、ネコの首根っこを捕まえるように、じゃなくって、両脇を手でひょいっと軽々と持ち上げてた。
「ヌぬぁあーっ!?」
驚《おどろ》いたロヌマが元気に鳴いてたけど、シンさんの肩まで上げられて、ちょっと大人しくなったかもしれない。
・・・あ。
あれが、ロヌマの正しい扱い方、・・なのか・・・?
「で、何してたんだ?ロヌマ、」
ゴドーさんがそう、シンさんが距離をおいて床に下ろそうとして、跳ねるように着地した、身軽なロヌマに聞いてた。
ロヌマは彼らへ向けてか、って、その胸の前で腕組みをし直して、誇らしげに大きく胸を反らした。
「センパイだからな!」
って、大きく胸を張って言ってた。
元気の良い、気持ちのいい声は、とてもまっすぐで、耳によく響《ひび》く―――――――――
――――その後に訪れる、少しの静寂が、あった。
いや、私達の音が消えたようなだけで、他の音は、周りの喧騒にずっと紛れて聞こえてはいたみたいだけど。
――――・・・・―――――・・・あー。
なんとなく、わかったような。
わからない部分も、まあ、あるけど。
それはまあ、謎だから置いておくとして。
周りのみんなも、本当にみんな、きょとんとしているようだし。
私には・・じわじわと伝わってきてる。
そもそも、みんな黙ったからなのか、その子、ロヌマって呼ばれてるその子は得意げにちょっと鼻を高くしてて、掲げるような笑顔がどっしりと顔に鎮座してた。
えっと、今までに、わかったことをまとめると。
『この子は、ロヌマっていう』らしい。
そして、『先輩』なのか。
・・なるほど。
情報量は、とても少ない。
「・・ぶはははっ!」
って、ゴドーさんが噴き出してたけど。
「ぬ!」
ロヌマが警戒してた、今度は訝しげに、ゴドーさんを変なものを見る目で。
「ソレがなんだよ、」
って、ケイジが不躾だけど。
「せンパイならっガァアーーっていくの!当たり前だロ!」
ケイジにはとっても強気なこの子、ロヌマがすごく堂々と言っている。
・・なるほど・・・。
いや、ぜんぜん納得はできてないんだけど。
つまり、たぶん、そういうロヌマのプライドがあるらしい。
最初に私たちとバッタリ会ったときに、・・好意的に考えるなら、挨拶をしてくれた、ってことなんだと思う。
逆に、悪く捉えるなら、ずっと先輩風を吹かそうとしてたってことで・・・吹かしてたのかな・・・?・・当てはまる節が思い出しにくいけれど・・・。
まあ、なんとなく、『そんなようなこと』の気はしていたけれど・・・。
ロヌマにとっては、そういうものらしい・・・?・・。
「ぶぁっはっははっ、まあっ、そうだなっ・・・」
遠慮《えんりょ》なく笑ってるゴドーさんは、ロヌマを甘やかしてるみたいだ・・普通は、注意する所だと思うんだけど。
だからロヌマはもうちょっと得意げな顔になってて・・・。
「また誰かに吹き込まれたんだろー?」
って、ゴドーさんがニヤニヤしてて・・・。
「・・ぬ??」
ロヌマが、不思議そうに、きょとんとしてた。
眉を顰めたまま、それから小首を傾げてた。
ぁ、ゴドーさんの、これは違う、甘やかしてるんじゃなくて・・・ゴドーさんは、ロヌマをからかっているだけだ、たぶん。
ふぇっ、へっへぇぃ、と余韻を引きずって笑ってるゴドーさんと。
きょとんとしているロヌマが、それを訝しげで。
そして、何も言わない大きなシンさんは、一番冷静そうだけど、無表情で、憮然としているようにしか見えなくて。
その対面で誰も何もしゃべらないこっちのチームの中で、ミリアは、なんか、大きめの息を胸へ吸って。
そして・・・、最奥からの、自然な疲れが溜まった息が、・・はぁ・・・・と、出ていた。
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