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第2章 - Sec 2
Sec 2 - 第3話
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「なんで?」
って、ケイジがぶっきらぼうに言ってきた。
『なんで?』と言われても・・・、私たちがあのバスの方へ歩いているだけで、周りがこっちを見ているような気がしたんだけれど。
その辺で屯《たむろ》している人達も、実際にこっちを見ているし。
まあ、時間が迫《せま》ってきていて、新しく到着したのは私たちだけだから目立ってる、ということもあるかもしれない。
ミリアが、ポケットから携帯を取り出そうとしつつ、ちょっと思い出していた。
―――――以前も周りに注目されたことがあって、あれは2週間くらい前に例の補外区《ほがいく》の事件が原因ぽかった。
あの時、ちょうどそれが話題のニュースになっていたので、私たちが関係していたかもって噂《うわさ》になっていて。
『EAU』内では機密情報が洩《も》れてるんじゃないかな、とも正直に思ったけど。
今はもうさすがに、その話題は新鮮味《しんせんみ》が薄《うす》れてると思う、たぶん。
そう・・あれから、2週間は経《た》つのか―――――。
ミリアはそう、ちょっと細めかけた目を携帯の画面へ落としていて・・。
「まだ・・、2分はある。」
時間をしっかり確認して。
「けっこうギリギリじゃねぇか、」
って、ケイジがちょっと驚いたので。
「そうだね。」
ミリアも、ちょっと驚いてたけど。
「置いてかれるかも、」
ポケットに押し込みつつミリアは、あっちのバスへぴょんと、跳《は》ねるように駆《か》け出した。
跳ねるポニーテールにそんな小走りで振り返ると、ケイジが後ろで普通に歩いてた、全然追いかけてこない。
「ぅおい・・っ」
思わず声を張《は》ってたミリアだったけども。
「急ぎ!」
「思ったけどよ。『あいつら』の所為《せい》で遅れたんだからよ、別にいいんじゃねぇか?」
ははぁ、そういう理屈《りくつ》か、なるほど・・。
「良くはない・・!」
なぜか両肩を竦《すく》める様なケイジに、ミリアがきっぱり言っておいたけど、仕方ないので小走りに先へ出て行ってた。
ケイジを置いていったミリアが小走りに、車の傍のスタッフの元へ着くと。
「参加者だね、IDを出して」
ちょっと離れた所からスタッフらしい別の人に声を掛けられた。
「あ、はい。」
彼が指差すのはバスの方だったので、向かいながらミリアはカードをポケットから取り出しつつ、バスの近くのスタッフが最初に向けてきたそのデバイスに自分のカードを出して通した。
「君らは・・全員で4人?参加の?」
スタッフの彼は画面情報を読み取っていて。
「はい。あと2人はあそこに、」
ミリアが指差す方に、残りのガイが残りのリースを引っ張って来てくれてる様子が見える。
「あぁOK。揃《そろ》ってるな。君たちはあっちのバスだ、もう出発するから、急がせな、」
「はい、」
ミリアは腕や指のジェスチャーを交えつつメンバーたちへ、一瞥《いちべつ》しつつ、『向こうのバス』だと伝えておく。
こっちを見てたケイジと、それから後ろのガイとリースもわかるだろう。
ミリアが振り返る先は、向こうに駐車されているもう1つの大きな車両で、もうその足は向こうへ向かっている。
ダルダルそうなリースをガイがちゃんと、がっしりとリースの細い腕を掴《つか》んで引きずるように連れてきているのも見えてた。
バスへ向かいながら視界に入る、これらの車に乗り込むために集まっているらしい人たちも、未《いま》だに急ぐことなく屯《たむろ》している広場の様子も見えていた。
彼らに、ちょっと見られている気は、やっぱりした―――――――
――――――――確認が取れた奴らはこっちだ、中で大人しく待っていろよ」
携帯用の小型デバイスを両手に持ち画面を見ていた彼女は顔を上げて、スタッフの彼へ言った。
「騒《さわ》いでる奴らなんかいんの?」
「人が多いとテンション上がって、歌い出す奴なんか、よくいるだろ?」
「酒飲んでんの?」
「そういう変な奴らもいるってこった。見ない顔だな、初めてか?」
「まあ、」
「そうだな、初めてなら、バークとかゴラバスってヤツには気を付けろよ?あとあのチビの・・、」
「ぁあ『A』の、・・『動物園《サファリパーク》』?」
って、それを聞いて瞬《またた》いた彼が、ニヤリと笑った。
「良いセンスだな、『動物園《サファリ》』、へっはっは、」
「他人《ひと》に聞いたんだよ、まるで『動物』みたいって、」
後ろの仲間もその言葉が気に入ったらしい。
「そいつ恨《うら》みでもあんのか?まあ楽しんで来い」
肩を竦《すく》めて返す彼女も、また小型デバイスに目を落として操作し始める・・・そのままバスのステップへ上り・・、と気が付く。
後ろの仲間たちの視線が向こうへ、向けられている―――――向こうのバスの近くで、認証を受けている少女たちへ、その目が向けられているから―――――――
「――――――気になんの?」
車内は雑多な人の声が聞こえてくる。
「あいつら?」
「ケイジとかミリア?だっけ?」
「『A』なのにこっち側の訓練によく顔を出すよな、」
「今日はそういう訓練だって言ってたろ?」
「『EPF』と繋《つな》がってるって噂《うわさ》、ほんとかな?」
隣の席に座っていた彼が聞いてくるのに返事する彼も。
「え、そんなことになってんの?」
「それ急に来た話だよねぇ?ほんとなん?」
「3、4日くらい前の、『コールフリード』の事件知ってるだろ?あいつら、絡《から》んでたのは本当らしい、」
「『コールフリー”ト”』な。『EPF』が活躍したって事件だろ、街中ですげぇよなぁ、」
前の座席から少し身を乗り出して、そう言ってくる彼も。
「『EPF』へ電撃移籍《でんげきいせき》か?つって、」
「そういうんで、そうはならないだろ、」
「第一線に近いルーキーだって話だから、引き抜きあるとか無いとか、」
「そういうのもアりなんか?」
「待遇《たいぐう》良けりゃ行くだろ、カネとか、」
「『EAU』が黙《だま》ってないだろ?」
「軍部の方が厳《きび》しそうのな?」
「でもまた呼び出しもらってたらしいぞ。」
「あいつら?また問題起こしたの?」
「さぁなぁ?『EPF』絡みとかぁ?重大な問題でも引き起こしたのかぁ?」
「あいつら、いっつも呼び出されてるイメージしかない」
「逆に問題児じゃないの?『A』に行ったら劣等生《れっとうせい》的な――――――」
――――――落ち着きのない車両のある一角で、座席にもたれて目を閉じていても、安《やす》らげない周りの声が自然と耳に入ってくる。
―――――なんか、騒いでると思ったら。あいつら、あんなに噂されるもんなのかなぁ?」
座席で向こうを見ながら言った彼だが、近くの誰も答えない、ので。
「ねぇ?」
もう一度強めに聞いてみた。
「・・ぁあ?知らねぇ。興味ねぇな」
不機嫌そうな声に目つきの悪い彼は、目をしっかり開ける事もないようだ。
「あー、そういうの良くないってコーチも言ってたでしょ?何事も興味を持って接する事で人生経験がぁ、なんだっけ?あ、自分のモノになるんだよぅ、って、」
「トリマ、うぜぇ、お前は、」
「あいたー、」
「おい、さわんな、」
「わや、ごめん、」
「あともうちょっとで、くぁー、倒せねー、」
「なぁ、ゲームしてると没収されんの?―――――――」
「――――――みんな注目してんなぁ。ほんとあいつら、そういう運命《さだめ》でも背負ってんのかもな、なんつって、」
「『なんつって』・・?」
「そこ引っかかんなよ。つうかゴミ捨てろよ、いつまで手に持ってんだよ、」
「・・お、マジで緊張《きんちょう》で捨てるの忘れてた・・・―――――――」
―――――ざわっと、周囲の声がさざめいた・・話し途中の彼らも、つい顔を上げていた。
何かが変わった車内の・・・数人が顔を向けていく先は窓の外だった。
あの噂のミリア達へ・・・―――――・・じゃない、向こうで姿を見せた数人・・いや、十数人は歩いている――――――多人数の集団が突然現れた・・・。
そして、周りの奴らが注目したのはそこだけじゃない事にすぐ気付いた――――――――
「―――――見た事あるぞあれ、『A』の連中じゃ?」
「―――ぁそうだ、俺も見た事ある、」
「―――――おー、珍しい光景だ」
「――――あんな大人数でどこ行くんだろうな?」
「―――――――参加しない組?」
「―――――ぉい、ガーニィ、あれどうよ・・・?」
「―――あぁ、あれ『実働隊』のメンバーじゃないか?」
「―――――――マジで?出動?どっか大っきな事件でもあったのか?」
「―――――いや、にしちゃあなんか・・おかしいよなぁ・・・」
―――――向こうの軽装甲車から降りて、歩いて合流《ごうりゅう》してくる集団は『EAU』の『Class - A』の顔ぶれだ。
そして、その中でも確実にいる実力者たちと言われる顔も、ガーニィは覚えている・・・。
「―――――――『第一線』のメンバーも多い・・、」
「―――――マジか、」
「―――お、あそこ、あれ、ケイスデッドさんだ、」
「え?どこ?」
「あ、アイフェリア隊長だ、」
「手ぇ振ってる奴らもいるぜ、やっぱミーハーがいんのな、」
「あれ第一線級のメンバーか?」
「あ、バーダー隊長がいる」
「え、どこだ?」
「ほら、あそこ、」
「バーダー・・・?」
にわかに、車内がざわめいていた・・・。
「マジだ・・・、」
『―――――エヴィン・バーダー・・っ・・・?』
「なんだなんだ?あいつも人気あるのか?」
「滅多《めった》に顔見せねぇもん、」
「え、ちょっと待てよ、よく見りゃ『EAU』の隊長、勢《せい》ぞろいしてないか・・?」
座席を立ち上がる、彼らが窓の外を見に寄って来る。
車が重心でやや傾《かたむ》き始めても、窓の外を見るみんなが騒然《そうぜん》としている。
「――――・・・どうなってんだ?ガーニィ、」
「・・どうって・・・」
「あんな風に移動しているの見た事ねぇぞ?」
「しかもこっち来てないか?」
「いや、腹が痛くなる。それ以上は言うな、」
「なんで訓練にあんなのが出てくるんだ?たかが、訓練で、」
「やっぱそうなるよなぁ、『あれ』、訓練に参加するの?」
「そりゃおまえ、『訓練』だから・・・、」
「で、でもさ、まだ決まったわけじゃないでしょ?俺らの練習なんかにさあ?来るなんて、」
「ああ、そうだよな。そうだ、急にどっかで大事件が起きたんだ、はっはっ、そうだよなぁ。そりゃ大人数で行くよなぁあ、」
「だよなぁ・・?」
「もしくは・・本気ってことなんじゃねぇの?」
「・・何に?」
「・・・訓練に?」
「ぁぁ、」
「・・・・やだ、マジかよ・・」
「・・・ぁ、お腹《なか》の調子が、・・いててて」
「ウソ吐け、タイミング良すぎだろ、」
「いや、マジで、嘘《うそ》じゃなぃ――――――――」
――――――プリズムの欠片が散る青い空の下を歩く、その数十人はいるメンバーの中で、アイフェリア隊長の凛《りん》とした佇《たたず》まいは格別《かくべつ》だ。
黒いトレーニングウェア姿で、多人数の中にあっても冷静に周囲を視界に捉《とら》える、彼女は。
その涼しげな目が見渡す、注目してくる周囲の彼らの戸惑《とまど》いの視線を認めつつ、その様子と顔ぶれを冷静に把握《はあく》するように目が移る。
―――――向こうのバスの近くへ差し掛かると――――――その目で見た・・・それらしき少女へ、目を留《と》めて―――――――
――――――――足を止めて立っていた少女、ミリアがそこにいた。
―――――目と目が合ったのか。
―――バスに乗り込もうとした足を止めていた、バスの近くで、ミリアも誰かの声を聞いた、恐らくスタッフの戸惑《とまど》いの声を聞いたから。
だから、歩いてきていたあの大きな集団を見つけて、その中にいたアイフェリア隊長の姿を見つけたのも、そう時間はかからなかった。
彼女は目立つから、背も体格も大きな男の人たちが周りにいるのに、見え隠《かく》れする女性の容姿《ようし》だという事を含《ふく》めても、その佇《たたず》まいは他と違うような気がする。
そんな彼女が、こちらへ目を留《と》めたのかもしれない。
と一瞬だけでも思った・・目が合った気がしたから。
ほんの僅《わず》かな時間だけ・・・けれど、次の瞬間には彼女は目線を切っていた。
ミリアが息を呑《の》みかけていたのは、ドキッとしたからみたいで。
・・瞬《またた》くような気持ち。
アイフェリア隊長の、一瞬こっちを見たような視線が、自分を少し緊張《きんちょう》させたんだと。
彼女たちの集団は大勢いて、歩きながら話をしていたり、大きなバッグを担《かつ》いでいたり、そして、トレーニングウェアを着ている人がほとんどで。
思い思いの様子で、同じ方向へ移動していた。
その先にあったのは、向こうから走って来ていたバスだ。
他の車両と同じような外見と仕様《しよう》らしい、3台目のバスが増えて、そこに停車した。
って、ケイジがぶっきらぼうに言ってきた。
『なんで?』と言われても・・・、私たちがあのバスの方へ歩いているだけで、周りがこっちを見ているような気がしたんだけれど。
その辺で屯《たむろ》している人達も、実際にこっちを見ているし。
まあ、時間が迫《せま》ってきていて、新しく到着したのは私たちだけだから目立ってる、ということもあるかもしれない。
ミリアが、ポケットから携帯を取り出そうとしつつ、ちょっと思い出していた。
―――――以前も周りに注目されたことがあって、あれは2週間くらい前に例の補外区《ほがいく》の事件が原因ぽかった。
あの時、ちょうどそれが話題のニュースになっていたので、私たちが関係していたかもって噂《うわさ》になっていて。
『EAU』内では機密情報が洩《も》れてるんじゃないかな、とも正直に思ったけど。
今はもうさすがに、その話題は新鮮味《しんせんみ》が薄《うす》れてると思う、たぶん。
そう・・あれから、2週間は経《た》つのか―――――。
ミリアはそう、ちょっと細めかけた目を携帯の画面へ落としていて・・。
「まだ・・、2分はある。」
時間をしっかり確認して。
「けっこうギリギリじゃねぇか、」
って、ケイジがちょっと驚いたので。
「そうだね。」
ミリアも、ちょっと驚いてたけど。
「置いてかれるかも、」
ポケットに押し込みつつミリアは、あっちのバスへぴょんと、跳《は》ねるように駆《か》け出した。
跳ねるポニーテールにそんな小走りで振り返ると、ケイジが後ろで普通に歩いてた、全然追いかけてこない。
「ぅおい・・っ」
思わず声を張《は》ってたミリアだったけども。
「急ぎ!」
「思ったけどよ。『あいつら』の所為《せい》で遅れたんだからよ、別にいいんじゃねぇか?」
ははぁ、そういう理屈《りくつ》か、なるほど・・。
「良くはない・・!」
なぜか両肩を竦《すく》める様なケイジに、ミリアがきっぱり言っておいたけど、仕方ないので小走りに先へ出て行ってた。
ケイジを置いていったミリアが小走りに、車の傍のスタッフの元へ着くと。
「参加者だね、IDを出して」
ちょっと離れた所からスタッフらしい別の人に声を掛けられた。
「あ、はい。」
彼が指差すのはバスの方だったので、向かいながらミリアはカードをポケットから取り出しつつ、バスの近くのスタッフが最初に向けてきたそのデバイスに自分のカードを出して通した。
「君らは・・全員で4人?参加の?」
スタッフの彼は画面情報を読み取っていて。
「はい。あと2人はあそこに、」
ミリアが指差す方に、残りのガイが残りのリースを引っ張って来てくれてる様子が見える。
「あぁOK。揃《そろ》ってるな。君たちはあっちのバスだ、もう出発するから、急がせな、」
「はい、」
ミリアは腕や指のジェスチャーを交えつつメンバーたちへ、一瞥《いちべつ》しつつ、『向こうのバス』だと伝えておく。
こっちを見てたケイジと、それから後ろのガイとリースもわかるだろう。
ミリアが振り返る先は、向こうに駐車されているもう1つの大きな車両で、もうその足は向こうへ向かっている。
ダルダルそうなリースをガイがちゃんと、がっしりとリースの細い腕を掴《つか》んで引きずるように連れてきているのも見えてた。
バスへ向かいながら視界に入る、これらの車に乗り込むために集まっているらしい人たちも、未《いま》だに急ぐことなく屯《たむろ》している広場の様子も見えていた。
彼らに、ちょっと見られている気は、やっぱりした―――――――
――――――――確認が取れた奴らはこっちだ、中で大人しく待っていろよ」
携帯用の小型デバイスを両手に持ち画面を見ていた彼女は顔を上げて、スタッフの彼へ言った。
「騒《さわ》いでる奴らなんかいんの?」
「人が多いとテンション上がって、歌い出す奴なんか、よくいるだろ?」
「酒飲んでんの?」
「そういう変な奴らもいるってこった。見ない顔だな、初めてか?」
「まあ、」
「そうだな、初めてなら、バークとかゴラバスってヤツには気を付けろよ?あとあのチビの・・、」
「ぁあ『A』の、・・『動物園《サファリパーク》』?」
って、それを聞いて瞬《またた》いた彼が、ニヤリと笑った。
「良いセンスだな、『動物園《サファリ》』、へっはっは、」
「他人《ひと》に聞いたんだよ、まるで『動物』みたいって、」
後ろの仲間もその言葉が気に入ったらしい。
「そいつ恨《うら》みでもあんのか?まあ楽しんで来い」
肩を竦《すく》めて返す彼女も、また小型デバイスに目を落として操作し始める・・・そのままバスのステップへ上り・・、と気が付く。
後ろの仲間たちの視線が向こうへ、向けられている―――――向こうのバスの近くで、認証を受けている少女たちへ、その目が向けられているから―――――――
「――――――気になんの?」
車内は雑多な人の声が聞こえてくる。
「あいつら?」
「ケイジとかミリア?だっけ?」
「『A』なのにこっち側の訓練によく顔を出すよな、」
「今日はそういう訓練だって言ってたろ?」
「『EPF』と繋《つな》がってるって噂《うわさ》、ほんとかな?」
隣の席に座っていた彼が聞いてくるのに返事する彼も。
「え、そんなことになってんの?」
「それ急に来た話だよねぇ?ほんとなん?」
「3、4日くらい前の、『コールフリード』の事件知ってるだろ?あいつら、絡《から》んでたのは本当らしい、」
「『コールフリー”ト”』な。『EPF』が活躍したって事件だろ、街中ですげぇよなぁ、」
前の座席から少し身を乗り出して、そう言ってくる彼も。
「『EPF』へ電撃移籍《でんげきいせき》か?つって、」
「そういうんで、そうはならないだろ、」
「第一線に近いルーキーだって話だから、引き抜きあるとか無いとか、」
「そういうのもアりなんか?」
「待遇《たいぐう》良けりゃ行くだろ、カネとか、」
「『EAU』が黙《だま》ってないだろ?」
「軍部の方が厳《きび》しそうのな?」
「でもまた呼び出しもらってたらしいぞ。」
「あいつら?また問題起こしたの?」
「さぁなぁ?『EPF』絡みとかぁ?重大な問題でも引き起こしたのかぁ?」
「あいつら、いっつも呼び出されてるイメージしかない」
「逆に問題児じゃないの?『A』に行ったら劣等生《れっとうせい》的な――――――」
――――――落ち着きのない車両のある一角で、座席にもたれて目を閉じていても、安《やす》らげない周りの声が自然と耳に入ってくる。
―――――なんか、騒いでると思ったら。あいつら、あんなに噂されるもんなのかなぁ?」
座席で向こうを見ながら言った彼だが、近くの誰も答えない、ので。
「ねぇ?」
もう一度強めに聞いてみた。
「・・ぁあ?知らねぇ。興味ねぇな」
不機嫌そうな声に目つきの悪い彼は、目をしっかり開ける事もないようだ。
「あー、そういうの良くないってコーチも言ってたでしょ?何事も興味を持って接する事で人生経験がぁ、なんだっけ?あ、自分のモノになるんだよぅ、って、」
「トリマ、うぜぇ、お前は、」
「あいたー、」
「おい、さわんな、」
「わや、ごめん、」
「あともうちょっとで、くぁー、倒せねー、」
「なぁ、ゲームしてると没収されんの?―――――――」
「――――――みんな注目してんなぁ。ほんとあいつら、そういう運命《さだめ》でも背負ってんのかもな、なんつって、」
「『なんつって』・・?」
「そこ引っかかんなよ。つうかゴミ捨てろよ、いつまで手に持ってんだよ、」
「・・お、マジで緊張《きんちょう》で捨てるの忘れてた・・・―――――――」
―――――ざわっと、周囲の声がさざめいた・・話し途中の彼らも、つい顔を上げていた。
何かが変わった車内の・・・数人が顔を向けていく先は窓の外だった。
あの噂のミリア達へ・・・―――――・・じゃない、向こうで姿を見せた数人・・いや、十数人は歩いている――――――多人数の集団が突然現れた・・・。
そして、周りの奴らが注目したのはそこだけじゃない事にすぐ気付いた――――――――
「―――――見た事あるぞあれ、『A』の連中じゃ?」
「―――ぁそうだ、俺も見た事ある、」
「―――――おー、珍しい光景だ」
「――――あんな大人数でどこ行くんだろうな?」
「―――――――参加しない組?」
「―――――ぉい、ガーニィ、あれどうよ・・・?」
「―――あぁ、あれ『実働隊』のメンバーじゃないか?」
「―――――――マジで?出動?どっか大っきな事件でもあったのか?」
「―――――いや、にしちゃあなんか・・おかしいよなぁ・・・」
―――――向こうの軽装甲車から降りて、歩いて合流《ごうりゅう》してくる集団は『EAU』の『Class - A』の顔ぶれだ。
そして、その中でも確実にいる実力者たちと言われる顔も、ガーニィは覚えている・・・。
「―――――――『第一線』のメンバーも多い・・、」
「―――――マジか、」
「―――お、あそこ、あれ、ケイスデッドさんだ、」
「え?どこ?」
「あ、アイフェリア隊長だ、」
「手ぇ振ってる奴らもいるぜ、やっぱミーハーがいんのな、」
「あれ第一線級のメンバーか?」
「あ、バーダー隊長がいる」
「え、どこだ?」
「ほら、あそこ、」
「バーダー・・・?」
にわかに、車内がざわめいていた・・・。
「マジだ・・・、」
『―――――エヴィン・バーダー・・っ・・・?』
「なんだなんだ?あいつも人気あるのか?」
「滅多《めった》に顔見せねぇもん、」
「え、ちょっと待てよ、よく見りゃ『EAU』の隊長、勢《せい》ぞろいしてないか・・?」
座席を立ち上がる、彼らが窓の外を見に寄って来る。
車が重心でやや傾《かたむ》き始めても、窓の外を見るみんなが騒然《そうぜん》としている。
「――――・・・どうなってんだ?ガーニィ、」
「・・どうって・・・」
「あんな風に移動しているの見た事ねぇぞ?」
「しかもこっち来てないか?」
「いや、腹が痛くなる。それ以上は言うな、」
「なんで訓練にあんなのが出てくるんだ?たかが、訓練で、」
「やっぱそうなるよなぁ、『あれ』、訓練に参加するの?」
「そりゃおまえ、『訓練』だから・・・、」
「で、でもさ、まだ決まったわけじゃないでしょ?俺らの練習なんかにさあ?来るなんて、」
「ああ、そうだよな。そうだ、急にどっかで大事件が起きたんだ、はっはっ、そうだよなぁ。そりゃ大人数で行くよなぁあ、」
「だよなぁ・・?」
「もしくは・・本気ってことなんじゃねぇの?」
「・・何に?」
「・・・訓練に?」
「ぁぁ、」
「・・・・やだ、マジかよ・・」
「・・・ぁ、お腹《なか》の調子が、・・いててて」
「ウソ吐け、タイミング良すぎだろ、」
「いや、マジで、嘘《うそ》じゃなぃ――――――――」
――――――プリズムの欠片が散る青い空の下を歩く、その数十人はいるメンバーの中で、アイフェリア隊長の凛《りん》とした佇《たたず》まいは格別《かくべつ》だ。
黒いトレーニングウェア姿で、多人数の中にあっても冷静に周囲を視界に捉《とら》える、彼女は。
その涼しげな目が見渡す、注目してくる周囲の彼らの戸惑《とまど》いの視線を認めつつ、その様子と顔ぶれを冷静に把握《はあく》するように目が移る。
―――――向こうのバスの近くへ差し掛かると――――――その目で見た・・・それらしき少女へ、目を留《と》めて―――――――
――――――――足を止めて立っていた少女、ミリアがそこにいた。
―――――目と目が合ったのか。
―――バスに乗り込もうとした足を止めていた、バスの近くで、ミリアも誰かの声を聞いた、恐らくスタッフの戸惑《とまど》いの声を聞いたから。
だから、歩いてきていたあの大きな集団を見つけて、その中にいたアイフェリア隊長の姿を見つけたのも、そう時間はかからなかった。
彼女は目立つから、背も体格も大きな男の人たちが周りにいるのに、見え隠《かく》れする女性の容姿《ようし》だという事を含《ふく》めても、その佇《たたず》まいは他と違うような気がする。
そんな彼女が、こちらへ目を留《と》めたのかもしれない。
と一瞬だけでも思った・・目が合った気がしたから。
ほんの僅《わず》かな時間だけ・・・けれど、次の瞬間には彼女は目線を切っていた。
ミリアが息を呑《の》みかけていたのは、ドキッとしたからみたいで。
・・瞬《またた》くような気持ち。
アイフェリア隊長の、一瞬こっちを見たような視線が、自分を少し緊張《きんちょう》させたんだと。
彼女たちの集団は大勢いて、歩きながら話をしていたり、大きなバッグを担《かつ》いでいたり、そして、トレーニングウェアを着ている人がほとんどで。
思い思いの様子で、同じ方向へ移動していた。
その先にあったのは、向こうから走って来ていたバスだ。
他の車両と同じような外見と仕様《しよう》らしい、3台目のバスが増えて、そこに停車した。
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