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第21記
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別に、彼らは取るに足らない話ばかりをしていたようで。
「特にClass - Bの奴らとかが羨《うらや》ましがる。」
なんて、彼は軽く冗談ぽい、ニヤっとしてた。
「はは、」
って、ミリアの隣でちょっと笑ったガイは、なんか楽しそうだったけど。
EPFに会ったからとか、自慢できるとかなんとかって、ガイと同じくらいの年頃の青年か、彼が話してて。
ベンチの周りに集まるような彼ら、ちょっと離れてても会話していたようなさっきのEPFの同僚の顔ぶれの中で、ケイジとリースも座っているようだったけれど。
別に、積極的に話を聞いているってわけじゃないようで、適当に返事をしていたようなケイジも顔を向こうに向けるようなのは、めんどくさそうな。
隣のリースなんかは目を閉じて静かにしている。
この話している彼も、この中ではお喋りという感じか、他の人たちがあまり話さなすぎなのか。
そういえば、彼を近くで見てたらちょっと思い出したけど、EAUの構内で何度か姿を見た事ある気がする。
この前の、合同練習の時にもいたような・・人が多かったから、やっぱりはっきりとは覚えてないけど。
友人と歩いて、笑って話しているような。
まあ、そんなの他の人だってそうか。
「お前だって『B』だろ」
って、傍でベンチに座っていた彼、向こうのチームの人が言ってた。
彼は中肉中背という感じだけど、年は一回りは離れていそうな先輩だろうか。
「え、そうなんすか?」
ガイも知らなかったようだ。
ちょっと意外だなと思ったけど。
ガイは、EAUの寮とかにも顔見知りが多そうで、友人関係が広そうだし。
「まあそうなんすけどね。俺は『スペシャルB』みたいな」
「なんだそれ?」
「けっこうやってるから、経験値だけは上みたいな、へっへ、」
って、ちょっと冗談ぽいけど。
でも、そうか。
彼は『Class - B』でも、それなりに何度か現場にも出ているらしい。
Bの人が現場に出るのは特別珍しいことじゃないし、常勤できない人がBに回っている場合もあるし。
まあ、彼がどういう経緯の持ち主かはわからないけれど。
「あんま調子に乗んなよ、マシュテッド。なあ隊長?」
「うーっす」
「あんま褒めたくはないけどな、」
「お、隊長に褒められた。はっはぁ、」
って、嬉しそうに笑ってた。
にっと笑うその笑顔はちょっと無邪気な感じだけど、やっぱりガイとかに年が近そうな気もした。
ケイジとリースは隣り合っているベンチの背もたれに座っているまま、興味なさそうにあくびしてたけど。
「テッドは補充でよく現場に入ってるんだ」
「へぇ」
って、何かに気が付いたように、リーダーらしい彼の目線が横へ動いた。
「・・パゼ、」
声を掛けたのは彼の仲間で、自分の耳とその相手の耳へ、指でなにかしらのジェスチャーをして見せてた。
「ラドリーが取りなしてくれたんじゃないのか?」
パゼと呼ばれたのかそのリーダーらしい彼が向こうへ、声を掛けた仲間と連れ立って通信しに離れて行ったようだ。
アイウェアか耳元に手を当てたりする仕草は、会話内容を聞かれたくないとかそんな感じだろう。
「前の現場絡みでなんかあったみたいだ」
って、ちょっと不思議に思って見ていたら、残っていた人がそう教えてくれた。
「カンカンらしい、」
にっと、笑うのは冗談ぽいけど。
「噂のルーキーは話題も豊富だよな。今回も大事件に居合わせてましたって?」
って、急に、テッドと呼ばれてた彼が言って来てた。
「今回は何もしてないですよ」
ガイがそう答えてて。
「お前ら、そんなかしこまるなって。緊張してるわけじゃないんだろ?なんならもっと気楽に話そうぜ、」
いや、まだ仕事中ではあるんだけど。
ちょっと口端を上げているような彼らはあくまで、冗談ぽかった。
まあ、ガイが言った通り、今回なにかやったのはケイジとリースだけで。
それも機密を、とか、ケイジ達本人にはぺらぺら話さないように口止めをする必要がある状況なのかも私にはわからないんだけれど。
たぶん、ケイジ達を管理していたオペレーターの、アミョさんとかがもうその辺りは伝えていると思う。
・・いやでも、ケイジたちだし、ちゃんと私も言っておいた方がいいのかも・・・?
「なあ、ところで例の補外区の事件さ?聞いてもいいのか?」
って。
「それは勘弁だ」
ガイが苦笑いのように首を振ってたけど。
『例の補外区の事件』って、あの『ブルーレイク』でのことだろう。
その話は守秘義務があって話せない。
というか、彼もそれには興味があったみたいだ。
私には、もう結構な時間が経ったと思ってたけど。
確かに、あの時はいろいろあったけど・・・未だにあの時の事が話題に出るのもちょっと不思議だ。
まだ他の人にとっては、その話は興味深いニュースってことなんだろうけど・・。
それはもう、過ぎた事と言うか・・・そりゃ、思い出せるけど。
あの時の事を、一緒に戦った人たちや、暗闇や・・戦いの匂い・・・焦げた火薬・・血の匂い、・・・感触・・・―――――。
「マジか、こんな機会ないだろ?戦闘が会ったってのは本当なのか、ってくらいは、」
って、テッドという彼、聞いてきた彼は屈託なく笑っていた。
ミリアはちょっと、瞬くようにだけれど。
急に言われて、ちょっと、どきっとしたけれど、息を吸って。
「守秘義務があるんで、」
ミリアはそう、はっきり断っておいた。
「ぶ、ぉう、」
彼、テッドさんがちょっと変な声出てたけど。
「はっは、」
ちょっと笑った彼らみたいだったけど。
瞬くミリアには、ちょっとよくわからなかったけれど。
「わかってるって。そこで『守秘義務で』、って悔しいけどかっこいいな、」
あきらめたのか、両腕を組んで頷くようなテッドみたいだ。
・・かっこいいんだろうか?
「言うのは自由だ」
「重みが違うが、」
「今日は妙にテンション高いな、テッド、」
「そうっすか?」
「顔が笑ってるぞ」
「お?ははは。」
って、笑うテッドさんは。
「お前がガイだろ?」
って、急に。
「お前は、ミリア。」
って、私も、人差し指で差された。
「それと・・ケイジ、・・あいつは誰だっけ?」
って、リースの名前だけは知らないのか、忘れたようだ。
みんな振り返ってるけど、当のリースは向こうのベンチに座ったまま、目をつむったまま動かないのは、気がついてないからだ。
「・・リースです、」
一応、私が答えておいたけど。
「悪い、リースだ、はは、」
苦笑いに悪びれる彼だ。
というか、何で急に名前を言い始めたのかも、よくわからないけれど。
そもそも、私は名前を名乗ってない気がするし・・。
私は知らないけれど、彼は知っている・・ああ、噂《うわさ》で聞いたとかって事なのかな、たぶん。
先日の、『Class - B』の人たちが多かった合同訓練の時もなんか注目されてたっけ。
「怒ってる?悪かったって、リース、」
って、テッドと呼ばれた彼はリースに謝ってるけど。
ミリアが肩越しにリースを見れば、リースが名前を呼ばれたのに気が付いたのか、こっちを見ていたようだった。
じっと、そんなリースは目を細めていて、目をつむっているのかもよくわからないくらいの、相変わらずの眠さの塊《かたまり》のようだった。
「いつもあんな感じっすよ、」
って、ガイがそう言ってくれて。
「・・ん、いつもなのか・・?」
彼が、ちょっと瞬いて、またリース達の方を見てた。
たぶん、リースは気にしてないし、彼は勘違いしていると思う。
というか、リースはこっちの話を全く聞いてないと思う、なんとなくだけど。
まあ、彼が不思議に思う気持ちもわかる。
今、リースの頭が、ちょっと、ぐらぐらしてきそうなのは眠いからで。
いつも私たちが集まって過ごすオフィスでは、リースはよく寝てるけど、今日は寝る時間が全然取れてないだろうから、その分が加わって眠いのかもしれない。
・・まるで小さな子供みたいだな、って思ったけど。
まあ、それくらい、リース達は今日は疲れたのかもしれない。
何があったかは後で聞くとしても。
それだけの事があった、って思うのは、考えすぎなのかもしれないけど。
やっぱり、どこか不思議なリースの、そんな横顔だった。
―――――ふと、視線を感じた気がして。
顔を上げれば、隣に立っていたガイと目が合ってた。
テッドさんたちと話していたはずのガイは、にっと、こっちへ笑ってきて。
ガイの、そんな爽やか風なスマイルは。
意味がよくわからないので、ちょっと瞬いたミリアだったけど。
「――――――おれに最近、急にキたのが『バッピィ・カンビガンバン』だな。『ウマシカラアゲ』とか『エン・キコ』とかもまあまあだけど。俺はあっちのが好きだわ、」
―――――――ばっぴ・んが・んがんばん?唐揚げ?エキコ・・・?
「あぁ、バズってますよね、」
頷くガイの隣で、ミリアはちょっと瞬きながら、難解な言葉を反芻《はんすう》してたりしている。
ガイにはそれらが何なのかわかるみたいだ。
いま話している彼はちょっと、というか結構おしゃべりが好きみたいで。
それも、有名な歌手とかミュージシャンらしい、っていうのは話の流れでわかるけど。
そういえばなんか聞いたことあるな、エ・・キコ?とかは。
「マジか。いやー、こっちのチームさ、そういうの聴かない人たちばっかりでさぁ。知ってるの?」
「『エン・キコ』は好きかな、」
って、ガイは。
「うんうん、悪くはないよな。」
「俺は、もっと男らしいカッコいいのが好きだ、」
って、テッドさんは胸を張ってたけど。
「わかってるよ、グランシャーズとかだろ?前聞いたけど酷《ひど》いもんだったぜ?」
「うそっ?かっこいいだろっ?」
「ミリアは?」
って、え。
ちょっと油断していたミリアはぴくっと、瞬いたけど。
なんか、みんな見てくるから。
・・よく知らないけど。
「・・エ、キコ、とか・・・」
なんかの動画かニュースかでちょっと聞いたことがある気がする。
「お、お前もか。」
「いや・・・」
「まあ、女の子にも人気あるみたいだしな。カッコいいとかで、」
どうやら、誤解したみたいだけど。
「まあ、カッコ悪くは無いけどな、」
テッドさんが認めてなくもないみたいだ。
まあ、ミリアは・・まあいいか、ってちょっと口を閉じといたけど。
ちょっと、ほっとしたかもで。
顔を横にちょっと逸らしてたりだけど、・・『エン・キコ』・・名前とかは見たことがあるような、最近の流行りの歌手みたいなの。
ちょっと聞いたけど、嫌いじゃないと思う。
うろ覚えだけど、やっぱり上手というか、良い曲だった気がする。
「最近の曲はどれも同じに聞こえる』
って、誰かが、そこにいた向こうのメンバーの1人がはっきり言ってたけど。
「出たよ、これだよ、」
「ははは、」
『冗談だ。エン・キコな、俺も聞いたことがある、まあ上手いんじゃねぇの?』
やっぱり知ってるみたいだった。
「俺が思うに、歌詞が変わってるんだよな。ちょっと不思議なんだけど、世界観があってさ。歌の構成も声も上手いけどさ、あと声が響くっていうか・・・―――――」
――――――彼らが声を止めて。
・・ちょっと顔を上げていた。
ミリアもそれに気が付いて、彼らの顔をちょっと見回したけど、それから彼らは顔を見合わせるようにしてた。
「・・行くぞ、マシュテッド、ボカイー、」
って、一番年上っぽい彼がちょっとため息交じりに立ち上がる。
「帰れるんすかねぇ?」
立ち上がって伸びをする彼ら、テッドさんたちも・・というか、本当はマシュテッドっていうらしい。
彼らが顔を向ける方を追って見れば、さっき離れて行ったリーダーの彼らが、やや離れた所でこちらへ、コーヒーカップを片手に、コーヒーカップを仰《あお》ぐように、一気に飲み干す勢いのようだ。
「げぇー・・」
嫌な顔をするマシュテッドさんとかもいて。
「もう定時は無理だな、」
「うーっす。」
どうやら無線通信でチーム内で会話しているようだ。
「じゃなお前ら、」
歩き出すマシュテッドさんなんかは、言葉とは裏腹に颯爽《さっそう》と、軽そうな身のこなしで跳ぶように小走りで去っていく。
「またな。・・おいマシュテッド、EAUに戻ったらまた俺の時代のお気に入りを聞かせてやる、」
「もういいっすよ、古いのばっかで、」
「それが良いんだろうがよ、」
そんな会話もちょっと大きな声でしてたけど。
寄り掛かるようにベンチの背もたれに腰掛けていた彼も、ちょっと重たそうな身体を起こしてた。
「呼び出しですか?」
ガイがそう聞けば。
「・・一旦、前の現場に戻る事になった。」
物静かな低い声でそう答えると、彼も仲間たちを追って歩き出す。
「え、まだ仕事ですか?」
「あいさつ程度だと祈りたい」
って、肩を竦めたように、ちょっと茶目っ気があったような、そんな事を言い残して歩いて行く彼らは、その横顔をマスクで隠すように着用して、鼻と口を覆《おお》った。
それはたぶん、彼らがまた行く現場っていうのが、屋外とか、ドームの外れの方、もしくは砂が極端に多い場所からなのかもしれない。
そう、今日は風が少し強いのかもしれない。
この辺りまで風に砂を感じる気がするから。
夕焼けの複雑な色が広がりつつあるような光景に。
・・彼らの背中を見送っていた、ミリアはガイたちと一緒に。
また、手元のカップの蓋を少しめくるように、口を付けた・・・。
―――――ほのかな紅茶の香り、それから甘い味が口の中に広がって。
温《ぬる》いそれが喉を通るのを、ごくん、とちゃんと感じていたから。
・・あとで、『エン・キコ』っていう人の歌を。
ちゃんと聴いてみようかな、ってちょっと思ったミリアだけども。
・・あと彼が言ってた、『カラアゲ』ってなんだろう、ってちょっと思ったけど、まあそれはいいや。
もう一度、さっきの方、・・サイレンの明かりや人が集まる道路の向こうへ目を戻せば、さっきまで話していた彼ら5人の姿は小さくなっていて、車両と警備部の人たちの中に溶け込むようだった。
・・ミリアが振り返るように、後ろのベンチにいるケイジ達が。
というか、ケイジ達もベンチに座ったまま同じ向こうへ首を捩《ね》じって眺《なが》めていたらしい、横顔も見つけて。
さっきの彼らの話の途中で、ケイジとリースはそこのベンチにふらっと移動してのはミリアも気づいてたけど。
話の途中だったし、ちょっと、あからさまかなとは思ったけれど。
うるさくて休めないのなら、まあ仕方ないだろう。
話していた彼らも気が付いていたし、別に止めなかったし。
そんなケイジ達を見ていたミリアは、その瞳をちょっと瞬くようにして。
ベンチから立ち上がってた。
それから、ケイジ達の方へ歩いて。
舗装されて白い石が綺麗に敷き詰められた歩道を。
俯《うつむ》くような、でもやっぱり、顔を上げるようなミリアは、ケイジ達の傍へ―――――。
――――――ガイは気が付いたが、そんなミリアの後ろ姿へ、目を留めて。
軽く寄り掛かったベンチから、ミリアが行く先はすぐそこなのはわかった。
すぐ傍のケイジ達のベンチだ、そのすぐ横で近くの。
だから、ガイは向こうの景色へ、人が集まる光景へまた目をやる。
移動するサイレンの光が回る景色、常に何かが起きているような気がする人の多さ、だが現場の主役は既にいなくなっている光景のようだ。
EPFや犯人たちもいなくなった後の、警備部たちの仕事ぶりはただ眺めるには雑踏《ざっとう》でしかないみたいだ。
それでも、ガイは顔を向けつつ、また、手持ちのカップに口を付けていた。
――――――――ちょっとだらっとしている、ケイジ達のいるベンチへ近づいたときに。
「おつかれ、」
ミリアは、そう声を掛けただけで。
なんとなく、ケイジがカップに口を付けようとしていたから、その時に声を掛けられて不意に、ケイジがこちらへ顔を向けるのを見ていた。
・・その黒い瞳がこっちを見るのを、ちょっと見返してたけど。
ケイジがほんのちょっとだけ瞬《まばた》きをしたようなのも、やっぱりケイジがちょっと驚いたからかもしれない。
別に、驚かせる気はなかったけれど。
ちょっと私の口端がむいっと控えめに上がったのは、気の所為じゃないみたいで。
なんとなく、ケイジの傍に来たのは。
ケイジに気になることが、あった気がしたのをささやかながら思い出していた、というのもあるんだけれど。
ケイジが、珍しい顔を見せたようなのは、一瞬だったろうか。
疲れてるから、眠いから?とか。
少し考え事をしていた、とか。
もうケイジは、私を気にせずにカップに口を付けて飲んでいたから。
だから、私は、そのベンチの背もたれに後ろから寄り掛かって。
「なんか、」
あけた声と同時にその背もたれの固い所が、腰の上辺りにちょうどよく当たるから、心地よく落ち着く場所を探すのは簡単だった。
ちらっと見るとケイジが、カップから口を離してこっちを見てて、たぶん、ちょと文句ありそうな表情だ。
ちょっと瞬いたミリアだけれど。
あれだ、私の重さでベンチが揺れたから、ベンチに座ってるケイジたちへ重さがどすんと伝わったのかもしれない。
まあ。
「いっぱいあった。」
小さなミリアの声は、軽いため息のように。
・・・。
「ぁあ、」
すぐ傍のケイジには、届いたようだ。
唸《うな》るようなケイジを、頷《うなず》かせたみたいだから。
顔を上げるケイジが、空を仰ぎ見たような、それが。
ケイジが、少し口を開くように、息を深く吸い込むようだった。
―――――――胸の底から、大きく息を吐けた・・・ケイジが。
・・横目に見上げるとき、隣の、ちょうど斜め後ろのミリアがその空へ、・・夕焼けと、プリズムが混じる空へ見つめているその横顔と、まつ毛に映える光が、瞳へ。
ミリアの横顔も、少し胸に溜めた空気を、小さく吐くように。
ほう・・っと。
そんな小さな肩と背中が、わずかに力を抜いたのは、見えていて。
・・・・。
「なに飲んでるの?」
急に、ミリアが振り返って、その瞳でこっちへ聞いてきた。
さっきとは違う光の目の色は、夕暮れの影のせいだ。
ちょっと興味を持ってる、そんなミリアの顔が目を合わせてくるが。
・・ケイジは、ベンチの上に置いていたカップを右手で、上から掴むように持ち上げた。
「特にClass - Bの奴らとかが羨《うらや》ましがる。」
なんて、彼は軽く冗談ぽい、ニヤっとしてた。
「はは、」
って、ミリアの隣でちょっと笑ったガイは、なんか楽しそうだったけど。
EPFに会ったからとか、自慢できるとかなんとかって、ガイと同じくらいの年頃の青年か、彼が話してて。
ベンチの周りに集まるような彼ら、ちょっと離れてても会話していたようなさっきのEPFの同僚の顔ぶれの中で、ケイジとリースも座っているようだったけれど。
別に、積極的に話を聞いているってわけじゃないようで、適当に返事をしていたようなケイジも顔を向こうに向けるようなのは、めんどくさそうな。
隣のリースなんかは目を閉じて静かにしている。
この話している彼も、この中ではお喋りという感じか、他の人たちがあまり話さなすぎなのか。
そういえば、彼を近くで見てたらちょっと思い出したけど、EAUの構内で何度か姿を見た事ある気がする。
この前の、合同練習の時にもいたような・・人が多かったから、やっぱりはっきりとは覚えてないけど。
友人と歩いて、笑って話しているような。
まあ、そんなの他の人だってそうか。
「お前だって『B』だろ」
って、傍でベンチに座っていた彼、向こうのチームの人が言ってた。
彼は中肉中背という感じだけど、年は一回りは離れていそうな先輩だろうか。
「え、そうなんすか?」
ガイも知らなかったようだ。
ちょっと意外だなと思ったけど。
ガイは、EAUの寮とかにも顔見知りが多そうで、友人関係が広そうだし。
「まあそうなんすけどね。俺は『スペシャルB』みたいな」
「なんだそれ?」
「けっこうやってるから、経験値だけは上みたいな、へっへ、」
って、ちょっと冗談ぽいけど。
でも、そうか。
彼は『Class - B』でも、それなりに何度か現場にも出ているらしい。
Bの人が現場に出るのは特別珍しいことじゃないし、常勤できない人がBに回っている場合もあるし。
まあ、彼がどういう経緯の持ち主かはわからないけれど。
「あんま調子に乗んなよ、マシュテッド。なあ隊長?」
「うーっす」
「あんま褒めたくはないけどな、」
「お、隊長に褒められた。はっはぁ、」
って、嬉しそうに笑ってた。
にっと笑うその笑顔はちょっと無邪気な感じだけど、やっぱりガイとかに年が近そうな気もした。
ケイジとリースは隣り合っているベンチの背もたれに座っているまま、興味なさそうにあくびしてたけど。
「テッドは補充でよく現場に入ってるんだ」
「へぇ」
って、何かに気が付いたように、リーダーらしい彼の目線が横へ動いた。
「・・パゼ、」
声を掛けたのは彼の仲間で、自分の耳とその相手の耳へ、指でなにかしらのジェスチャーをして見せてた。
「ラドリーが取りなしてくれたんじゃないのか?」
パゼと呼ばれたのかそのリーダーらしい彼が向こうへ、声を掛けた仲間と連れ立って通信しに離れて行ったようだ。
アイウェアか耳元に手を当てたりする仕草は、会話内容を聞かれたくないとかそんな感じだろう。
「前の現場絡みでなんかあったみたいだ」
って、ちょっと不思議に思って見ていたら、残っていた人がそう教えてくれた。
「カンカンらしい、」
にっと、笑うのは冗談ぽいけど。
「噂のルーキーは話題も豊富だよな。今回も大事件に居合わせてましたって?」
って、急に、テッドと呼ばれてた彼が言って来てた。
「今回は何もしてないですよ」
ガイがそう答えてて。
「お前ら、そんなかしこまるなって。緊張してるわけじゃないんだろ?なんならもっと気楽に話そうぜ、」
いや、まだ仕事中ではあるんだけど。
ちょっと口端を上げているような彼らはあくまで、冗談ぽかった。
まあ、ガイが言った通り、今回なにかやったのはケイジとリースだけで。
それも機密を、とか、ケイジ達本人にはぺらぺら話さないように口止めをする必要がある状況なのかも私にはわからないんだけれど。
たぶん、ケイジ達を管理していたオペレーターの、アミョさんとかがもうその辺りは伝えていると思う。
・・いやでも、ケイジたちだし、ちゃんと私も言っておいた方がいいのかも・・・?
「なあ、ところで例の補外区の事件さ?聞いてもいいのか?」
って。
「それは勘弁だ」
ガイが苦笑いのように首を振ってたけど。
『例の補外区の事件』って、あの『ブルーレイク』でのことだろう。
その話は守秘義務があって話せない。
というか、彼もそれには興味があったみたいだ。
私には、もう結構な時間が経ったと思ってたけど。
確かに、あの時はいろいろあったけど・・・未だにあの時の事が話題に出るのもちょっと不思議だ。
まだ他の人にとっては、その話は興味深いニュースってことなんだろうけど・・。
それはもう、過ぎた事と言うか・・・そりゃ、思い出せるけど。
あの時の事を、一緒に戦った人たちや、暗闇や・・戦いの匂い・・・焦げた火薬・・血の匂い、・・・感触・・・―――――。
「マジか、こんな機会ないだろ?戦闘が会ったってのは本当なのか、ってくらいは、」
って、テッドという彼、聞いてきた彼は屈託なく笑っていた。
ミリアはちょっと、瞬くようにだけれど。
急に言われて、ちょっと、どきっとしたけれど、息を吸って。
「守秘義務があるんで、」
ミリアはそう、はっきり断っておいた。
「ぶ、ぉう、」
彼、テッドさんがちょっと変な声出てたけど。
「はっは、」
ちょっと笑った彼らみたいだったけど。
瞬くミリアには、ちょっとよくわからなかったけれど。
「わかってるって。そこで『守秘義務で』、って悔しいけどかっこいいな、」
あきらめたのか、両腕を組んで頷くようなテッドみたいだ。
・・かっこいいんだろうか?
「言うのは自由だ」
「重みが違うが、」
「今日は妙にテンション高いな、テッド、」
「そうっすか?」
「顔が笑ってるぞ」
「お?ははは。」
って、笑うテッドさんは。
「お前がガイだろ?」
って、急に。
「お前は、ミリア。」
って、私も、人差し指で差された。
「それと・・ケイジ、・・あいつは誰だっけ?」
って、リースの名前だけは知らないのか、忘れたようだ。
みんな振り返ってるけど、当のリースは向こうのベンチに座ったまま、目をつむったまま動かないのは、気がついてないからだ。
「・・リースです、」
一応、私が答えておいたけど。
「悪い、リースだ、はは、」
苦笑いに悪びれる彼だ。
というか、何で急に名前を言い始めたのかも、よくわからないけれど。
そもそも、私は名前を名乗ってない気がするし・・。
私は知らないけれど、彼は知っている・・ああ、噂《うわさ》で聞いたとかって事なのかな、たぶん。
先日の、『Class - B』の人たちが多かった合同訓練の時もなんか注目されてたっけ。
「怒ってる?悪かったって、リース、」
って、テッドと呼ばれた彼はリースに謝ってるけど。
ミリアが肩越しにリースを見れば、リースが名前を呼ばれたのに気が付いたのか、こっちを見ていたようだった。
じっと、そんなリースは目を細めていて、目をつむっているのかもよくわからないくらいの、相変わらずの眠さの塊《かたまり》のようだった。
「いつもあんな感じっすよ、」
って、ガイがそう言ってくれて。
「・・ん、いつもなのか・・?」
彼が、ちょっと瞬いて、またリース達の方を見てた。
たぶん、リースは気にしてないし、彼は勘違いしていると思う。
というか、リースはこっちの話を全く聞いてないと思う、なんとなくだけど。
まあ、彼が不思議に思う気持ちもわかる。
今、リースの頭が、ちょっと、ぐらぐらしてきそうなのは眠いからで。
いつも私たちが集まって過ごすオフィスでは、リースはよく寝てるけど、今日は寝る時間が全然取れてないだろうから、その分が加わって眠いのかもしれない。
・・まるで小さな子供みたいだな、って思ったけど。
まあ、それくらい、リース達は今日は疲れたのかもしれない。
何があったかは後で聞くとしても。
それだけの事があった、って思うのは、考えすぎなのかもしれないけど。
やっぱり、どこか不思議なリースの、そんな横顔だった。
―――――ふと、視線を感じた気がして。
顔を上げれば、隣に立っていたガイと目が合ってた。
テッドさんたちと話していたはずのガイは、にっと、こっちへ笑ってきて。
ガイの、そんな爽やか風なスマイルは。
意味がよくわからないので、ちょっと瞬いたミリアだったけど。
「――――――おれに最近、急にキたのが『バッピィ・カンビガンバン』だな。『ウマシカラアゲ』とか『エン・キコ』とかもまあまあだけど。俺はあっちのが好きだわ、」
―――――――ばっぴ・んが・んがんばん?唐揚げ?エキコ・・・?
「あぁ、バズってますよね、」
頷くガイの隣で、ミリアはちょっと瞬きながら、難解な言葉を反芻《はんすう》してたりしている。
ガイにはそれらが何なのかわかるみたいだ。
いま話している彼はちょっと、というか結構おしゃべりが好きみたいで。
それも、有名な歌手とかミュージシャンらしい、っていうのは話の流れでわかるけど。
そういえばなんか聞いたことあるな、エ・・キコ?とかは。
「マジか。いやー、こっちのチームさ、そういうの聴かない人たちばっかりでさぁ。知ってるの?」
「『エン・キコ』は好きかな、」
って、ガイは。
「うんうん、悪くはないよな。」
「俺は、もっと男らしいカッコいいのが好きだ、」
って、テッドさんは胸を張ってたけど。
「わかってるよ、グランシャーズとかだろ?前聞いたけど酷《ひど》いもんだったぜ?」
「うそっ?かっこいいだろっ?」
「ミリアは?」
って、え。
ちょっと油断していたミリアはぴくっと、瞬いたけど。
なんか、みんな見てくるから。
・・よく知らないけど。
「・・エ、キコ、とか・・・」
なんかの動画かニュースかでちょっと聞いたことがある気がする。
「お、お前もか。」
「いや・・・」
「まあ、女の子にも人気あるみたいだしな。カッコいいとかで、」
どうやら、誤解したみたいだけど。
「まあ、カッコ悪くは無いけどな、」
テッドさんが認めてなくもないみたいだ。
まあ、ミリアは・・まあいいか、ってちょっと口を閉じといたけど。
ちょっと、ほっとしたかもで。
顔を横にちょっと逸らしてたりだけど、・・『エン・キコ』・・名前とかは見たことがあるような、最近の流行りの歌手みたいなの。
ちょっと聞いたけど、嫌いじゃないと思う。
うろ覚えだけど、やっぱり上手というか、良い曲だった気がする。
「最近の曲はどれも同じに聞こえる』
って、誰かが、そこにいた向こうのメンバーの1人がはっきり言ってたけど。
「出たよ、これだよ、」
「ははは、」
『冗談だ。エン・キコな、俺も聞いたことがある、まあ上手いんじゃねぇの?』
やっぱり知ってるみたいだった。
「俺が思うに、歌詞が変わってるんだよな。ちょっと不思議なんだけど、世界観があってさ。歌の構成も声も上手いけどさ、あと声が響くっていうか・・・―――――」
――――――彼らが声を止めて。
・・ちょっと顔を上げていた。
ミリアもそれに気が付いて、彼らの顔をちょっと見回したけど、それから彼らは顔を見合わせるようにしてた。
「・・行くぞ、マシュテッド、ボカイー、」
って、一番年上っぽい彼がちょっとため息交じりに立ち上がる。
「帰れるんすかねぇ?」
立ち上がって伸びをする彼ら、テッドさんたちも・・というか、本当はマシュテッドっていうらしい。
彼らが顔を向ける方を追って見れば、さっき離れて行ったリーダーの彼らが、やや離れた所でこちらへ、コーヒーカップを片手に、コーヒーカップを仰《あお》ぐように、一気に飲み干す勢いのようだ。
「げぇー・・」
嫌な顔をするマシュテッドさんとかもいて。
「もう定時は無理だな、」
「うーっす。」
どうやら無線通信でチーム内で会話しているようだ。
「じゃなお前ら、」
歩き出すマシュテッドさんなんかは、言葉とは裏腹に颯爽《さっそう》と、軽そうな身のこなしで跳ぶように小走りで去っていく。
「またな。・・おいマシュテッド、EAUに戻ったらまた俺の時代のお気に入りを聞かせてやる、」
「もういいっすよ、古いのばっかで、」
「それが良いんだろうがよ、」
そんな会話もちょっと大きな声でしてたけど。
寄り掛かるようにベンチの背もたれに腰掛けていた彼も、ちょっと重たそうな身体を起こしてた。
「呼び出しですか?」
ガイがそう聞けば。
「・・一旦、前の現場に戻る事になった。」
物静かな低い声でそう答えると、彼も仲間たちを追って歩き出す。
「え、まだ仕事ですか?」
「あいさつ程度だと祈りたい」
って、肩を竦めたように、ちょっと茶目っ気があったような、そんな事を言い残して歩いて行く彼らは、その横顔をマスクで隠すように着用して、鼻と口を覆《おお》った。
それはたぶん、彼らがまた行く現場っていうのが、屋外とか、ドームの外れの方、もしくは砂が極端に多い場所からなのかもしれない。
そう、今日は風が少し強いのかもしれない。
この辺りまで風に砂を感じる気がするから。
夕焼けの複雑な色が広がりつつあるような光景に。
・・彼らの背中を見送っていた、ミリアはガイたちと一緒に。
また、手元のカップの蓋を少しめくるように、口を付けた・・・。
―――――ほのかな紅茶の香り、それから甘い味が口の中に広がって。
温《ぬる》いそれが喉を通るのを、ごくん、とちゃんと感じていたから。
・・あとで、『エン・キコ』っていう人の歌を。
ちゃんと聴いてみようかな、ってちょっと思ったミリアだけども。
・・あと彼が言ってた、『カラアゲ』ってなんだろう、ってちょっと思ったけど、まあそれはいいや。
もう一度、さっきの方、・・サイレンの明かりや人が集まる道路の向こうへ目を戻せば、さっきまで話していた彼ら5人の姿は小さくなっていて、車両と警備部の人たちの中に溶け込むようだった。
・・ミリアが振り返るように、後ろのベンチにいるケイジ達が。
というか、ケイジ達もベンチに座ったまま同じ向こうへ首を捩《ね》じって眺《なが》めていたらしい、横顔も見つけて。
さっきの彼らの話の途中で、ケイジとリースはそこのベンチにふらっと移動してのはミリアも気づいてたけど。
話の途中だったし、ちょっと、あからさまかなとは思ったけれど。
うるさくて休めないのなら、まあ仕方ないだろう。
話していた彼らも気が付いていたし、別に止めなかったし。
そんなケイジ達を見ていたミリアは、その瞳をちょっと瞬くようにして。
ベンチから立ち上がってた。
それから、ケイジ達の方へ歩いて。
舗装されて白い石が綺麗に敷き詰められた歩道を。
俯《うつむ》くような、でもやっぱり、顔を上げるようなミリアは、ケイジ達の傍へ―――――。
――――――ガイは気が付いたが、そんなミリアの後ろ姿へ、目を留めて。
軽く寄り掛かったベンチから、ミリアが行く先はすぐそこなのはわかった。
すぐ傍のケイジ達のベンチだ、そのすぐ横で近くの。
だから、ガイは向こうの景色へ、人が集まる光景へまた目をやる。
移動するサイレンの光が回る景色、常に何かが起きているような気がする人の多さ、だが現場の主役は既にいなくなっている光景のようだ。
EPFや犯人たちもいなくなった後の、警備部たちの仕事ぶりはただ眺めるには雑踏《ざっとう》でしかないみたいだ。
それでも、ガイは顔を向けつつ、また、手持ちのカップに口を付けていた。
――――――――ちょっとだらっとしている、ケイジ達のいるベンチへ近づいたときに。
「おつかれ、」
ミリアは、そう声を掛けただけで。
なんとなく、ケイジがカップに口を付けようとしていたから、その時に声を掛けられて不意に、ケイジがこちらへ顔を向けるのを見ていた。
・・その黒い瞳がこっちを見るのを、ちょっと見返してたけど。
ケイジがほんのちょっとだけ瞬《まばた》きをしたようなのも、やっぱりケイジがちょっと驚いたからかもしれない。
別に、驚かせる気はなかったけれど。
ちょっと私の口端がむいっと控えめに上がったのは、気の所為じゃないみたいで。
なんとなく、ケイジの傍に来たのは。
ケイジに気になることが、あった気がしたのをささやかながら思い出していた、というのもあるんだけれど。
ケイジが、珍しい顔を見せたようなのは、一瞬だったろうか。
疲れてるから、眠いから?とか。
少し考え事をしていた、とか。
もうケイジは、私を気にせずにカップに口を付けて飲んでいたから。
だから、私は、そのベンチの背もたれに後ろから寄り掛かって。
「なんか、」
あけた声と同時にその背もたれの固い所が、腰の上辺りにちょうどよく当たるから、心地よく落ち着く場所を探すのは簡単だった。
ちらっと見るとケイジが、カップから口を離してこっちを見てて、たぶん、ちょと文句ありそうな表情だ。
ちょっと瞬いたミリアだけれど。
あれだ、私の重さでベンチが揺れたから、ベンチに座ってるケイジたちへ重さがどすんと伝わったのかもしれない。
まあ。
「いっぱいあった。」
小さなミリアの声は、軽いため息のように。
・・・。
「ぁあ、」
すぐ傍のケイジには、届いたようだ。
唸《うな》るようなケイジを、頷《うなず》かせたみたいだから。
顔を上げるケイジが、空を仰ぎ見たような、それが。
ケイジが、少し口を開くように、息を深く吸い込むようだった。
―――――――胸の底から、大きく息を吐けた・・・ケイジが。
・・横目に見上げるとき、隣の、ちょうど斜め後ろのミリアがその空へ、・・夕焼けと、プリズムが混じる空へ見つめているその横顔と、まつ毛に映える光が、瞳へ。
ミリアの横顔も、少し胸に溜めた空気を、小さく吐くように。
ほう・・っと。
そんな小さな肩と背中が、わずかに力を抜いたのは、見えていて。
・・・・。
「なに飲んでるの?」
急に、ミリアが振り返って、その瞳でこっちへ聞いてきた。
さっきとは違う光の目の色は、夕暮れの影のせいだ。
ちょっと興味を持ってる、そんなミリアの顔が目を合わせてくるが。
・・ケイジは、ベンチの上に置いていたカップを右手で、上から掴むように持ち上げた。
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