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第12記
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―――――瞼《まぶた》を開く・・・そんな目が醒めた一瞬の、その青年の黒い瞳は彷徨《さまよ》う・・・。
何をしていたのか・・の答えを探して・・・そうだ・・、なにかの大きな影が突っ込んで来たんだ―――――次第に目の合い始める焦点の―――――――はっきりとしてきた視界にふと入った・・・傍で、倒れている人の姿―――――――
目に留めていたのは――――――変わり果てたように、倒れたその女性の―――――――横顔が、半眼に虚空を見つめている
「あ、あ、ぁあ・・・っ・・・!・・!!!?」
青年の表情が豹変《ひょうへん》した、突然喘ぎ始めたのをケイジは見ていた。
ショックを受けたようだ、喘ぎ始めるそいつへ歩み寄るEPFが気遣う。
「落ち着け少年、」
「ぁ・・っかはっ・・・!・・げほっ・・!げほ!」
「落ち着いて呼吸をしろ。もう安心だ。」
「がはっ・・・はっ・・はっ・・は・・!はぁっ・・!!・・・・・・っ・・!!」
彼は肩を、背中をさすってやる・・・――――――
まあ、知り合いだったらショックだろうな。
EPFのこいつは気づいてないかもしれないが、そこで転がってる女の仰向けの姿には。
ケイジは、耳元を抑えつつ、顔を背けつつ小声で話す・・。
「・・なぁ、救護班まだかよ?」
『そっちへ向かってる。こっちも大体は、ゴタゴタが終わって良かったよ。さすがEPFというべきでね、良いデータが採れてそうだ、』
「なにがあったんだ?」
・・ケイジが近づいて見下ろす・・・その女の姿を改めて眺めていて、わかるのは為す術《すべ》もなく気絶させられたって感じぐらいだ。
『――――後で詳しく説明するよ。あ、倒れてる犯人とかには触っちゃダメだよ。』
「わかってるよ、勝手に触ったら怒られるんだろ?」
『そう、法的に問題がある』
現場を荒らして『証拠がー』とか言われるなら、どうしようもねぇし、めんどくせぇ――――――
「・・ミリアとガイたちは、どうなんだよ?」
「ん?彼らは目の前で見れたよね。EPFが人前で武力行使するのはかなり珍しいんだから、貴重な体験だよ、」
「・・・」
「あぁ、彼らは無事だよ。心配しなくていい、」
「心配してねぇし、――――――
―――――・・ケイジは、視界に入る―――――ふと気が付く・・・その喘《あえ》いでいた青年の、なにか―――――違和感―――――
その青年は、相変わらず咳き込み乱れた苦し気な顔をしているが――――たまにわずかに開く瞼《まぶた》が―――目の、双眸《そうぼう》の色が・・黒・・よりも、僅かに変わっている・・・?・・――――――気のせいかと思ったが―――――明らかに黒ではない色へ、変わる・・・・違う、色とかじゃない―――――
―――――おい、」
ケイジが口を開いたのを、EPFのそいつは気が付き、ケイジの視線の先を見る・・・――――――――
―――――――微細な光、彼の目の周囲に集約していくような
――――――細かなまばらな光が、次第に、微細に大きくなっていく―――――――それで、瞳が色づく・・・――――――複雑な光輝が押し込められたような光の反射は一瞬で消え・・・微かな青い煌めきを残して、目の表面に一瞬で広がる涙のように、激情で歪んだ瞳の奥に――――――定着する――――――2つ目の虹彩が創られていく青い光――――――それは融《と》ける
それは―――――ほんの一瞬だ
「――――――・・特能力者か。」
そいつ、EPFのそいつの声が、落ち着き払っていた。
だが手を止めて、逡巡《しゅんじゅん》したようだ、そいつの身体に触れる手を、気遣っていた手を止めて―――――EPFのそいつは僅かに、確かに、静かな動きで半身《はんみ》への足の重心を移した――――――ケイジは視界の端で、その動きを一瞬見た。
ケイジも、ほぼ同時に、既に僅かに腰を落としていたのは、率直な勘だ・・・。
『ケイジ君、少し警戒を、発現者だ』
言われる前に、そりゃ警戒はする・・・。
あいつが攻撃してくる、とは限らない、が・・・。
ケイジが見据えている青年、未だ、深く喘《あえ》ぐ呼吸が治まらない男。
『発見時の対処プロトコル通りに行こう。この場合は、先ず会話を試みる、べきなんだが。意思疎通ができるか確認しないと、ああ、でも今はとても興奮しているから、落ち着かせないとな、あ、発現による危険性はとても低いはずだからそれも頭に入れておこう、』
アミョの声もちょっと慌てているようだが。
「はぁっ・・はぁっ・・・はぁっ・・!!」
・・苦しげだった青年の呼吸は次第にペースをつかんでいっている・・だが、青年の目は、さらに強い青い光へ変わっていくように感じる――――少しずつ、薄い青色から淡い青色へ・・・。
「落ち着け少年。深く息を吸いなさい。ここに敵はいない。」
EPFのそいつはなるべく優しい口調で声を掛ける。
神経を逆なでしないよう気を付けているのは、ケイジにもわかった。
『0.1%未満、発現現象で他人に危害を与えられる能力を持っている確率だ。危害を加えられる可能性は低い、必要以上には緊張しないで、でも油断はしないで、』
どっちだよ、とケイジは口には出さないが。
その辺のデリケートそうなのはEPFのそいつに任せる・・・が、こいつは間違いなく『発現者』で。
ケイジが感じる今の最大の疑問は、『こいつには、何ができるのか?』だ。
もしナイフ一本でも持っていれば危険なのは当たり前だが。
さらに完成している特能力者だったなら、尚更、こっちを本気で恨むようなヤツだとしたら、もっとヤバイ。
『はい、発現者と接触したようです。ええ、一般人の。EPFもいますから、様子を見て、ええ――――』
アミョが通信を切り忘れていたようだが、その声も途中で消えた。
「危害を与える者もいないんだ。落ち着いて、息を吸え、集中して、」
お前がやったんだけどな、とEPFのそいつへ思わず思ったケイジは口には出さないが――――――
―――――光・・・目の中、揺らぐ青い光・・分裂するように、他の色を吸い混ざるような、融けて揺らぐような光・・・まどろみを覚えるような光の動き・・・―――――――ゆらりと、起き上がっていた彼の――――――・・・そいつが両足で、立っていたのを――――――ケイジが気が付いたのは、そいつが既に立っていた後だった。
それに気づいても―――――――その両目の中で動く光が、なぜか気になる―――――――そいつは、俯き自分の両目を片腕で抑えた・・・不意に、歯を強く食いしばった・・・込み上げる物を、その形相からも激情が漏れ出るようで―――――――
EPFのあいつが手を伸ばす・・・わずかに距離を取っていたEPFのあいつ、青年の垂れた震えた手へ、手を伸ばそうとした・・・――――――
「・・パを・・・チーパを・・!・・・チーパを!!?!!」
彼から漏れ出た言葉は――――――『それ』か――――――
「まて・・・!」
「チーパを・・なんで・・・っ・・・!・・・?・・」
悲痛の音でしかない・・・涙の熱さを、感じさせる―――――――――
緑色の光の――――・・・いや、・・ん・・・・・青色の瞳――――――・・だろ・・・?
―――――――それは青色でしかない瞳―――――その燐光《りんこう》を、揺蕩《たゆた》う・・青光の瞳――――――――
「チーパと言うのか?彼女は・・・?」
「チーパも!EPFが・・・!!?」
拒絶の叫びが耳を突く――――――
腕の奥からはっきり見えた強い目を、青光の瞳を彼はEPFに向けて据えた――――――
「落ち着け少年!」
差し出そうとしていた手のひらを前方へ、大きく開いて見せたEPFの彼は、青年を治めるための構え、距離を留め、お互いに動くべきじゃないとその動きで伝える。
・・舌打ちが漏れるケイジは既に、EPFの彼の後ろより距離を取った場所に動いていた。
何が起きても対応できる距離、その2人が何をやらかしてもいい距離で、2人の様子から目を離さずに―――――
―――――これは、感じ、・・・めちゃめちゃ、わかりやすい展開だ。
―――――――EPFのあいつ、それに吹っ飛ばされたそいつがキレて、怒っている。
んで、たぶん倒した女とも知り合いだ、仲間だった可能性もある。
そしたら、あのEPFの野郎はどうすんだ・・・?
ただの民間人を相手に手を出すか?―――――『あいつ』はまだ無害だ、何もやっていない、ただ『キレている』だけだ――――――なら力づくで拘束しても、後でめんどくさいことになりそうだ。
もし、あいつが本当に特能力者なら?――――――次の瞬間には何かが起こるかもしれない、油断すりゃあ懐《ふところ》に入られるなり、尖ったナイフで身体のどこかを突き刺すかもしれない、そうなりゃ絶対にめんどくさい・・・いや、逆にわかりやすいかもしれないが―――――――犯罪者は制圧するだけだ、って・・・。
てことは・・・。
―――――手を出すなよ・・!」
強い声でEPFのあいつが、こっちへ言って寄越した。
顔は見えない、ケイジはそいつの背中を見て、口を閉じたが。
『彼に任せよう、マニュアルはEPFとも共有しているから』
アミョからの声に――――――
―――――ケイジは、頷く代わりに口元を強く笑ませていた。
はぁ・・っ、と震える肺の奥へ息を吸い込んで。
呼吸の奥から息を吐く―――――
――――――ふと
―――――強い笑みが薄まるのは。
――――――思い出したからだ。
・・すげぇめんどい・・・ミリアの怒り顔だ。
うちのリーダーに怒られるのが、一番めんどいんだった。
「少年、落ち着いて。今この状況は、ゆっくりと話し合い、語らう状況だ。そうだ。安全だ。君はもう安全だ。ちゃんと息を整えて・・、」
「・・チーパを・・・!チーパを、チーパを・・・!チーパを!!」
急激に声を荒げ始める青年の。
「落ち着け少年!」
「おれは!・・おれはっ・・!・・・おれはっ・・!!・・!おれ・・はっ・・!!??」
心臓を鷲掴《わしづか》むかのような彼の激情を。
「生きている!」
真っ向から返すEPFを・・・。
「おれは・・・っ・・!・・・、・・・?・・・」
「彼女は、生きている・・・――――――
―――――――?
そう。
ケイジが感じた・・。
――――――彼の表情が、すとん、と一瞬抜けたように見えた。
些細な、『なにか』だ。
いや、些細だったのか・・?
小さな羽虫が耳の傍を掠めるように通ったかのような。
左耳から、ぞくりとする『なにか』・・・ぴくりと目を左へ移すと、一瞬でひどく冷静になる・・ような、感覚があった。
現実に引き戻されていくような『なにか』・・・・見ているべきは、白熱している彼らの様子なのだが、・・なんだ、なにか・・・『違和感』・・・?・・いや・・・、変化・・・・なにかが、違う・・どうしようもない些細な違和感・・それが、『変化』―――――――『なにか』が変わっていっているような・・・今も、現在も、うつろう・・・―――――――――
足元が揺れるような・・・重力を失うような・・・それも、なにかの変化か――――――
そいつの・・・瞳に宿る、青い燐光《りんこう》の・・・『うつろい』・・再び・・・『構成』する、集約する青光が白んで『青く虹色』に――――融ける―――――『黒く虹色』――――へ瞬間、『堕ちて、溜まる』―――――――
『・・ケイジ、少し離れた方が良い・・』
――――リース
彼らの光景に留まる、2点の緑色の燐光《りんこう》を直視している、自分―――――――
「――――離れろ・・!」
認識した、ケイジが声を飛ばした。
EPFの奴が瞬間に後ろへ大きめに跳ぶ・・・!
距離を青年から更に離して。
より凶暴な感情が、攻撃性を増す―――――
青年の、彼の、それは――――――
―――――――床を蹴るように――――――踵《きびす》を返し前のめりに走り出す、もつれかけ、突然のよろめいた足に力を入れて、彼は物が散らばる床の上を――――――ガタガタンっと物に身体をぶつけても走って、誰もがいなくなった向こうへ―――――EPFの影が、一瞬で目の前に現れた、その大きな影から―――――――――必死で床をたたら踏み、足をもつれさせながら、向きを変えて――――全身が痺れ過ぎて、痙攣《けいれん》しそうな感覚の中で、それでも全身に力を入れて、踏ん張って、走った―――――――
「―――――あ、」
声を漏らしたEPFの彼は。
その青年の後ろ姿を目で追いかけていたが。
どたんばたんと。
走って行ったその姿が、角に隠れて見えなくなった。
まるで扉に身体を叩きつける勢いで、飛び出していったかのような青年を、見送っていたのだが。
・・・そのフロアでは、カラカラカラ・・と、拳銃が今も床の上で滑り回っていたが、それはEPFのそいつが蹴り出したものだ。
それは女が持っていた拳銃で、床の上で転がったままにしていたので、危険を察知して取らせまいと大きく蹴り出したのだ。
だがまあ、なんというか、あの青年はそれが目的ではなかったようで、目もくれずに方向を変えて角の向こうへ走って行った。
向こうでカカン、シャシャシャっ・・・と、と壁かなにか硬いものかに拳銃が跳ね返った音がしてた。
そう。
――――ふむ。」
その音を聞いてEPFの彼は、1つ頷いた。
それから、同じフロアでそこにいる、もう1人の青年へ振り返った。
さっき会ったばかりの奴だが、まあ、その特務協戦のそいつはこっちを見ていて、何も言ってこないが、じっ・・・とこっちを見ていた。
ついでに、その床に倒れている怪我人の女は、仰向けに呼吸はしているが、失神したままだ。
『おい、モービ―。モービ―っ、聞こえてんのか、おい・・!なにぼうっとしてんだ・・!なにか影響があったのか――――――』
耳元からは少し興奮したオペレーターの、ケラッチの声がさっきから聞こえているが。
――――――彼は息を吸い、・・ふうぅぅ・・・っと胸の奥まで息を吐きつつ。
背を起こすと、それから、ぽりぽり、頭を掻き始めた。
それから。
「ああ~、わかってるわかってる。そうだなぁ・・・。・・・なあ、」
と、ケイジに声を掛ける彼は。
「『逃がした』?って、報告するか?」
って、EPFのそいつがはっきり言ってきたので。
「逃がしたな。」
って、ケイジはちゃんと彼へ言い返しといた。
「マジか、」
ってそう、他人事《ひとごと》のようにEPFのそいつは驚いて、あっちの出入り口の方をもう一度、二度見のように振り返っていた。
何をしていたのか・・の答えを探して・・・そうだ・・、なにかの大きな影が突っ込んで来たんだ―――――次第に目の合い始める焦点の―――――――はっきりとしてきた視界にふと入った・・・傍で、倒れている人の姿―――――――
目に留めていたのは――――――変わり果てたように、倒れたその女性の―――――――横顔が、半眼に虚空を見つめている
「あ、あ、ぁあ・・・っ・・・!・・!!!?」
青年の表情が豹変《ひょうへん》した、突然喘ぎ始めたのをケイジは見ていた。
ショックを受けたようだ、喘ぎ始めるそいつへ歩み寄るEPFが気遣う。
「落ち着け少年、」
「ぁ・・っかはっ・・・!・・げほっ・・!げほ!」
「落ち着いて呼吸をしろ。もう安心だ。」
「がはっ・・・はっ・・はっ・・は・・!はぁっ・・!!・・・・・・っ・・!!」
彼は肩を、背中をさすってやる・・・――――――
まあ、知り合いだったらショックだろうな。
EPFのこいつは気づいてないかもしれないが、そこで転がってる女の仰向けの姿には。
ケイジは、耳元を抑えつつ、顔を背けつつ小声で話す・・。
「・・なぁ、救護班まだかよ?」
『そっちへ向かってる。こっちも大体は、ゴタゴタが終わって良かったよ。さすがEPFというべきでね、良いデータが採れてそうだ、』
「なにがあったんだ?」
・・ケイジが近づいて見下ろす・・・その女の姿を改めて眺めていて、わかるのは為す術《すべ》もなく気絶させられたって感じぐらいだ。
『――――後で詳しく説明するよ。あ、倒れてる犯人とかには触っちゃダメだよ。』
「わかってるよ、勝手に触ったら怒られるんだろ?」
『そう、法的に問題がある』
現場を荒らして『証拠がー』とか言われるなら、どうしようもねぇし、めんどくせぇ――――――
「・・ミリアとガイたちは、どうなんだよ?」
「ん?彼らは目の前で見れたよね。EPFが人前で武力行使するのはかなり珍しいんだから、貴重な体験だよ、」
「・・・」
「あぁ、彼らは無事だよ。心配しなくていい、」
「心配してねぇし、――――――
―――――・・ケイジは、視界に入る―――――ふと気が付く・・・その喘《あえ》いでいた青年の、なにか―――――違和感―――――
その青年は、相変わらず咳き込み乱れた苦し気な顔をしているが――――たまにわずかに開く瞼《まぶた》が―――目の、双眸《そうぼう》の色が・・黒・・よりも、僅かに変わっている・・・?・・――――――気のせいかと思ったが―――――明らかに黒ではない色へ、変わる・・・・違う、色とかじゃない―――――
―――――おい、」
ケイジが口を開いたのを、EPFのそいつは気が付き、ケイジの視線の先を見る・・・――――――――
―――――――微細な光、彼の目の周囲に集約していくような
――――――細かなまばらな光が、次第に、微細に大きくなっていく―――――――それで、瞳が色づく・・・――――――複雑な光輝が押し込められたような光の反射は一瞬で消え・・・微かな青い煌めきを残して、目の表面に一瞬で広がる涙のように、激情で歪んだ瞳の奥に――――――定着する――――――2つ目の虹彩が創られていく青い光――――――それは融《と》ける
それは―――――ほんの一瞬だ
「――――――・・特能力者か。」
そいつ、EPFのそいつの声が、落ち着き払っていた。
だが手を止めて、逡巡《しゅんじゅん》したようだ、そいつの身体に触れる手を、気遣っていた手を止めて―――――EPFのそいつは僅かに、確かに、静かな動きで半身《はんみ》への足の重心を移した――――――ケイジは視界の端で、その動きを一瞬見た。
ケイジも、ほぼ同時に、既に僅かに腰を落としていたのは、率直な勘だ・・・。
『ケイジ君、少し警戒を、発現者だ』
言われる前に、そりゃ警戒はする・・・。
あいつが攻撃してくる、とは限らない、が・・・。
ケイジが見据えている青年、未だ、深く喘《あえ》ぐ呼吸が治まらない男。
『発見時の対処プロトコル通りに行こう。この場合は、先ず会話を試みる、べきなんだが。意思疎通ができるか確認しないと、ああ、でも今はとても興奮しているから、落ち着かせないとな、あ、発現による危険性はとても低いはずだからそれも頭に入れておこう、』
アミョの声もちょっと慌てているようだが。
「はぁっ・・はぁっ・・・はぁっ・・!!」
・・苦しげだった青年の呼吸は次第にペースをつかんでいっている・・だが、青年の目は、さらに強い青い光へ変わっていくように感じる――――少しずつ、薄い青色から淡い青色へ・・・。
「落ち着け少年。深く息を吸いなさい。ここに敵はいない。」
EPFのそいつはなるべく優しい口調で声を掛ける。
神経を逆なでしないよう気を付けているのは、ケイジにもわかった。
『0.1%未満、発現現象で他人に危害を与えられる能力を持っている確率だ。危害を加えられる可能性は低い、必要以上には緊張しないで、でも油断はしないで、』
どっちだよ、とケイジは口には出さないが。
その辺のデリケートそうなのはEPFのそいつに任せる・・・が、こいつは間違いなく『発現者』で。
ケイジが感じる今の最大の疑問は、『こいつには、何ができるのか?』だ。
もしナイフ一本でも持っていれば危険なのは当たり前だが。
さらに完成している特能力者だったなら、尚更、こっちを本気で恨むようなヤツだとしたら、もっとヤバイ。
『はい、発現者と接触したようです。ええ、一般人の。EPFもいますから、様子を見て、ええ――――』
アミョが通信を切り忘れていたようだが、その声も途中で消えた。
「危害を与える者もいないんだ。落ち着いて、息を吸え、集中して、」
お前がやったんだけどな、とEPFのそいつへ思わず思ったケイジは口には出さないが――――――
―――――光・・・目の中、揺らぐ青い光・・分裂するように、他の色を吸い混ざるような、融けて揺らぐような光・・・まどろみを覚えるような光の動き・・・―――――――ゆらりと、起き上がっていた彼の――――――・・・そいつが両足で、立っていたのを――――――ケイジが気が付いたのは、そいつが既に立っていた後だった。
それに気づいても―――――――その両目の中で動く光が、なぜか気になる―――――――そいつは、俯き自分の両目を片腕で抑えた・・・不意に、歯を強く食いしばった・・・込み上げる物を、その形相からも激情が漏れ出るようで―――――――
EPFのあいつが手を伸ばす・・・わずかに距離を取っていたEPFのあいつ、青年の垂れた震えた手へ、手を伸ばそうとした・・・――――――
「・・パを・・・チーパを・・!・・・チーパを!!?!!」
彼から漏れ出た言葉は――――――『それ』か――――――
「まて・・・!」
「チーパを・・なんで・・・っ・・・!・・・?・・」
悲痛の音でしかない・・・涙の熱さを、感じさせる―――――――――
緑色の光の――――・・・いや、・・ん・・・・・青色の瞳――――――・・だろ・・・?
―――――――それは青色でしかない瞳―――――その燐光《りんこう》を、揺蕩《たゆた》う・・青光の瞳――――――――
「チーパと言うのか?彼女は・・・?」
「チーパも!EPFが・・・!!?」
拒絶の叫びが耳を突く――――――
腕の奥からはっきり見えた強い目を、青光の瞳を彼はEPFに向けて据えた――――――
「落ち着け少年!」
差し出そうとしていた手のひらを前方へ、大きく開いて見せたEPFの彼は、青年を治めるための構え、距離を留め、お互いに動くべきじゃないとその動きで伝える。
・・舌打ちが漏れるケイジは既に、EPFの彼の後ろより距離を取った場所に動いていた。
何が起きても対応できる距離、その2人が何をやらかしてもいい距離で、2人の様子から目を離さずに―――――
―――――これは、感じ、・・・めちゃめちゃ、わかりやすい展開だ。
―――――――EPFのあいつ、それに吹っ飛ばされたそいつがキレて、怒っている。
んで、たぶん倒した女とも知り合いだ、仲間だった可能性もある。
そしたら、あのEPFの野郎はどうすんだ・・・?
ただの民間人を相手に手を出すか?―――――『あいつ』はまだ無害だ、何もやっていない、ただ『キレている』だけだ――――――なら力づくで拘束しても、後でめんどくさいことになりそうだ。
もし、あいつが本当に特能力者なら?――――――次の瞬間には何かが起こるかもしれない、油断すりゃあ懐《ふところ》に入られるなり、尖ったナイフで身体のどこかを突き刺すかもしれない、そうなりゃ絶対にめんどくさい・・・いや、逆にわかりやすいかもしれないが―――――――犯罪者は制圧するだけだ、って・・・。
てことは・・・。
―――――手を出すなよ・・!」
強い声でEPFのあいつが、こっちへ言って寄越した。
顔は見えない、ケイジはそいつの背中を見て、口を閉じたが。
『彼に任せよう、マニュアルはEPFとも共有しているから』
アミョからの声に――――――
―――――ケイジは、頷く代わりに口元を強く笑ませていた。
はぁ・・っ、と震える肺の奥へ息を吸い込んで。
呼吸の奥から息を吐く―――――
――――――ふと
―――――強い笑みが薄まるのは。
――――――思い出したからだ。
・・すげぇめんどい・・・ミリアの怒り顔だ。
うちのリーダーに怒られるのが、一番めんどいんだった。
「少年、落ち着いて。今この状況は、ゆっくりと話し合い、語らう状況だ。そうだ。安全だ。君はもう安全だ。ちゃんと息を整えて・・、」
「・・チーパを・・・!チーパを、チーパを・・・!チーパを!!」
急激に声を荒げ始める青年の。
「落ち着け少年!」
「おれは!・・おれはっ・・!・・・おれはっ・・!!・・!おれ・・はっ・・!!??」
心臓を鷲掴《わしづか》むかのような彼の激情を。
「生きている!」
真っ向から返すEPFを・・・。
「おれは・・・っ・・!・・・、・・・?・・・」
「彼女は、生きている・・・――――――
―――――――?
そう。
ケイジが感じた・・。
――――――彼の表情が、すとん、と一瞬抜けたように見えた。
些細な、『なにか』だ。
いや、些細だったのか・・?
小さな羽虫が耳の傍を掠めるように通ったかのような。
左耳から、ぞくりとする『なにか』・・・ぴくりと目を左へ移すと、一瞬でひどく冷静になる・・ような、感覚があった。
現実に引き戻されていくような『なにか』・・・・見ているべきは、白熱している彼らの様子なのだが、・・なんだ、なにか・・・『違和感』・・・?・・いや・・・、変化・・・・なにかが、違う・・どうしようもない些細な違和感・・それが、『変化』―――――――『なにか』が変わっていっているような・・・今も、現在も、うつろう・・・―――――――――
足元が揺れるような・・・重力を失うような・・・それも、なにかの変化か――――――
そいつの・・・瞳に宿る、青い燐光《りんこう》の・・・『うつろい』・・再び・・・『構成』する、集約する青光が白んで『青く虹色』に――――融ける―――――『黒く虹色』――――へ瞬間、『堕ちて、溜まる』―――――――
『・・ケイジ、少し離れた方が良い・・』
――――リース
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「――――離れろ・・!」
認識した、ケイジが声を飛ばした。
EPFの奴が瞬間に後ろへ大きめに跳ぶ・・・!
距離を青年から更に離して。
より凶暴な感情が、攻撃性を増す―――――
青年の、彼の、それは――――――
―――――――床を蹴るように――――――踵《きびす》を返し前のめりに走り出す、もつれかけ、突然のよろめいた足に力を入れて、彼は物が散らばる床の上を――――――ガタガタンっと物に身体をぶつけても走って、誰もがいなくなった向こうへ―――――EPFの影が、一瞬で目の前に現れた、その大きな影から―――――――――必死で床をたたら踏み、足をもつれさせながら、向きを変えて――――全身が痺れ過ぎて、痙攣《けいれん》しそうな感覚の中で、それでも全身に力を入れて、踏ん張って、走った―――――――
「―――――あ、」
声を漏らしたEPFの彼は。
その青年の後ろ姿を目で追いかけていたが。
どたんばたんと。
走って行ったその姿が、角に隠れて見えなくなった。
まるで扉に身体を叩きつける勢いで、飛び出していったかのような青年を、見送っていたのだが。
・・・そのフロアでは、カラカラカラ・・と、拳銃が今も床の上で滑り回っていたが、それはEPFのそいつが蹴り出したものだ。
それは女が持っていた拳銃で、床の上で転がったままにしていたので、危険を察知して取らせまいと大きく蹴り出したのだ。
だがまあ、なんというか、あの青年はそれが目的ではなかったようで、目もくれずに方向を変えて角の向こうへ走って行った。
向こうでカカン、シャシャシャっ・・・と、と壁かなにか硬いものかに拳銃が跳ね返った音がしてた。
そう。
――――ふむ。」
その音を聞いてEPFの彼は、1つ頷いた。
それから、同じフロアでそこにいる、もう1人の青年へ振り返った。
さっき会ったばかりの奴だが、まあ、その特務協戦のそいつはこっちを見ていて、何も言ってこないが、じっ・・・とこっちを見ていた。
ついでに、その床に倒れている怪我人の女は、仰向けに呼吸はしているが、失神したままだ。
『おい、モービ―。モービ―っ、聞こえてんのか、おい・・!なにぼうっとしてんだ・・!なにか影響があったのか――――――』
耳元からは少し興奮したオペレーターの、ケラッチの声がさっきから聞こえているが。
――――――彼は息を吸い、・・ふうぅぅ・・・っと胸の奥まで息を吐きつつ。
背を起こすと、それから、ぽりぽり、頭を掻き始めた。
それから。
「ああ~、わかってるわかってる。そうだなぁ・・・。・・・なあ、」
と、ケイジに声を掛ける彼は。
「『逃がした』?って、報告するか?」
って、EPFのそいつがはっきり言ってきたので。
「逃がしたな。」
って、ケイジはちゃんと彼へ言い返しといた。
「マジか、」
ってそう、他人事《ひとごと》のようにEPFのそいつは驚いて、あっちの出入り口の方をもう一度、二度見のように振り返っていた。
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そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
=KBOC= 『セハザ《no1》-(1)-』L.ver
AP
キャラ文芸
1話を短いバージョンもあります。
読みやすい方をご覧になってください。内容は同じです。
******あらすじ********
のんびり砂漠をパトロールしてたミリアのチーム。
そんな警備部の仕事は重要だけれど、いつもの通りなら退屈で、お菓子を摘まんだりうたた寝するような時間のはずだった。
通信連絡があったのだ。
急な救援要請、説明は要領を得ないものでも仕事であるから仕方ない。
軽装甲車を動かし目的地へたどり着くと、そこにあった辺境の村はとても牧歌的だった。
『ブルーレイク』は、リリー・スピアーズ領の補外区に属する、NO.11の村である。
チームメンバーのミリアとケイジ、リースとガイの4人は戸惑う気持ちを少し持ちながらも。
もしかすれば・・、なかなかない経験ができるかもしれない、とちょっと期待したのは村の人たちには秘密だった。
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以下は、説明事項です。
・《no1》のお話について
<----------------:『KBOC』は『MGLD』へお話が続きます ->
*****ちなみに*****
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百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
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主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
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※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
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