34 / 41
第34記
しおりを挟む
――――ダーナトゥ隊方面への進路、村方向への進路。
第三波の攻撃ルートは両方とも塞いだ。
少なくとも索敵は充分できるし、この位置、村中のバリケードの暗闇の中から、あの新手の倒れた車両付近から離れようとする敵を射撃できる。
しかも、敵にこちらの正確な位置を知られないだろう。
辺りを見回せば、指揮下に置いた3マンセルの3チームが適当に間隔を置いた異なる位置に身を潜め車両を狙っている。
これならば簡単には車両の敵はあそこから動く事はできない、釘付けにできる。
きっと、さっきケイジが撃ったライフルの連射音を聞きつけて、集まった彼らの素早い行動だ、戦闘員として心配なく頼りにできそうだ。
状況を整えたミリアが次の事を考え始めた瞬間、ミリアから見て右隣に張った3マンセルが何かに警戒するような様子が、暗視スコープの中に見えた。
ミリアは彼らを注視する、・・・1人、背中から血が破裂したように噴出した。
そして、何処からか現れた異様な人影を見た。
盛り上がった肩周りの人影を見た瞬間、2人目が首を裂かれ膝を突いた。
素手での手刀に見えたのに、血が出たのだ。
ミリアはその瞬間、反射的に腕の中にあるアサルトライフルを肩に当て狙い構える。
標的は当然、その異様な人影。
覗き込んだライフルのスコープの中では3人目が地面に顔面を打ち付ける瞬間だった。
彼はその顔面の強打を最後に動かない。
刹那、標的と照準が合い、トリガーを引いた。
タゥンッ
ミリアの減音器付きライフルから火薬の爆発によって撃ち出された鋭い弾丸がその人影の胸へと目掛けて放たれた。
――――しかし・・、その人影は尋常でない速度で村の方へと跳ね、砂の上を転がり、四肢で張って止まった。
ミリアの弾丸は余裕を持ってかわされたと判断する。
その人影は張ったまま辺りを警戒している。
弾の出所を探しているのか、他の獲物を探しているのか。
あれが、ケイジが言っていた能力者か?
もしくは新手の能力者・・?それは、ヤバい。
その人影の存在について一通り考え終わる前に、更に奥から黒い物体が人影へと急襲をかけた。
その特能力者を追って来たのは、『ケイジ』!
そう直感したミリアは、ケイジと対峙するあの能力者へのシュートチャンスを狙う事にした。
「指示出して、このまま配置を維持。横転した車に敵を釘付けにして」
「了解」
2つの人影が高速で動くのを、・・照準の中心で追い続けるミリアは、一息を深く吸い、深く吐く・・・――――。
―――――ダッパァっ・・・と全体重で踏みつけた砂が混じった土が陥没する。
狙ったあの『獣野郎』は地面を転がり避けやがった。
逃げた左方向の奴を目尻で捉えながら、跳躍して距離を空け相対する。
既に地面に屈んだ『獣野郎』が態勢を整えていて、こっちを睨みつけている。
「さっきからっ、うぜえぇっ!!」
奴が叫ぶ。
「んだ・・?」
「俺の邪魔をする奴ぁ、ぶっ殺す!」
「んだよ、来いよおら・・・」
ケイジが言い終わらないうちに、奴が機敏な動きで体勢を更に低くした。
ヒュンッ・・
空を切る音がケイジの耳にも届く。
奴の身のこなしはケイジに襲い掛かるためではなく、何処からか飛んできた銃弾を避けるためだったようだ。
「うっぜえ!!」
吼えたその獣は更に村の奥へと駆け込んでいった。
「弾ぁ避けんのかよ・・・しかも逃げんのかよ・・」
ケイジも再び奴を追い、跳躍する―――――。
――――離れた所で狙い撃ったミリアは二度も外した事を、いや、避けられた事に、口元を閉めた、緊張の面持ちをしていた。
だが、どうしようも無い事は頭ではわかっている。
後はケイジに任せる。
そう、強く自分を言い聞かせ、当初の目標だった車両周りに潜む敵に注意を戻した――――。
―――――町中を突っ切って走る異形の男。
獣が疾走するが如く男のスピードに何とか追い縋っていたケイジだ。
が、突然、あいつが跳躍し、ある一軒の家屋の屋根へと男は一跳びで上がった。
ケイジは男を警戒し、距離を充分に空けて着地した。
「ッッッカアアァァッ!!」
およそ、獣の咆哮の如く、鬱憤している滾る激情を天空へと放っているのだろうか。
歪な屋根の上で月夜を背にしたその男、顔こそ見えないが銀色の眼光が更に異様な存在感を放っていた。
――――悪魔が、村にやって来た。――――
ケイジはその男に声を張る。
「お前、能力者か」
「・・ッカ・・、のうりょ、くしゃ?何のことだ?」
――――悪魔が・・・、・・・のう、りょくしゃ?――――
「けっ、完璧、ナチュラルかよ、にしたって、やりすぎだな」
この男、麻薬をやってるかもしれないと、ケイジは思う。
「オレのコレ、か?これが、のうりょくとか言ってんのか?」
喋りのろれつがおかしいのは能力の所為か、麻薬の所為か・・・。
「おつむは生きてるみたいだな」
「ケッ、オマエは驚いてないみたいだ、な、オマエもなれんのか、こんなな、テンション高くヨ?」
「・・俺の場合は、テンション高くなんねぇでも、強いぜ?」
「・・っひゃはっはっひゃ」
――――悪魔が笑っている。・・でも、その本性が――――
・・月の薄明りに見えるその姿、風に荒立つ長髪に逆立った部分に、獣のような長い耳が見えた気がした。
そして、腕に鋭い爪。
獣の牙のようにぎらりと、光ったように月明かりを反射した。
・・半透明なのか・・?・・薄く透き通るような・・・よく見えないが、その長めの鋭爪ならば、獲物を切り裂くのに難儀は無さそうだった。
「・・・だぁあく・・っ・・ダーク、ネイビ、グレア・・・」
「ん?」
「っつったら、この辺でも有名だと思ってたんだがよぉお」
『ダーク・ネイビ・グレア』っつったのか、こいつの名前か・・・?
「・・知らねぇ」
グレアと名乗ったその異形、随分と昂ぶりが落ち着いたらしく、最初に比べて発音に違和感は無くなってきていた。
「・・・んじゃ・・、死にゃぁわかるだろ?」
歯を食いしばるように、笑ったのか・・・言うことは物騒だが・・・。
――――・・ケイジさん・・・――――
グレアは立っていた屋根の上から跳躍し、まっすぐケイジへ飛び掛ってくる。
ケイジは構えたまま後方へ跳ぶ、距離を取るように、だがグレアの突進が目の前で両手が大きく開いた瞬間、加速度を増したケイジが横へ跳ぶ。
空を斬るグレアの両爪、刹那が追いきれなかった・・・グレアがケイジの逃げた先を睨みつける。
その着地、衝撃を感じさせず、グレアはケイジ目掛けて地を駆ける。
しなやか過ぎる筋肉、一気に距離を詰めてくる。
あまりの速度に、ケイジは肝を冷やす――――顔面に繰り出されたグレアの右爪をすれすれで避けた、地面を高速で蹴り出し捻った身体で回転した右肘撃ちを食らわす。
グレアの無防備な肩に当たった肘鉄は、盛り上がった硬すぎる筋肉が、岩に肘を当ててしまったぐらいの感触で返って来た。
ぎりっ、と歯を嚙み締めたケイジはグレアの右爪が薙ぎ払う2撃目を横の大きな跳躍で避け、距離を開ける。
さっき当てた肘が、じんじんする痛みを感じながら、体勢を整えようか・・と頭に過った瞬間に、グレアがすでに距離を詰めている。
早すぎ・・っ・・、とケイジは心の中で毒づく。
グレアのその右ショルダータックルが、ケイジの胸腹を襲う。
咄嗟にケイジは左肩を差し出し、ショルダータックルに当てる。
ガインっと、奇妙な衝撃音と共にケイジは吹っ飛ぶ。
宙で、体勢を立て直す事ができずに、ずざああぁっと砂の上を滑った。
その滑りの勢いが弱った時、ケイジは半身を返して、四肢をついた体勢へ砂上で整える。
グレアは追ってきていない。
思った通りだ、追って来れなかった。
ケイジの左肩との衝突でグレアも痛みを覚えたからだ。
そして警戒もしているか、グレアは忌々しげにケイジを睨んでいる。
それを見て取ったケイジは、仕掛ける・・・!
一つ跳び、前方に低くケイジはグレアとの距離を一息に縮める。
その驚異的な加速度にグレアは眼を見張る。
二つ目の跳躍で、ケイジは左腕を中に引き込み、両足で溜めた力を伝えた。
そして、グレアへ目掛けて左拳を思い切り突き出した衝撃を当てる・・・!
ボシュウっと音が、掠めたグレアの左頬を焼いて、左拳が後方へと飛んでいく・・・まだだ、突っ込んだ勢いのまま力を込めたケイジの二撃目、左肩がグレアの顔面を強打した。
その衝撃に首が持っていかれそうになり、・・吹っ飛ぶグレアの身体。
たまらず転倒しそうになった、だが、何度も横転した後、片膝を付いたグレアは、ケイジを殺気の篭った眼で睨む。
ぎらぎらとした銀の眼光が更に激しさを増していた。
――――すごい・・・、すごい!悪魔を、悪魔を跳ね除けれるなんて・・・!―――
宙を跳んでいる間も、横目でそれの挙動を見ていたケイジは3歩目で、ガリガリガリ・・っと片足、そして反転しつつもう片足で地面の砂を削りながら、グレアを正面に捉えつつブレーキをかける。
―――ケイジさん!すごい・・・!すごい!ケイジさん・・!・・!?――――
再び相対したグレアの口の端からは・・牙のようなものが見えていた。
さっき消えてたな・・・。
不安定だな、とその牙を確認したケイジはグレアから目を離すことをしない。
「・・・ギっ、グッ、・・ッハ・・」
・・グレアから嗚咽のような、漏らす声か・・・怒りが限界を超えたかのような、奇音が聞こえ始める・・・感情が暴れている・・か?
「グッ、・・ハッ、ッヒャッハッッシャヒャ・・・」
かろうじて・・・グレアが、笑い始めたんだという事がわかった・・・―――――。
――――――リース、応答を、リース、応答を」
『リースです。ミリア?』
「そろそろ頃合だけど、いける?」
『敵の位置は大体把握した。任務の遂行に支障は無い』
「わかった。では、今より行って下さい」
『了解』
「・・くれぐれも気をつけてね」
そう告げて、ミリアは耳元の通信機の接続を切り替えた。
第三波の攻撃ルートは両方とも塞いだ。
少なくとも索敵は充分できるし、この位置、村中のバリケードの暗闇の中から、あの新手の倒れた車両付近から離れようとする敵を射撃できる。
しかも、敵にこちらの正確な位置を知られないだろう。
辺りを見回せば、指揮下に置いた3マンセルの3チームが適当に間隔を置いた異なる位置に身を潜め車両を狙っている。
これならば簡単には車両の敵はあそこから動く事はできない、釘付けにできる。
きっと、さっきケイジが撃ったライフルの連射音を聞きつけて、集まった彼らの素早い行動だ、戦闘員として心配なく頼りにできそうだ。
状況を整えたミリアが次の事を考え始めた瞬間、ミリアから見て右隣に張った3マンセルが何かに警戒するような様子が、暗視スコープの中に見えた。
ミリアは彼らを注視する、・・・1人、背中から血が破裂したように噴出した。
そして、何処からか現れた異様な人影を見た。
盛り上がった肩周りの人影を見た瞬間、2人目が首を裂かれ膝を突いた。
素手での手刀に見えたのに、血が出たのだ。
ミリアはその瞬間、反射的に腕の中にあるアサルトライフルを肩に当て狙い構える。
標的は当然、その異様な人影。
覗き込んだライフルのスコープの中では3人目が地面に顔面を打ち付ける瞬間だった。
彼はその顔面の強打を最後に動かない。
刹那、標的と照準が合い、トリガーを引いた。
タゥンッ
ミリアの減音器付きライフルから火薬の爆発によって撃ち出された鋭い弾丸がその人影の胸へと目掛けて放たれた。
――――しかし・・、その人影は尋常でない速度で村の方へと跳ね、砂の上を転がり、四肢で張って止まった。
ミリアの弾丸は余裕を持ってかわされたと判断する。
その人影は張ったまま辺りを警戒している。
弾の出所を探しているのか、他の獲物を探しているのか。
あれが、ケイジが言っていた能力者か?
もしくは新手の能力者・・?それは、ヤバい。
その人影の存在について一通り考え終わる前に、更に奥から黒い物体が人影へと急襲をかけた。
その特能力者を追って来たのは、『ケイジ』!
そう直感したミリアは、ケイジと対峙するあの能力者へのシュートチャンスを狙う事にした。
「指示出して、このまま配置を維持。横転した車に敵を釘付けにして」
「了解」
2つの人影が高速で動くのを、・・照準の中心で追い続けるミリアは、一息を深く吸い、深く吐く・・・――――。
―――――ダッパァっ・・・と全体重で踏みつけた砂が混じった土が陥没する。
狙ったあの『獣野郎』は地面を転がり避けやがった。
逃げた左方向の奴を目尻で捉えながら、跳躍して距離を空け相対する。
既に地面に屈んだ『獣野郎』が態勢を整えていて、こっちを睨みつけている。
「さっきからっ、うぜえぇっ!!」
奴が叫ぶ。
「んだ・・?」
「俺の邪魔をする奴ぁ、ぶっ殺す!」
「んだよ、来いよおら・・・」
ケイジが言い終わらないうちに、奴が機敏な動きで体勢を更に低くした。
ヒュンッ・・
空を切る音がケイジの耳にも届く。
奴の身のこなしはケイジに襲い掛かるためではなく、何処からか飛んできた銃弾を避けるためだったようだ。
「うっぜえ!!」
吼えたその獣は更に村の奥へと駆け込んでいった。
「弾ぁ避けんのかよ・・・しかも逃げんのかよ・・」
ケイジも再び奴を追い、跳躍する―――――。
――――離れた所で狙い撃ったミリアは二度も外した事を、いや、避けられた事に、口元を閉めた、緊張の面持ちをしていた。
だが、どうしようも無い事は頭ではわかっている。
後はケイジに任せる。
そう、強く自分を言い聞かせ、当初の目標だった車両周りに潜む敵に注意を戻した――――。
―――――町中を突っ切って走る異形の男。
獣が疾走するが如く男のスピードに何とか追い縋っていたケイジだ。
が、突然、あいつが跳躍し、ある一軒の家屋の屋根へと男は一跳びで上がった。
ケイジは男を警戒し、距離を充分に空けて着地した。
「ッッッカアアァァッ!!」
およそ、獣の咆哮の如く、鬱憤している滾る激情を天空へと放っているのだろうか。
歪な屋根の上で月夜を背にしたその男、顔こそ見えないが銀色の眼光が更に異様な存在感を放っていた。
――――悪魔が、村にやって来た。――――
ケイジはその男に声を張る。
「お前、能力者か」
「・・ッカ・・、のうりょ、くしゃ?何のことだ?」
――――悪魔が・・・、・・・のう、りょくしゃ?――――
「けっ、完璧、ナチュラルかよ、にしたって、やりすぎだな」
この男、麻薬をやってるかもしれないと、ケイジは思う。
「オレのコレ、か?これが、のうりょくとか言ってんのか?」
喋りのろれつがおかしいのは能力の所為か、麻薬の所為か・・・。
「おつむは生きてるみたいだな」
「ケッ、オマエは驚いてないみたいだ、な、オマエもなれんのか、こんなな、テンション高くヨ?」
「・・俺の場合は、テンション高くなんねぇでも、強いぜ?」
「・・っひゃはっはっひゃ」
――――悪魔が笑っている。・・でも、その本性が――――
・・月の薄明りに見えるその姿、風に荒立つ長髪に逆立った部分に、獣のような長い耳が見えた気がした。
そして、腕に鋭い爪。
獣の牙のようにぎらりと、光ったように月明かりを反射した。
・・半透明なのか・・?・・薄く透き通るような・・・よく見えないが、その長めの鋭爪ならば、獲物を切り裂くのに難儀は無さそうだった。
「・・・だぁあく・・っ・・ダーク、ネイビ、グレア・・・」
「ん?」
「っつったら、この辺でも有名だと思ってたんだがよぉお」
『ダーク・ネイビ・グレア』っつったのか、こいつの名前か・・・?
「・・知らねぇ」
グレアと名乗ったその異形、随分と昂ぶりが落ち着いたらしく、最初に比べて発音に違和感は無くなってきていた。
「・・・んじゃ・・、死にゃぁわかるだろ?」
歯を食いしばるように、笑ったのか・・・言うことは物騒だが・・・。
――――・・ケイジさん・・・――――
グレアは立っていた屋根の上から跳躍し、まっすぐケイジへ飛び掛ってくる。
ケイジは構えたまま後方へ跳ぶ、距離を取るように、だがグレアの突進が目の前で両手が大きく開いた瞬間、加速度を増したケイジが横へ跳ぶ。
空を斬るグレアの両爪、刹那が追いきれなかった・・・グレアがケイジの逃げた先を睨みつける。
その着地、衝撃を感じさせず、グレアはケイジ目掛けて地を駆ける。
しなやか過ぎる筋肉、一気に距離を詰めてくる。
あまりの速度に、ケイジは肝を冷やす――――顔面に繰り出されたグレアの右爪をすれすれで避けた、地面を高速で蹴り出し捻った身体で回転した右肘撃ちを食らわす。
グレアの無防備な肩に当たった肘鉄は、盛り上がった硬すぎる筋肉が、岩に肘を当ててしまったぐらいの感触で返って来た。
ぎりっ、と歯を嚙み締めたケイジはグレアの右爪が薙ぎ払う2撃目を横の大きな跳躍で避け、距離を開ける。
さっき当てた肘が、じんじんする痛みを感じながら、体勢を整えようか・・と頭に過った瞬間に、グレアがすでに距離を詰めている。
早すぎ・・っ・・、とケイジは心の中で毒づく。
グレアのその右ショルダータックルが、ケイジの胸腹を襲う。
咄嗟にケイジは左肩を差し出し、ショルダータックルに当てる。
ガインっと、奇妙な衝撃音と共にケイジは吹っ飛ぶ。
宙で、体勢を立て直す事ができずに、ずざああぁっと砂の上を滑った。
その滑りの勢いが弱った時、ケイジは半身を返して、四肢をついた体勢へ砂上で整える。
グレアは追ってきていない。
思った通りだ、追って来れなかった。
ケイジの左肩との衝突でグレアも痛みを覚えたからだ。
そして警戒もしているか、グレアは忌々しげにケイジを睨んでいる。
それを見て取ったケイジは、仕掛ける・・・!
一つ跳び、前方に低くケイジはグレアとの距離を一息に縮める。
その驚異的な加速度にグレアは眼を見張る。
二つ目の跳躍で、ケイジは左腕を中に引き込み、両足で溜めた力を伝えた。
そして、グレアへ目掛けて左拳を思い切り突き出した衝撃を当てる・・・!
ボシュウっと音が、掠めたグレアの左頬を焼いて、左拳が後方へと飛んでいく・・・まだだ、突っ込んだ勢いのまま力を込めたケイジの二撃目、左肩がグレアの顔面を強打した。
その衝撃に首が持っていかれそうになり、・・吹っ飛ぶグレアの身体。
たまらず転倒しそうになった、だが、何度も横転した後、片膝を付いたグレアは、ケイジを殺気の篭った眼で睨む。
ぎらぎらとした銀の眼光が更に激しさを増していた。
――――すごい・・・、すごい!悪魔を、悪魔を跳ね除けれるなんて・・・!―――
宙を跳んでいる間も、横目でそれの挙動を見ていたケイジは3歩目で、ガリガリガリ・・っと片足、そして反転しつつもう片足で地面の砂を削りながら、グレアを正面に捉えつつブレーキをかける。
―――ケイジさん!すごい・・・!すごい!ケイジさん・・!・・!?――――
再び相対したグレアの口の端からは・・牙のようなものが見えていた。
さっき消えてたな・・・。
不安定だな、とその牙を確認したケイジはグレアから目を離すことをしない。
「・・・ギっ、グッ、・・ッハ・・」
・・グレアから嗚咽のような、漏らす声か・・・怒りが限界を超えたかのような、奇音が聞こえ始める・・・感情が暴れている・・か?
「グッ、・・ハッ、ッヒャッハッッシャヒャ・・・」
かろうじて・・・グレアが、笑い始めたんだという事がわかった・・・―――――。
――――――リース、応答を、リース、応答を」
『リースです。ミリア?』
「そろそろ頃合だけど、いける?」
『敵の位置は大体把握した。任務の遂行に支障は無い』
「わかった。では、今より行って下さい」
『了解』
「・・くれぐれも気をつけてね」
そう告げて、ミリアは耳元の通信機の接続を切り替えた。
0
****************************************************『KBOC』を読んでくれてありがとうございました。そして、お話は『セハザ《no1》-(2)- 』へ続きます。ー>https://www.alphapolis.co.jp/novel/295123493/94640929
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
セハザ《no2EX》 ~ エルにアヴェエ・ハァヴィを添えたら ~
AP
キャラ文芸
ドアを開けて覗いた。
外は静かで、もう皆学校に行ってて、誰もいなくて。
私は外をちょっと覗いて、あっちの方もこっちの方も見て。
遠くの廊下の先では太陽の白い光が床に差し込んでるのが見えた。
私は。
私は・・・。
少しの間、静かな廊下の周りを見ていて。
それから、やっぱり、頭を引っ込めて。
部屋の扉をゆっくり閉めた。
《『あの子』と少女は少しずつ、少しずつ、変わって・・・いく?》
《取り巻く世界も変わって・・・いく?》
**********
*只今、他の小説を執筆中です。
*そちらが落ち着いてから、《no2EX》を再開しようと思っています。
*****
・この作品は「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています。

龍神村の幼馴染と僕
栗金団(くりきんとん)
ファンタジー
中学生の鹿野一角は、シングルマザーの母の入院に伴いおばの家がある山間部の龍神村に越してくる。
しかし同い年のいとこの北斗は思春期からか冷たく、居心地の悪さを感じて一人自転車で村を回ることにする。
小学校や田んぼ道を走りながら、幼いころ夏休みの間に訪れた記憶を思い起こす一角。
記憶では一角と北斗、さらにいつも遊んでいる女の子がいた。
最後に龍神神社を訪れた一角は、古びた神社で懐かしい声を聞く。
自身を「いっくん」と呼ぶ巫女服姿の少女の名はタツミ。彼女はかつての遊び相手であり、当時と同じ姿形で一角の前に現れた。
「いっくん、久しぶりだね!」
懐かしい思い出に浸りながら、昔と変わらず接するタツミと子供のように遊ぶ一角。
しかしその夜、いとこからある質問をされる。
「ねぇ一角、神域に行ってないよね?」
その一言から、一角は龍神村とタツミの違和感に触れることとなる。
《SSTG》『セハザ《no1》-(3)-』
AP
キャラ文芸
『SSTG』はセハザ《no1》の第3作目に当たります。<不定期ですが更新継続中>
*****あらすじ*****
路地裏、明かりの届かない建物の狭間で響く声。
人影が人を殴り倒す。
水に濡れ妖しく光る固い地面は、遠くのネオンの鮮烈な原色の灯りを朧気《おぼろげ》に反射させて。
――――――違和感・・・異様な感覚・・それは、水たまりに反射した、自分の顔の辺りだった・・僅かに緑色の光が、漂った一瞬の――――――おい、どうした?大丈夫か?チャイロ、」
肩を掴まれて起こされる、自分を見つめる彼は・・・。
「・・え、・・あ、ああ、大丈夫・・・、ウルク、」
―――――彼らを見下ろすような夜空に、白く孤高のリリー・スピアーズが常にそびえ立つ。
【SSTG 『セハザ《no1》-(3)- 』】
**********
不定期更新中です。
次話がいつになるかわかりません。
気になる方は、良ければフォロー等をお願い致します。
*************************************
以下は、説明事項です。
*****ナンバリング説明*****
・セハザno1の『no1』の部分は。主人公の違いです。(たぶん。
セハザシリーズに世界観の繋がりはありますが、話は独立しています。
前後の経過はありますが、基本的にはどのナンバーから読んでも大丈夫です。
*****ちなみに*****
・この作品は「カクヨム」にも掲載しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ナマズの器
螢宮よう
キャラ文芸
時は、多種多様な文化が溶け合いはじめた時代の赤い髪の少女の物語。
不遇な赤い髪の女の子が過去、神様、因縁に巻き込まれながらも前向きに頑張り大好きな人たちを守ろうと奔走する和風ファンタジー。
おっ☆パラ
うらたきよひこ
キャラ文芸
こんなハーレム展開あり? これがおっさんパラダイスか!?
新米サラリーマンの佐藤一真がなぜかおじさんたちにモテまくる。大学教授やガテン系現場監督、エリートコンサル、老舗料理長、はたまた流浪のバーテンダーまで、個性派ぞろい。どこがそんなに“おじさん心”をくすぐるのか? その天賦の“モテ力”をご覧あれ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる