15 / 41
第15記
しおりを挟む
「今回のは『嫌な予感』だ。」
――――さっきから何度か出ていた、その不可思議な言葉。
この村で、特別な意味を持つ類の何かなのだろうか。
伝統的な『おまじない』を信じている、と言われても驚かないつもりだ、彼らの暮らす様子や風景を見ていればそれも納得できるから。
「状況がだいぶ変わってくる。」
まあ、『それ』がアシャカさんたちが危険視するもの、という意味は推測できてるが、曖昧すぎていまいち想定する状況整理には組み込めない。
「嫌な予感って・・・」
ミリアが反芻する。
「この場合、敵の攻撃が事前に察知できているという状況ではある。
これは無条件で信じてくれ。
なのでこの場合、最初から村の中央に本隊と言える主力を集めておき、小戦力の見張りの人数を増やし、厳戒態勢を取る。
増やした見張りは村の境界にも配備しておく。
敵が来たらその地点へ主力が移動し、フェンスを挟んで主力が援護射撃し防衛を固めるやり方だ。」
「今回もその中央に前線を作る作戦でいくという事ですか?」
「そうだ。
だが、今回は主力を二手に分ける準備をしておく。
ファーストアタックを主力で応戦するが、その際に主力から数人を残しセカンドアタックに備える。
その際、人数が足りなくなるので見張り要員は2人に留めておく。」
「敵の人数が分からない以上、薄く伸びる戦線を自ら張るよりも、複数箇所の突破に備えて要所への人員移動を円滑に行うんですね」
「・・そうだな。あとはなんだったか・・・」
「質問いいですか?」
「おう」
「持久戦を覚悟だと思いますけど、食料などの備蓄はどうですか?」
「事前に分かっていた事もあって充分確保している。」
そもそも、敵には射撃をしのぐ遮蔽物が用意されていない状況だ。
敵が複数の車両を持つ総力戦でくるなら、意図せずとも戦線は薄く延びていく。
弾の補給を途切れさせなければ、持久戦で相手の動きを制限する作戦は有効で、戦場のコントロールはこちらの圧倒的に有利なのは変わらない。
けど、相手がそこまで考えなしじゃなかった場合。
相手が取るべき方法はなんだろうか・・・?この防衛陣の穴を突破するための方法・・・?
「見晴らしの良いフェンスの外から、俺たちの人数で張る弾幕をやすやすと防衛線を突破できるほど大人数をかけれる奴らなんていない。いたとしたら、軍隊だな、はっはっは・・とまぁ、話はこれくらいだ。」
アシャカさんは冗談を言うような余裕があるみたいだ。
彼が話を終えたのを見計らって、ミリアが口を開く。
「質問いいですか?」
「もちろんだ、」
「崖は?」
そう、彼らは村の外からの攻撃に備えているが、村の背面にある巨大な断崖は、とても特殊な存在だ。
崖からのルートは想定しているのだろうか?
「あれは普通の人間には無理だ。切り立っていてよく見れば反っているんだ。クライミングの技術があればわからないが、あそこから降りるのは自殺行為に等しい。」
「なるほど。」
村の背面の崖から侵入できない理由は納得できる。
彼らが想定しているのはディッグであり特殊部隊なんかではない。
そもそも装備も充分に整っている特殊部隊が攻めてくるのだったら、崖上から襲撃をかける必要もないはずだ。
この村をもっと簡単に攻略する方法はいくらでも思いつく。
「他の質問を。いま、私たちに詳しい情報を渡したということは、『そのとき』が近づいてきているということですか?」
そう、このタイミングということは、私たちが知る必要がある段階だということ、とも受け取れる。
―――――ダーナトゥは・・・ミリアを見つめていたままで・・アシャカが、ミリアを見ていた顔が、にぃっと笑う。
「その通りだ。」
はっきり伝えたアシャカを、ダーナトゥは振り返っていた。
「そして、相変わらずその情報源はこちらへ示せないと?」
「その通りだ。」
『私たちはまだそちらの言う事を信じたわけではない』、そういう意味とも取れるミリアの言葉へ、アシャカは即答していた。
だから、ミリアが答える言葉は1つだけだ。
「わかりました。」
「勘違いしないでくれ。事態を見て、もっと詳しい情報を必ず渡す。」
アシャカがそう真っ直ぐに見つめてくる双眸《そうぼう》を、ミリアは受け止めていた――――――
事態が動いたとき、つまり、もっと切羽詰まってきたときに必ず助けを求めるということだろう。
その対応に不満が無いわけじゃないが・・・。
「手遅れになる可能性もありますよ」
「わかっている。だが、頼む。」
頑《かたく》なに、情報源は未だに言えないようだ。
それだけ意固地になる理由も、最早強く追及してでも、って気になるレベルだが。
「わかりました。私のほうからも少し。」
「おう、納得できないだろうからな。いくらでも答えるぞ。」
「いえ、それじゃなくて、本部から受けた命令の指針です」
「お、進展か?」
「えーと・・、単刀直入に言えば、今すぐの増援はありません。」
「ふむ・・」
「しかし、私たちは数日の間ここブルーレイクに逗留し、状況報告せよとの事です」
「ふむ、およそ昨日、貴方が言ったとおりになったな」
「ええ、こればかりはどうしようもありません。」
「ん、・・ああ。増援が見込めそうであるだけ、感謝はしているよ。それに貴方たちはいて下さる。」
にぃっとアシャカは口端を上げて。
その言葉は社交辞令でも、嫌味を含んだもので無いのだとミリアは思える。
だから、アシャカの笑顔を、ミリアも微笑みで返した。
「それで、こちらの戦力を聞いてもよろしいですか」
「あぁ、言ってなかったな。銃を撃てるのは40名以上、その程度だ。」
一個小隊規模もいるのか、確かによほどの戦力だ。
少なくとも、このブルーレイクを守るには十分カバーできる戦力だとミリアは思った――――。
「で、つまりどういうことだ?」
「話聞いときなさいよ」
開き直って聞いてくるケイジに、ミリアはお決まりの注意をしてた。
「おう、」
というか悪びれることが頭にないケイジで。
・・一旦、口を閉じたミリアはそれから、ガイへ振り返って。
「ガイお願い」
「俺か、」
ガイに丸投げしておいて、ドアの外、村長宅の軒先から顔を出したミリアは、歩いて外の扉の傍の日陰で思い切り空に向かって伸びをしていた。
一足先に戻ったアシャカさんたちからしっかり説明が聞けたし、それらを頭の中で整理しつつ、軒先から見える村の景色を眺めてる。
「暗くなってきたな」
ケイジが顔を出してそう言ってた。
確かに、村は日陰で暗くなってきている。
昼を過ぎたあたりから崖の方の影がくっきりと、日向と日陰を分けている。
村の人たちも広がる日陰の中を歩いて快適そうだ。
「もう少し歩こうか、」
ミリアは他の3人に告げて。
「まだ行ってないところあったか?」
「逆側の方とか、歩きながらケイジ達に説明してて、」
「げ、」
「状況理解しとかないと、いざという時に動けないでしょ」
嫌な顔をしてるケイジに言ったミリアが歩き出す。
リースはお腹が膨れたからか、もうぼうっとしているような、眠そうだけど。
ミリアは肩越しに他の3人が付いてきているのを認めつつ。
ガイが掻い摘んで話す声を聞きながら、食後の散歩でもあるので、のんびりとした足取りで4人はまた村をぶらつくか、辺りに日陰が多くなった村の中を散歩することにした。
―――――アシャカさんたちCross Handerは私たちを疎外するつもりもないようなのも、一先ず安心していいだろう。
敵の情報も、時が来たら共有すると言っていたし。
まあそのお陰で、思ったより長くなったミーティングは、昼の遅めの時間までになって。
休憩を挟んだ時にお茶を貰ったついでに、それを淹れた水筒をぶら下げて再び4人は村を歩いている。
彼らはのんびりとした観光客の雰囲気を漂わせつつも、さっき聞いた村の地図を照らし合わせながら、実際の防備を自分の目で見回りながら、たまに村の人に話しかけて話を聞いたりしていた。
地形的には村の北側が大きな崖となっており、この切り立った急斜面、一部反り返っているので人が降りてくるのはほぼ不可能だ。
これも話の通りだ、専門の装備なしには登れない山と言ってもいいかもしれない。
他にも、フェンス、戦闘員の詰め所なども確認したが大体が話の通りだった。
そして、Cross Handerについて歩いている人へ何回か尋ねても、村の人からはやはり信頼が厚い事が伝わってくる。
彼らは頼りになる、とか、家族や親戚がそこにいるとか。
この村は、間違いなくCross Handerの彼らと共に立っている。
だから・・・間違いないんだけれど。
でもなんだか、なんだろう。
なにかはわからないんだけれど、得体の知れないなにかが、なにかの虚構が、この景色のどこかに紛れ込んでいるような。
・・・遠くの景色が、現実感が薄い村の景色に私がいるからか。
・・ああ、そうか、・・・ここにいるのが、私の夢の中の様な気がしているのかもしれない。
―――――・・『あの景色』に、よく似ているような気がしているからか・・・たしかに、重なる。
――――・・・やっぱり、よくわからない。
――――――あのとき、アシャカさんが私へ真っ直ぐに向けていた真摯《しんし》な目は、信じても良いんだろうか。
―――――私は、流されないように、彼の目を受け止め、見つめ返していたはずだけれど。
・・・彼が言う、『必ず情報を渡す』という状況は、事態が動いたときのことで、つまり、もっと切羽詰まってきたときに必ず助けを求めるということだろう。
でも、その状況だけで、そうなったときの方が状況がヤバいはずだ。
こっちとしては、できればもっと早く情報共有してもらう方が助かるのだが。
みんなの安全が確保できなくなり、手遅れになる可能性だって高い。
もちろん、『みんな』というのは私たちも含まれている。
ここには命令で来ているのであって、隊のみんなを無為に危険にさらすわけにもいかない。
せめて情報源さえわかれば、調査できるはず。
警備部の協力も得られるかもしれないし、私たちが真偽を確かめれば確実に増援は来る。
ただ、それも今は皆目見当がつかない。
村の中を歩き回っていても、特別な何かがあるようには思えないし。
・・私たちに情報源を譲らないのは、なぜだろう。
『情報源』である何かを、隠している・・・、隠すのなら、大切なもの・・・、大切にしたがっている・・のか。
警備部に知られてはいけない、『大切なもの』・・・がある、ということか。
・・Cross Handerの人たちが嘘を吐いていないのなら、が前提の仮定だけれど。
・・・Cross Hander側にも理由はあるんだろうけれど。
その理由がわからなければ、こちらが動くことはできない。
私たちもほとんど動けない。
そういうことだ・・。
もし・・・。
もしも、手遅れになったら。
・・・場合によっては『放棄』せざるを得ない・・・。
――――私たちには、ブルーレイク警護の命令は出ていない。
避難の手伝いはできるかもしれない、けれど、彼らが動こうとしていない現在は、私たちにできることはきっと多くないんだろう。
―――つまり、そういうことだ・・・。
・・・・さて、どうするか、私たち・・。
日陰から少しずつ日が傾き始め、日陰を増していく村の景色を眺めているミリアは、変わりない村のひなびた、のどかな光景へ顔を上げて。
ケイジやリースがその辺の子供たちと遊んでいるのを眺めてた。
わーわーやってるケイジは男の子のガキ大将って感じだし、意外にもリースも子供にまとわりつかれているのは、中性的な印象だし、長い金髪が小さな女の子に人気みたいで、たまに引っ張られている。
そして、リースは逃げたそうだ。
「っていうか、」
ミリアの声に。
「ん?」
傍のガイが気づいて。
「子供に好かれやすいのね」
「ケイジはハマってるのな」
ケイジはそれっぽいから、ガイが面白そうに笑ってた。
「リースは女の子にモテてるのも意外だが、羨ましいよな」
って、ガイは冗談なのか本心なのか、後でリース達をからかうのかもしれない。
「ガイは大きすぎるのかな?」
「そうだな、近づいてみるか?」
「怖がらせないでよ?」
「ナイスガイなのにな。」
って、笑ってるガイだ。
まあ、ケイジは男の子たちに偉そうにしてたり、なんか張り合ってたりで、子供たちと一緒に遊んでるのは、なんか気が合うみたい、っていう感じだった。
――――さっきから何度か出ていた、その不可思議な言葉。
この村で、特別な意味を持つ類の何かなのだろうか。
伝統的な『おまじない』を信じている、と言われても驚かないつもりだ、彼らの暮らす様子や風景を見ていればそれも納得できるから。
「状況がだいぶ変わってくる。」
まあ、『それ』がアシャカさんたちが危険視するもの、という意味は推測できてるが、曖昧すぎていまいち想定する状況整理には組み込めない。
「嫌な予感って・・・」
ミリアが反芻する。
「この場合、敵の攻撃が事前に察知できているという状況ではある。
これは無条件で信じてくれ。
なのでこの場合、最初から村の中央に本隊と言える主力を集めておき、小戦力の見張りの人数を増やし、厳戒態勢を取る。
増やした見張りは村の境界にも配備しておく。
敵が来たらその地点へ主力が移動し、フェンスを挟んで主力が援護射撃し防衛を固めるやり方だ。」
「今回もその中央に前線を作る作戦でいくという事ですか?」
「そうだ。
だが、今回は主力を二手に分ける準備をしておく。
ファーストアタックを主力で応戦するが、その際に主力から数人を残しセカンドアタックに備える。
その際、人数が足りなくなるので見張り要員は2人に留めておく。」
「敵の人数が分からない以上、薄く伸びる戦線を自ら張るよりも、複数箇所の突破に備えて要所への人員移動を円滑に行うんですね」
「・・そうだな。あとはなんだったか・・・」
「質問いいですか?」
「おう」
「持久戦を覚悟だと思いますけど、食料などの備蓄はどうですか?」
「事前に分かっていた事もあって充分確保している。」
そもそも、敵には射撃をしのぐ遮蔽物が用意されていない状況だ。
敵が複数の車両を持つ総力戦でくるなら、意図せずとも戦線は薄く延びていく。
弾の補給を途切れさせなければ、持久戦で相手の動きを制限する作戦は有効で、戦場のコントロールはこちらの圧倒的に有利なのは変わらない。
けど、相手がそこまで考えなしじゃなかった場合。
相手が取るべき方法はなんだろうか・・・?この防衛陣の穴を突破するための方法・・・?
「見晴らしの良いフェンスの外から、俺たちの人数で張る弾幕をやすやすと防衛線を突破できるほど大人数をかけれる奴らなんていない。いたとしたら、軍隊だな、はっはっは・・とまぁ、話はこれくらいだ。」
アシャカさんは冗談を言うような余裕があるみたいだ。
彼が話を終えたのを見計らって、ミリアが口を開く。
「質問いいですか?」
「もちろんだ、」
「崖は?」
そう、彼らは村の外からの攻撃に備えているが、村の背面にある巨大な断崖は、とても特殊な存在だ。
崖からのルートは想定しているのだろうか?
「あれは普通の人間には無理だ。切り立っていてよく見れば反っているんだ。クライミングの技術があればわからないが、あそこから降りるのは自殺行為に等しい。」
「なるほど。」
村の背面の崖から侵入できない理由は納得できる。
彼らが想定しているのはディッグであり特殊部隊なんかではない。
そもそも装備も充分に整っている特殊部隊が攻めてくるのだったら、崖上から襲撃をかける必要もないはずだ。
この村をもっと簡単に攻略する方法はいくらでも思いつく。
「他の質問を。いま、私たちに詳しい情報を渡したということは、『そのとき』が近づいてきているということですか?」
そう、このタイミングということは、私たちが知る必要がある段階だということ、とも受け取れる。
―――――ダーナトゥは・・・ミリアを見つめていたままで・・アシャカが、ミリアを見ていた顔が、にぃっと笑う。
「その通りだ。」
はっきり伝えたアシャカを、ダーナトゥは振り返っていた。
「そして、相変わらずその情報源はこちらへ示せないと?」
「その通りだ。」
『私たちはまだそちらの言う事を信じたわけではない』、そういう意味とも取れるミリアの言葉へ、アシャカは即答していた。
だから、ミリアが答える言葉は1つだけだ。
「わかりました。」
「勘違いしないでくれ。事態を見て、もっと詳しい情報を必ず渡す。」
アシャカがそう真っ直ぐに見つめてくる双眸《そうぼう》を、ミリアは受け止めていた――――――
事態が動いたとき、つまり、もっと切羽詰まってきたときに必ず助けを求めるということだろう。
その対応に不満が無いわけじゃないが・・・。
「手遅れになる可能性もありますよ」
「わかっている。だが、頼む。」
頑《かたく》なに、情報源は未だに言えないようだ。
それだけ意固地になる理由も、最早強く追及してでも、って気になるレベルだが。
「わかりました。私のほうからも少し。」
「おう、納得できないだろうからな。いくらでも答えるぞ。」
「いえ、それじゃなくて、本部から受けた命令の指針です」
「お、進展か?」
「えーと・・、単刀直入に言えば、今すぐの増援はありません。」
「ふむ・・」
「しかし、私たちは数日の間ここブルーレイクに逗留し、状況報告せよとの事です」
「ふむ、およそ昨日、貴方が言ったとおりになったな」
「ええ、こればかりはどうしようもありません。」
「ん、・・ああ。増援が見込めそうであるだけ、感謝はしているよ。それに貴方たちはいて下さる。」
にぃっとアシャカは口端を上げて。
その言葉は社交辞令でも、嫌味を含んだもので無いのだとミリアは思える。
だから、アシャカの笑顔を、ミリアも微笑みで返した。
「それで、こちらの戦力を聞いてもよろしいですか」
「あぁ、言ってなかったな。銃を撃てるのは40名以上、その程度だ。」
一個小隊規模もいるのか、確かによほどの戦力だ。
少なくとも、このブルーレイクを守るには十分カバーできる戦力だとミリアは思った――――。
「で、つまりどういうことだ?」
「話聞いときなさいよ」
開き直って聞いてくるケイジに、ミリアはお決まりの注意をしてた。
「おう、」
というか悪びれることが頭にないケイジで。
・・一旦、口を閉じたミリアはそれから、ガイへ振り返って。
「ガイお願い」
「俺か、」
ガイに丸投げしておいて、ドアの外、村長宅の軒先から顔を出したミリアは、歩いて外の扉の傍の日陰で思い切り空に向かって伸びをしていた。
一足先に戻ったアシャカさんたちからしっかり説明が聞けたし、それらを頭の中で整理しつつ、軒先から見える村の景色を眺めてる。
「暗くなってきたな」
ケイジが顔を出してそう言ってた。
確かに、村は日陰で暗くなってきている。
昼を過ぎたあたりから崖の方の影がくっきりと、日向と日陰を分けている。
村の人たちも広がる日陰の中を歩いて快適そうだ。
「もう少し歩こうか、」
ミリアは他の3人に告げて。
「まだ行ってないところあったか?」
「逆側の方とか、歩きながらケイジ達に説明してて、」
「げ、」
「状況理解しとかないと、いざという時に動けないでしょ」
嫌な顔をしてるケイジに言ったミリアが歩き出す。
リースはお腹が膨れたからか、もうぼうっとしているような、眠そうだけど。
ミリアは肩越しに他の3人が付いてきているのを認めつつ。
ガイが掻い摘んで話す声を聞きながら、食後の散歩でもあるので、のんびりとした足取りで4人はまた村をぶらつくか、辺りに日陰が多くなった村の中を散歩することにした。
―――――アシャカさんたちCross Handerは私たちを疎外するつもりもないようなのも、一先ず安心していいだろう。
敵の情報も、時が来たら共有すると言っていたし。
まあそのお陰で、思ったより長くなったミーティングは、昼の遅めの時間までになって。
休憩を挟んだ時にお茶を貰ったついでに、それを淹れた水筒をぶら下げて再び4人は村を歩いている。
彼らはのんびりとした観光客の雰囲気を漂わせつつも、さっき聞いた村の地図を照らし合わせながら、実際の防備を自分の目で見回りながら、たまに村の人に話しかけて話を聞いたりしていた。
地形的には村の北側が大きな崖となっており、この切り立った急斜面、一部反り返っているので人が降りてくるのはほぼ不可能だ。
これも話の通りだ、専門の装備なしには登れない山と言ってもいいかもしれない。
他にも、フェンス、戦闘員の詰め所なども確認したが大体が話の通りだった。
そして、Cross Handerについて歩いている人へ何回か尋ねても、村の人からはやはり信頼が厚い事が伝わってくる。
彼らは頼りになる、とか、家族や親戚がそこにいるとか。
この村は、間違いなくCross Handerの彼らと共に立っている。
だから・・・間違いないんだけれど。
でもなんだか、なんだろう。
なにかはわからないんだけれど、得体の知れないなにかが、なにかの虚構が、この景色のどこかに紛れ込んでいるような。
・・・遠くの景色が、現実感が薄い村の景色に私がいるからか。
・・ああ、そうか、・・・ここにいるのが、私の夢の中の様な気がしているのかもしれない。
―――――・・『あの景色』に、よく似ているような気がしているからか・・・たしかに、重なる。
――――・・・やっぱり、よくわからない。
――――――あのとき、アシャカさんが私へ真っ直ぐに向けていた真摯《しんし》な目は、信じても良いんだろうか。
―――――私は、流されないように、彼の目を受け止め、見つめ返していたはずだけれど。
・・・彼が言う、『必ず情報を渡す』という状況は、事態が動いたときのことで、つまり、もっと切羽詰まってきたときに必ず助けを求めるということだろう。
でも、その状況だけで、そうなったときの方が状況がヤバいはずだ。
こっちとしては、できればもっと早く情報共有してもらう方が助かるのだが。
みんなの安全が確保できなくなり、手遅れになる可能性だって高い。
もちろん、『みんな』というのは私たちも含まれている。
ここには命令で来ているのであって、隊のみんなを無為に危険にさらすわけにもいかない。
せめて情報源さえわかれば、調査できるはず。
警備部の協力も得られるかもしれないし、私たちが真偽を確かめれば確実に増援は来る。
ただ、それも今は皆目見当がつかない。
村の中を歩き回っていても、特別な何かがあるようには思えないし。
・・私たちに情報源を譲らないのは、なぜだろう。
『情報源』である何かを、隠している・・・、隠すのなら、大切なもの・・・、大切にしたがっている・・のか。
警備部に知られてはいけない、『大切なもの』・・・がある、ということか。
・・Cross Handerの人たちが嘘を吐いていないのなら、が前提の仮定だけれど。
・・・Cross Hander側にも理由はあるんだろうけれど。
その理由がわからなければ、こちらが動くことはできない。
私たちもほとんど動けない。
そういうことだ・・。
もし・・・。
もしも、手遅れになったら。
・・・場合によっては『放棄』せざるを得ない・・・。
――――私たちには、ブルーレイク警護の命令は出ていない。
避難の手伝いはできるかもしれない、けれど、彼らが動こうとしていない現在は、私たちにできることはきっと多くないんだろう。
―――つまり、そういうことだ・・・。
・・・・さて、どうするか、私たち・・。
日陰から少しずつ日が傾き始め、日陰を増していく村の景色を眺めているミリアは、変わりない村のひなびた、のどかな光景へ顔を上げて。
ケイジやリースがその辺の子供たちと遊んでいるのを眺めてた。
わーわーやってるケイジは男の子のガキ大将って感じだし、意外にもリースも子供にまとわりつかれているのは、中性的な印象だし、長い金髪が小さな女の子に人気みたいで、たまに引っ張られている。
そして、リースは逃げたそうだ。
「っていうか、」
ミリアの声に。
「ん?」
傍のガイが気づいて。
「子供に好かれやすいのね」
「ケイジはハマってるのな」
ケイジはそれっぽいから、ガイが面白そうに笑ってた。
「リースは女の子にモテてるのも意外だが、羨ましいよな」
って、ガイは冗談なのか本心なのか、後でリース達をからかうのかもしれない。
「ガイは大きすぎるのかな?」
「そうだな、近づいてみるか?」
「怖がらせないでよ?」
「ナイスガイなのにな。」
って、笑ってるガイだ。
まあ、ケイジは男の子たちに偉そうにしてたり、なんか張り合ってたりで、子供たちと一緒に遊んでるのは、なんか気が合うみたい、っていう感じだった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
-MGLD- 『セハザ《no1》-(2)- 』
AP
キャラ文芸
【MGLD】はセハザ《no1》シリーズの第2作目に当たります。
******あらすじ*********
一週間前の事件はドーム『リリー・スピアーズ』の大事件として、未だに少しその影響が市内に残っている。
政府軍部直轄・特能部隊【EPF】が活躍した、とニュースでは喜ぶ人たちがいて。
かき消されるように、不穏な噂は陰を顰める。
事件の当事者であったミリアが、いま頭を悩ますのは、お昼にどんな美味しいご飯を食べようかってことで。
目の前の新作のサンドイッチメニューが店内で座して、美味しそうな風体を醸し出しているのを見つめてる。
上司からの呼び出しさえ無ければいいのに、と不埒な考えも少し持ちつつ。
久しぶりに復帰するEAU内では、足を踏み入れると感じる、また少しだけ変化が起き始めているみたいだった。
EAUでの仕事を思い出すように、ミリアの一日は始まった――――――
――――そして、相変わらず平和なドームの街に小さなサイレンが鳴り響くのも、日常の一部だった。
たぶん、ミリアはまだ少し、のんびり過ごしたかったけれど、EAUの特能力者たちによる合同トレーニングが始まります。
**********
(10月2日の10時に完結しました。それからは見返しつつ、ブラッシュアップしていくつもりです。)
(SSTGを始めたので、なかなかできてませんが・・。いつかやる!)
=KBOC= 『セハザ《no1》-(1)- 』<:>《SSTG》『セハザ《no1》-(3)-』
****************
*****ちなみに*****
・この作品は「カクヨム」にも掲載しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
【完結】神様と縁結び~え、神様って女子高生?~
愛早さくら
キャラ文芸
「私はあなたの神様です」
突然訪ねてきた見覚えのない女子高生が、俺にそんなことを言い始めた。
それ以降、何を言っているのかさあっぱり意味が分からないまま、俺は自称神様に振り回されることになる。
普通のサラリーマン・咲真と自称神様な女子高生・幸凪のちょっと変わった日常と交流のお話。
「誰もがみんな誰かの神様なのです」
「それって意味違うくない?」
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
セハザ《no2EX》 ~ エルにアヴェエ・ハァヴィを添えたら ~
AP
キャラ文芸
ドアを開けて覗いた。
外は静かで、もう皆学校に行ってて、誰もいなくて。
私は外をちょっと覗いて、あっちの方もこっちの方も見て。
遠くの廊下の先では太陽の白い光が床に差し込んでるのが見えた。
私は。
私は・・・。
少しの間、静かな廊下の周りを見ていて。
それから、やっぱり、頭を引っ込めて。
部屋の扉をゆっくり閉めた。
《『あの子』と少女は少しずつ、少しずつ、変わって・・・いく?》
《取り巻く世界も変わって・・・いく?》
**********
*只今、他の小説を執筆中です。
*そちらが落ち着いてから、《no2EX》を再開しようと思っています。
*****
・この作品は「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています。
《SSTG》『セハザ《no1》-(3)-』
AP
キャラ文芸
『SSTG』はセハザ《no1》の第3作目に当たります。<不定期ですが更新継続中>
*****あらすじ*****
路地裏、明かりの届かない建物の狭間で響く声。
人影が人を殴り倒す。
水に濡れ妖しく光る固い地面は、遠くのネオンの鮮烈な原色の灯りを朧気《おぼろげ》に反射させて。
――――――違和感・・・異様な感覚・・それは、水たまりに反射した、自分の顔の辺りだった・・僅かに緑色の光が、漂った一瞬の――――――おい、どうした?大丈夫か?チャイロ、」
肩を掴まれて起こされる、自分を見つめる彼は・・・。
「・・え、・・あ、ああ、大丈夫・・・、ウルク、」
―――――彼らを見下ろすような夜空に、白く孤高のリリー・スピアーズが常にそびえ立つ。
【SSTG 『セハザ《no1》-(3)- 』】
**********
不定期更新中です。
次話がいつになるかわかりません。
気になる方は、良ければフォロー等をお願い致します。
*************************************
以下は、説明事項です。
*****ナンバリング説明*****
・セハザno1の『no1』の部分は。主人公の違いです。(たぶん。
セハザシリーズに世界観の繋がりはありますが、話は独立しています。
前後の経過はありますが、基本的にはどのナンバーから読んでも大丈夫です。
*****ちなみに*****
・この作品は「カクヨム」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる