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第1話

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 麗らかな午後、とまでは言わない強烈な日差しが燦燦さんさんと降り注ぐ砂漠。
快晴の空の下は黄色い砂の大地がどこまでも広がっている。
雲一つない清々しいほどの晴天に騙されそうになるが、そこは熱せられた地獄であるのは間違いない。
もちろん、裸足で歩こうものならその瞬間に足裏が燃えるレベルで火傷する熱さである。
靴を履いたとしても、靴底の薄さで後悔するほど熱いし、熱砂の上に立ってるだけで空気が乾燥して熱いし、噴き出る汗はすぐ干上がって結局カラカラになっていく。
冗談じゃなく、太陽に熱せられたその辺の岩でステーキが焼ける。
太陽は炎であり、水が瞬時に蒸発する熱の下では並大抵の精神じゃやっていけない。

それが、砂漠の熱さである。

しかし、そんな事とは関係なく、そんな広大な砂漠の真っ只中に、強烈な日差しを反射する白い金属色のエッジが輝く軽装甲車が一両、停止していた。
その車の眼差しは、窪んで大きな谷となった目の前の砂上の地形を見つめていて、じっと動かない。
その砂埃に黄昏れたような風体の車両の内側、中では熱い空気と遮断されたような、それなりの涼しさが広めの空間に満たされていて快適になっている。
そして、車両の搭乗者の4人のうち3人が、今目の前で起こっている事の成り行きを見守っていた。

1人、広い後部座席に横になってごろごろしている黒髪黒目の青年がいる。
いつもの彼は目つきが少々鋭くて悪いのだが、今は眠い目を細めてのんびり欠伸している。
その隣の1人は、長い金髪を後ろで結わいてる碧眼の青年、無表情に・・というか、ぼうっとしているようにしか見えない様相で座っている。
そしてもう1人、前の運転席には金髪碧眼の体格のいい青年が座っており、今も車両の備え付けのモニタに表示されていた複数の情報から、助手席へと目をやっていた。
「こちらのナビは正常に見えます。・・地形データ送受信完了後、パトロール再開します。」
助手席では少女が1人用のデバイスを使って、無線通信の相手の対応をしている。
少女は他の青年3人と比べなくても、あどけない顔立ちの小柄な体躯である。
頭の上で短く髪の毛を2つ左右に結っており、頭が少し動くたびに軽く小さく揺れるその尻尾と小さな赤玉付きのゴム留めは、その少女をより幼く見せているかもしれない。
そして、手元にあるパッド端末を多少操作しながら、個人用のインカム通信機を通しているので周りの青年たちには相手の声が聞こえず、少女は1人で喋っている状況だ。

現在、搭乗員の彼ら4人の関心は、その通信内容にある。
事態は至って簡単のはずだ。
さっき軽装甲車が停車するまで、悠々と規定のパトロールコースをナビに任せてのんびり自動走行していたのだが。
途中、車が急に停止したので、危うく後部座席の黒髪黒目の青年が転げ落ちそうになった。
車両システムが状況を自動分析するのを横目に、その少女と隣の運転席の青年は円滑に対処してから、本部のリプクマのオペレーターと連絡を取っているのである。
「こぼしたらちゃんと拾っとけよ」
って運転席から言われた、黒髪の青年は・・・あくびまじりに、しぶしぶ散らばっている菓子チップスを拾ってゴミ袋に入れた。
転がり落ちかけたときに袋をひっくり返したのだが。
車両が急停止した理由は、どうやら地形が変化していたらしく、砂上に小規模の陥没現象が起きていたようだ。
だから、現在はこの軽装甲車両をカスタマイズし、整備しているリプクマのオペレーターに現状を伝え、対処法の確認をしている最中である。
また同時に、このまま進むのは危険なので、車両でのスキャニング機能により地形データを収集中である。
これは補外区での活動規定にあたり、義務である。
といっても、軽装甲車に搭載された機械がほぼ全自動でやるので、車両内の彼らは適当に時間を潰していればスキャニング処理は勝手に完了する。
なので、さっき言われたゴミ拾いを適当に終えた黒髪の青年が読みかけのマンガを、面白くなってきたところを読もうとした・・・ら、また通信が入ったのである。
短い2つの尻尾髪の、その少女が対応しているのを横目に、せっかちな本部が催促してきたのかとも思っていたのだが。
「はい、・・え?」
と、突然少し驚いたような彼女の声が聞こえて、車内の3人とも顔を上げて、少女のちょっとした異変を見ていた。
「それって私たちだけで?・・・大丈夫なんですか?・・・―――」

少女の通信が続いている間も、黒髪の青年、ケイジはあくびをして、広い後部座席に横になっていて、心置きなくだらけているのだが。
パトロール中に通信が入るってことは、こっちがやるべき定例通信が遅れたとか、そんなこと以外に滅多に無い。
だから、今行われている通信内容が『良い報せ』なのか、『悪い報せ』なのか、みんな気になる。
例えば、車外で熱地獄で汗がダバダバ噴き出す仕事がとても『悪い報せ』であり、それに対して、これからも冷房がそれなりに効いている車内で4人がだらだらしてて、ちょっと汗ばんだなぁと思える程度なのが『良い報せ』である。
「・・・はい、了解です。」
通信を終えた少女を見計らって運転席のガイは通信機をコンソールで操作し、待機状態に切り替えた。
「で、なんだってよ?ミリア、」
後部から呼ばれた少女、ミリアは手元の携帯機を操作し、目でも必要な情報を読み取りながらみんなへ口を開く。
「送受信は数分で終了します。それまで待機。そして、別件なんだけど、」
ミリアは後ろを向き直り、そこにいる青年2人に顔を向ける。
「聞いてる?ケイジ、リース、」
椅子に寝っ転がり頬杖をついてこっちを見ている、だらしないケイジと、やる気が全く感じられない起きたばかりみたいな寝ぼけ眼でこっちを見ている、相変わらずなリースだ。
無表情というのか、目が合っても何も語らないリースを見て、ミリアは、それから、小さく溜め息を吐いた。
多少の力が抜ける溜め息だが、別にリースのやる気のない様子を見たからではない。
「というわけで、みなさんは『ブルーレイク』に向かいます。今日は帰らない予定で。」
ミリアがそう、ちゃんと彼らに伝えておく。
「・・・・・・あんん?」
遅れて、間の抜けた声を出したケイジと、リースたち2人は微妙な顔を並べてミリアを見ていたのだが。
その間抜け声をミリアは聞いた筈なのに、また1つ小さな溜め息を吐いた。
「車が動けるようになり次第、そのつもりで。ガイ、いちおう周辺警戒モードに切り替えと緊急時のプロトコル手順を一通りチェックしておいて」
「了解、」
「おいちょっと待て、帰らないってドームにか?てかそれより、ブルーレイクってどこ?」
疑問が多いケイジに、ミリアはちょっとめんどくさそうに答える。
「えーと、帰らないってのはドーム。それから『ブルーレイク』って、・・リースなら知ってるかな」
少し考えた素振りのミリアが話を振る、めんどくさくなったのか知らないが、注目されたリースは未だ覇気の微塵も無い様子で事の成り行きを眺めていた最中のようだったが。
「え、僕・・?知っているかな・・・?」
でも、話を振られて少々驚いた反応をしてくれる、棒読みのような声音だし、少し要領を得ない不思議な受け答えなのもいつも通りだ。
「有名なのか?」
運転席のガイが聞いてきて。
「そこそこ?」
ミリアが軽く返事しといた。
「なんとなく情報かよ」
「いいじゃない。それより、リース、ほんとに知ってるみたい」
「ん?」
こちらを待っていたようなリースが話す準備ができているのを見つけて、片眉を上げる隣のケイジである。
「確か、『ブルーレイク』はVパートのNO.11で中規模程度の大きさの村、開発期間は5番目に長い、初期開発陣の1つ。ドームへの主な納入品は牛肉と小麦。」
ミリアも携帯に指を乗せて操作しつつ、ちょっと頷いて聞いていた。
「フュゥ♪、よく知ってるな」
横からガイが称賛の口笛を鳴らしてた。
「教本にも、リプクマのマニュアルにも載ってたよ」
「2人がちゃんと覚えてないだけだよ」
ミリアがちょっとジト目でガイとケイジの2人を見ているが。
「補外区なんてどこも同じだろ」
「はっは、で、それがどうした?」
ケイジもガイも悪びれた様子はない。
むしろ、ケイジは何故か偉そうに胸を張りそうな態度だったが。
「どこも同じなわけないでしょ」
ミリアはそう言いつつ、携帯から指を離して顔を上げた。
「かもしれんな。」
って、ケイジが言ってくるから。
「少し黙ってて」
「・・・ぉぅ、」
ミリアの冷たい言い方に、小さくなったケイジを見て、リースは何故か何度か小さく頷いていた。
それが何のサインなのかミリアにはわからなかったが、ケイジも見ていないので気づいてない。
まあ、とりあえず、ミリアは口を開いて・・。
「ていうか、お前だって知らなかったんじゃねぇのか?」
横から怪しんでるケイジの声に、また調子をずらされる。
「お前だって携帯見てたろ。もしかして、こっそり調べてたんじゃねぇか?」
「知ってたよ。」
「ほんとかよ」
「黙ってて。」
ちょっと眉根を険しくして本当にうるさそうなミリアに、ケイジは今度こそ口を閉じたようだ。
まだ何か言い足りなさそうに、うずうずしてるみたいだけど。
「んで、ですね?その我がドームの管轄であるVパートの『ブルーレイク』から援助要請が来ているらしいんです。それで、『私たちが一番近いから行け。大丈夫大丈夫、見てくるだけ。俺はあと20分で仕事終わるから、』、という命令をマックスさまがおっしゃっていましたわ、」
「あいつ、思いっきり余計な事まで洩らしてんな」
お嬢様風なのかミリアの口調は気づいてもスルーするケイジだ。
というか、ミリアもちょっとはイラっとしているんだろうってのはわかる。
「マックスな。あいつ話し好きだからよく説教されるって自分で言ってたな」
ガイも納得のようだ。
「話し好きだからで済ますのはダメだろ?」
「良くないね。大丈夫は無責任だと思う」
「そこか?まあリースも言うくらいだから・・・」
「話の途中なんだけど、」
ミリアの制止に3人の視線が集まる。
「はいよ?」
ケイジが一応聞こうとする態度を見せたので、ミリアは話を続ける。
「えっと、・・なんだっけ?」
「知るか。」
「ああ、目的、目的はね、警護」
「警護・・・?」
「村の?運搬でもするのか?」
「その辺は集落についてから詳しく現地の人から聞くけれど、とりあえず戦闘の可能性もあるらしいです。」
「ほぉ」
「ふ~む」
「・・・せんとう・・。え、戦闘?」
「もちろん、先頭きって戦えってわけじゃなくて、あくまでパトロールの一環ね。気を緩めすぎるのは止してください。」
「気は引き締めとけって、ことだな。りょうかい」
「おう」
「了解」
「ほかに質問はある?」
「あの、」
「なんだよリース」
「ん」
と、珍しくみんなへ声をかけるリースに、3人は注視する。
注目されてリースは少し、ぴくりとしたようだが。
「・・先に出発した方がいいんじゃない?」
「・・・あら?」
いつの間にか、全てのスキャニング処理も終わっていたようだ。
「それもそうだな、行くか、ナビONと・・」
ガイが操作を始め、ブルンッと頑丈な車体が僅かに振動して、エンジンが待ってましたとばかりに断続的な重動音を出し始める。

砂漠の真ん中で止まっていた車体が動き始めるのが体躯に伝わってくる。
ケイジは大きな口を開けてあくびをしていた。
ミリアはそんな後部のケイジをジト目で見ていたが。
窓の外の空は快晴、雲ひとつなし、風もなし、じりじりとライトグレーの軽装甲の車体を燃える太陽が熱しているのだが、そんなの何とも無いと、白金ぽく輝く軽装甲車は万遍ない砂の上を軽快に走り始めるのだった。

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