上 下
1 / 23

1 お姉様の失踪

しおりを挟む
 ティーファ王国の第二王女として生まれた私は今、何の制限も受けずに悠々自適に暮らしている。

 お城では、いつも最高級のお料理が出され。
 お菓子も一流の料理人が手がけたものだけを食べる。
 王族の公務は全てお父様とお姉様により行われてるので私はすることがない。常に自由時間である!
 まさに至福の生活!

 ちなみに、お父様には男子がいないので、必然的にこの王朝はお姉様に継がれる流れになるらしい。
 だからお姉様は次期最高権力者として今のうちからこの王国の現状を把握するために公務の一環を行っているのだ。

 正直言って、今の姉様はとても大変そうだ。
 なにせ、朝4時から公務を開始して深夜0時になってようやく床に着くような生活をしてるのだ。
 いつも私とお城ですれ違う度に、

「あ~!いいなぁ!クロエ!私と立場交代してくれない!?いや、これマジで!!お姉ちゃんの称号譲るからさぁ!!」

 とか色々言ってくる。
 もちろん私はお姉様と交代する気なんてさらさらない。
 というかまずもって不可能だ。

 そんな哀れなお姉様には、終わりのない公務の中に自分の楽しみを見出してもらいたいものだ……
 私はそういう意味でお姉様を応援してる。

 さて、今日は宮廷音楽家が私のために作曲してくれた音楽を聴く日である。
 私は胸をワクワクさせながらお城に備え付けられた音楽室へ向かう。

 途中、お姉様の執務室の前を際に中から声が聞こえた。

「シャル様。こちらの書類をご確認の上、全てに署名をお願いします」
「えっ、ご確認って。これパッと見でも1000枚ぐらいあるんですけど!?結局はどうせ全部署名するんだから補佐官が代わりにやってくれない?」
「……シャル様。それだと署名偽造になってしまいます」
「えっ?もういいじゃん。署名偽造でもいいじゃん。王女である私が許す。以上」
「しかしシャル様、そういうわけにも……」

 シャルというのはお姉様の名だ。

 お姉様は相変わらず大変そうである。
 あ~、長女に生まれなくてよかった!
 この生活はお姉様さまさまだわ!

 私はその会話を聞きながら中で起こってることを想像し、鼻歌を歌いながら音楽室に向かった。

 ……事件は、その帰りに起こった。

 宮廷音楽家の素晴らしい音色を堪能した私は、午後のティータイムを楽しむために自室に戻るところだった。
 すると、前方からお姉様が走ってくるのが見える。

「あっ、お姉様!」
「あぁクロエ!この国をよろしく!」

 私が声をかけるとお姉様は謎の返事をして親指をグッと立てた。
 そしてまた後ろに駆けて行ってしまう。

 一体何だったのかしら?

 私が微かな不安を覚え始めたその時だった。
 今度は前方から衛兵の叫び声が聞こえた。

「何としてもシャル様を捕まえろ!まだ近くにいるはずだ!」
「「「はっ!!」」」

 お姉様の名を聞きつけて、私は思わずその衛兵たちに話しかける。

「あ、あの。何があったのかしら?」
「これは、クロエ様!大変です!シャル様が公務を放棄して逃げ出しました!」
「……えっ?」

 その時、私の思考は一瞬で固まった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

最悪な人生を、華やかに。-能力を得て自分のために使う。 世界を救う? えっ、何で俺が。-

久遠 れんり
ファンタジー
昔、誰かが言った。『人生は死ぬまでの暇つぶし』だと。 ある日、地球に黒い霧が降ってきて、世界が変わった。 モンスターが跋扈し、魔法が使えだした。 そして、おれの腐った人生が、輝き始める。 そう。世界を救う力を得た。 そんな、神のごとき力を得た主人公は……  当然…… 好き勝手に生きることを選択をする。 神の意思なら、後悔して、血の涙を流すような話。 不定期更新です。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」 婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。 もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。 ……え? いまさら何ですか? 殿下。 そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね? もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。 だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。 これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。 ※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。    他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

「宮廷魔術師の娘の癖に無能すぎる」と婚約破棄され親には出来損ないと言われたが、厄介払いと嫁に出された家はいいところだった

今川幸乃
ファンタジー
魔術の名門オールストン公爵家に生まれたレイラは、武門の名門と呼ばれたオーガスト公爵家の跡取りブランドと婚約させられた。 しかしレイラは魔法をうまく使うことも出来ず、ブランドに一方的に婚約破棄されてしまう。 それを聞いた宮廷魔術師の父はブランドではなくレイラに「出来損ないめ」と激怒し、まるで厄介払いのようにレイノルズ侯爵家という微妙な家に嫁に出されてしまう。夫のロルスは魔術には何の興味もなく、最初は仲も微妙だった。 一方ブランドはベラという魔法がうまい令嬢と婚約し、やはり婚約破棄して良かったと思うのだった。 しかしレイラが魔法を全然使えないのはオールストン家で毎日飲まされていた魔力増加薬が体質に合わず、魔力が暴走してしまうせいだった。 加えて毎日毎晩ずっと勉強や訓練をさせられて常に体調が悪かったことも原因だった。 レイノルズ家でのんびり過ごしていたレイラはやがて自分の真の力に気づいていく。

【完結】『サヨナラ』そう呟き、崖から身を投げようとする私の手を誰かに引かれました。

仰木 あん
ファンタジー
継母に苛められ、義理の妹には全てを取り上げられる。 実の父にも蔑まれ、生きる希望を失ったアメリアは、家を抜け出し、海へと向かう。 たどり着いた崖から身を投げようとするアメリアは、見知らぬ人物に手を引かれ、一命を取り留める。 そんなところから、彼女の運命は好転をし始める。 そんなお話。 フィクションです。 名前、団体、関係ありません。 設定はゆるいと思われます。 ハッピーなエンドに向かっております。 12、13、14、15話は【胸糞展開】になっておりますのでご注意下さい。 登場人物 アメリア=フュルスト;主人公…二十一歳 キース=エネロワ;公爵…二十四歳 マリア=エネロワ;キースの娘…五歳 オリビエ=フュルスト;アメリアの実父 ソフィア;アメリアの義理の妹二十歳 エリザベス;アメリアの継母 ステルベン=ギネリン;王国の王

処理中です...