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22 : 爆走ニンジン、捕獲作戦!

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「ということで、今日の目標は爆走ニンジンの捕獲だ」

「相変わらず字面が酷いですね……」

 味と魔力量は一級品ではあるものの、抜いたそばから凄い速度で逃げだしてしまう野菜、爆走ニンジン。
 先ほど抜いてしまった2本のニンジンは、ひとしきり笑うと恐るべきスピードで荒野へと消えていった。

今は家に帰り、残りのニンジンをどうやって捕獲するか、ユニと話している最中だ。

 枯死草茶を飲み終わったユニが、迷った顔をしながら口を開く。

「抜いたそばから逃げてしまうなら、抜く前に倒してしまったらどうでしょう。炎魔法で土ごと焼いてみるとか」

「なるほど、確かに良い案だが……。炎魔法を土に打ったら次からその土で作物が育たなくなるし、周りの作物にまで影響を与えそうだな……」

「ダメそうですか……」

 しょんぽりと頭を垂れるユニ。
 使ってみた分かった事だが、炎魔法は他の魔法よりも威力や範囲の加減が難しい。
 もし加減を間違えてしまえば、ニンジンだけでなく他の作物までダメになってしまうだろう。

「じゃあ俺のそばにユニが待機しといて、俺が抜いたタイミングに合わせて素早くキャッチするっていうのは?」

「タクヤさんの動体視力をもってしても目で追えなかったあのニンジンを、私が捕まえられるとでも……?」

「そっか……ごめん」

 ユニの身体能力も元の世界なら化け物レベルだから度々忘れるが、俺のそれはチートレベルだったことを思い出した。
 というか、神から与えられたチートレベルの身体能力を上回るニンジンって冷静に考えなくてもヤバいだろ……。

 その後色々と話してみるものの、これといった方法は見つからない。

 決定的な策が出ないまま時間だけが過ぎていき、やがて日が傾き始めた。
 爆走ニンジンはやっぱり収穫できないか、と諦めかけたその時。
 俺の頭に一筋の光が差した。

「じゃあ仕方ないですけど爆走ニンジンは諦めて、他の作物をーー」

「ちょっと待ってくれユニ!今しがた、良い案が一つだけ思いついた」

「え!?ほんとですか!!」

 ユニのさっきまでのどんよりとした目が、急にキラキラと輝き始める。

「ああ、上手くいくかは分からないけど、これならワンチャンーー。だってアイツは、爆走ニンジン、なんだろ?」

「………?」

 不思議そうに首を傾げるユニを片目に、俺はいそいそと準備を始めた。








            ✳︎








 ケケケケケ。初めましてだな、俺の名前は爆走ニンジン。この世で最速、韋駄天無双のニンジン様だ。

 俺たち野菜の使命は、ニンジンに限らずただ一つーー自らの子孫を繁栄させ、生息域を広げること。

 そのためだけに祖先たちは、より速く走り、遠くまで種を移動させることのみを追求してきた。
 その結果ただのニンジンであった我々は、爆走ニンジンと称されるまでその足を速く進化させたんだ。ーーが。
 ついでに進化した味と魔力量に目をつけられ、地上の全ての個体を天界の奴らに回収されちまったんだ。

 自由な大地へ猛然と走り出したいものの、天界の奴らは抜いたそばから俺たちを調理しやがる。
 俺の両親も、奴らに美味しく頂かれちまった。

「貴方は、貴方だけはーー。この自由で広大な大地を走り抜けて、子孫たちを繁栄させて頂戴ね」

 美味しく頂かれちまう寸前の、母親の無念の顔は今でも忘れられねぇ……。

 だが何の因果か、今こうやって俺は地上で育つことが出来ている。
 後はバカな育て主が俺を引っこ抜くだけで、俺はこの世界へと足を動かせるんだ。
 本能が叫んでやがるーーその最速の足で、この大地を駆け抜けようぜ、ってな!!


 おっ、話をすれば早速来やがったな。二人分の足音……男と女の2人か。どっちもガタイはヒョロそうで走り去るのなんか簡単そうな感じだな。

 なんか周りでゴソゴソしてるようだが何も問題はねぇ。
 さぁ、俺の丈夫な葉へと手をかけてーー。
 後はこのまま引っこ抜かれるだけだ、それだけで俺は自由になれる。

「じゃあいくよ。さん、に……」

 ヒョロそうな男の声が聞こえる。あと1秒、あと1秒で俺は地上へと走りだせる!

 サヨナラ今日までの不自由な俺!
 そしてウェルカム自由な大地!

 お母さんーー。俺はお母さんの遺言を守って、全力で走り抜けるよ、この世界をーー!!!

「いち!!」

 さあその最速の足を動かして、この大地を走り抜けーーー……。

 その瞬間、俺はあるはずのない壁に激突した。
 頭を打った衝撃で、頭がフラフラとしてしまう。

 何だこの壁は、何でこんなところに壁がーー。
 もしかして俺の夢見た自由な世界って、こんなにも、狭かった、の、かーー……。







             ✳︎






「やったーーー!!上手くいったーー!!!」

 四方に囲んだ柵の中に倒れた爆走ニンジンを見て、俺はガッツポーズをあげた。

「凄いですタクヤさん!まさか周りを柵で囲んでしまうとは……!」

 そう、俺がしたのは爆走ニンジンの四方を柵で囲む事だった。

 硬い褐色岩から召喚魔法で作っておいた柵のようなゴーレムを、引っこ抜く個体の周りを囲むように埋めるだけ。
 後は、抜かれた瞬間一目散に走り出す爆走ニンジンが、勝手にぶつかって気絶してくれるのを見届けるだけだ。

「この方法なら、何の労力も無しに安全に収穫できますね!この方法で他の個体も……ってタクヤさん。この爆走ニンジン、なんか泣いてる感じがしませんか?」

 ユニがそう言って見せてきた個体を見ると、確かに泣いてるように見えなくも……なかったが。

「まあ気のせいだろ。さ、この調子で他の個体もどんどん取っていくぞーー!」

「オーーっ!!」
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