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キスからの距離 (48)
しおりを挟む内海に負けず劣らず濡れそぼった雄の象徴を感じれば、その熱棒を突き入れられた時の快楽を覚えている内側が、埋め込まれている指をきゅっと締め上げる。その度に固く瞳を閉じた橘川が、意識を逸らそうと内海の耳朶や首筋、赤く尖った胸の粒へと、数え切れないほどのキスを落とした。
時折チクリとした痛みが走れば、その場所には花弁を散らしたような印が付けられて。
「ふ、あっ」
「智久……好きだ、智久っ」
「んんっ! は……ぁ、悦……」
「もう、大丈夫か?」
何度もローションを注ぎ足されながら解されていた蕾が、ひくひくと収縮を繰り返す。三本に増やされた指でさえも足りないと、もっと熱く太い橘川自身が欲しいと身体中が叫びを上げていた。
確かめる橘川の声に小さな首肯を繰り返せば、勢い良く指が引き抜かれる。
急な刺激に跳ねる内海の腰を持ち上げた橘川が、たっぷりと潤ったその場所に更にローションを流し込んだ。熱く燃えそうな身体が冷たさに竦むのは一瞬で、すぐに内側の熱さに馴染んだ滑りが、くちゅりと淫靡な水音を響かせる。
「挿れるぞ――」
「んっ、ん……早……く、ぅぁあっ」
反り返った自身の熱棒にもしっかりとローションを纏わせた橘川が、最後の確認とばかりに内海へと問い掛ける。
一分一秒も惜しくて。
早くその灼熱を、身体全体で感じたくて。
抱え込まれ太腿を担ぎ上げられた窮屈な姿勢のまま震える内海の、柔らかく解された入口へと待ち焦がれた熱さが宛がわれた。
指よりもずっと太い橘川の熱が、ゆっくりと内海の内を侵略していく。解されてもなおキツい内側を目一杯に広げながら、狭筒を少しずつ切り拓いて進んでくる熱さが嬉しい。
苦しいけれど、苦しさを上回って釣りが来るほどの幸福感に、心がじわじわと満たされていくのを感じる。
「ぅ……き、つ……」
「はっ、あ…ん」
「――ッ、は…智久……」
灼棒の全てが納められたことが、尻に当たる下栄えの感触から伝わってくる。
上半身を屈めて来た橘川の、荒い呼吸を耳元で感じる。
腰が持ち上がるように脚を抱え込んでいた橘川の腕が上へと伸ばされ、内海の身体を抱き締める。ここにいる存在を確かめている、そんな想いを感じさせる強くて熱い腕。
「全部、入ったぞ」
「ん……入って、る……悦郎の、熱い」
「智久、っ」
「あっ」
思わず零れ落ちた内海の言葉に、内にいる橘川の屹立がぐんとその嵩を増した。
内海を抱き締める腕にも、更に力が加わる。
「頼むって智久。あんま可愛いことばっか言うな、暴発しちまう」
「暴発、って」
危なかったと苦しげに告げる橘川の言葉に笑いを誘われる。
頬にはやっとひとつに繋がれたことへの喜びに伝い落ちた涙が、幾筋もその痕を残しているというのに。内海は泣き笑いの表情で、首筋に顔を埋めたままの橘川の頭をそっと撫でた。
「もう少しこのまま、お前を感じてたい」
「悦郎……俺も、感じてる――好きだよ、悦郎」
「智久っ」
「んあっ、ちょ…急に、動くな」
内海の囁きに、橘川が頭を勢い良く起こした。動きに連動して繋がった場所が内海の弱点を掠める。急な刺激に堪える間も無く内海からは甘い嬌声が漏れた。
「……お前、今――」
上から内海を見下ろす体勢の橘川の顔が、歓喜と驚きに目まぐるしく変わる。瞳を大きく見開き、僅かな不安を湛えて内海を見る橘川へと、内海は柔らかな笑顔を返した。
「好きだ」
「智久……」
「待たせて、ごめん」
「ッ――智……くそっ」
「わっ、痛…強いって、悦郎」
「少し黙れって――噛み締めさせろ……」
再び首筋へと顔を埋めた橘川の声が震えていた。
骨が軋むんじゃないかと思うくらい、強く強く内海を抱き締めた橘川の背を、内海もまた持ち上げた両手でキュッと抱き締め返す。
(こんなに喜んでくれるなら、もっと早く伝えれば良かった)
全身で余すところ無く喜びを表す橘川の姿に、内海の胸も震えた。
再会を果たしてから数ヶ月。
橘川からは何度も言ってくれていた『好き』の言葉。嬉しくて堪らなかったのに、どうしても内海からは返すことが出来ずにいたひと言。
この部屋を出てからというもの、内海が橘川に対して素直な言葉で、率直に想いを伝えたのは初めてだった。
その他の言葉や態度では示していたけれど、たった二文字の言葉を伝えることには、ずっと躊躇いを感じていた。言ってしまって良いのかと。自分の選択に間違いは無いのかと。
そういった迷いの全てが消えたこの瞬間だからこそ、隠し立てることもなく、本音をするりと口に出せたのだろう。
「悦郎……キス、してくれよ」
「智久?」
「あの頃、出来なかった分まで……これからいっぱい、キスしよう」
近いところにある橘川の耳朶を食みながら囁けば、顔を起こした橘川が少し赤くなった瞳を嬉しそうに細めた。
「ああ――そうだな、あの頃の分まで」
落ち着きを取り戻した橘川の、優しいくちづけが内海の唇へと降って来る。鳥の羽が掠めていくような、唇同士を重ね擦り合わせるだけの柔らかで温かなくちづけが、二人の気持ちをひとつにしていくようだった。
決して激しさがあるわけではないくちづけだというのに、身体の芯から震えが走る。こんなに気持ち良くて、こんなに感じたキスは、今までになかった。
そしてきっと、この先もこのキスを超えるくちづけには出会えない、そう思えた。
「は…悦郎……」
「く、ぅ――智久、それ、ヤバイからっ」
満たされる。
そんな心が内海の身体に率直な変化をもたらした。橘川の雄を銜え込んだ肉筒がじわじわと蠕動し、灼棒を締め上げていく。絡み付いてくる内海の内襞の動きに、橘川が堪らずに声を漏らす。
「あっ」
自分の内で脈打つ橘川の形が、はっきりと伝わる。
橘川が内海の弱点を覚えていたように、内海もまた、橘川の形を忘れてはいなかった。内側に感じる熱を喜び、飢えていた時間を満たしたいと収縮を繰り返す。
「もう、動くぞ」
「ん、うんっ、早……早、く――ああっ」
自身に言い聞かせるように、熱い吐息に乗せて橘川が囁く。
軽く内海の頬へと唇を寄せると、倒していた上半身を起こした橘川は、動きやすいようにと内海の脚を抱え直した。
その僅かな動きにすら中を擦られ、淫猥な水音が聞こえてくる。
内側にたっぷりと注ぎ込まれていたローションと、互いの昂ぶりから溢れた蜜が交じり合い、橘川の動きに合わせて内海の尻へと伝わり落ちていく。
あんなに冷たかったはずのローションが、まるで熱湯のように熱く肌を焼いていくような気がした。
「ひっ、あ…ああっ」
「ふ…智久……」
ゆっくりとした動きから始まった橘川の抽送が、内側の絡み付きを楽しみながら味わっている。
ぎりぎりまで熱棒を引き出した橘川が、張り出した嵩の部分で入口を引っ掻くように、何度も細かく攻めてくる。
「や、や、悦郎っ」
「これ、好きだったろ?」
窄まりが出て行く動きを阻むように橘川へと吸い付き、橘川の腰の動きに合わせてちゅぷちゅぷと音を響かせる。
好きだけれど、これだけじゃ足りない。
むず痒さが全身に広がって、切ない快感に支配されていく。
もどかしい動きに内海の腰がくねくねと揺れ動いた。もっと奥まで、もう少し奥まで。光が弾けるその場所を、思い切り攻め立てて欲しい。
羞恥も慎みも無かった。
ただただ本能のままに愛しい男を求めて、身体が、心が、声が、全てが橘川を欲して熱く、強く橘川へと向かっていた。
「焦ら、すなっ、あ、あ」
「智久――ッ」
「ひッ、あああっ」
細かな動きを繰り返していた橘川が、ひと息に最奥まで灼棒を穿ち入れて来る。望んでいた刺激に内海の身体は跳ね上がり、張り詰めた先端からは押し出された蜜が滴り落ちて、二人を繋ぐ結合部をさらに濡らす。
「あ、それ…それ、もっと……」
「お前……最悪……俺もギリギリなんだ、って、言ってんだ、ろっ」
「んあぁあっ」
うわ言のようにせがむ言葉が飛び出せば、眉根を寄せた橘川が、願い通りの刺激をくれる。奥に熱く固い昂ぶりを感じる度に、瞼の裏にはチカチカと白い星が輝いた。
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