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櫻花荘に吹く風~201号室の夢~ (33)

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 やられる側でいた時には、フェラがこんなに苦しいものだとは思わなかった。
 閉じ切る事が出来ない唇から溢れて聞こえて来る嬌声と、銜えた昂ぶりから滴る愛しい人の感じている証。それを実感出来るから、こんな行為も出来るのだろうと初めて気付く。
 苦しさも顎の疲れも、愛しい相手が自分の与える刺激によって乱れてくれているのだと思えば、それが嬉しさへと変わるのだと、初めて知った。

 息苦しさに眉を寄せながらも動きを早め、放出を促すように吸い上げる。一方でローションを手に取りねちゃねちゃと指に纏わせながら、その時を待った。
「はっ……良、く……あ、ああ――っ、んぁ、あ……」
 顔を覆い隠していた腕が俺の頭に添えられる。弱々しい動きで俺の短い髪を掻き混ぜる仕草に、唇に籠める力を強めた。
 頭に添えられた指先から口を離せというニュアンスは感じ取っていたけれど、俺がまーくんの昂ぶりから唇を放す事は無かった。
「――ん、っ」
 組み敷いた身体全体が緊張したのを感じた次の瞬間、口の中に吐き出された快楽の迸り。粘ついた青臭い体液が、喉を伝い落ちていく。
 初めての味と匂いは、けれど決して嫌なものとは感じなかった。それを俺にもたらした相手が、彼だから。
「っ……まーくん――」
「ひっ、あっああ、やあ……ぁ、う」
「ごめんまーくん、我慢して」
俺 の下で弛緩していく身体。手繰り寄せておいた枕を彼の腰の下へと忍ばせると、間髪入れずに温めていたローションを、彼の秘孔へと塗り込めた。

 こんなもんじゃ足りないと気ばかりが焦る。
 入り口を指先で揉み解しながら、更にローションを注ぎ落とせば、まーくんの身体が冷たさに反応して跳ね上がった。
 宥めるように声を掛けながらも、指の動きを止める事はしない。射精後の脱力感に苛まれているのだろうその身体は従順で、ローションの滑りを纏った俺の指を、ゆっくりと飲み込んでいった。

(――ぅ、わ……入っ、た……)

 こくりと唾を嚥下する小さな音が、自分の内で大きな音の反響となって聞こえた気がする。
 根元まで差し入れた中指に絡み付いてくるまーくんの内側は、驚くくらい熱くて柔らかで。指を締め付けるその場所に、俺の熱棒を挿入したならどれだけ気持ちいいのだろうか。
「は……っ、ぁ」
「まーくん、痛くない? 平気?」
「――ん、大丈夫……でも、そんなところ……」
 緊張の面持ちを浮かべながらも、その顔に苦痛は感じられず、ホッとする。

 思っていたよりスムーズに指が沈んだのは、本人も言っていたように、俺の言葉を受け止めて、彼がちゃんと準備してきてくれた証拠なのだろう。その光景をを想像しただけで、張り詰めたままの俺の屹立からは先走った雫が滴り落ちた。
「うん、ここに、俺の挿れるから……俺の事、受け入れてくれる?」
「良くん……あの、でも……は、入るの……かな?」
「はは、大丈夫。ちゃんと慣らすから」
 不安そうな眼差しが俺の中心に注がれたかと思うと、途端に真っ赤に顔色を変えたまーくんが、ぎゅっと両目を瞑る。
 そんな行動ひとつひとつが、いちいち俺のツボを突いて仕方が無い。
「ゆっくりするから、力抜いてて」
「ん――っ」
 柔らかな粘膜を傷付けないように、慎重に指を動かしていく。
 動きに合わせて収縮する肉襞に締め付けられる指が、ものすごく気持ちよくて。まだ俺自身を含み込ませたわけでも無いのに、擬似的に彼を犯しているような、そんな錯覚に陥ってしまう。

 異物感に眉を寄せながらも、言われた通り懸命に力を抜こうと、まーくんが小さな呼吸を繰り返す。それに合わせて収縮する粘膜に、指の先から痺れるような愉悦が込み上げてくる
「まーくんの中、すげえ気持ち良い……早く挿れてえ」
「あっ、ヤ……だ……」
 心の声が唇から零れれば、抗議の感情を含んだ視線に咎められる。けれどその瞳は熱に潤み、更なる刺激を欲しているようにすら感じられた。
「こっちに集中してて」
「ひぁ、あ、あっ」
 硬度を失ったままの彼の昂ぶりを再び口腔へと収めれば、細い腰が揺れ動く。
 青臭さを残したビロードのような柔らかな質感が、口の中で硬さを取り戻していくのが新鮮で、嬉しくて。
 まーくんの意識がそちらへと向いている隙に、素早くローションを注ぎ足すと、今度は二本の指をまとめて小さな蕾へと挿入する。
「っ、ん……は、あっあ」
「大丈夫だから、痛く無いだろ?」
「……うん、けど……何か……あっ、ああ」
 竿を舐め上げながら優しく囁き掛ければ、一瞬入った力も抜けていく。俺に寄せてくれる信頼が、俺に全てを預けてくれる彼の想いが、愛おしい。
「ほら、分かる? 二本入ってるの」
「あ、あっ、ん……ぁ、あ、やっ何……ああっ」
 まーくんの内へと潜り込ませた指をぐるりと動かし、内襞を擦る。すると一箇所、小さな膨らみを指先が感じ取った。
 ほんの少し指先を動かして、その凝りを押し上げた瞬間、彼の中心が勢い良く勃ち上がる。
「見付けた」
「何? な、イヤ、ぁ――っ」
 大輔から話には聞いていたけれど、こんなに顕著に反応が返ってくるとは思っていなかった。小さな膨らみへの刺激ひとつで、目に見えて分かるほどの変化。
「な……で? っ、くぅ、ん」
「前立腺って言うんだって……気持ち良い? 中、すげえヒクヒクしてる」
「は、ゃ……あ、あ、っんあ」
 抜き差しを繰り返しながら、見付けたその場所を時折刺激する。擽り、押し上げ、挟み込んでは小刻みに揺すると、その度に彼の昂ぶりからは新たな蜜が零れ落ちた。
「やっべ……まーくん、超エロイ……」
 初めて感じる刺激に身悶え、シーツを掴んでは喘ぎ声を上げ続ける姿は、見ているだけで俺まで達してしまいそうなほどに淫靡で。
 二本の指を三本に増やしても、先ほどのような緊張は見られなかった。挿し入れた瞬間だけきつく窄まった入り口も、すぐに包み込むような柔らかさに変化を遂げる。それどころか、更に奥へと引き込まれそうな蠕動に、指先から駆け抜けていく快感への灯火が、俺の腰の奥までをも刺激する。
「もう三本入ってるよ、すっげ締め付けてくる……指でこんだけ気持ち良いって、やばいよな……俺、あんま保たねえかも」
「もっ、ばっ……ひ、んっ」
「あは、ごめん、恥ずかしかった? でもマジ、まーくんの中気持ち良い。まだ無理かな? もうちょい?」
 指で解せる空間は十分に柔らかく、たっぷりと注ぎ込んだローションの滑った音がぐじゅぐじゅと、抜き差しする度にその場所から聞こえてくる。

 卑猥な音と、淫靡な姿態。
 まだ若いと自分で断言出来る歳の俺には、我慢も限界に近い。
「りょ――く……も、い……から、っ」
「……ま、くん……や、でもまだ、もうちょい」
「大丈、夫……だからっ、あ、はぁ、あっ」
 か細い声が聞こえたかと思うと、震える腕を伸ばした彼の指先が、俺の太腿にそっと触れた。
 無理な体勢を取らせているから、彼の足を抱え上げている俺の脚に触れるのが精一杯だったのだろうけれど、その些細な刺激がもたらしたパワーは絶大で。
「……ごめ……も、我慢出来ない……痛かったら、マジごめん」
「良くん……」
「痛かったら言って、死ぬ気で止めるからっ」
「――あ、はは……も、そんな、なってるのに?」
 歯噛み千切るように袋を破いた俺は、片手で手早くゴムを装着しながら、最後の理性を働かせて浅い深呼吸を繰り返した。
 噛み締めた奥歯が軋んだ音を立てる。
 これまでだって何度もして来た行為なのに、気が急いているせいか、いつも以上に時間が掛かった気がする。
 その間もまーくんの内側は俺の指を締め付けて、くすりと笑ったまーくんの動きさえも、指先から伝わって来るように思えた。
「良いよ、止めないで……痛がっても、最後まで……して? んあっ、あっ」
 凶悪過ぎるほどのひと言に、拙い理性の切れ端なんて吹き飛ばされる。ようやくゴムを装着し終えた屹立へとローションを纏わせた俺は、彼の内へと埋め込んでいた指を、一気に抜き取った。
「っ……勘弁しては、こっちの台詞だよ……ったく、ホント、俺のこと煽るの上手過ぎだし」
「――ぇ、な……に?」
「挿れるよ?」
「……ん」

 今まで中を押し広げていた存在が急に消えたその場所が、傍目で見て分かる位に、ヒクヒクと動いていた。


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