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三ツ葉第一銀行現金強奪事件
金貸しの男たち
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皮張りのソファに腰かけて、宇島は煙草を吸っていた。机の上の灰皿には、吸い殻が山のように積み重ねられている。
「おい、例の奴の取り立てはどうなってんだ?」
宇島は機嫌が悪いようで、普段の低く威圧的な声が、更に凄みを増していた。
「やってるんですけどね、どうにも上手くいかんくて」
宇島の部下、日下部稔治は気まずそうにそういと、短くなった煙草を揉み消した。
「んなのは無理にでもやるんだよ。借りた金は返さにゃいかん」
宇島はけむりを吐き出すと、「金は命より重いんだ。返せねぇんだったら、その命で返すのが道理だろ」と続けた。
「そりゃそうっすけど、これ以上いくとこっちがマズいっつーか」
「マズいことなんてないだろ。こっちは貸した金を返してもらう権利がある。そいつには返さにゃいかん義務がある。無理なら海に沈めればいい」
「まあ、それはちょっと待っててください。なんとかやってみせるんで」
「締め上げて搾り取れ。そういう奴は特にな」
宇島の言葉に、「うす」と日下部は頷いた。
するとドアが開き、長身の男が現れた。
黒スーツに黒ネクタイ。髪は後ろに撫でつけられ、サングラスをかけており、右目を通過する形で禍々しい傷がある。
「うっす、九鬼の旦那」
宇島は煙草を揉み消して会釈をし、日下部は急いで直立し「ご苦労様です」と頭を下げた。
宇島の上司、九鬼重明は宇島の向かいにあるソファに腰かけ、煙草をくわえた。
それを見た日下部が、身を屈め、すかさず煙草の先にライターを持ってゆく。
「すまんな」
九鬼は深くけむりを吸い込み、不味そうに吐き出した。
「おう、日下部」
「はい」
「ちょっと席を外してくれ。宇島とサシではなしたいことがあるんでな」
九鬼の鋭い視線に日下部は身を固め、「わかりました」と頭を下げると、そそくさと部屋から出ていった。
そして沈黙。
煙草の葉の燃える音と呼吸音。その沈黙を破ったのは、「なあ、宇島よ」という九鬼の言葉。
「なんですか?」
「あの娘の件だがよ。お前、あれはどうする気だ?」
「金なら用意できるつってました」
「ありゃ、そこらの小娘がどうにかできる額じゃねぇぞ。お前はそんな口約束を信じてるんか?」
「んなわけないじゃないですか。これがラストチャンス。無理なら相応にやりますよ」
宇島は太ももをパンと叩き、立ち上がる。
「それじゃ、俺もいきますわ」
九鬼は笑顔の宇島を見上げ、「肩入れしすぎるなよ。金は湯水みてぇに湧いてくるもんじゃねぇからな」という。
「肩入れなんてしとらんですよ。俺がそんな柔い男だと思いますか? それは九鬼の旦那が一番よく知っとるでしょうに」
宇島は頭を下げて、ゆったりとした足取りで部屋を後にした。
九鬼はその背中を無言で見送り、舌打ち一つすると、「らしくねぇなぁ、宇島よ」とけむりを天井に向かい吐き出した。
「おい、例の奴の取り立てはどうなってんだ?」
宇島は機嫌が悪いようで、普段の低く威圧的な声が、更に凄みを増していた。
「やってるんですけどね、どうにも上手くいかんくて」
宇島の部下、日下部稔治は気まずそうにそういと、短くなった煙草を揉み消した。
「んなのは無理にでもやるんだよ。借りた金は返さにゃいかん」
宇島はけむりを吐き出すと、「金は命より重いんだ。返せねぇんだったら、その命で返すのが道理だろ」と続けた。
「そりゃそうっすけど、これ以上いくとこっちがマズいっつーか」
「マズいことなんてないだろ。こっちは貸した金を返してもらう権利がある。そいつには返さにゃいかん義務がある。無理なら海に沈めればいい」
「まあ、それはちょっと待っててください。なんとかやってみせるんで」
「締め上げて搾り取れ。そういう奴は特にな」
宇島の言葉に、「うす」と日下部は頷いた。
するとドアが開き、長身の男が現れた。
黒スーツに黒ネクタイ。髪は後ろに撫でつけられ、サングラスをかけており、右目を通過する形で禍々しい傷がある。
「うっす、九鬼の旦那」
宇島は煙草を揉み消して会釈をし、日下部は急いで直立し「ご苦労様です」と頭を下げた。
宇島の上司、九鬼重明は宇島の向かいにあるソファに腰かけ、煙草をくわえた。
それを見た日下部が、身を屈め、すかさず煙草の先にライターを持ってゆく。
「すまんな」
九鬼は深くけむりを吸い込み、不味そうに吐き出した。
「おう、日下部」
「はい」
「ちょっと席を外してくれ。宇島とサシではなしたいことがあるんでな」
九鬼の鋭い視線に日下部は身を固め、「わかりました」と頭を下げると、そそくさと部屋から出ていった。
そして沈黙。
煙草の葉の燃える音と呼吸音。その沈黙を破ったのは、「なあ、宇島よ」という九鬼の言葉。
「なんですか?」
「あの娘の件だがよ。お前、あれはどうする気だ?」
「金なら用意できるつってました」
「ありゃ、そこらの小娘がどうにかできる額じゃねぇぞ。お前はそんな口約束を信じてるんか?」
「んなわけないじゃないですか。これがラストチャンス。無理なら相応にやりますよ」
宇島は太ももをパンと叩き、立ち上がる。
「それじゃ、俺もいきますわ」
九鬼は笑顔の宇島を見上げ、「肩入れしすぎるなよ。金は湯水みてぇに湧いてくるもんじゃねぇからな」という。
「肩入れなんてしとらんですよ。俺がそんな柔い男だと思いますか? それは九鬼の旦那が一番よく知っとるでしょうに」
宇島は頭を下げて、ゆったりとした足取りで部屋を後にした。
九鬼はその背中を無言で見送り、舌打ち一つすると、「らしくねぇなぁ、宇島よ」とけむりを天井に向かい吐き出した。
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