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しおりを挟む「あんたエディに何を言ったのよ!?」
もう聞きなれたキンキン声で怒鳴りながら、メリッサは掴みかかってこようとしていた。ああ、もう嫌だ……そう思っていたら、メリッサの手は私の眼前で止められる事となる。
「はい、そこまで~」
「アンドリュー!……様!放してください!」
かろうじて。本当にかろうじて、立場を思い出したのか、一応の敬語は使うものの、メリッサは掴まれた腕を放そうともがく。
肩を竦めながらも、アンドリュー様はその手を放さない。
「放さないよ、放したらお前はフィリアに飛び掛かるんだろう?それは俺が許さない」
「な──!!」
一瞬ポカンとなったメリッサは直ぐにハッとなって何かを悟った顔をする。
「そうか、そういうことね……さすがビッチなお姉様、王子だけじゃ飽き足らず他にも手を出してたってわけか」
何がそういう事なんだろう。何がさすがなんだろう。メリッサが何を言ってるのか、もう私には理解出来ない。
「いいわよ、そっちがその気なら私にも考えがある!あんたが手当たり次第に男に手を出してるって言いふらしてやるわ!」
本当に頭痛がしてきた。この子は一体何を言ってるのだろう?もしそんな嘘を広めてしまえば、伯爵家の名誉に傷がつくだけではない、妹であるメリッサのイメージも大打撃だ。……いや、メリッサのそれは既に地に落ちてるのかもしれないけれど。
「エドワード様、一体どうなってるんですか?」
不意に王子の名前をアンドリュー様が呼ぶ。そこで初めて、王子がそばに立ってる事に気付いた。
息を切らしてる様から、猛ダッシュでメリッサを追いかけてきたのだろう。それに追いつかせない速さで走ってきたメリッサに無駄に感心してしまう。
「す、すまないアンディ……その、婚約解消の話を出したら急にキレだして……」
その言葉が出た瞬間、場の空気がザワリと動いた。
それはそうだろう。こんな大騒ぎを起こせば、当然のように生徒は集まってくる。大勢の前で王子は不用意な発言をし、当然のように騒然となる。
「婚約解消?」
「ついに、か。俺でもあんな婚約者嫌だわ」
「てことは王子はフリー?わたくしにもチャンスあるかしら」
「でもそんな簡単に解消って出来るのか?」
ザワザワと、皆が好き勝手に噂する中、メリッサが慌てる。
「ちが……!ち、違うわ違う!王子さまは何か勘違いしてらっしゃるのよ!婚約解消なんてないわ!ありえないわ!」
けれどそんな言葉は誰にも届かない。生徒の口は止まらない。
「ありえないって言ってるでしょ!?エディは命を救った私を昔からずっと愛してるんだから!いい加減なこと言わないで!」
「メリッサ、その事なんだけど……」
「なによ!?」
もうメリッサの言葉は誰にも届かない。
完全に頭に血が上り切った彼女は、王子に対してもキツイ顔と口調で睨むように叫ぶのだった。
ああ、頭が痛い。
私は額に手を当てて、どうしたものかと思案していた。
すると、王子がメリッサの手を掴む。
「エディ?」
それにパッと嬉しそうに顔を輝かせるメリッサだけど、王子の顔は変わらず険しいままだ。その表情を不思議そうにメリッサは見つめて首を傾げた。
「……ここじゃあれだな。ちょっとこっちに来て」
「あ、ちょ……エディ!?私はまだあの女に話が……!!」
引っ張られて行くメリッサ。
流石にそれに付いて行く生徒は居ないけれど。
──この場合、私はどうしたらいいんだろう。
本心ではもう関わりたくなかった。けれど王子の沈んだ顔を見ていると、放っておくのも気の毒で。
しばし思案していた私だが、不意に手を引かれて目の前の人物を見やった。
「アンドリュー様?」
「エドが心配だ。行こう……というか、一緒に行ってくれる?」
そのお願いに否やがあろうか。
私は頷いて、一緒に走り出すのだった。
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