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16、※アンドリュー視点(前編)

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 学園が休みの日。
 俺は自分の邸宅、その庭に立って居た。

 腕を組んで見やるは、大きな池。
 よく手入れされたそれは、周囲に美しい花を咲かせ、澄みきった水はキラキラと陽の光を反射させていた。

 けれどそんな美しい池に不釣り合いの柵。
 背は低いものの池の周囲に張り巡らされたそれは、確実に景観を損なっていた。

 数年前のあの日──親友であり第一王子であるエドワード……エドが落ちてからだ。

 こんな柵を立てるくらいなら、もういっそ埋めてしまえばいいものを。
 けれど王子がそこまでしなくていい、そんな事をしてくれるなと言ったもんでそれも無くなった。

 結果、見目の悪い事になってしまったわけだ。

 まあ確かに、個人宅の庭に存在するには大きすぎて危険ではあるのだけど。

 真夏の暑いさかりには、兄妹で水遊びしまくったものだ。
 せめてもう少し小さくするとかなかったのか。

 そう思わなくもない、池。

 それを見ながら思い返すはあの日の騒動。

 数年前のあの日、エドが少し疲れたから散歩してくると皆から離れたのを見送った。それを後悔するのは直後のこと。

 随分遅いなと思ってた頃に、屋敷内へと走っていく子供の姿を見た。直後に血相変えて飛び出してくる大人たち。その中には自分の父であり、お茶会主催者の公爵が居たのもよく覚えている。

(あっちは池の方?)

 そんな大人たちが走っていく方向は、確かに大きな池のある方だった。

 そしてすぐに走って戻ってくる父。使用人たちに何かを指示してるようだが、声は聞き取れなかった。次いで、一人の子供を抱きかかえて走ってくる者が──それは第一王子の側近で、その腕に抱かれてるのが誰あろうエドワード自身で会った事をみとめて。

 血の気が引いたのをよく覚えている。
 その後、エドの容体は大したことがないと知って、安堵のあまりその場に泣き崩れたことは……それはまあ忘れたい。

 夜になって父から聞いた事のあらましはこうだ。

 池でエドが溺れた。そこを偶然通りがかった令嬢が助けて。そしてエドワードは助かった。

 実に簡潔で分かりやすい内容に呆れ、勇気ある令嬢の行動に感動したものだ。その後、王子のそばを離れた自身の行動を激しく責めたものだったが。

 エドを助けた令嬢は、結局その後は見なかった。お茶会初参加の伯爵令嬢だとは聞いたけれど。

 その家名を聞いて、ふとある人物を思い出す。

 雪のように輝く白き髪をもった少女の事を。初めて会った時、雪の精霊か何かかと思ってしまった、美しき少女を。

 男子が苦手なのか、全くと言っていいほど接点がなく。当然のように自分も挨拶を交わした事しかない。
 エドを救ったのは、あの少女の妹だと聞いた。

 その後、エドがその娘、メリッサと婚約をしたと聞いて安堵したのはなぜなのか分からなかった。

 そして今。
 メリッサの人格が分かってきた今。

 俺もエドも疑っていた。
 本当にメリッサがエドを助けたのか、と。

 池を目の前にして、俺は必死であの日の記憶を手繰り寄せる。

 思い出せ。
 エドが席を離れた時、メリッサはどうしてた?フィリアは?

 思い出せ。
 エドを助けたと言った少女、メリッサ。おそらく助けた直後──屋敷内に飛び込んで行った彼女の様子はどうだった?
 そしてあの時、フィリアは何処に居た?

 思い出せ。
 思い出せ。

 必死で自分に言い聞かせるも、けれど遠い記憶は不鮮明で。

 何度目を閉じ、茶会の場所だった庭や池を往復しても。

 全てが曖昧で、思い出せる事は出来なかった。

 あの日茶会に参加した者には全て話を聞いた。が、皆が皆幼い子供の頃の話ゆえ記憶が曖昧で……何かしらの手がかりとなる証言は得られなかった。

 使用人しかり。
 そもそもあの日のことは、父が全員から話を聞いている。その結果、目撃者ゼロで話は終わってると聞いた。

 それはつまり、王子の曖昧な記憶と唯一の目撃者であるメリッサの話しか、事実確認出来る事は無いという事だ。

 今更だが何といい加減な話か。

 だが、王家にとっては真実はどうでも良かったのだろう。

 何かと命を狙われやすい王子が暗殺されたとかなら大問題だったが。それは万全の警備体制を敷いている公爵家としても、大問題だ。

 けれど暗殺ではなかった。王子の……まあつまるところはドジのせいだ。
 それであれば、特に問題としないのが王家だ。暗殺か否か、重要なのはそこだけだった。誰が王子を救ったとか、その相手を王子が婚約者に選んだとか……正直どうでもいい話なのだ。

 だから王家は誰が王子を本当に助けたとかは調べなかった。父もまた、特に気にする案件ではないと話は早々に終わっている。

 皆が皆、重要視しなかった案件。そのせいで、エドは今苦しんでいる。

 エドに信頼されて調べてくれと頼まれたけど、新しい事実を発見できることは何もなかった。
 さてどうしたものか……。

 顎に手を当て悩んでいたら。
 そこに庭師のガードンが通りかかったので声をかけた。

「なあガードン、ちょっと聞きたいんだけど……」

 それが真実を知る第一歩となる。





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