王子を助けたのは妹だと勘違いされた令嬢は人魚姫の嘆きを知る

リオール

文字の大きさ
上 下
13 / 27

12、

しおりを挟む
 
 
 我が家というものは本来最もくつろげる場所のはず。私にとっても、これまでは確かにそうだったのだけれど。
 今、目の前で仁王立ちする妹に、私は疲労を感じてため息をつくのだった。

 またか……。

 学園に入ってからのメリッサは以前以上に私への当たりがキツクなってはいたけれど。
 正直、今日の出来事の直後に、家でまで揉め事は勘弁して欲しい。

 疲労困憊の私がついたその溜め息を、メリッサは目ざとく聞きとがめる。

「なにその溜め息!そうよね、お姉さまにとって私は邪魔者でしかないものね!」
「メリッサ、そんな事は……」

 ないわ。
 そう最後まで言わせる事もさせず、メリッサはずいと顔を近づけてきた。

「可愛い妹の頼みを聞くのが姉の務めじゃないの!?」
「そ……」

 それは無いと思う。そんな姉の務め、聞いたことない!
 だが目の前のメリッサは反論を許さない、というようにキツイ目で私を見ていた。言葉は呑み込まれる。

「今後二度と!エディと会話しないで!」
「……は?」

 そうして出された命令に目が点になってしまった。何を言ってるのだろう、この子は?

 色々我儘で疲れる子だけど、やっぱり妹は可愛い。ある程度の我儘は聞いてあげたいとも思ってる。

 だが、今回の要求はどうにも理解の範疇を超えていて、対応に困ってしまった。

「メリッサ、あなた何を言って……」
「これ以上エディに色目使うなって言ってんのよ、このアバズレ!!」

 まさか一日に二回も妹からアバズレと言われるとは思わなかった。あまりの事に、私は言葉を失う。

「何よ、文句あんの!?アバズレが嫌ならビッチとでも言ってやろうか!?人の男に色目使うしか能の無い女なんて、それで十分でしょ!?」
「ビ……」

 どこでそんな言葉を覚えたのだろうか。
 令嬢らしからぬ妹の台詞に、眩暈を覚えても仕方ないと思う。

「ねえメリッサ、私は元々エドワード様とそんなにお話ししたこと無いわ。我が家に来られた時もご挨拶だけで、貴女と二人きりにしてるでしょう?」
「挨拶すらもするなって言ってんのよ、分かんないやつね、この馬鹿が!!」

 完全に言葉を失ってしまった。
 一体どうして妹はこんなにも悪鬼の形相で私に食って掛かってくるのだろうか。

 これは本当に妹なのだろうか。
 虚しさが、胸に飛来する。

「メリッサ……」
「それともう一つ」

 そこで、メリッサは急に声のトーンを落とし、私の耳元へと囁くように言った。

「あの日の事、誰かに話したら──殺すから」

 その言葉に、ビクッと肩が震えた。

「……あの日のこと?」
「とぼけんじゃないわよ、私とあんただけが知ってる、あの日の真実よ」

 それはやはり私が思ってること、なんだろう。

 あの日。
 溺れてる王子を助けたのは私で。
 メリッサは、大人を呼びに行っただけという。

 あの日の真実。

 今更誰かに話すつもりなんて毛頭なかった。
 言ってしまったら……真実を話さなかった罪に問われるのは明白だ。それは我が伯爵家全体に関わる大問題でもある。

「そんなこと……誰にも言わないわよ」

 目を伏せて言う私を疑わし気に見やった後。

「まあいいけど。言ったら最後、どうなるかなんて賢いお姉様だったら分かってると思うし。そうなったらあんたも私もこの家も一蓮托生……滅びるならみんな一緒よ」

 皮肉気に「賢い」を強調しながら、メリッサは私から体を離して言う。
 そう言えば私が事実を話すことなんて無いだろうという確証の笑みを浮かべて、彼女は去って行った。

 幼い心が。
 幼いがゆえに隠した真実が。
 ジワリジワリと私の首を絞め始める。


しおりを挟む
感想 126

あなたにおすすめの小説

母が病気で亡くなり父と継母と義姉に虐げられる。幼馴染の王子に溺愛され結婚相手に選ばれたら家族の態度が変わった。

window
恋愛
最愛の母モニカかが病気で生涯を終える。娘の公爵令嬢アイシャは母との約束を守り、あたたかい思いやりの心を持つ子に育った。 そんな中、父ジェラールが再婚する。継母のバーバラは美しい顔をしていますが性格は悪く、娘のルージュも見た目は可愛いですが性格はひどいものでした。 バーバラと義姉は意地のわるそうな薄笑いを浮かべて、アイシャを虐げるようになる。肉親の父も助けてくれなくて実子のアイシャに冷たい視線を向け始める。 逆に継母の連れ子には甘い顔を見せて溺愛ぶりは常軌を逸していた。

お姉様のお下がりはもう結構です。

ぽんぽこ@書籍発売中!!
恋愛
侯爵令嬢であるシャーロットには、双子の姉がいた。 慎ましやかなシャーロットとは違い、姉のアンジェリカは気に入ったモノは手に入れないと気が済まない強欲な性格の持ち主。気に入った男は家に囲い込み、毎日のように遊び呆けていた。 「王子と婚約したし、飼っていた男たちはもう要らないわ。だからシャーロットに譲ってあげる」 ある日シャーロットは、姉が屋敷で囲っていた四人の男たちを預かることになってしまう。 幼い頃から姉のお下がりをばかり受け取っていたシャーロットも、今回ばかりは怒りをあらわにする。 「お姉様、これはあんまりです!」 「これからわたくしは殿下の妻になるのよ? お古相手に構ってなんかいられないわよ」 ただでさえ今の侯爵家は経営難で家計は火の車。当主である父は姉を溺愛していて話を聞かず、シャーロットの味方になってくれる人間はいない。 しかも譲られた男たちの中にはシャーロットが一目惚れした人物もいて……。 「お前には従うが、心まで許すつもりはない」 しかしその人物であるリオンは家族を人質に取られ、侯爵家の一員であるシャーロットに激しい嫌悪感を示す。 だが姉とは正反対に真面目な彼女の生き方を見て、リオンの態度は次第に軟化していき……? 表紙:ノーコピーライトガール様より

優柔不断な公爵子息の後悔

有川カナデ
恋愛
フレッグ国では、第一王女のアクセリナと第一王子のヴィルフェルムが次期国王となるべく日々切磋琢磨している。アクセリナににはエドヴァルドという婚約者がおり、互いに想い合う仲だった。「あなたに相応しい男になりたい」――彼の口癖である。アクセリナはそんな彼を信じ続けていたが、ある日聖女と彼がただならぬ仲であるとの噂を聞いてしまった。彼を信じ続けたいが、生まれる疑心は彼女の心を傷つける。そしてエドヴァルドから告げられた言葉に、疑心は確信に変わって……。 いつも通りのご都合主義ゆるんゆるん設定。やかましいフランクな喋り方の王子とかが出てきます。受け取り方によってはバッドエンドかもしれません。 後味悪かったら申し訳ないです。

魅了魔法が効かない私は処刑されて、時間が戻ったようです

天宮有
恋愛
公爵令嬢の私リーゼは、ダーロス王子に婚約破棄を言い渡されてしまう。 婚約破棄の際に一切知らない様々な悪行が発覚して、私は処刑されることとなっていた。 その後、檻に閉じ込められていた私の前に、侯爵令嬢のベネサが現れて真相を話す。 ベネサは魅了魔法を使えるようになり、魅了魔法が効かない私を脅威だと思ったようだ。 貴族達を操り私を処刑まで追い詰めたようで、処刑の時がやってくる。 私は処刑されてしまったけど――時間が、1年前に戻っていた。

婚約したがっていると両親に聞かされ大事にされること間違いなしのはずが、彼はずっととある令嬢を見続けていて話が違いませんか?

珠宮さくら
恋愛
レイチェルは、婚約したがっていると両親に聞かされて大事にされること間違いなしだと婚約した。 だが、その子息はレイチェルのことより、別の令嬢をずっと見続けていて……。 ※全4話。

言いたいことは、それだけかしら?

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【彼のもう一つの顔を知るのは、婚約者であるこの私だけ……】 ある日突然、幼馴染でもあり婚約者の彼が訪ねて来た。そして「すまない、婚約解消してもらえないか?」と告げてきた。理由を聞いて納得したものの、どうにも気持ちが収まらない。そこで、私はある行動に出ることにした。私だけが知っている、彼の本性を暴くため―― * 短編です。あっさり終わります * 他サイトでも投稿中

【完結】お荷物王女は婚約解消を願う

miniko
恋愛
王家の瞳と呼ばれる色を持たずに生まれて来た王女アンジェリーナは、一部の貴族から『お荷物王女』と蔑まれる存在だった。 それがエスカレートするのを危惧した国王は、アンジェリーナの後ろ楯を強くする為、彼女の従兄弟でもある筆頭公爵家次男との婚約を整える。 アンジェリーナは八歳年上の優しい婚約者が大好きだった。 今は妹扱いでも、自分が大人になれば年の差も気にならなくなり、少しづつ愛情が育つ事もあるだろうと思っていた。 だが、彼女はある日聞いてしまう。 「お役御免になる迄は、しっかりアンジーを守る」と言う彼の宣言を。 ───そうか、彼は私を守る為に、一時的に婚約者になってくれただけなのね。 それなら出来るだけ早く、彼を解放してあげなくちゃ・・・・・・。 そして二人は盛大にすれ違って行くのだった。 ※設定ユルユルですが、笑って許してくださると嬉しいです。 ※感想欄、ネタバレ配慮しておりません。ご了承ください。

【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね

江崎美彩
恋愛
 王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。  幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。 「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」  ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう…… 〜登場人物〜 ミンディ・ハーミング 元気が取り柄の伯爵令嬢。 幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。 ブライアン・ケイリー ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。 天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。 ベリンダ・ケイリー ブライアンの年子の妹。 ミンディとブライアンの良き理解者。 王太子殿下 婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。 『小説家になろう』にも投稿しています

処理中です...