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12、
しおりを挟む我が家というものは本来最もくつろげる場所のはず。私にとっても、これまでは確かにそうだったのだけれど。
今、目の前で仁王立ちする妹に、私は疲労を感じてため息をつくのだった。
またか……。
学園に入ってからのメリッサは以前以上に私への当たりがキツクなってはいたけれど。
正直、今日の出来事の直後に、家でまで揉め事は勘弁して欲しい。
疲労困憊の私がついたその溜め息を、メリッサは目ざとく聞きとがめる。
「なにその溜め息!そうよね、お姉さまにとって私は邪魔者でしかないものね!」
「メリッサ、そんな事は……」
ないわ。
そう最後まで言わせる事もさせず、メリッサはずいと顔を近づけてきた。
「可愛い妹の頼みを聞くのが姉の務めじゃないの!?」
「そ……」
それは無いと思う。そんな姉の務め、聞いたことない!
だが目の前のメリッサは反論を許さない、というようにキツイ目で私を見ていた。言葉は呑み込まれる。
「今後二度と!エディと会話しないで!」
「……は?」
そうして出された命令に目が点になってしまった。何を言ってるのだろう、この子は?
色々我儘で疲れる子だけど、やっぱり妹は可愛い。ある程度の我儘は聞いてあげたいとも思ってる。
だが、今回の要求はどうにも理解の範疇を超えていて、対応に困ってしまった。
「メリッサ、あなた何を言って……」
「これ以上エディに色目使うなって言ってんのよ、このアバズレ!!」
まさか一日に二回も妹からアバズレと言われるとは思わなかった。あまりの事に、私は言葉を失う。
「何よ、文句あんの!?アバズレが嫌ならビッチとでも言ってやろうか!?人の男に色目使うしか能の無い女なんて、それで十分でしょ!?」
「ビ……」
どこでそんな言葉を覚えたのだろうか。
令嬢らしからぬ妹の台詞に、眩暈を覚えても仕方ないと思う。
「ねえメリッサ、私は元々エドワード様とそんなにお話ししたこと無いわ。我が家に来られた時もご挨拶だけで、貴女と二人きりにしてるでしょう?」
「挨拶すらもするなって言ってんのよ、分かんないやつね、この馬鹿が!!」
完全に言葉を失ってしまった。
一体どうして妹はこんなにも悪鬼の形相で私に食って掛かってくるのだろうか。
これは本当に妹なのだろうか。
虚しさが、胸に飛来する。
「メリッサ……」
「それともう一つ」
そこで、メリッサは急に声のトーンを落とし、私の耳元へと囁くように言った。
「あの日の事、誰かに話したら──殺すから」
その言葉に、ビクッと肩が震えた。
「……あの日のこと?」
「とぼけんじゃないわよ、私とあんただけが知ってる、あの日の真実よ」
それはやはり私が思ってること、なんだろう。
あの日。
溺れてる王子を助けたのは私で。
メリッサは、大人を呼びに行っただけという。
あの日の真実。
今更誰かに話すつもりなんて毛頭なかった。
言ってしまったら……真実を話さなかった罪に問われるのは明白だ。それは我が伯爵家全体に関わる大問題でもある。
「そんなこと……誰にも言わないわよ」
目を伏せて言う私を疑わし気に見やった後。
「まあいいけど。言ったら最後、どうなるかなんて賢いお姉様だったら分かってると思うし。そうなったらあんたも私もこの家も一蓮托生……滅びるならみんな一緒よ」
皮肉気に「賢い」を強調しながら、メリッサは私から体を離して言う。
そう言えば私が事実を話すことなんて無いだろうという確証の笑みを浮かべて、彼女は去って行った。
幼い心が。
幼いがゆえに隠した真実が。
ジワリジワリと私の首を絞め始める。
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