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11、※両親視点

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~※父親視点~


 あの日、いつもの茶会に行ったはずのフィリアが突然帰ってきた。しかもあろうことか、下着姿で!

 誰も訪問予定の無い穏やかな屋敷の扉を、荒々しく開く存在に眉を潜め。そして入ってきた人物の姿に目を見開いたのだ。

『フィ、フィリア!?』
『げ!お父様!』
『げ、じゃない!そ、その姿は!?』
『ええっと……ちょっと暑くって?』
『暑いからって下着姿で帰って来るか!?服は、ドレスはどうした!?』

 初参加する妹とお揃いのデザインにするんだと、二人して大喜びだったはずのドレス。
 それを、フィリアは恐る恐る頭上に掲げた。

『えっと、多分、これ……?』
『いや多分って!ボロボロじゃないか!』

 それは雑巾か何かか!?
 そう突っ込みたくなるほどに酷い状態のそれに仰天して。

 そしてなぜか濡れてる状態の娘を、まずは湯船で温まるようにさせるのが先決だった。

 その後。
 湯船から出て身なりを整えたフィリアにどうしたのかを聞いた。

『あまりに暑くって池に足をつけようとしたら、滑ってはまってしまったの』

 という言い訳に。
 長時間のお説教が決定したのは当然のことと言えよう。

 その後に帰宅した妻から王子とメリッサの話を聞いて、眉をひそめた。

 メリッサが溺れてる王子を助けた?
 それは、フィリアがずぶ濡れになったという池だろうか?
 溺れてる王子をメリッサが……。

 メリッサははたして溺れる王子を助けるのに濡れたのだろうか?
 どうやって助けたのだろうか?

 疑問は起こる。当然のように起こる。

 けれど目の前の光景に、私の言葉は呑み込まれたのだ。

 茶会から数日後のことだ、妹のメリッサがエドワード第一王子の婚約者にと打診があったのは。

 そして眼前では、楽し気にエドワード王子と話すメリッサ。
 それを微笑まし気に見つめるフィリア。

 二人とも何も言わない。
 王子をメリッサが助けた、その事について何も言及しない。

 ただ目の前の事実を受け入れる娘二人に。

 私はどうすればいいのか途方に暮れるのだった────




※ ※ ※



~※母親視点~



『あらメリッサ。どうしたの?』

 あれはいつものお茶会。
 いつも子供たちは庭園で賑やかに遊び、お菓子をつつきながら会話に花を咲かせている。
 付き添いの親や従者は、屋敷内で大人の会話をするのが常だった。

 大人が終わりの声をかけるまで、子供たちは夢中で遊び──それまでは大人の部屋に来る子供など居なかった。

 なのにあの日は違った。
 突如開かれる扉。
 飛び込んで来たのは──初参加の我が娘、メリッサだった。

 血相変えて飛びこんで来たメリッサは、私の顔を認めて泣きそうな顔で近づいてきた。

 どうしたのだろう?うまくお友達の輪に溶け込めなかったのだろうか?

 初参加としては遅い年齢のメリッサに一抹の不安を覚え。
 けれどメリッサが発した言葉は予想とは違う、けれど驚きの内容だった。

『王子様が!池で溺れたの!!』

 その後、その場が騒然としたのは当然のことと言えよう。




 王子の容体が落ち着いたところで、私はメリッサに何があったのか問うた。

『池でね、王子様が溺れてたの。だから助けたのよ』

 答えは簡潔にして明確なものだった。
 けれどその内容に首を傾げるのは、私がメリッサの母だからだ。

 王子を助けた?どうやって?
 泳いで助けたのだろうか?

『メリッサが?でも貴女は……』

 疑問に感じたことを問おうとしたまさにその瞬間、目の前を塞ぐ形で現れた王子の側近達によって阻まれる。

 無礼であると言える状況でもない。
 涙を流しながら王子を救ったメリッサに感謝する者たちに、怒りを覚えるほど狭量でもない。

 けれど私の中に生まれた疑問は、いつまでも消化されることなくくすぶり続けた。

 それから、先に帰ったと聞いたフィリアが──ずぶ濡れになっていたと聞いて驚いた。
 それでは、それではまさか……?

 けれど真実を知る前に婚約が成されてしまった。
 あれよあれよとメリッサが王子の婚約者となってしまったのだ。

 二人が話す内容から、どうやら泳いで王子を助けたようだと推測し。

 メリッサも、そしてフィリアも何も言わない。

 二人は笑っている。
 自身の幸せに笑顔を浮かべるメリッサ。そんな妹を愛し気に見つめ微笑む姉、フィリア。

 そんな二人に私は何も言えなくなってしまった。
 真実を知る事を恐れ、目を背けた。

 私だけが、母親の私だけが知っている事実。おそらくは夫も、フィリアも知らない事。

 メリッサは。
 泳げないのだ。

 それを言う勇気は。
 問い詰める勇気は。

 私には無かった。







 知らぬは罪。
 真実を語らぬは罪。

 嘘は無くとも真実もない世界で。

 歯車は、確実に軋みを上げ始めていた。







 
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