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10、※メリッサ視点(後編)

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『メリッサ、何があったの!?』

 王子が溺れた。
 そう伝えれば和やかな茶会の場は一気に騒然となった。

 大慌てで王子の側近たちが飛び出して来て、王子を抱えて屋敷内に入って行った。公爵お抱えの医師が呼ばれ……大事無いと診断されるまではあっという間だった。

 そうして少し落ち着いてから、母や複数の大人たちに説明を求められたのは当然の事なのだろう。

 だから私は話した。
 真実──の一部、を。

『池でね、王子様が溺れてたの。だから助けたのよ』

 ──姉が。
 言わないのは嘘ではない。
 誰が、とは言わなかっただけ。

『メリッサが?でも貴女は……』

 不思議そうに母が何かを言いかけたけれど、私がそれに答える間もなく、バッと私の前に出た存在。それは王子の第一側近だかなんだったか……どうでもいい事だけれど。私が母の問いに答える必要を無くしてくれた、私にとっては歓迎すべき存在なだけだ。

 その人が私の目の前で膝をつき、頭を垂れたのだ。

『なんと!貴女が王子を助けてくれたのですね!何と勇気のある方か……王家に代わり礼を言わせていただきます。本当にありがとうございました!』

(私が溺れてたとこを助けたわけではないけどね……)

 言わないだけ。
 私は何も言わない。
 嘘は言ってない。

 ただ、みんなが勝手に勘違いしただけ……。

 薄く笑みを浮かべる私の目に映るのは、何人も私に膝をつき頭を垂れる者たち──なんという優越感か!

 王家の人間は、いつもこんな優越感を感じてるのだろうか。
 私も王家の人間となれば、愉悦にまみれた日々を送れるのだろうか。

 心の中に生まれた優越意識はなんとも心地よく。
 もっともっとと欲するのを感じた。

 もっと。
 みんな。
 私を敬えばいいのに。
 頭を垂れればいいのに。

 自分は選ばれた人間なのだと。神に愛されてるのだと。確信した。
 選民思想だとかどうでもいい。
 これは真実だ。
 九歳の私が今日初めて茶会に参加したのは、きっと運命に愛されてるから。

『キミが私を助けてくれたの?』
『は、はい、そうです』

 その後、目を覚ました王子にそう問われ。私は初めて肯定の意を示した。

 ──嘘ではない。
 溺れてたところを救ったわけではない。
 けれど私が大人を呼びに行かなければ、王子は風邪を引いてたか最悪肺炎になっていたことだろう。

 私が王子を助けたのは、けして嘘ではない。

 自身に向けた言葉は、はたして誰への言い訳なのか。
 誰に向けたものか分からぬ言い訳を、私はずっと胸の内で呟くのだった。

 嘘ではない。
 嘘ではない。
 私は嘘は言ってない。

 その後は簡単だった。

 王子も周囲も簡単に勘違いして。
 唯一真実を知る姉は、なぜか黙っている。

 そして私は当然のように王子の婚約者となった。

 完璧で、完璧すぎる私の人生。
 神にすら愛されてる、私の人生!

 けれど不安はある。
 唯一にして絶対的不安。

 チラリと私は向かいで食事をとる姉を見やった。
 全てを知る、危険人物。




「お姉さまは、邪魔ね────」

 私の呟きを聞いた者は、居なかった。




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