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「お姉様は学年の中でも首位を争う優秀な方だから!見習えって、私も見習って勉強しろって……!」
「そうね、もう少し勉強した方がいいかもね」

 先日の定期考査はあまりに酷い結果だった妹に、私もその意見に同意する。

 すると今度は反対の頬に痛みが走った。また叩かれたようだ。

「そうやって!そうやって王子を誑かしたの!?あんた私に嫉妬してるだけでしょ!?私がどんどん綺麗になって悔しいから!私が王子に愛されてるから!だから嫉妬して、王子にあれこれ吹き込んで私の邪魔しようってんでしょ!汚い女!私が美に費やす事をやめさせて私から王子を取ろうってんでしょうが!?この泥棒──!!」

 ブンッとまたメリッサの手が振りかぶられる。

 また訪れる痛みを予想して、私はギュッと目を閉じた。

 けれど痛みは降ってこなかった。

「?」

 恐る恐る目を開けると──。

 ハアハアと肩を揺らすのは、慌てて走って来たからか。

 汗を流し髪を乱しながら、メリッサの腕を掴むのは。

「え、エディ……」
「エドワード様……」

 メリッサと私は同時に呟く。
 そこには第一王子、エドワードが居たのだ。

「メリッサ!君は何をしてるんだ!」
「え、エディ、これは……」
「言い訳はいい!フィリアに謝るんだ!」

 血相変えた王子に怒鳴られて、ビクッと体を震わせるメリッサ。
 その目には見る見るうちに涙が溢れ──そして零れた。

「だ、だってエディ……お姉様が、お姉様が……貴方に言ったんでしょう?私の邪魔をするような事を!」
「何を言ってるんだ、メリッサ。フィリアは私に何も言ってない」

 ポロポロ泣き出すメリッサを優しく抱きしめて。その背中を優しくさすると、メリッサはいよいよもって大声で泣き出すのだった。

 同時に鳴り響く始業の鐘。
 それまで野次馬していた学生達は、気にしつつも教室へと向かうのだった。

「フィリア、行きましょう。シャワーを浴びて服も洗濯しなきゃ」

 アイラが私の手をとってくれる。汚れるのに……気にせず、彼女は私を優しく立たせてくれた。

 そのまま無言でメリッサ達に背を向ける。
 その背中に、王子が小さく呟くのが聞こえた。

「ごめん、フィリア……」

 その言葉にピクリと肩が震えたけれど。
 私は無言でかぶりを振ってその場を後にするのだった。



※ ※ ※



 フィリア達を見送ってから、私は婚約者のメリッサを見た。

「メリッサ、落ち着いたかい?」
「ん……」

 食堂で二人きりになり。
 椅子に座って向かい合う。
 落ち着かせるように、その手を握りしめて。

 元々メリッサは癇癪が酷かったけれど、今日のは特にひどかった。まさか実の姉に暴力を振るうなんて……。

 大切だとは思うけど、流石にその行動には眉を潜めてしまうものがあった。

「誤解だから。フィリアは私に何も言ってないから」
「うん……」
「単に私がもっとメリッサに頑張って欲しいと思っただけなんだ。キミはやれば出来る子だって知ってるから」
「うん……」

 聞いてるのか聞いてないのか。気の無い返事を繰り返すメリッサが、ふと目を上げる。

「エディ……エドワード、貴方は私の婚約者よね?」
「ああ、そうだよ」
「私の事を愛してるのよね?」
「ああ、愛してるよ」
「貴方を……溺れてる貴方を助けた私を愛してくれてるのよね?」
「ああ、勿論だよ」

 そう、きっかけはそれだった。

 あの日あの時。
 私の初恋は始まったんだ。



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