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「よし、誰か呼んでこよっと」

 そこで現実に目を戻して、私は立ち上がるのだった。
 が、そこで問題が一つ。

 私は現在下着姿である。
 十歳なんてまだまだ子供と言われるけど、自分では立派なレディ……のつもり。そんな私の下着姿。

 この状態でお茶会の場へ戻る勇気は……さすがに無いな。

 さてどうしたものか。
 空気袋の役目を果たしたドレスは、もうシワシワのボロボロだし。
 というかこれをもう一度着るというのも、なあ……。

 早くしないと、折角助けた子も風邪を引いてしまう。生きてるとは言え、早急に医師に見せる必要があるだろう。

 どうしたものかと悩んでる私の耳に、小さな足音が聞こえたのはその時だった。

 ガサガサと茂みをかき分ける音が聞こえ。

「お姉さま?」

 一歳下の妹が、そこから顔を覗かせたのだ!

「メリッサ!いいところに!」
「え!?お姉さま、どーしたの!?」

 さすがにこの姉の姿には度肝を抜かれたんだろう。ギョッとして一歩後ずさった妹を私は逃がさない!

「待って待ってメリッサ!悪いけど誰か大人を呼んできてくれない!?子供が池で溺れてたって!」
「え……う、うん?」
「お願いね、じゃ!」

 私はそう妹に頼んで。
 私は先に帰るから~!と言い置いてその場を後にするのだった。

「お嬢様!?」
「扉を開けてえぇ!!」
「はいー!!」

 一気に走って我が伯爵家の馬車を見つけ、待機してた御者に必死の形相で怒鳴る!
 そして開けられた馬車の中へと突進したのだった!

 はあ~しんど!
 多分誰にも見られてない、と思う。多分……そう思いたい!

 閉じられた馬車の窓からこっそり外を覗き見て、誰も居ない事を確認して。
 そこでようやく私は一息つくのだった。

 その後、私は御者にお願いして、一旦屋敷へと戻ってもらい。
 妹とお母さまには先に帰ったと伝えてねと伝言を頼んで、お茶会会場である公爵邸に戻ってもらった。

 私はといえば、またもダッシュで屋敷の中に入るのだった。

 ──入った直後にメイド長に見つかるわ、運悪く玄関にいたお父様に見つかって……なんて姿してるんだ!とこっぴどく怒られたんだけどね。

 何となく理由を言うのがはばかられたので、ちょっと泳ぎたくなってと言ったら呆れられてしまいましたよ。
 しばらく部屋にて謹慎してなさい!と言われてしまった私は、だから知らない。

 あの助けた子と、妹のその後の話を。





「キミが私を助けてくれたの?」
「は、はい、そうです」
「そうか、ありがとう……キミの名前は?」
「メリッサと言います、王子様」
「私はエドワード。キミは勇気があるね、メリッサ」

 ニッコリと微笑むその人は、美しい青の瞳を細めるのだった。






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