「僕は病弱なので面倒な政務は全部やってね」と言う婚約者にビンタくらわした私が聖女です

リオール

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14、負けられない勝負があるのです

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「ビョルン様?」
「僕は嫌だ、アリーナとの婚約は解消しない」
「なにを……」

 何を言い出すのかと目を丸くするのは、私だ。

「だってあなたは、色々な令嬢と……ミチェ様とか、他の女性と親しくされているではありませんか」

 私は必要ないでしょう?
 言えばビョルンは首を振る。

「嫌だ。あの子たちは遊びだから」

 遊びときたこれ。
 言っちゃいましたね、遊びって。怒りに顔を真っ赤にさせるミチェ嬢の顔が脳裏に浮かぶわ。

「ですが、ミチェ様に『好きだ』とおっしゃったと聞きましたが……」
「そんな事実はない。僕が好きなのはキミだけだよ、アリーナ」

 え。
 ちょっと予想外な展開についていけない。

「私のこと、好きなんですか?」
「うん」
「私のことが好きなのに、他の女性とイチャイチャしてたんですか?」
「だって遊びだから」

 遊びだから。もう一度いただきました。
 いやまておい。
 私のことが好き?
 他の令嬢は遊び?

 ……バカ言っちゃいかんよあなた。

「私は女性をもてあそぶ男は大嫌いです」
「でも僕はキミが好きなんだよ、アリーナ」
「いや嫌いなんで」
「でも好きだあ!」

 どうすんのこれ。話が進まないんですけど!?
 困ったなと王と父を見たら、目をそらされた。おい。

 ラムサール様を見れば、何やら苦笑を浮かべている。

「アリーナ嬢はビョルン様と婚約解消してどうするんだい?」
「ラムサール様に告白します」
「こくは……もうしてる気がするけど」
「本気の告白です」
「なるほど」

 分かったんだかわかってないんだか。
 しかし何かに納得したのだろう。
 頷いて、ラムサール様は王太子を見た。

「とりあえず、本気で勉強なさい、ビョルン様」
「え?」
「本気で学び、ご自身を成長させなさい。王太子に相応しい人物になってから、もう一度アリーナ嬢に求婚するんです。それまで一旦婚約は保留ということで」
「いやでも……」
「あなたの言葉はあまりに軽い。彼女への本気を示す必要がある。分かりますね?」
「……」

 その無言の中には多大なる不満と、けれど仕方ないという思いが感じ取られた。

「わかったよ。アリーナ、きみに僕の本気を見せてあげよう!」
「えええ……」

 今更本気を見せられたところで、私の気持ちは変わらない。というか、ビョルンの本気ってどんななの。
 しかし隣国の駄目王子を立派な王に育て上げた大魔法使いは、かなり自信があるらしい。

「大丈夫、私にかかればどんな駄目王子も、立派に更生させてみせます」
「たとえビョルン様が立派になられても、婚約は解消します」

 キッパリ言う私を、面白そうに見るビョルン様。

「未来の王妃の座を捨てるのかい?」
「興味ありません。それよりあなたと一緒に、世界を回りながら聖女として人々を救済するほうが、有意義な人生を送れそうです」

 その瞬間、ラムサール様の瞳の奥が、光った気がする。気のせいだろうけれど、彼の心の琴線に触れることができたのだろう。

「なるほど……なるほどね。キミは実に興味深い聖女だ」
「そうですか?」
「少なくとも、ぬくぬくした環境を捨てたい聖女には初めて会ったよ」
「私はあなたと一緒にいたいだけです」
「そんなこと言う女性にも初めて会ったよ」

 言って、彼は私の金の髪をひと房つまんだ。

「さて、この勝負、どちらが勝つかな」
「私は負けません」

 クスリと笑うラムサール様に、私も笑い返した。

「僕ちんは認めないぞお! 僕は絶対アリーナと結婚……んべっ!」

 僕ちんとか言う奴には、考えるより先に手が出る私です。
 考えるより先に、思い切りビンタしてしまった私であった。

 あ、ごめん。一応謝っておくわ。
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