「僕は病弱なので面倒な政務は全部やってね」と言う婚約者にビンタくらわした私が聖女です

リオール

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12、話し合いすらできないのです

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 騒ぎは王太子のおかげで静まったとはいえ、濡れた状態は気持ち悪い。
 王宮に用意された私の部屋で、着替えをしたいと向かっていると、正面から驚いた様子のラムサール様とカチ合った。

「おや、どうしたんだい? ……びしょ濡れじゃないか」
「ちょっとトラブルがありまして……」
「そうか。大丈夫?」
「はい。ですが、ちょっと着替えてきてもよろしいでしょうか?」
「構わないよ。王太子は私が探しておくから」

 言い間違えが多いといっていた人は、随分と流ちょうに話す。あれはキャラ作りだったのかしら?

「いえ、王太子は見つかりました」
「え、どちょ?」
「……」
「……ゴホン。どこ?」

 どうやら集中が切れると、言い間違いが発生するらしい。頬をほんのり赤く染めてる様が可愛い。

「ええっと、見つけたのですが……また見失いました」
「つまり逃げられたと?」
「申し訳ありません」
「いや、謝ることではないよ。王太子にも困ったものだ」

 そう言って、溜め息をつくラムサール様。もっと色々お話したいのだけれど、いかんせん濡れた状態は……。
 早く綺麗にして、お話しようと、私は急ぐのだった。

 それから烏の行水並に早く入浴し、早着替え選手権があれば、確実に優勝の早さで着替えてラムサール様を探したのだけれど。

「追跡魔法をキミにかけた。今度逃げてもすぐに見つけられるから、逃げるんじゃないぞ」

 そう言って、ビョルンに説教しているラムサール様を見つけて、ガックリ項垂れるのであった。

* * *

「ビョルン様、お話があります」
「僕はないよ。忙しいからまた後で」

 逃げられた。

「王様、お話が……」
「あー最近ワシ、耳が遠くなったみたいで、話がよく聞こえんのよ」
「聖女の治癒魔法で治して差し上げます」
「あ、腹痛い。また今度」

 逃げられた!

「お父様、おはな……」
「お花が満開で、我が公爵家の庭は綺麗だなあ! さすがうちの庭師は優秀だ! 話でも聞いてくるか!」

 また逃げられたあ!

 王様と父は、ことごとく私の話を避ける。なんとしても婚約解消を有耶無耶にしたいようだ。更にビョルンも逃げる。婚約解消したいって話は既に耳に入っているはず。なのに逃げるってことは解消したくないの?
 その割には、相変わらずご令嬢たちといちゃついてるよねえ。

「あら、失礼」

 そう言って、ミチェ嬢の肘鉄くらったのは、昨日のこと。
 今日は別の令嬢から、「調子乗ってんな」的なことを言われたので、「お前がな」てなことを言って鼻先5センチの距離で睨んだら、半泣きで逃げて行った。基本、どの令嬢も嫌がらせや言いがかりをつけてくるくせに、私が言い返したりキレると泣いて逃げる。ヘタレである。
 そんな中で、めげずにやって来るミチェ嬢は、ある意味たくましく凄いのかもしれない。

 なんてことがあっても、ビョルン王太子担当の仕事は溜まっていく。

「ビョルン様、今日はせめてこの書類の束くらいは片付けていただかないと……」
「あー熱ある。これ確実に熱あるわ。ごめんアリーナ、僕は今から横になるよ」
「すっごい血色のいい、ツヤツヤなお肌されてるように見えますが?」
「アリーナも疲れてるんだね。目の治療したほうがいいんじゃないか?」
「お前は頭の治療したほうがいいと思うけどね」
「ん?」
「ごーほごほごほ、どうやら私も喉の調子が悪いようです!」

 気を抜けば、罵詈雑言が飛び出しそうだ。さすがに王太子にそれはまずいと誤魔化すけれど、いつ誤魔化しができないくらいの発言をしてしまうかとヒヤヒヤものである。

「アリーナも休んだ方がいいよ。なんなら一緒に寝るかい?」
「寝言は寝て言え」
「うん?」
「ゴホゴホ、調子が最悪です。私も自室に戻らせていただきます」

 言って私は王太子の執務室を後にする。部屋を出る時に目に入った書類の山。あれだけ国民の要望が山積みであるということに罪悪感を抱きつつ、早く婚約解消と、新しい王太子を据えることが急務だなと改めて思うのであった。

 というか、全然ラムサール様にアピールできない。
 あの人、一体どこに居るの!? ビョルンの教育係のはずなのに、全然姿見ないのはなぜ!?
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