12 / 15
12、話し合いすらできないのです
しおりを挟む騒ぎは王太子のおかげで静まったとはいえ、濡れた状態は気持ち悪い。
王宮に用意された私の部屋で、着替えをしたいと向かっていると、正面から驚いた様子のラムサール様とカチ合った。
「おや、どうしたんだい? ……びしょ濡れじゃないか」
「ちょっとトラブルがありまして……」
「そうか。大丈夫?」
「はい。ですが、ちょっと着替えてきてもよろしいでしょうか?」
「構わないよ。王太子は私が探しておくから」
言い間違えが多いといっていた人は、随分と流ちょうに話す。あれはキャラ作りだったのかしら?
「いえ、王太子は見つかりました」
「え、どちょ?」
「……」
「……ゴホン。どこ?」
どうやら集中が切れると、言い間違いが発生するらしい。頬をほんのり赤く染めてる様が可愛い。
「ええっと、見つけたのですが……また見失いました」
「つまり逃げられたと?」
「申し訳ありません」
「いや、謝ることではないよ。王太子にも困ったものだ」
そう言って、溜め息をつくラムサール様。もっと色々お話したいのだけれど、いかんせん濡れた状態は……。
早く綺麗にして、お話しようと、私は急ぐのだった。
それから烏の行水並に早く入浴し、早着替え選手権があれば、確実に優勝の早さで着替えてラムサール様を探したのだけれど。
「追跡魔法をキミにかけた。今度逃げてもすぐに見つけられるから、逃げるんじゃないぞ」
そう言って、ビョルンに説教しているラムサール様を見つけて、ガックリ項垂れるのであった。
* * *
「ビョルン様、お話があります」
「僕はないよ。忙しいからまた後で」
逃げられた。
「王様、お話が……」
「あー最近ワシ、耳が遠くなったみたいで、話がよく聞こえんのよ」
「聖女の治癒魔法で治して差し上げます」
「あ、腹痛い。また今度」
逃げられた!
「お父様、おはな……」
「お花が満開で、我が公爵家の庭は綺麗だなあ! さすがうちの庭師は優秀だ! 話でも聞いてくるか!」
また逃げられたあ!
王様と父は、ことごとく私の話を避ける。なんとしても婚約解消を有耶無耶にしたいようだ。更にビョルンも逃げる。婚約解消したいって話は既に耳に入っているはず。なのに逃げるってことは解消したくないの?
その割には、相変わらずご令嬢たちといちゃついてるよねえ。
「あら、失礼」
そう言って、ミチェ嬢の肘鉄くらったのは、昨日のこと。
今日は別の令嬢から、「調子乗ってんな」的なことを言われたので、「お前がな」てなことを言って鼻先5センチの距離で睨んだら、半泣きで逃げて行った。基本、どの令嬢も嫌がらせや言いがかりをつけてくるくせに、私が言い返したりキレると泣いて逃げる。ヘタレである。
そんな中で、めげずにやって来るミチェ嬢は、ある意味たくましく凄いのかもしれない。
なんてことがあっても、ビョルン王太子担当の仕事は溜まっていく。
「ビョルン様、今日はせめてこの書類の束くらいは片付けていただかないと……」
「あー熱ある。これ確実に熱あるわ。ごめんアリーナ、僕は今から横になるよ」
「すっごい血色のいい、ツヤツヤなお肌されてるように見えますが?」
「アリーナも疲れてるんだね。目の治療したほうがいいんじゃないか?」
「お前は頭の治療したほうがいいと思うけどね」
「ん?」
「ごーほごほごほ、どうやら私も喉の調子が悪いようです!」
気を抜けば、罵詈雑言が飛び出しそうだ。さすがに王太子にそれはまずいと誤魔化すけれど、いつ誤魔化しができないくらいの発言をしてしまうかとヒヤヒヤものである。
「アリーナも休んだ方がいいよ。なんなら一緒に寝るかい?」
「寝言は寝て言え」
「うん?」
「ゴホゴホ、調子が最悪です。私も自室に戻らせていただきます」
言って私は王太子の執務室を後にする。部屋を出る時に目に入った書類の山。あれだけ国民の要望が山積みであるということに罪悪感を抱きつつ、早く婚約解消と、新しい王太子を据えることが急務だなと改めて思うのであった。
というか、全然ラムサール様にアピールできない。
あの人、一体どこに居るの!? ビョルンの教育係のはずなのに、全然姿見ないのはなぜ!?
133
お気に入りに追加
375
あなたにおすすめの小説
【完結】浮気性王子は婚約破棄をし馬鹿な妹を選ぶ
かずきりり
恋愛
妹とベタベタする殿下。
貴族の政略結婚を理解していますか?
夫婦支え合うのは一人の努力で出来ませんよ?
婚約破棄ですか……
では、私は国外に買い付けに行きますね!
貴族生活は窮屈です!
-------------------------------
※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています
【完結】姉は全てを持っていくから、私は生贄を選びます
かずきりり
恋愛
もう、うんざりだ。
そこに私の意思なんてなくて。
発狂して叫ぶ姉に見向きもしないで、私は家を出る。
貴女に悪意がないのは十分理解しているが、受け取る私は不愉快で仕方なかった。
善意で施していると思っているから、いくら止めて欲しいと言っても聞き入れてもらえない。
聞き入れてもらえないなら、私の存在なんて無いも同然のようにしか思えなかった。
————貴方たちに私の声は聞こえていますか?
------------------------------
※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています
【完結】婚約破棄は受けますが、妹との結婚は無理ですよ
かずきりり
恋愛
王妃様主催のお茶会で、いきなり妹を虐めているなどという冤罪をかけられた挙句に貶められるような事を言われ…………
妹は可愛い顔立ち
私はキツイ顔立ち
妹の方が良いというのは理解できます。えぇとても納得します。
けれど…………
妹との未来はありえませんよ……?
------------------------------
※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています
【完結】要らない私は消えます
かずきりり
恋愛
虐げてくる義母、義妹
会わない父と兄
浮気ばかりの婚約者
どうして私なの?
どうして
どうして
どうして
妃教育が進むにつれ、自分に詰め込まれる情報の重要性。
もう戻れないのだと知る。
……ならば……
◇
HOT&人気ランキング一位
ありがとうございます((。´・ω・)。´_ _))ペコリ
※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています
【完結】義姉の言いなりとなる貴方など要りません
かずきりり
恋愛
今日も約束を反故される。
……約束の時間を過ぎてから。
侍女の怒りに私の怒りが収まる日々を過ごしている。
貴族の結婚なんて、所詮は政略で。
家同士を繋げる、ただの契約結婚に過ぎない。
なのに……
何もかも義姉優先。
挙句、式や私の部屋も義姉の言いなりで、義姉の望むまま。
挙句の果て、侯爵家なのだから。
そっちは子爵家なのだからと見下される始末。
そんな相手に信用や信頼が生まれるわけもなく、ただ先行きに不安しかないのだけれど……。
更に、バージンロードを義姉に歩かせろだ!?
流石にそこはお断りしますけど!?
もう、付き合いきれない。
けれど、婚約白紙を今更出来ない……
なら、新たに契約を結びましょうか。
義理や人情がないのであれば、こちらは情けをかけません。
-----------------------
※こちらの作品はカクヨムでも掲載しております。
【完結】愛していたのに処刑されました。今度は関わりません。
かずきりり
恋愛
「アマリア・レガス伯爵令嬢!其方を王族に毒をもったとして処刑とする!」
いきなりの冤罪を突き立てられ、私の愛していた婚約者は、別の女性と一緒に居る。
貴族としての政略結婚だとしても、私は愛していた。
けれど、貴方は……別の女性といつも居た。
処刑されたと思ったら、何故か時間が巻き戻っている。
ならば……諦める。
前とは違う人生を送って、貴方を好きだという気持ちをも……。
……そう簡単に、消えないけれど。
---------------------
※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています。
旦那様に離婚を突きつけられて身を引きましたが妊娠していました。
ゆらゆらぎ
恋愛
ある日、平民出身である侯爵夫人カトリーナは辺境へ行って二ヶ月間会っていない夫、ランドロフから執事を通して離縁届を突きつけられる。元の身分の差を考え気持ちを残しながらも大人しく身を引いたカトリーナ。
実家に戻り、兄の隣国行きについていくことになったが隣国アスファルタ王国に向かう旅の途中、急激に体調を崩したカトリーナは医師の診察を受けることに。
せっかく家の借金を返したのに、妹に婚約者を奪われて追放されました。でも、気にしなくていいみたいです。私には頼れる公爵様がいらっしゃいますから
甘海そら
恋愛
ヤルス伯爵家の長女、セリアには商才があった。
であれば、ヤルス家の借金を見事に返済し、いよいよ婚礼を間近にする。
だが、
「セリア。君には悪いと思っているが、私は運命の人を見つけたのだよ」
婚約者であるはずのクワイフからそう告げられる。
そのクワイフの隣には、妹であるヨカが目を細めて笑っていた。
気がつけば、セリアは全てを失っていた。
今までの功績は何故か妹のものになり、婚約者もまた妹のものとなった。
さらには、あらぬ悪名を着せられ、屋敷から追放される憂き目にも会う。
失意のどん底に陥ることになる。
ただ、そんな時だった。
セリアの目の前に、かつての親友が現れた。
大国シュリナの雄。
ユーガルド公爵家が当主、ケネス・トルゴー。
彼が仏頂面で手を差し伸べてくれば、彼女の運命は大きく変化していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる