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11、予想外の展開に目が点なのです
しおりを挟む人が大勢集まってきたところで、不意に「なにごとだい?」と声がした。
振り返れば、やつがいた。黒髪をなびかせたビョルンである。
「いたーーーーー!!!!」
思わず叫んだわ。
別に真剣に探していたわけではないが、なんか訳の分からない状況になっているせいか、見つかったことにテンション上がっちゃった。
「え、いた? なにが?」
「探していたんですよ、ビョルン様! 今日からラムサール様が色々と教えてくださるってのに、どこ行ってたんですか!?」
「ええっと、あっち」
「どっち?」
「そっち」
「分かるかい!」
なに言っているのか、サッパリ分かりません!
まあいいんだけど。どこに隠れていたのかじゃない、見つかったことが重要。
「というか、どうして隠れてたんですか?」
「え…………」
その長い三点リーダーに、どんな意味が隠れているのか。知りたいようで知りたくない。
まあいいや、あとはラムサール様を呼んできたら……と思っていたら、ドンと衝撃を感じて、思わずよろけた。痛い。なにごと。
「きゃあ、ビョルン様! 私を助けに来てくださったんですのね!」
花瓶の水を捨てたミチェ嬢ではないか。いつの間に二階から下りてきたの?
「ミチェさん、二階から飛び降りたのですか?」
「そんなことできるわけないでしょ」
「飛び降りたらいいのに」
「下が芝生でも、骨折するわよ!」
「大丈夫ですよ、私が治してあげません」
「治さないんかーい!」
どうもミチェというこの令嬢、王様と似たタイプに思われる。いいツッコミするわね。
直後、ハッとなって口に手を当てて、慌てて周囲を見回すミチェ嬢。大勢の視線が自分に集まっていることに、今頃気付いたらしい。
「キミ、そういうキャラだったんだ?」
「いやですわビョルン様、これはそこにいる聖女の呪いで、性格が変わってしまっただけです」
おい、聖女というワード使ったら、なんでも通ると思ってるだろお前。そんなわけあるか。
「アリーナ、駄目じゃないか。聖女の能力を私的に使うなんて」
そんなわけあった。聖女ワード使ったら、なんでも通るんだな、王太子相手なら。
王太子にしては珍しく厳しい目を向けられて、ちょっとイラッとなる。なぜ私が悪者にならねばならないのだろう。
というか10年近く婚約者やってて、聖女に呪いの力なんて無いことも知らないの、この人?
「私は呪ってはおりません」
「まあいいけど」よくないだろ。
「それより、この騒ぎはなんなの?」
そうビョルンが言った途端、よくぞ聞いてくれましたとばかりに、ミチェが王太子の前に出た。私に肘鉄くらわす必要ある?
「私が横着して、二階の窓から花瓶の水を捨てたんです。そしたら偶然下にアリーナ様がおられて、水がかかってしまって……。そしたらアリーナ様が、烈火のごとくお怒りになられたのです」
「そうか、それじゃあ仕方ないね」
「そうですわね、仕方ない……え?」
花瓶の水を捨てたくだりはいいが、誰がいつ烈火の怒りを爆発させた? と思って聞いていたら、ビョルンが予想外の反応に。それはミチェ嬢にとっても同じだったらしい。
「それの何が問題?」
「え、で、ですが……たかが花瓶の水くらいで、そんなに怒らなくても……彼女は聖女ですのに……」
「そう? 僕なら怒るけどね」
「え」
「そうだ、ここに庭師が置いたバケツがある」
言って、ビョルンは庭に置かれたバケツに手を伸ばした。いつから置きっぱなしなのか、中には雨水がたまっている。
手が汚れるのも気にせずそれを持ちあげた王太子は、直後──
「きゃああああ!?」
バシャッという音と共に、なんとミチェ嬢にその水をぶっかけたのだ!
さすがにそれは汚いと、私もドン引きだ。
「え、ちょ、なに……いやだ、クサイ! 汚ーい! なにするのよ!」
「ほら怒った」
「え」
相手が王太子というのも忘れて、怒りに顔を真っ赤にさせるミチェ嬢に、ビョルンは飄々と言ってのけた。
「キミだって、水をかけられたら怒るだろ?」
「そ、それとこれとは……だって、彼女は聖女で……」
「聖女は怒っちゃダメなの?」
「……」
王太子の同情を引く作戦はこれにて終了。
真っ赤から真っ青になったミチェ嬢は、リアラとジェシカと共に無言で立ち去った。
「やれやれ」
言って、パンパンと手を叩いて汚れを落とすビョルン。
まさか彼に助けてもらうことになるとは。
予想外の展開に、私はただただ無言で立ち尽くすのだった。
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