「僕は病弱なので面倒な政務は全部やってね」と言う婚約者にビンタくらわした私が聖女です

リオール

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8、理解のない父親はイラッとくるのです

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「ビョルン様との婚約を解消したいと思います」
「え」

 帰宅早々、父の部屋へと向かえば、仕事が終わって紅茶を飲んでいた。私の姿をみとめて嬉しそうに笑いかけてくる父は、私のことを心から愛してくれている。
 が、公爵としては、甘いことは言ってられないらしい。

 政略で、王家と親が勝手に決めた婚約。そこに私の意思は存在しなかった。私の意向を聞くこともしてくれなかった。
 私は基本、親を愛しているが、その点に関しては非常に恨んでいる。

 ので、ニコニコ顔の父が真っ青になるくらいに、冷たい目を向けて言った。なんなら父の手にある紅茶が凍ってしまうくらいに。……なんてことはさすがに無理だが、空気がビシッと凍ることにはなる。

「え、ええっと、アリーナ? どうした、いきなり。 お疲れかい?」
「ええ、ええ。今日も今日とて『僕ちん体調悪いから、お仕事しな~い』とかいう阿呆の面倒を見させられて、疲れておりますよ」

 嫌味ったらしく言えば、引きつった笑みで父は「そう、お疲れ」とか言ってきたから……思わず、バンッとテーブルを叩いてしまった。飛ぶ書類。重要書類? 知ったことか!

「なんっで、私が王太子の面倒を見なくちゃいけないんですか? 挙句の果てに、『キミがやっといて』ですって!? 聖女の仕事にそんなもんあるか! 臨時手当寄越せ!」
「り、臨時手当出したら、やるの?」
「やりません!」
「やらないのかー」

 やるわけないでしょうが!
 あの阿呆王子も、王も親も、どうして私に全てを押し付けようとするのかしら。

「で、どうしたの?」
「ムカついたので、ビンタしてきました」
「ビンタ!?」
「さすがにそれはまずいと、王に怒られました」
「だろうね!」

 これはまずい、謝罪にいったほうがいいかなと、父があたふたしだす。

「王様は本日はお疲れですから、明日にしたほうがいいですよ」
「あ、そ、そう?」

 私の治療のおかげで、今頃あの方はグッスリ安眠中だろう。時間外訪問は失礼だし、と言えば、父は実に複雑な安堵の表情を浮かべた。

「で?」
「え?」

 返答をうながせば、キョトンとした顔が返って来る。話、聞いてないのかしら。

「ですから。私と王太子との婚約。解消していただけますか?」
「いや、無理でしょ」
「なんで」
「むしろなんで解消?」
「嫌いだからです」
「そうかー嫌いかー。わかるわかる、私もあの王子、嫌いだもん」
「『もん』っじゃないわーーーーー!!!!」
「きゃーーーー!?」

 なに女子みたいな黄色い悲鳴を上げているのだ。
 娘の話を真面目に聞こうとしない父に、いい加減きれた。

「り、理由を聞いてもいいかな!?」
「好きな人ができたからです!」
「そうか、好きな人が……え」

 キッパリ言いきれば、ヤレヤレといった顔をする父。その表情が一瞬にして驚愕に支配される。

「いま、なんて言ったの?」
「好きな人ができました! 大魔法使いのラムサール様でっす!!!!」

 へたに誤魔化したり隠したら面倒と、真実を告げる私に、父はこぼれんばかりに目をひんむいて叫んだ。

「はああああ!?」

 この悲鳴が、親子喧嘩勃発の合図である。
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