「僕は病弱なので面倒な政務は全部やってね」と言う婚約者にビンタくらわした私が聖女です

リオール

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5、やっぱり鉄板の女好きなのです

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 交渉を続けるべく、私は王に言った。

「そもそもですね。王子がまともになれば、私という婚約者は不要だと思うのです」
「ま、まあそれはそうかもしれないんだけど……」

 王が無能ならば、せめてその妻となる国母、王妃は有能な人材を、てな理由で私に白羽の矢が立ったわけだ。でもいい機会だ、この際だから言わせてもらおう。

「聖女だからって、有能だと思うんじゃないわよおぉっ!!!!」
「んぎゃあああ!!!!」

 精一杯の聖力こめて、王の腰に突きを入れた。最高に痛くて気持ちいい状態に、王は悲鳴を上げて意識を失った。
 不敬とかないよ。こういう関係を十年続けてきたのだ、今更誰も不敬だと騒がない。王第一の側近にして、有能な宰相様とか執事とか、いっぱいいるけど、誰も私を咎めることはない。
 むしろ「王様が楽しんでいるようで何より」と生温く見守ってくれているくらいだ。

 王様って色々ストレスたまるのよねえ。でもって本音を出せる相手って限られてくる。更に言えば王様に意見できる人なんて……王妃様でもギリなところ。
 でも聖女を筆頭に神殿はそういったしがらみがない。なにせ神殿は国から独立しているから。
 なんの政治事情があろうとも、干渉を許さない。それが神殿。
 そのトップの神官長様と同レベルな聖女な私が、好き勝手しても誰も咎めることはない。
 とはいえ、私の実家は公爵家だから、平民出が多い聖女の中では、珍しい立ち位置ではある。

 そんな私だからこそ……なのかは分からないが、私の王に対する態度は、みんな許してくれる。ありがたや。
 おかげでこうやって好き勝手できるんですよ。
 でも王様も強情なとこは強情で。
 昔からずっと婚約にブーイングしているのだけど、そこは譲れないんだとか。どんだけ信用されてないの、あの王太子。

 でもね、聖女だからって有能だと思わないで欲しい。ぶっちゃけ私は王太子ほどではないにしろ、能力は低いほうだ。政治なんて難しいこと、私には無理。
 私にできるのは、直接体動かして、困っている人、苦しんでいる人を助けることくらい。
 近隣諸国の動きがどうだの、タヌキ親父の化かし合いだのは、非常に苦手。というか無理。
 なのにあの王太子があまりに無能すぎて、それをサポートしている私が有能だと勘違いされている。

 いや、あの王太子と一緒ならば、誰もが有能になるんですよ。

 と、分かってくれる人がいないんだよねえ。その事実を知れば、聖女の私はあくまで国のサポート要員、王太子には有能な奥さんを探そうってなるはず。

 目が覚めたら、王も考え直してくれるといいな。

「しばらく寝かせてあげてください」

 最近忙しくて寝ていなかったのか、王様の目の下には酷いクマがあった。
 クソ真面目なあの人のことだ、自分の体調そっちのけで政務やりまくってたのだろう。こうでもしなければ、あの人は寝ようとしない。
 それを知っているのだろう、私の言葉に側近達は頷く。どこかホッとした顔を確認してから、私は王宮の廊下を歩いた。

 勝手知ったる……自分の家である公爵邸より居る時間が長い場所だ。どこに何があるかなんて知っている。
 そうでなくとも、あれほどに大きな魔力の存在を、私が感知できないはずもない。
 鼻歌混じりにラムサール様の元へと急ぐ私だったが、ふと中庭に面する廊下に出たところで、その歩みを止めた。
 なぜなら、そこにあの王太子を認めたから。

「……なにやってんの、あのバカ」

 今朝、会うや否や、体調不良を言い訳に政務をサボろうとしたバカ。
 ふざけんなとビンタしたのが数時間前。
 まだ頬が赤い状態だというのに、王太子は謎の女性と中庭で談笑しているではないか。しかも女性のほうは、王太子の胸元にしなだれかかっている。

(ホント、最低な男)

 政務をサボって何をするかと言えば、基本女遊びだ。サラリと黒髪を流し、闇のような黒い瞳を細め、どこぞの令嬢に流し目を送る王太子。黙っていればイケメンこのうえないビョルン王子は、一応モテる。
 なにせ王太子だ、正妻は無理でも側室を狙う令嬢は後を絶たない。

 どうせ政略、愛のない結婚。

 私たちの婚約が、そう揶揄されていることも知っている。
 まあ事実なんだけど。
 私とビョルンの間に、甘い空気など一度とてなかった。いや、ビョルンは全女性に対して甘い雰囲気を出しているか。
 さっきだって無意味に私に顔を近づけてきたので、ビンタが飛んだわけなのだから。

 あの甘いマスクに、騙される女性の多いこと。
 そして今日も、どこぞの令嬢を城に呼んで、堂々と逢瀬ときている。

 いい度胸である。

(ま、それももう私には関係ないのだけれど)

 愛はなくとも、それでも婚約は決定。いつかは結婚するのに……と、ちょっぴり、ほんのちょーっぴり傷ついていた私だったが、そんな感傷も今は微塵もない。

「うん。とにかく早く婚約解消しよう!」

 そしたらすぐにでもラムサール様にアタックするわ!
 そう拳を握って、私はまたラムサール様の気配のする方向へと向かうのだった。

 そんな私の背を、ビョルンがジッと見ているとも知らずに……。
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