5 / 15
5、やっぱり鉄板の女好きなのです
しおりを挟む交渉を続けるべく、私は王に言った。
「そもそもですね。王子がまともになれば、私という婚約者は不要だと思うのです」
「ま、まあそれはそうかもしれないんだけど……」
王が無能ならば、せめてその妻となる国母、王妃は有能な人材を、てな理由で私に白羽の矢が立ったわけだ。でもいい機会だ、この際だから言わせてもらおう。
「聖女だからって、有能だと思うんじゃないわよおぉっ!!!!」
「んぎゃあああ!!!!」
精一杯の聖力こめて、王の腰に突きを入れた。最高に痛くて気持ちいい状態に、王は悲鳴を上げて意識を失った。
不敬とかないよ。こういう関係を十年続けてきたのだ、今更誰も不敬だと騒がない。王第一の側近にして、有能な宰相様とか執事とか、いっぱいいるけど、誰も私を咎めることはない。
むしろ「王様が楽しんでいるようで何より」と生温く見守ってくれているくらいだ。
王様って色々ストレスたまるのよねえ。でもって本音を出せる相手って限られてくる。更に言えば王様に意見できる人なんて……王妃様でもギリなところ。
でも聖女を筆頭に神殿はそういったしがらみがない。なにせ神殿は国から独立しているから。
なんの政治事情があろうとも、干渉を許さない。それが神殿。
そのトップの神官長様と同レベルな聖女な私が、好き勝手しても誰も咎めることはない。
とはいえ、私の実家は公爵家だから、平民出が多い聖女の中では、珍しい立ち位置ではある。
そんな私だからこそ……なのかは分からないが、私の王に対する態度は、みんな許してくれる。ありがたや。
おかげでこうやって好き勝手できるんですよ。
でも王様も強情なとこは強情で。
昔からずっと婚約にブーイングしているのだけど、そこは譲れないんだとか。どんだけ信用されてないの、あの王太子。
でもね、聖女だからって有能だと思わないで欲しい。ぶっちゃけ私は王太子ほどではないにしろ、能力は低いほうだ。政治なんて難しいこと、私には無理。
私にできるのは、直接体動かして、困っている人、苦しんでいる人を助けることくらい。
近隣諸国の動きがどうだの、タヌキ親父の化かし合いだのは、非常に苦手。というか無理。
なのにあの王太子があまりに無能すぎて、それをサポートしている私が有能だと勘違いされている。
いや、あの王太子と一緒ならば、誰もが有能になるんですよ。
と、分かってくれる人がいないんだよねえ。その事実を知れば、聖女の私はあくまで国のサポート要員、王太子には有能な奥さんを探そうってなるはず。
目が覚めたら、王も考え直してくれるといいな。
「しばらく寝かせてあげてください」
最近忙しくて寝ていなかったのか、王様の目の下には酷いクマがあった。
クソ真面目なあの人のことだ、自分の体調そっちのけで政務やりまくってたのだろう。こうでもしなければ、あの人は寝ようとしない。
それを知っているのだろう、私の言葉に側近達は頷く。どこかホッとした顔を確認してから、私は王宮の廊下を歩いた。
勝手知ったる……自分の家である公爵邸より居る時間が長い場所だ。どこに何があるかなんて知っている。
そうでなくとも、あれほどに大きな魔力の存在を、私が感知できないはずもない。
鼻歌混じりにラムサール様の元へと急ぐ私だったが、ふと中庭に面する廊下に出たところで、その歩みを止めた。
なぜなら、そこにあの王太子を認めたから。
「……なにやってんの、あのバカ」
今朝、会うや否や、体調不良を言い訳に政務をサボろうとしたバカ。
ふざけんなとビンタしたのが数時間前。
まだ頬が赤い状態だというのに、王太子は謎の女性と中庭で談笑しているではないか。しかも女性のほうは、王太子の胸元にしなだれかかっている。
(ホント、最低な男)
政務をサボって何をするかと言えば、基本女遊びだ。サラリと黒髪を流し、闇のような黒い瞳を細め、どこぞの令嬢に流し目を送る王太子。黙っていればイケメンこのうえないビョルン王子は、一応モテる。
なにせ王太子だ、正妻は無理でも側室を狙う令嬢は後を絶たない。
どうせ政略、愛のない結婚。
私たちの婚約が、そう揶揄されていることも知っている。
まあ事実なんだけど。
私とビョルンの間に、甘い空気など一度とてなかった。いや、ビョルンは全女性に対して甘い雰囲気を出しているか。
さっきだって無意味に私に顔を近づけてきたので、ビンタが飛んだわけなのだから。
あの甘いマスクに、騙される女性の多いこと。
そして今日も、どこぞの令嬢を城に呼んで、堂々と逢瀬ときている。
いい度胸である。
(ま、それももう私には関係ないのだけれど)
愛はなくとも、それでも婚約は決定。いつかは結婚するのに……と、ちょっぴり、ほんのちょーっぴり傷ついていた私だったが、そんな感傷も今は微塵もない。
「うん。とにかく早く婚約解消しよう!」
そしたらすぐにでもラムサール様にアタックするわ!
そう拳を握って、私はまたラムサール様の気配のする方向へと向かうのだった。
そんな私の背を、ビョルンがジッと見ているとも知らずに……。
242
お気に入りに追加
395
あなたにおすすめの小説

【完結】姉は全てを持っていくから、私は生贄を選びます
かずきりり
恋愛
もう、うんざりだ。
そこに私の意思なんてなくて。
発狂して叫ぶ姉に見向きもしないで、私は家を出る。
貴女に悪意がないのは十分理解しているが、受け取る私は不愉快で仕方なかった。
善意で施していると思っているから、いくら止めて欲しいと言っても聞き入れてもらえない。
聞き入れてもらえないなら、私の存在なんて無いも同然のようにしか思えなかった。
————貴方たちに私の声は聞こえていますか?
------------------------------
※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています

【完結】義姉の言いなりとなる貴方など要りません
かずきりり
恋愛
今日も約束を反故される。
……約束の時間を過ぎてから。
侍女の怒りに私の怒りが収まる日々を過ごしている。
貴族の結婚なんて、所詮は政略で。
家同士を繋げる、ただの契約結婚に過ぎない。
なのに……
何もかも義姉優先。
挙句、式や私の部屋も義姉の言いなりで、義姉の望むまま。
挙句の果て、侯爵家なのだから。
そっちは子爵家なのだからと見下される始末。
そんな相手に信用や信頼が生まれるわけもなく、ただ先行きに不安しかないのだけれど……。
更に、バージンロードを義姉に歩かせろだ!?
流石にそこはお断りしますけど!?
もう、付き合いきれない。
けれど、婚約白紙を今更出来ない……
なら、新たに契約を結びましょうか。
義理や人情がないのであれば、こちらは情けをかけません。
-----------------------
※こちらの作品はカクヨムでも掲載しております。

【完結】婚約破棄の代償は
かずきりり
恋愛
学園の卒業パーティにて王太子に婚約破棄を告げられる侯爵令嬢のマーガレット。
王太子殿下が大事にしている男爵令嬢をいじめたという冤罪にて追放されようとするが、それだけは断固としてお断りいたします。
だって私、別の目的があって、それを餌に王太子の婚約者になっただけですから。
ーーーーーー
初投稿です。
よろしくお願いします!
※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

【完結】真実の愛だと称賛され、二人は別れられなくなりました
紫崎 藍華
恋愛
ヘレンは婚約者のティルソンから、面白みのない女だと言われて婚約解消を告げられた。
ティルソンは幼馴染のカトリーナが本命だったのだ。
ティルソンとカトリーナの愛は真実の愛だと貴族たちは賞賛した。
貴族たちにとって二人が真実の愛を貫くのか、それとも破滅へ向かうのか、面白ければどちらでも良かった。

冷遇する婚約者に、冷たさをそのままお返しします。
ねむたん
恋愛
貴族の娘、ミーシャは婚約者ヴィクターの冷酷な仕打ちによって自信と感情を失い、無感情な仮面を被ることで自分を守るようになった。エステラ家の屋敷と庭園の中で静かに過ごす彼女の心には、怒りも悲しみも埋もれたまま、何も感じない日々が続いていた。
事なかれ主義の両親の影響で、エステラ家の警備はガバガバですw

【完結】ええと?あなたはどなたでしたか?
ここ
恋愛
アリサの婚約者ミゲルは、婚約のときから、平凡なアリサが気に入らなかった。
アリサはそれに気づいていたが、政略結婚に逆らえない。
15歳と16歳になった2人。ミゲルには恋人ができていた。マーシャという綺麗な令嬢だ。邪魔なアリサにこわい思いをさせて、婚約解消をねらうが、事態は思わぬ方向に。

〖完結〗では、婚約解消いたしましょう。
藍川みいな
恋愛
三年婚約しているオリバー殿下は、最近別の女性とばかり一緒にいる。
学園で行われる年に一度のダンスパーティーにも、私ではなくセシリー様を誘っていた。まるで二人が婚約者同士のように思える。
そのダンスパーティーで、オリバー殿下は私を責め、婚約を考え直すと言い出した。
それなら、婚約を解消いたしましょう。
そしてすぐに、婚約者に立候補したいという人が現れて……!?
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話しです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる