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4、勝手な婚約には腰痛治療が最適です

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 ビョルン王子というのは、本当に厄介者なのだ。
 第一王子だから自然と王太子になっているが、その能力の低さは筋金入り。
 これまで教育係が三日ともたなかったという噂は、噂ではなく真実であることを、王家に関わる人間ならば誰もが知っている。

 これが授業を抜け出したり、サボったり、教育係に歯向かったりするような問題の起こし方だったならば、まだいい。良くないが、いい。
 しかしビョルン王子は違った。

「この問題は昨日やりましたね。覚えてますか?」
「忘れましたー」
「では復習しましょう」
「しませーん」
「……で、では私が説明を……」
「ぐーーーー」
「寝るなああ!!!!」

 彼は真面目に授業は聞くのだ。教育係という先生の話を、ちゃんと聞きはするのだ。だがしかし、それが身に着かない。なんなら先生の話は子守歌、とばかりに寝てしまう。
 そして翌日には、前日までの授業内容は綺麗サッパリ忘れている。
 三日もたずに「自分には無理です」と、教育係が泣いて辞めていった。
 何か問題があるのかと思われ、私が呼ばれたのが十年以上前のこと。聖女の力で治せないかと言われたが、問題無いのに治せるはずもない。

 そのうち、皆が気付いた。
 あ、この王子、ちょっとおバカちゃんだ、と。
 勉強できないのは、一般庶民なら別にいい。まあできるにこしたことはないが、それでも生きていけるなら、勉強なんてできなくてもいい。
 しかし彼は王子だ。そして王太子。
 彼がおバカなまま王となり、愚かな行動をすれば、それは結果として国民の命を脅かすことになる。

 それはまずい。ひじょーにまずい。だからみんなして、必死に彼に教育をほどこした。
 しかし彼はどうあっても優秀にはなれなかった。
 本人にやる気ないんだもの、周囲が頑張っても本人に頑張る気がなければ、全ては空回りするのは当然のこと。

 では第二王子以下、別の王子に継がせるか?
 残念ながら、そううまくいかない。
 王の子供は五人。そのうち王子は二人だけ。残る三人は全て王女。
 女王でもいいのかもしれないが、未だ古い慣習でもって、基本この国の王は男子ときまっている。女子が王となるのは、後継に男子がいない時だけ。

 第二王子なら問題ないっしょ、とはいかないのが、この国の不幸。
 ビョルン(20歳)の10歳下の第二王子は、まだ子供で更に病弱と来ている。私が治癒したので随分元気になったが、まだ第一後継とするには心もとない状態だ。

 しかし、ビョルン王子は見てしまったのだ。
 その病弱な弟が、みなに色々構ってもらっているのを。大事に大事にされているのを見て、彼は何を思ったか?

『あ、僕も病弱だと言えば遊べるんじゃね?』

 で、ある。

 ふざけんな、このやろう。
 と言いたいが、さすがに聖女の立場では言えない。
 一応「ふざけんなよ」と言ったことはあったりなかったりあったり。どっちだ。

 ふざけた王太子には、まともで有能な婚約者が必要と、なぜか私が婚約者にさせられた。聖女だし、公爵令嬢だし、文句なしだと? 私のほうは文句大有りだわい!

 しかしただの聖女では、そこまで文句は言えない。公爵令嬢だけれど、王家に意見できるわけなし。
 泣く泣く婚約を受け入れたわけである。
 
 そこまではいい。百歩譲って婚約は仕方ないと思おう。
 しかし、なぜ私が王太子の側近みたいなことまでせねばならん?
 普通、有能な執事とか、側近がつくもんじゃないの?

 あまりにおバカすぎて、誰もやりたくないと。そうですか。──私だってやりたくないっちゅーの!

 なぜに聖女という立場なだけで、こうも面倒に巻き込まれなければいけないのだろう。
 これが国のため、国民のためということなら、喜んでやろう。しかし王太子のためということであれば……もういいかな、と思うのよ。

「婚約解消でいいですか? いいですね、そうですね。というわけで、婚約解消で決定、と」
「いやいや、待って待って! なに勝手に婚約解消決定しちゃってるの!?」
「お痛いところはございませんか~? おやあ、腰がずいぶんこっておられますねえ」
「いだだだだ! ゴキッて言った! グキッどころの騒ぎじゃない、今ゴキッて言った……いったああ!!!!」

 最後のそれはどっちだ。言った? 痛った? まあどっちでもいいかと、私は力任せに腰を殴った。聖力こめてるから、むしろ回復してるので、痛いやら気持ちいいやらで、国王の顔が非常に複雑になっている。

「その変顔を是非とも、宮廷絵師に描いてもらいたいものです」
「描かせてどうするの!?」
「コピーして国中に配布します」
「それだけはやめて!」
「嫌なら婚約解消!」
「ゴキッていったああ!!!!」

 勝手にバカ王子と婚約させられてから十年。この十年の苦労を思い出し、積年の恨みとばかりに、私は婚約解消すべく国王と交渉(?)するのであった。
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