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「な、なにこれ……」

 予想外の光景に、私は呆然として呟いた。

 目を覆うのは、無数のドラゴン。

 大なり小なりサイズは違えど、どれもが黒かった。ぬめりのある鱗がテカテカと光沢を放ち。大きく裂けた口から覗くのは鋭い牙に、ぬらぬら動く、長くて赤い舌。

 目は血のように赤く、黒い瞳孔は線のように細い。

 大きな黒い翼はまるで悪魔のようで……。

 そのブラックドラゴンが大量に王都の空を埋め尽くしていたのだ。中には建物に乗って破壊している者もいる。さきほど感じた揺れはそのせいだ。

 大きく美しくて立派だった城が破壊されてるのを見て。
 王都に上がる炎を見て。

 私の血の気は一気に引くのだった。

「なんで、どうしてドラゴンなんか……!」

 数百年以上続く王国の歴史の中で、ドラゴン襲来なんて一度たりとも無かった。少なくとも、そう学んでいる。なのにどうして、今!?

 考えられる原因は一つしかなかった。

 このドラゴン達は……

「おそらく魔王の魂に呼応して集まったんだろうね」

 誰もが考えたであろうことを。
 大魔法使いロビーは言葉にして明確にした。

 そうだ、魔王。
 魔王の魂。

 それを解放すべく、その第一の配下と言われる黒竜が集まったのではないだろうか。

「でも魔王の魂はどこにあるのか分から……きゃあ!」
「アイシャ!」

 ドラゴンが巻き起こす突風で飛ばされそうになったところを、寸でのところで勇者が掴まえてくれた。

「あ、ありがとう」
「う~ん、役得だなあ」

 ギュッと私を抱きしめながらそんな事言う勇者に、ちょっと呆れてしまう。
 どんな状況でも平静を保ってられるのは大したものだと言うべきか。

 その時だった。

「ロビー、ベリアト、勇者殿!」

 城中の人間がパニックで逃げ惑う中、王太子ラルフが駆け寄って来た。

「ラルフ!これは、この事態は……!」
「分かっているベリアト、アイシャのせいだろ!?」
「はあ!?」

 いやまって、思わず凄い大声出しちゃったけど。いいよね、今このタイミングでこの叫びは許されるよね!?

 どうしてドラゴン大量発生が私のせいになるわけ?まったくもって理解不能なんですけど!

「アイシャの中に在る魔王の魂が呼び寄せたのだ!それ以外に有り得ない!」

 魔王の魂は私の中には無いって事で決着つきましたよね!脳みそ入ってる!?
 そう言ったら
「あんなもの、魔王ならば何とでも出来るだろ。あんな怪しい方法で分かってたまるか!」
 と言われてしまった。

 その意見には概ね同意なんですけどね!
 でも私の中には本当に魔王の魂なんて無いですから!私は純度100%のアイシャです!

「私はアイシャです!」

 そう叫ぶのと同時。
 ドスッと嫌ぁ~な音がして、目を向ければ。私の足元に……

「剣が刺さってるー!」

 ひいい……!と顔面蒼白、ムンクになりながら叫び、そして横を見た。そばで佇む存在に。

「フィリア……」

 前世からの親友、いや、元親友の理沙に!

 フィリアは無言で近付き……刺さった剣をグイッと引き抜いた。え、まさかそれ投げて地面に突き刺したの、貴女ですか?

「フィ、フィリア……?」
「んふふふふ」

 恐る恐る声をかけたら、気持ち悪い笑みが返された。

「やだ、蛇女」
「誰が蛇女よ」

 だって笑い方がいやらしいんだもの。その口から赤くて細長い舌が見えそうだ。

「私は聖女よ。私の判断は全て正しい。私が、アイシャの中に魔王が居ると言えばそうなのよ!」

 ええええ!
 何その無理矢理な持論!そんなのまかり通るの!?

「そうだ!聖女の言葉は絶対だ!アイシャ、お前は魔王の魂を匿う魔女だ!」

 まかり通ってますやん!
 少なくとも王太子にはその強引な論が通用したようです!そんな馬鹿な!

「えええ……」
「そういうことよ、アイシャ、諦めなさい。諦めて私に殺されなさい!」

 ニヤリと笑って叫ぶや否や!フィリアが細長い剣を両手で振りかぶった!

「ちょー!剣術使えるの!?」
「こんなの適当に振り回してればいいのよ!」
「そういう問題!?」

 適当にもほどがある!だが言ってる事は正しいとは思う。

 相手が剣士ならまだしも、私もど素人だ。剣を適当にぶん回されて対応できるはずもない。

「死ねえ、アイシャぁぁ!!!!」
「うきゃー!?」

 これがかつての親友か!?てな鬼の形相でフィリアは剣を振り下ろす!
 あ、これ死んだかも……。
 スローモーションのように見える剣の動きは、けれど私が避けるには無理があって。

 私は直後に訪れるであろう痛みを予感して、ギュッと目を閉じるのであった。




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