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姉と婚約者
しおりを挟む闇の国シュタウト。
我が光の国ボランジュと対となる国。
闇の国とは言っても、別に一日中闇が覆い尽くしてるわけではない。その日常は光の国となんら変わりない。
普通に朝が来て夜がくる。
太陽は平等に差し、作物も生物もスクスクと成長し生きる。
何が闇で何が光なのか。
それを記す書は何も残らず、そして知る者も最早存在しない。
ただそう言われてきただけなのだ。
おそらくは、ボランジュが金髪や鮮やかな青髪など、明るい色彩の髪色をもった人種が多く生まれるのに対し、シュタウトは黒や灰色など、暗い色彩の髪色が多いせいだと思われる。
人は見かけで判断しがちな生き物だ。
姉のモリアは紫紺の髪に藍色の瞳ではあるが、美しくも妖艶さを感じさせる為か羨望の眼差しで見られている。
ベニートはといえば、金髪碧眼という、実に眩しい容姿を持っているのだ。
そんな彼だから、私のように黒髪灰瞳の私など、妻にしたくなかったのかもしれない。
子供の頃は無邪気に私を嫌い、大人になれば残酷に私を拒絶した。
それに傷ついたのは遠い昔のこと。
今となっては彼に何の情もなく、そんな彼の態度に傷つく事はない。
というか、むしろありがたいと思ってる。
一応の将来は侯爵家の妻として生きていけるし、大嫌いなベニートと子作りしなくて良いときてる。
女好きのベニートのことだ、どこぞの適当な女と子供を作って後継ぎとするだろう。公爵家としては厄介者の私を引き取ってくれる侯爵家を悪いようにはしないだろう。
公爵家と侯爵家。持ちつ持たれつの良い関係が続くと思われる。
──私が、何もしないでいればだけれど。
私の目の前の扉。
その向こうから嬌声が聞こえる。
別にそれは構わないのだ。
モリアとベニートがいつからそんな関係になったかと言えば……もうずっと前からなのだから。
それなりの年頃になれば興味が出てくる、そういった行為。
その好奇心を互いで満たしている二人の歪んだ関係は、きっとモリアが王太子に嫁ぐまで続くことだろう。
まあそれはいい。
別に私には関係ない。
と思いたいのだが。
私に関係あるから困るのだ。
何が困るって、やつらの密会の場所が問題なのだ。
なぜに。
どうして。
──私の部屋で。
私にあてがわれた、庭の小屋の中でやるのだろう。
確かに屋敷から離れ、庭の中にポツンと建ってる私が住まう小屋は、密会場所としては最適だろう。
だが、そこはあくまで私の部屋なのだけど。
そして今日も朝から働きづめだった私はくたくたで、いい加減休みたい。実際はこの後にも仕事があるのだから、束の間の休息を堪能したいのが本音だ。
だから一瞬の躊躇の後、私はノックした。
私の住処であるはずの小屋の扉を。
私はノックするのだった。
コンコン
だが返事はない。
コンコン
もう一度。
だが返事は無い。どうやら死んでるようだ。
──だったらいいんだけどね。
実際は、中から相も変わらずの嬌声が響くのみ。
何が悲しくて、姉の「あんあん」言ってる声を聞かねばならないのだ?それも私の部屋で事を成してるという。
はあ~~~~
私は大きく溜め息をついて。
少し力を込めて、扉を叩いた!
ドンドンドン!!!!
「お姉様、ベニート!いい加減にしてくださいませ!ここは私の部屋です!休息したいのでとっとと出て行ってください!!!!」
勇気を振り絞ってのその大声は。
だがまたしても。
またしても!!
「ああん、ベニート、いいわ、いいわ……最高!」
「モリア、きみも最高だよ……!!」
というふざけた声にかき消されるのだった。
プツン
そしてついに。
私の中の何かが切れた……
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