15 / 16
14、私は姉を笑いたい
しおりを挟む「──は?」
その瞬間の。王太子の言葉を聞いた瞬間の姉の顔!
きっと忘れる事は出来ないだろう。それほどに滑稽だ。
姉は、マリナは何を言われたのか理解出来ず、王太子の腕を掴んだ。
「マリナ?」
「え、あの……ルーカス様?今なんて……」
「何度も言わせるな。私の新しい婚約者はクリスティナだ!」
そう言って、呆然とする姉の腕を振り払い、王太子はスタスタと歩みを進めた。
そして一人の令嬢の前で跪く。
それはとある侯爵家が令嬢。栗色の髪が肩にかかった彼女は、大人しそうな印象を与える。
「あ、あの……」
「もう私達を阻むものは無いよ。私の婚約者になってくれるね、クリスティナ?」
「はい、喜んで!」
そう言って、クリスティナと呼ばれた令嬢は涙を流して伸ばされた手を取るのだった。
ざわめきが場内を駆け巡る。
それはそうだろう。
誰もが疑わなかった。
次の婚約者はマリナ、我が姉。そう誰もが信じていたのだから。
でもただ一人。当人である王太子とクリスティナ嬢を除いた、たった一人はこの事態を予想していたのだ。
──誰あろう、私である。
「く、くっくっく……」
今の今まで我慢していたのだけれど。
ついに耐え切れなくなった私は、笑いを漏らす。
「ルナ!?」
その私の様子に、顔色を変えて姉が詰め寄って来た。
「どういうことよ、どうして笑ってるの!?この事態を理解出来てるっていうの?」
胸倉を掴まんばかりの勢いの姉を受け止め、私は冷静に「ええ」と頷いた。
「王太子の心変わり、気付いてなかったのですか?」
その言葉に、姉は顔を青ざめる。
気付いてないわよねえ。そりゃ当然よ。
貴女は私の事しか見てなかったから。
王太子よりも誰よりも……貴女は妹である私の事だけを見ていたでしょう?
でも私は違う。王太子が私と姉のイザコザにウンザリし始めた事、すぐに気付いたのよ。
そして誘導したのよ……そうとは知られずに。
王太子を。
別の女の元へと。
それがクリスティナ。前々から王太子に熱い視線を送っていた彼女。彼女は実に御しやすかった。私の思い通りに動いてくれた。
ちょっと人を使って王太子と偶然を装って出会わせて。
そしてその偶然を何度も繰り返す。
となれば、恋に慣れてない単純な貴族は、それが運命だと勘違いするものだ。
勘違いはやがて恋心へと変化する。
「あの二人は実に簡単に恋に落ちましたのよ?」
「そ、そんな馬鹿な……嘘よこんなの、嘘よ……」
信じたくなければどうぞご自由に。
でも真実はけして覆らないのよ。
「王太子は本当に何と言うか……惚れやすい方なのですねえ。私を愛してると言ってたくせに、アッサリとお姉様に鞍替えして。かと思えば、クリスティナ様にコロッと気持ちを移してしまわれて……」
正直、ドン引き以外のなにものでもない。
あんな簡単に浮気するような男、こちらから願い下げというもの。クリスティナ様も……気の毒に。まあ今は恋は盲目な状態ですから、分かってないでしょうけど。
人の男を奪うのが好きな女性は、同じ事をされると考えないのでしょうか?
どうして自分こそが一番で絶対だなんて思えるのでしょうか。
私には理解できません。
「嘘よ!」
だが未だ状況を呑み込めてない馬鹿な女は、ただ叫ぶ事しか出来ない。
叫んで、そして。
「こんなの嘘よ!お前、よくもルーカス様を誑かしたわね……!」
そして、掴みかかる事しか、その愚か者には出来ないのだった。
12
お気に入りに追加
219
あなたにおすすめの小説
婚約者令嬢vs聖女vsモブ令嬢!?
リオール
恋愛
どうしてこうなった。
伯爵家としては末端に位置する、モブ中のモブ令嬢は頭を抱える。
目の前には火花を散らす、王太子の現婚約者である公爵令嬢と、新たな婚約者候補の聖女。
甲乙付けがたい美女二人は、ギロッとこちらを睨んできて。
「「勝負ですわあ!!」」
と叫んだ。
果たして勝者は誰の手に?
================
突如思いついて勢いで書きました。まさかの甘い展開に自分でもビックリです。
お姉様の婚約者が浮気してる ~没落令嬢が掴んだ幸せな結婚
朱音ゆうひ
恋愛
水鈴祭、というお祭りの日。没落子爵令嬢ミアーシャは、姉の婚約者の浮気を目撃した。姉の婚約者はウェザー家という有名商家の次男坊。女好きで、遊び人だ。ウェザー家は没落して貧乏な子爵家に目を付けて、支援する代わりにと縁談を申し込んできた。そして、姉はその話を受けたのだ。ミアーシャは姉が好きだ。
「お姉様には、幸せになってほしい」
これは、そんなミアーシャが姉と一緒に幸せになるお話。
別サイトにも投稿しています(https://ncode.syosetu.com/n3821ih/)
【完結】そう。異母姉妹ですか。 元凶はアレです、やっつけましょう。
BBやっこ
恋愛
教会に連れられ、遊んでいなさいとお母さんに言われた。
大事なお話があるって。
同じように待っている女の子。ちょっと似ている。
そうしていっしょに、お母さんを泣かせた髭の男を退治したのです。
そんな頃がありましたとお茶をしている異母姉妹。
元ヒロインだけど大好きな幼馴染ルートがないとか言われたので、悪役令嬢と手を組んでこの世界をぶっ壊す!
佐崎咲
恋愛
私はユニカ。三歳年上のアレクが大好きで、彼にふさわしい令嬢になるために何でも頑張ってきた。
だけど押しても引いても何故か彼だけは振り向いてくれない。
そんなままならない日常を送る私はある日、意地悪をしているように見せかけられている、何やら複雑な事情をもっていそうな令嬢イリーナにこの世界の仕組みを聞かされる。
ここが乙女ゲームの世界(何それおいしいの)? 私がヒロイン(だから私だけ髪が浮いたピンクなのか!)? だけどアレクルートは存在しない(はああぁぁぁ?)、ですって?
悪役令嬢が転生してきたらそっちがヒロインになって、ヒロインはかませ犬に降格になるのが王道とかそんな話はどうでもいいわ。
アレクは決して成就しない初恋パターンで攻略対象者の嫉妬心を煽るための踏み台だとか、しかも、王子に剣術バカに優等生のかわいい後輩とか攻略対象にモテないと私が死ぬバッドエンドですって?
『面白くするため』なんかで勝手にこの世界で生きてる私たちを弄ぶな! いい加減にしろよ世界!
誰かに強制的に捻じ曲げられるそんな世界なら、(元)ヒロインの私がぶっ壊してやるわ!
※無断転載・複写はお断りいたします。
貴方様と私の計略
羽柴 玲
恋愛
貴方様からの突然の申し出。
私は戸惑いましたの。
でも、私のために利用させていただきますね?
これは、
知略家と言われるがとても抜けている侯爵令嬢と
とある辺境伯とが繰り広げる
計略というなの恋物語...
の予定笑
*****
R15は、保険になります。
作品の進み具合により、R指定は変更される可能性がありますので、
ご注意下さい。
小説家になろうへも投稿しています。
https://ncode.syosetu.com/n0699gm/
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる