姉は私を虐げたい。私は姉を●●したい

リオール

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13、私は姉の行動を見守りたい

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 卒業パーティの主役である三年生の姉。そして彼女をエスコートするルーカス様が先に出るのを見送ってから、私は公爵家の馬車に乗り込んだ。──ちなみに二人が乗ったのは王家の馬車だ。

 会場に着けば、案の定、好奇の視線にさらされた。当然だ。会場の中心には輝く美しさを惜しげもなく見せつける姉マリナ。そしてその横にはルーカス様が──私の婚約者が居るのだから。

 どうして彼が姉をエスコートしてるのか、誰もがおおよその理由を理解してるのだろう。

 遠巻きに見つめる視線、私に向けられる視線は嘲るものがほとんどだから。クスクスと笑う声を抑えようともしない。

「やっぱりね」
「よく出てこれたわよね、恥を知らないのかしら?」

 恥なら知っている。だがそれは私の事ではない。私は何ら恥ずべき事をしてないのだから。
 だから私はただ、堂々としていれば良い。

 ──これから起こる事を、ただ傍観していれば良いのだ。

 私は壁に背を預け、ジッとその時を待つ。チビチビとグラスを傾けて。
 不意にその瞬間は訪れる。

 フッと視界が陰ったなと思って顔を上げれば、そこには王太子と姉。そして居並ぶ貴族の面々が立って居たのだ。

 ああ、始まるのね。
 私はその予感に胸を高鳴らせるのだ。

「公爵家が次女、ルナ!」

 王太子が大きな声で私の名前を呼ぶ。かつては甘い響きをもって呼んでくれていたその声は、今や嫌悪の響きしか宿していない。

「其方の姉に対する悪逆非道な行いの数々、目に余るものがある!我が婚約者として相応しくないと判じた!よってこの場をもって其方との婚約は破棄する!!」

 それは待ちに待った言葉。何よりも切望していた事だった。それを宣告された瞬間、体に痺れのようなものを感じてブルリと身震いをする。──それをショックを受けてると思ったのか、クスリと姉が笑った。

「ルナ、可哀想に……けれど仕方ないのよ。貴女が私にしてきた事があまりに酷くて……本当に辛かったわ」

 何を言ってるのだ、この人は。
 表立って指示はしなくとも、姉の意思で……明確な悪意で私を虐げてきたというのに。ずっと私の行動を見張らせていたくせに、どうやって私が姉を虐げるというのか。

 でもいい。
 どうせ偽の証人を用意してるのだろう。だから反論など必要ない。

 これで良いのだ。

「ルナ、君は罰として身分剥奪、国外追放とする!」
「承知いたしました」

 国外追放。本来ならば絶望すべきなのだろう。
 だが私には全てから解放されるその追放こそが、素晴らしいものでしか無いのだ。むしろ望むべき事なのだ。

 だから頷いたら、拍子抜けしたような顔をされてしまった。
 どうしてそのような顔をなさるのでしょう。貴方が望んだ事でしょう?

「では、ルーカス様には新しい婚約者が?」

 私の事はもういい。
 それよりも気になる案件。
 それこそが、次の婚約者の存在だった。

 当然、誰もが姉だと思ってるだろう。姉もまた、王太子の後ろに控えつつ、ニマニマと笑いを隠そうともしない。

 気味の悪い笑みを見つめながら、私は王太子にそう尋ねた。

 その問いに、王太子は大きく頷く。

「そうだ。私には新しい婚約者を立てる」

 その言葉に姉の肩がピクリと震え──知らずスッと足を前に出す。

 その光景。
 その行為。

「私の新しい婚約者は──」

 手を差し伸べられると信じて疑わず、もう手を上げようとしている、姉の動き。

「新しい婚約者となるのは、クリスティナ、君だ!!!!」

 全てが──滑稽だわ。




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