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7、私は姉と比較されたくない

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 姉とルーカス様の今朝の行動に頭を悩ませている私の耳に、何かしら囁きが聞こえてきたのはその時のこと。

「ねえ、あの人が……?」
「そう。──したんだって」
「まあ……大人しそうな顔してるのに、人は見かけによりませんのね」
「どう見てもあの二人の方がお似合いだというのに」
「私にはそんな事、恥ずかしくて出来ませんわ」
「ですから、ね。ああ見えて……」
「なるほど、そういう事ですわね」

 何だろう?
 私には関係ない事だろう。
 そう思ってたのに、妙に感じる視線。

 私は聞こえた話し声の方へと顔を向けた。

「──」

 途端に会話をやめる女子が数名。いずれもクラスメートだ。
 まだ名前も位も分からないけれど、この学園に通っているのだ、貴族令嬢なのは確かだろう。

 正直に言おう、私には友達が居ない。
 本来なら学園に入るまでにお茶会などで顔を合わせてるものだが、私はそれらに出席した事は無かった。

 ──いや、かつては行っていた。
 最後に行ったのは12歳……王太子ルーカス様が初参加されたあの日だ。

 その後、私とルーカス様の婚約がトントン拍子に進み。
 姉との仲が悪くなってから、お茶会に顔を出す事をやめた。やめてしまった。

 なぜって、姉に申し訳なかったから。

 姉はお茶会では常に皆の注目の的だった。憧れの存在だった。
 美しく聡明な姉は、誰からも好かれ……王太子の婚約者となると誰もが考えていたのだ。

 そんな場に、私と姉が再び現れようものなら……確実に空気は悪くなっただろう。

 その後も姉は参加していたようだし、私を誘って下さる声も多々あった。

 だが私は頑なにそれを拒んだ。

 姉に申し訳ないから……だが、そんなのはむしろ姉に対して失礼だと分かってる。今まで通りにすべきなのだと頭では理解してる。

 所詮それは言い訳なのだ。
 本心は……私自身が恥ずかしくて出られなかっただけだ。

 きっと皆は言うだろう。
 どうしてお前が、と。
 美しい姉のマリナではなく、なぜ平凡な妹の方が選ばれたのだ、と。

 直接責める言葉が無かったとしても、皆の態度が、視線が、きっと物語ったことだろう。

 私はそれが恐ろしかったのだ。嫌だったのだ。

 だから逃げた。

 結果、私には友達と呼べる存在は居なくなっていた。

 そして今。
 恐れていた事が現実となる。

「どうしてあんな普通の子が婚約者に選ばれたのかしら?」
「王太子様も酔狂なことで……」

 ああ、分かってしまう。それだけで分かってしまう。

 王太子。
 婚約者。

 それだけで、その会話の内容が私とルーカス様の婚約に関する話なのだと分かってしまった。

 そして、分かる。

「マリナ様の方が絶対相応しいのに」
「そうですわ。お美しいマリナ様と王太子様がお並びになられる姿……とてもお似合いですのに」

 私より、姉の方が相応しい。

 そう言ってるのだと分かる。

 本来なら格上である私には、そのような陰口に反論する権利がある。悪意を向けてくる事へ嫌悪を顕にして、厳しく叱責する事も出来る。

 だが、私はしなかった。
 ただ黙って俯く。

 分かっているから。
 私にも分かってるから。

 ルーカス様の相手に相応しいのが誰かなんて。

 本当は分かってるのよ。

 けれど私の中にくすぶる恋心は……どうしてもあと一歩を踏み出させてくれないのだ。

 それを全て理解してる私には、黙って俯くことしか出来ないのだった。




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