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5、私は姉と通いたい

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 子供時代の時の流れはあっという間だ。

 姉とまともに話す事が無くなってから、気付けば4年になった。

 姉は18歳となり、私は16歳になる。
 今年から貴族が通う王立学園に入る歳となった。

 姉が学園に行きだしてからは以前にも増して会話が無くなった。それを安堵してしまう自分が居る事に嫌気がさしていた。

 そして今日から。
 私も学園に通う事となる。
 同じ場所に行くのだから、当然なのだけれど……行き帰りの馬車は、姉と一緒だった。

 ガラガラと音を立てて馬車が走る。
 どんな場所だろうかと緊張して窓の外を眺めていたけれど、そんな事で直ぐに学園に着くはずもない。

 私は前に視線を戻して──チラリと姉を盗み見た。

 姉は読書にふけっている。何を考えているのか分からないが……少なくとも、朝の挨拶には返してくれた。ただそれ以上の会話は無い。

 結局王太子との婚約は継続されている。このままいけば、私が卒業と同時に結婚となるだろう。

 王太子は今学園の二年生。彼ともまた、学園に入ってからはあまり会う事が無くなっていた。

 久しぶりに会えるのは嬉しいけれど……姉の事を考えると、浮かれてもいられない。そもそも彼との婚約関係を継続させるわけにはいかないのだ。
 出来る事なら、卒業までに婚約を解消したい。それが叶ったとして、その後に姉がどうするかは分からないが……少なくとも私の憂いは一つ解消される。

 好きなのに。
 好きだけど。

 先に好きになった者勝ちなんて、流石にこの年で思わない。けれど、それでも自分の中で納得のいくようにしたいのだ。

 きっと姉は激怒するだろう。馬鹿にするなと、また怒るだろう。

 それでも……これは自分の我儘だと分かっていても……姉を悲しませてまでこの恋を貫きたいと思えなかった。

 そっと前を見れば、姉はずっと本に目を向けている。私を見ようとはしない。
 何かを言いたくて口を開いて──

 ガタンッと大きく揺れて馬車が止まった。少しして扉が開き、姉は立ち上がる。

 何も言えずに私もまた立ち上がり、姉に続こうとした。

 と、そこで不意に姉が振り返って私を見たのだ。久々に真っ直ぐ見つめてくる紫紺の瞳にドキリとする。
 なんだろう?緊張してその目を見ていると。

 フッと姉が笑った。

「お姉様……?」
「覚悟しておくことね」

 何を?

 そう問い返す事も許されず、言うだけ言って姉は馬車を下りた。

 残された私は呆然となり──扉を開けた御者に声をかけられるまで、その場を動けずにいた。

 数年ぶりに見た姉の笑顔。
 それが醜く歪んだ、あまりに恐ろしいものだったから……。




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