6 / 16
5、私は姉と通いたい
しおりを挟む子供時代の時の流れはあっという間だ。
姉とまともに話す事が無くなってから、気付けば4年になった。
姉は18歳となり、私は16歳になる。
今年から貴族が通う王立学園に入る歳となった。
姉が学園に行きだしてからは以前にも増して会話が無くなった。それを安堵してしまう自分が居る事に嫌気がさしていた。
そして今日から。
私も学園に通う事となる。
同じ場所に行くのだから、当然なのだけれど……行き帰りの馬車は、姉と一緒だった。
ガラガラと音を立てて馬車が走る。
どんな場所だろうかと緊張して窓の外を眺めていたけれど、そんな事で直ぐに学園に着くはずもない。
私は前に視線を戻して──チラリと姉を盗み見た。
姉は読書にふけっている。何を考えているのか分からないが……少なくとも、朝の挨拶には返してくれた。ただそれ以上の会話は無い。
結局王太子との婚約は継続されている。このままいけば、私が卒業と同時に結婚となるだろう。
王太子は今学園の二年生。彼ともまた、学園に入ってからはあまり会う事が無くなっていた。
久しぶりに会えるのは嬉しいけれど……姉の事を考えると、浮かれてもいられない。そもそも彼との婚約関係を継続させるわけにはいかないのだ。
出来る事なら、卒業までに婚約を解消したい。それが叶ったとして、その後に姉がどうするかは分からないが……少なくとも私の憂いは一つ解消される。
好きなのに。
好きだけど。
先に好きになった者勝ちなんて、流石にこの年で思わない。けれど、それでも自分の中で納得のいくようにしたいのだ。
きっと姉は激怒するだろう。馬鹿にするなと、また怒るだろう。
それでも……これは自分の我儘だと分かっていても……姉を悲しませてまでこの恋を貫きたいと思えなかった。
そっと前を見れば、姉はずっと本に目を向けている。私を見ようとはしない。
何かを言いたくて口を開いて──
ガタンッと大きく揺れて馬車が止まった。少しして扉が開き、姉は立ち上がる。
何も言えずに私もまた立ち上がり、姉に続こうとした。
と、そこで不意に姉が振り返って私を見たのだ。久々に真っ直ぐ見つめてくる紫紺の瞳にドキリとする。
なんだろう?緊張してその目を見ていると。
フッと姉が笑った。
「お姉様……?」
「覚悟しておくことね」
何を?
そう問い返す事も許されず、言うだけ言って姉は馬車を下りた。
残された私は呆然となり──扉を開けた御者に声をかけられるまで、その場を動けずにいた。
数年ぶりに見た姉の笑顔。
それが醜く歪んだ、あまりに恐ろしいものだったから……。
12
お気に入りに追加
223
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】そう。異母姉妹ですか。 元凶はアレです、やっつけましょう。
BBやっこ
恋愛
教会に連れられ、遊んでいなさいとお母さんに言われた。
大事なお話があるって。
同じように待っている女の子。ちょっと似ている。
そうしていっしょに、お母さんを泣かせた髭の男を退治したのです。
そんな頃がありましたとお茶をしている異母姉妹。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
拝啓、大切なあなたへ
茂栖 もす
恋愛
それはある日のこと、絶望の底にいたトゥラウム宛てに一通の手紙が届いた。
差出人はエリア。突然、別れを告げた恋人だった。
そこには、衝撃的な事実が書かれていて───
手紙を受け取った瞬間から、トゥラウムとエリアの終わってしまったはずの恋が再び動き始めた。
これは、一通の手紙から始まる物語。【再会】をテーマにした短編で、5話で完結です。
※以前、別PNで、小説家になろう様に投稿したものですが、今回、アルファポリス様用に加筆修正して投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結済み】「何なのよ!アイツっもおお!メイド、お茶ぁ」と貴族の女の子は荒れています。<短編>
BBやっこ
恋愛
メイドに叫ぶ
「あいつが婚約者とかっ!我慢できない。」
「さようですか。」
姉と妹。その関係性と荒れ模様をお届け。
・姉妹仲はずっと良い。
・男運がしばらく悪い。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】おしどり夫婦と呼ばれる二人
通木遼平
恋愛
アルディモア王国国王の孫娘、隣国の王女でもあるアルティナはアルディモアの騎士で公爵子息であるギディオンと結婚した。政略結婚の多いアルディモアで、二人は仲睦まじく、おしどり夫婦と呼ばれている。
が、二人の心の内はそうでもなく……。
※他サイトでも掲載しています
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結済】ラーレの初恋
こゆき
恋愛
元気なアラサーだった私は、大好きな中世ヨーロッパ風乙女ゲームの世界に転生していた!
死因のせいで顔に大きな火傷跡のような痣があるけど、推しが愛してくれるから問題なし!
けれど、待ちに待った誕生日のその日、なんだかみんなの様子がおかしくて──?
転生した少女、ラーレの初恋をめぐるストーリー。
他サイトにも掲載しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
嫌われ王妃の一生 ~ 将来の王を導こうとしたが、王太子優秀すぎません? 〜
悠月 星花
恋愛
嫌われ王妃の一生 ~ 後妻として王妃になりましたが、王太子を亡き者にして処刑になるのはごめんです。将来の王を導こうと決心しましたが、王太子優秀すぎませんか? 〜
嫁いだ先の小国の王妃となった私リリアーナ。
陛下と夫を呼ぶが、私には見向きもせず、「処刑せよ」と無慈悲な王の声。
無視をされ続けた心は、逆らう気力もなく項垂れ、首が飛んでいく。
夢を見ていたのか、自身の部屋で姉に起こされ目を覚ます。
怖い夢をみたと姉に甘えてはいたが、現実には先の小国へ嫁ぐことは決まっており……
子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。
さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。
忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。
「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」
気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、
「信じられない!離縁よ!離縁!」
深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。
結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
愚者(バカ)は不要ですから、お好きになさって?
海野真珠
恋愛
「ついにアレは捨てられたか」嘲笑を隠さない言葉は、一体誰が発したのか。
「救いようがないな」救う気もないが、と漏れた本音。
「早く消えればよろしいのですわ」コレでやっと解放されるのですもの。
「女神の承認が下りたか」白銀に輝く光が降り注ぐ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる