姉は私を虐げたい。私は姉を●●したい

リオール

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3、私は姉に謝りたい

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「やあ、よく来たね」

 この国一番大きくて立派な建物。それは王宮である。子供の私には無縁な場所──のはずだった。ほんの数日前までは、確かにそうだった。

 だが今は違う。
 今は……婚約者が住まう場所、未来の私の家だ。

 王太子との顔合わせの日、私はどうにも場違いである気分を拭えないまま、王宮内を父に連れられて歩いた。

 そして案内された場所。
 そこはいわゆる執務室。この国で一番偉い人、つまりは王様がお仕事する部屋だ。

 部屋に入ると、当然王様が居た。初対面だけれど、子供でも感じる威厳がそうと直ぐに理解させた。
 そして王様の横に立つ少年。まだあどけない、幼さの残るその人は、愛らしい青い瞳を細めて私にそう言った。優しい笑みが印象的だ。

「あ、あの、えっと……は、初めまして」

 堂々としている少年とは対照的に、私は覚えたてのカーテシーを震える足でやるのが精いっぱい。声の震えは抑える事は出来なかった。

「はっはっは、そんなに畏まる必要は無い、今日は非公式の場であるからな」
「王よ、そうは言っても幼い我が娘に緊張するなと言う方が無理でございます」
「むう、そうか」

 豪快に笑いながらアゴ髭を撫でながら言う王様は、とても気さくな方だった。だがその青い瞳の奥には子供の私では読み取れないような、何かを含んだものを持っている。

 その彼の瞳を受け継いだ少年──ルーカス王太子は私の前に立ってニコリと微笑んだ。

「父上の言う通りだよ、緊張なんかしなくて大丈夫。直ぐに慣れるよ。ここは将来キミが住む家となるのだから」
「は、はい……」

 そう言われて直ぐに緊張がほどけるわけもない。私は固い笑みを浮かべるので精一杯だった。

 それを見た王太子の顔が曇る。──いけない、気分を悪くさせてしまったかしら?

 一気に不安が襲う私。だが王太子は予想に反して、そんな私の手を握った。

「あ、あの……?」
「父上、王宮内を案内してあげようと思います。ルナ嬢を連れて行っても宜しいですか?」
「ほうほう、構わんぞ。迷子にならぬよう、しっかり案内してあげなさい」
「はい!」

 王の許可が下りるや否や、王太子は私の手を引いて走り出すのだった──!!




「こっちは騎士団の宿舎があるんだ!全員が住み込みなわけではないけれど、独身は大半かな!あっちに訓練場施設があるんだ!僕は毎日そこでしごかれてるんだけど、これがまた大変でさ!」
「は、はあ……」
「あっちは食事する部屋!僕も皆と一緒に食べたいんだけど、王族は別って言われててね。皆の話をもっと聞きたいのにね!堅苦しいマナーが必要な食事は嫌いさ!」
「はあ……」
「あちらは王族が住んでる本宮!さっきの執務室はあの窓だね。ああ、父上が見えるや、僕らを監視してるのかな?なんてね!」
「ええ、どこですか?」

 私にはどこがその執務室で国王様がどこに居るのかサッパリ分からない。
 驚いて王太子に問うても、あはは~と笑うだけでまた手を引いて別の場所に連れて行かれる。

「王宮内は広いけど、ここの庭が最も美しいんだ!母上が大好きな薔薇園なんだけど、棘が痛いから僕は苦手かな」
「綺麗ですね」
「あちらには少し大きな池があるんだけど、僕が小さい頃に溺れちゃってね。今は入れないように柵が作られちゃってるんだ。でも柵越しに綺麗な魚が居るのが見えるから、また見せたげるね!」

 そしてまた小走りに。

 王太子はとても楽し気に、私の手を引いてあちらこちらへと案内してくれた。

 何がそんなに嬉しいのか、終始満面の笑顔で。
 王宮内の構造を必死で覚えようとしてる私には、どうして王太子がそんなにも楽しそうなのか理解する間は無かった。
 更に言えば、ずっと小走りで……。
 さすにが息が切れてきた……。

(靴が擦れて痛いわ)

 そう思った瞬間だった。
 不意に王太子が立ち止まった。

「?」
「ごめん、ひょっとして疲れちゃった?」

 足取りが重くなったのを気取られてしまったのか。

 慌てて首を横に振ろうとしたのに──私は一瞬にして動けなくなってしまった。

「──!?」
「ごめんね、気が付かなくて。急いで手当しよう」

 そう言って、王太子は私を横抱きにして走る。

 重いから、申し訳ないからと降ろしてと懇願しても、それは聞き入れられる事は無かった。

「大丈夫、キミは雲のように軽いよ!」

 雲の重さなんて私は知らない。とにかく恥ずかしいやら情けないやらの気持ちが勝って来たので、どうにか下ろして欲しいと伝えようとしたその時。

 前を向いていた王太子が、不意打ちのように私を見たのだ。

 空よりも青い瞳を見た瞬間、私は言葉を失ってしまった。
 そんな私にニコリと微笑み、王太子は「それにね」と言葉を続ける。

「僕はあの日のお茶会で、君に一目惚れしたんだ。だからこうやって君を腕に抱けることが……幸せで仕方ないんだ」

 その言葉を聞き。
 風が耳をかすめ。
 私は自身の顔が……耳まで真っ赤になってるのを気付かざるを得なかった。

 ああ、どうしよう。

 お姉様、どうしよう。

 ごめんなさい、ごめんなさい。

 何度謝っても姉には届かない謝罪を繰り返しながら。

 私は王太子へほのかな恋心が芽生える事を止める事ができなった──


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