2 / 16
1、私は姉を祝福したい
しおりを挟む『ねえルナ、約束よ、私とのお約束』
『ええマリナ姉様。約束ね』
『そう、私と貴女、好きな人が出来たら絶対教えるって』
『ええ分かったわ、私に好きな人が出来たら絶対お姉様に教えるわ。だからお姉様も絶対教えてね』
『勿論よ』
『約束ね』
『約束よ』
それは幼い頃の他愛無い会話。
姉と私の遠い昔にやり取りした、小さな約束。何気ない約束。
【姉は私を虐げたい。私は姉を●●したい】
「どういう事ですか!!」
ガチャンと音を立ててカップが倒れる。そのまま転がり床に落ちて──割れた。ああ、お姉様お気に入りのカップだというのに……。
少し悲しい気持ちになる私とは対照的に、姉は落ちたカップには目もくれず、目の前の人を睨み続けていた。
「どうして私ではなくルナなのですか、お父様!」
怒りをぶつけられてるのは、私達の父だ。
最近白髪が増えてきた茶色の髪を掻きながら、父は困ったように微笑んだ。だがその笑みは姉の怒りに油を注ぐだけ。
「お父様!?」
「いやあ……あちらがどうしてもと言ってきてね」
困ったなあ。
そう心の声を言葉にして、父はポリポリとまた頭を掻いた。
「王家が!?理由は……理由は何でしょうか?」
「う~ん、まあ無難なとこで我が公爵家を選んだんだろうね。でもって年の近いルナが良いと国王様から言われたんだ」
「年が近いって……!王太子とは私も同じ一つ違いです!!」
「──ええっと、まあそうなんだけど。なんでも王太子が年下が良いと仰ってるそうで」
「!?そんな理由で!?そんな理由だけで、ルナが王太子と婚約するのですか!?」
納得できません!
そう叫んで、姉はバンッとテーブルを叩いた。先ほどこぼれた紅茶がポタポタと垂れて床を濡らす。だが誰もそれを拭こうと寄ってはこなかった。それ程までに姉は激しい剣幕で怒り狂っていたのだ。
怒鳴り続ける姉と、それに対してしどろもどろの父。
割って入れない母、そして私。
私は怒り続ける姉を見ながら、数日前の事を思い出していた。
それは、貴族の子供だけのお茶会と言う名の集まりがあった日。帰りの馬車の中での事。
『ルナ……私、好きな人が出来たわ』
姉は顔を赤く染めて、そう私に言ったのだ。
姉は二つ上だから、自分よりそういう事には早く目覚めるだろう。
分かってはいたけれど、まだ12歳の私にはピンと来なくて。そう言われた時はビックリしたものだ。
そして、とうとうその時が来たのか、とも思った。
私達はとても仲の良い姉妹だと思っていた。これまでもこれからも。
けれど現実は厳しい。成長すれば否が応でも姉とは距離が出来てしまう。
その際たる起因はやはり恋心、なのだろう。
『そう……おめでとう、お姉様』
ついに姉離れしなくてはいけないのね。
一抹の寂しさを感じながらも、私は姉の成長と出会いを祝福して微笑んだ。
『それで、お姉様に好きになってもらえた幸運の殿方は、どなたなのですか?』
その私の問いに、一瞬モジモジしながら口ごもる姉だったが。
静かに。
ボソッと、呟くように言った。
『えっとね……王太子様』
王太子。
次期王となられるお方。
そうだ、彼は今日初めてああいった場に参加されたのだっけ。
初めて見る王太子に、皆が緊張して遠巻きに見ていたのを覚えている。
私と姉は公爵家の者として一番にご挨拶したが、私は姉の背後にひっそり控えるだけで、主に会話したのは姉だった。
金髪碧眼、見目麗しき王太子。温かい笑みを浮かべ、優しそうな瞳で姉と話されていた。
対する姉は銀髪に紫紺の瞳が美しい。白磁の肌にうっすら紅が差していたのは緊張のせいかと思っていたが……なるほど、可愛らしい理由だったのね。
皆が羨望の眼差しで二人を見つめていた。かくいう私もだ。
それほどにお似合いだった二人。
そうね、確かにお似合いだわ。
お姉様は公爵令嬢だから身分としても申し分ない。
きっとマリナお姉様が王太子妃となられるだろう。あの場に居た誰もが疑うことなく、そう確信した。
だが、運命は時に残酷になる。
お茶会から数日後。
我が公爵家に王家から使いが来て父が王城へと向かった時には、きっとそうなのだと私は確信していた。姉も『まさか、そんなはずないわ』そう言いながらも、きっと期待していたことだろう。
帰宅した父を迎え、家族四人でお茶をしながら用件は何だったのかと父に問うたら。
『ルナを王太子の婚約者にしたい、とお申し出があったのだ』
そうして私達姉妹は。
残酷な……残酷すぎる現実を突きつけられることとなった。
13
お気に入りに追加
223
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】そう。異母姉妹ですか。 元凶はアレです、やっつけましょう。
BBやっこ
恋愛
教会に連れられ、遊んでいなさいとお母さんに言われた。
大事なお話があるって。
同じように待っている女の子。ちょっと似ている。
そうしていっしょに、お母さんを泣かせた髭の男を退治したのです。
そんな頃がありましたとお茶をしている異母姉妹。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
拝啓、大切なあなたへ
茂栖 もす
恋愛
それはある日のこと、絶望の底にいたトゥラウム宛てに一通の手紙が届いた。
差出人はエリア。突然、別れを告げた恋人だった。
そこには、衝撃的な事実が書かれていて───
手紙を受け取った瞬間から、トゥラウムとエリアの終わってしまったはずの恋が再び動き始めた。
これは、一通の手紙から始まる物語。【再会】をテーマにした短編で、5話で完結です。
※以前、別PNで、小説家になろう様に投稿したものですが、今回、アルファポリス様用に加筆修正して投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結済み】「何なのよ!アイツっもおお!メイド、お茶ぁ」と貴族の女の子は荒れています。<短編>
BBやっこ
恋愛
メイドに叫ぶ
「あいつが婚約者とかっ!我慢できない。」
「さようですか。」
姉と妹。その関係性と荒れ模様をお届け。
・姉妹仲はずっと良い。
・男運がしばらく悪い。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】おしどり夫婦と呼ばれる二人
通木遼平
恋愛
アルディモア王国国王の孫娘、隣国の王女でもあるアルティナはアルディモアの騎士で公爵子息であるギディオンと結婚した。政略結婚の多いアルディモアで、二人は仲睦まじく、おしどり夫婦と呼ばれている。
が、二人の心の内はそうでもなく……。
※他サイトでも掲載しています
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】悪女を押し付けられていた第一王女は、愛する公爵に処刑されて幸せを得る
甘海そら
恋愛
第一王女、メアリ・ブラントは悪女だった。
家族から、あらゆる悪事の責任を押し付けられればそうなった。
国王の政務の怠慢。
母と妹の浪費。
兄の女癖の悪さによる乱行。
王家の汚点の全てを押し付けられてきた。
そんな彼女はついに望むのだった。
「どうか死なせて」
応える者は確かにあった。
「メアリ・ブラント。貴様の罪、もはや死をもって以外あがなうことは出来んぞ」
幼年からの想い人であるキシオン・シュラネス。
公爵にして法務卿である彼に死を請われればメアリは笑みを浮かべる。
そして、3日後。
彼女は処刑された。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結済】ラーレの初恋
こゆき
恋愛
元気なアラサーだった私は、大好きな中世ヨーロッパ風乙女ゲームの世界に転生していた!
死因のせいで顔に大きな火傷跡のような痣があるけど、推しが愛してくれるから問題なし!
けれど、待ちに待った誕生日のその日、なんだかみんなの様子がおかしくて──?
転生した少女、ラーレの初恋をめぐるストーリー。
他サイトにも掲載しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
嫌われ王妃の一生 ~ 将来の王を導こうとしたが、王太子優秀すぎません? 〜
悠月 星花
恋愛
嫌われ王妃の一生 ~ 後妻として王妃になりましたが、王太子を亡き者にして処刑になるのはごめんです。将来の王を導こうと決心しましたが、王太子優秀すぎませんか? 〜
嫁いだ先の小国の王妃となった私リリアーナ。
陛下と夫を呼ぶが、私には見向きもせず、「処刑せよ」と無慈悲な王の声。
無視をされ続けた心は、逆らう気力もなく項垂れ、首が飛んでいく。
夢を見ていたのか、自身の部屋で姉に起こされ目を覚ます。
怖い夢をみたと姉に甘えてはいたが、現実には先の小国へ嫁ぐことは決まっており……
子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。
さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。
忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。
「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」
気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、
「信じられない!離縁よ!離縁!」
深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。
結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる