吸血鬼公爵に嫁いだ私は血を吸われることもなく、もふもふ堪能しながら溺愛されまくってます

リオール

文字の大きさ
上 下
34 / 40
第一部

33、吸血鬼とメイド(4)

しおりを挟む
 
 
「さて、えーっと……あ~っと……ピンク頭のお嬢さん」

 名前ど忘れしたでしょ、ヨシュ。いいですけど、覚えなくて。一生忘れててください。

 ヨシュは冷静にピンク頭に話しかけます。強く握られた拳が、苛立ちを感じますが、さすが名執事。いかなる時も冷静さを忘れないんですね。

「あなた行き当たりばったりっぽかったけど、実は計画的に来たでしょ?しかも誰かの命令じゃないですか?」

 誰かって……王家以外にあるんでしょうか。一応そこは断定せずに聞いてるのでしょうかね。

「ふえ!?知らひゃい知らひゃいよ!おーけとか、あらし知らひゃいから!」

 良かった、安定の馬鹿だった!
 気を失ってたピンクは王太子を見てはいない。なのに「王家」とか言ってる時点で答えは見えたわけです。

「そうですか。ちなみに王太子から何か言われてませんか?」
「おーじさま?べつになにも……あ~おーじさまかあ……こーしゃく様もいーけど、おーじさまもいーよね~。やら、あらしのこと取り合いとかなっちゃっひゃらどーしよぉぉ!?」

 はい、公爵様が手を振りかぶりましたー!
 私は当然のことですが、ヨシュも今度は止めません。

 あ~部屋に響き渡るビンタの音が心地よいですねえ。

 いつまでも聞いていたいですが、そうもいきません。何よりフィーリアラお嬢様が大事!

 どうするのかと様子を見ていれば。

 また気絶したピンク頭をヨシュが縄で縛りあげてました。行動が早い。どこから出したんですか、その縄。いきなり出てくるの流行りですか。

「ふう、汚いものを触ってしまった」

 大概あなたも毒舌ですね。
 ゴシゴシとタオルで手を拭き、そのタオルはゴミ箱イン。

 そして公爵を見やる。

「で、どうするんですか?」
「決まってる、フィーリアラを助けに行く」
「場所は分かってるんですか?」
「城に行けば分かるだろう」

 人さらいをしておいて、素直に城にフィーリアラ様を連れてってるわけはないと思いますが。誰か一人くらいは王太子の行動を知ってる者がいるのではないか。そういう事なんでしょう。

 けれどヨシュはため息をついて肩をすくめました。

「これだからゼルストア様は……いつも僕に押し付けてるからこういう時困るんですよ。王族の隠し別荘くらい知っておいてください」
「む……」

 なるほど、隠し別荘!さすがヨシュ、あったまいい!惚れ……ません!

 なんだかフィーリアラ様に似てきたと感じる自身の頭を振って、現実に戻ります。

「別荘なんてたくさん有りそうですが、全部見て回るんですか?」

 それならば、やはり城で誰かひっ捕まえた方が早いのでは?
 そう聞くと、ヨシュは人差し指を立てて横に振ってニヤリと笑いました。

「ちっちっち、僕の情報網を舐めないでいただきたいなあ。舐めて欲しいですけど、舐めないでくださいよ」
「何言ってんですか」

 夜のジョークだよ、とか言われても笑えませんよ。どこのオヤジですか。あ、あなたオヤジどころかミイラレベルに年いってましたね。

「ミイラって……ふっ、はっ……!」

 そこツボ?お腹抱えて笑われてしまった。
 いやもういいから、早くしてくださいよ!

「はは、すみませんすみません。えとですね、王太子の別荘は一つしか無いです。まあ他の別荘も利用できますけど、王太子が自由に出来るのは一か所だけなんですよ。なのでそこにフィーリアラ様がいる可能性大です」
「よし案内しろ」

 言うが早いか、公爵様がヨシュを肩に担ぎ上げました!

 おおお、さすが公爵、ちっからっもち~!

「え、そこはお姫様抱っこで」
「落とすぞ」
「ごめんなさい」

 余裕があるのか無いのか、二人はいつも通りの飄々としていて。だから私も安心して任せられたんだと思います。

「エミリー、その変態は危険だから、そのまま近づくな触るな見るな、埋め……るな」

 一瞬、埋めろって言いかけたでしょ。
 私も埋めたいですけどね。

「心配しないでも大丈夫ですから。すぐにフィーリアラ様を連れて戻りますからね」
「分かりました。公爵様も……ヨシュも、どうかお気をつけて」

 何か温かいものを用意して待ってますね。

 私がそう言うと、公爵様は一つ頷き。
 ヨシュはニッコリ笑ってくれた──公爵様の肩に担がれてなかったら、イケメンだなあとときめいてたかもね。

 公爵様はベランダから飛び降りたかと思うと、一瞬で闇の森へと消えて行った。それはもはや人間業ではありませんでした。

 そして、その後を追う複数の影──。
 あれ、見間違いかな。

 と思いたかったですが、見間違いではないですね。

 確かに見えました。フワモフ達が森の中へと消えて行くのを──公爵を追いかけて行くのを、私は止められなくて呆然と見送る事しか出来ませんでした。



しおりを挟む
感想 60

あなたにおすすめの小説

私が、良いと言ってくれるので結婚します

あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。 しかし、その事を良く思わないクリスが・・。

変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!

utsugi
恋愛
私、こんなにも婚約者として貴方に尽くしてまいりましたのにひどすぎますわ!(笑) 妹に婚約者を奪われ婚約破棄された令嬢マリアベルは悲しみのあまり(?)生家を抜け出し城下町で庶民として気ままな生活を送ることになった。身分を隠して自由に生きようと思っていたのにひょんなことから光魔法の能力が開花し半強制的に魔法学校に入学させられることに。そのうちなぜか王太子から溺愛されるようになったけれど王太子にはなにやら秘密がありそうで……?! ※適宜内容を修正する場合があります

王子からの縁談の話が来たのですが、双子の妹が私に成りすまして王子に会いに行きました。しかしその結果……

水上
恋愛
侯爵令嬢である私、エマ・ローリンズは、縁談の話を聞いて喜んでいた。 相手はなんと、この国の第三王子であるウィリアム・ガーヴィー様である。 思わぬ縁談だったけれど、本当に嬉しかった。 しかし、その喜びは、すぐに消え失せた。 それは、私の双子の妹であるヘレン・ローリンズのせいだ。 彼女と、彼女を溺愛している両親は、ヘレンこそが、ウィリアム王子にふさわしいと言い出し、とんでもない手段に出るのだった。 それは、妹のヘレンが私に成りすまして、王子に近づくというものだった。 私たちはそっくりの双子だから、確かに見た目で判断するのは難しい。 でも、そんなバカなこと、成功するはずがないがないと思っていた。 しかし、ヘレンは王宮に招かれ、幸せな生活を送り始めた。 一方、私は王子を騙そうとした罪で捕らえられてしまう。 すべて、ヘレンと両親の思惑通りに事が進んでいた。 しかし、そんなヘレンの幸せは、いつまでも続くことはなかった。 彼女は幸せの始まりだと思っていたようだけれど、それは地獄の始まりなのだった……。 ※この作品は、旧作を加筆、修正して再掲載したものです。

【完結】義母が来てからの虐げられた生活から抜け出したいけれど…

まりぃべる
恋愛
私はエミーリエ。 お母様が四歳の頃に亡くなって、それまでは幸せでしたのに、人生が酷くつまらなくなりました。 なぜって? お母様が亡くなってすぐに、お父様は再婚したのです。それは仕方のないことと分かります。けれど、義理の母や妹が、私に事ある毎に嫌味を言いにくるのですもの。 どんな方法でもいいから、こんな生活から抜け出したいと思うのですが、どうすればいいのか分かりません。 でも…。 ☆★ 全16話です。 書き終わっておりますので、随時更新していきます。 読んで下さると嬉しいです。

【完結】メンヘラ製造機の侯爵令息様は、愛のない結婚を望んでいる

当麻リコ
恋愛
美しすぎるがゆえに嫉妬で嘘の噂を流され、それを信じた婚約者に婚約を破棄され人間嫌いになっていたシェリル。 過ぎた美貌で近付く女性がメンヘラストーカー化するがゆえに女性不信になっていたエドガー。 恋愛至上の社交界から遠ざかりたい二人は、跡取りを残すためという利害の一致により、愛のない政略結婚をすることに決めた。 ◇お互いに「自分を好きにならないから」という理由で結婚した相手を好きになってしまい、夫婦なのに想いを伝えられずにいる両片想いのお話です。 ※やや同性愛表現があります。

職業『お飾りの妻』は自由に過ごしたい

LinK.
恋愛
勝手に決められた婚約者との初めての顔合わせ。 相手に契約だと言われ、もう後がないサマンサは愛のない形だけの契約結婚に同意した。 何事にも従順に従って生きてきたサマンサ。 相手の求める通りに動く彼女は、都合のいいお飾りの妻だった。 契約中は立派な妻を演じましょう。必要ない時は自由に過ごしても良いですよね?

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

幼馴染の婚約者ともう1人の幼馴染

仏白目
恋愛
3人の子供達がいた、男の子リアムと2人の女の子アメリアとミア 家も近く家格も同じいつも一緒に遊び、仲良しだった、リアムとアメリアの両親は仲の良い友達どうし、自分達の子供を結婚させたいね、と意気投合し赤ちゃんの時に婚約者になった、それを知ったミア なんだかずるい!私だけ仲間外れだわと思っていた、私だって彼と婚約したかったと、親にごねてもそれは無理な話だよと言い聞かされた それじゃあ、結婚するまでは、リアムはミアのものね?そう、勝手に思い込んだミアは段々アメリアを邪魔者扱いをするようになって・・・ *作者ご都合主義の世界観のフィクションです

処理中です...