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第一部
19、吸血鬼と町
しおりを挟むヨシュの背に揺られる事数時間……馬に乗った事すらない私が狼の背中になんて大丈夫なんだろうかと思ってたけれど。ヨシュは上手にバランスを考えて私を乗せて走ってくれた。お陰でヒヤリとすることは無かったけれど。
馬と同じくらい大きな狼ってやっぱり尋常じゃないよねえ。人の姿の時より大きくない?
正体知らない人が見たら悲鳴あげるか卒倒するだろうなあ。
中身がヨシュだと知ってる私はふわふわを堪能するだけだけど。
もうすぐ一番近くの町に着きますってとこで。
まだ遠くにかすかに見える程度の場所で。茂みに隠れてヨシュは人へと姿を戻した。
「一つ聞いていい?」
「はい何でしょう?」
「狼の時は何も服着てないのに、人に戻ったら服着てるよね。どうなってるの?」
「企業秘密です」
すんごい気になるんですけど!
ニヤリと笑ってかわされてしまった!
「さて、ここからは申し訳ありませんが歩いていただきます。町は遠くに見えてますが、結構距離ありますよ。大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。動きやすい服着て来たし!」
というか、そもそも動きやすい服しか無いし!
実家に居た頃は同じ服をリフォームして再利用しまくってましたから。
流行とか令嬢らしさとかどうでも良かったので、本当に大したものを持ってなかった。
この一ヶ月の間に公爵が服を買ってくれようとカタログ見せてくれてたのだけれど。「きみに絶対似合う!」とか力説されたけど、丁重にお断りしました。
どれも機能性が低そうだったから。
ウェンティなんかが好みそうな可愛い系ばっかりだったなあ。公爵の好みなのかな。
でも私は可愛さより着やすさ動きやすさを好みます!
そんなわけで、あまりにしつこいから買ってもらった数着は、全て機能性重視となっていた。
その結果、庶民の皆さんに近いデザインになったけれど、むしろその方が都合良かったので結果オーライ。
変に貴族っぽいと警戒されちゃうもんね!
ヨシュも執事っぽくないラフな格好で来てるし。
「それでは行きましょうか」
「はーい」
いつも屋敷で書類とにらめっこしてた実家暮らし。
それは公爵家に来てもあまり変わらなかった。
だから実はとっても楽しみなんだ!ワクワクしてます!
──なんてことを最初に公爵に行ってたら、お出かけ許可は貰えなかっただろうなあ。
心で舌をペロッと出してたのは内緒です。
軽い足取りで町まで歩く私は、確かにウキウキだったのだ。
テンション高かったのだ。
「お姉さまあぁぁぁ!!!!!」
数時間後。
町に着いたら、なぜか居たウェンティに抱きつかれるまでは。
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