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第一部

12、吸血鬼とワイン(2)

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「さすがです、フィーリアラ様!ゼル様のボケにそこまで対応出来る方はそうはいませんよ!!」

 え、なんか全然嬉しくないこと褒められてる気がする。

「いや~、ほんと困ってたんですよ。今お見せしたように大して血は必要ないのに、吸血鬼へのイメージのせいで全然人来なくて」

 そうでしょうねえ。

「僕一人でこの巨大な屋敷を管理なんて出来るわけもなく」

 無駄に大きいですもんねえ。

「ゼル様は動物達の世話以外からっきしだし」

 あ、ふわもふのお世話はちゃんとしてるんですねえ。

「有事には欠かせない戦力となる公爵を敵に回さないように、と王家からお金は貰ってますが、どうにも上手くやりくりできなくて」

 お金ぇ!!

 思わず叫びそうになる口を押さえる。

「ゼル様も身を固めればちょっとはしっかりするかなあと思って、優秀なお嫁さん居ませんか、と王家に打診したんですよね」

 あらやだ、優秀だなんて。

 ──いや待て、王家が伯爵家にこもってた私の事を知るはずないな。

 きっとタヌキな王家のことだ。とりあえず公爵家の依頼に応えるという体裁を保つためだけに、うちの実家を選んだな。

 万が一、吸血鬼公爵の怒りを買って滅ぼされても困らない、無能伯爵の家を。

 つまりは王家に売られたってことだ。

 私は親だけじゃなく、王家にも売られたってことかあ……

 なんか虚しい。

 凹んでたら、突然右肩に重みがかかった。

 リン君は左肩に居る(実はまだいた)
 では右肩は──?

 視線を向けると……なんか黒い物体がサワサワと……

「ふおおおおっ!!??」

 変な声出たわ!

 公爵が、背後からいきなり私の右肩に頭を乗せて来たんだもの!そりゃ変な声も出るわ!

「ゼゼゼ、ゼル様!?」

 この呼び方したら変態が出るとかも忘れて。
 慌てて名前を呼んでみたが。

 公爵は「ん~~~~」とか言ってモゾモゾ動くだけで退いてくれない。髪、くすぐったいぃ!

「あ、言い忘れてましたけど、ゼル様はお酒弱いんで」

 なんでワイン飲むの!
 赤い飲み物ならトマトジュースあるでしょうが!あれ健康にいいよ!

「え、だってワインの方が格好いいじゃないですか」

 知るか!

「あと、酔っぱらうとゼル様面白いんで」

 そっちが本音だろ!主で遊ぶなあぁぁっ!!

「ゼル様、ちょっと退いていただけませんか?」

 あたふたしながら声をかけてみるけど、やっぱり反応がない。
 ううう、どうすればいいのよこれ!

「違う、違うんだ……」

 なんか呟いてる。
 ボソボソと、公爵は何かを呟いている。

「何ですか?」

 その声を聞こうとそっと耳を近付けた、その瞬間──!

 ガバッ!!

「!?!?!?!?」

 えええええ!

 視界が一変する。

 え、え、えええ!?

 わ、私……公爵に抱き締められてる!?


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