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第一部

8、吸血鬼とメイド(1)

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 皆様初めまして、メイドのエミリーと申します。

 フィーリアラ様が8歳の時にお仕えして早10年。悪魔のような親と妹に負けること無く頑張っておられるお姿を、ずっと見て参りました。

 優秀と謳われた先々代の才を受け継がれた……と噂されるお嬢様の凄さを最初に見いだしたのは、おそらくは私ではないでしょうか。

 たしかあれはお嬢様が10才くらいの頃。深夜に気配を感じてお部屋を覗いたら。ロウソクの灯りの下、お金を数えておいでのお嬢様発見。

 心臓止まりかけましたわ!

 ──この子ヤヴァイ!って思いましたね。色々な意味で。

 そしてその予感は外れること無く。

 いつもいつも、自分のことより領地のこと民のこと、私達使用人のことを第一に考えてくださってたお嬢様。

 自分のことにはお金をかけず。
 着る服は貰い物やお直しした物ばかり。

 好きなメニューは卵かけご飯!

 趣味はお金を数えること!!小銭大好き財布はがま口!

 何でしょう、なぜか涙が出そうになります。きっと感動の涙ですね。

 そんなお嬢様も、来年にはレイオン様と結婚されるんだなあと思ってましたら。
 まさか、恐ろしい噂しかない吸血鬼公爵に嫁がされるなんて!

 さすがのお嬢様も落ち込まれると思っていたのですが……心配して様子を伺ったときに、ものっそ晴れやかな顔で言われました。
 
「ざまぁしてやるんで宜しくぅ!」

 ……もう一生この方に付いていこうと思ったし!
 カッコイイし!惚れてまうし!
 けして30手前なのにまだお相手が居ないことでヤケクソになってるわけではありませんよ!涙出てませんよ、汗ですから!

 なんて思ってたわけですが。

 どうやって吸血鬼公爵を言いくるめるのか。そもそも生き延びれるのか、とビクビクしながらやって来ましたら。

「何ですか、これは」

 思わず呟くのも仕方ないと思って下さいませ。

 目の前には大切なお嬢様──の肩にピンクのふわふわオウム。背を向けられてますので私からは見えにくいですが、その手には確かにもふもふワンコ。

 そして──

 顔を赤らめた……えーっと……

「あの方、本当に吸血鬼公爵様なのですか?」

 思わず隣の方に聞いてしまいましたよ。
 ストレートすぎるとか考えてられません。

 見た目は確かにイメージ通りの吸血鬼って感じですが。
 ふわもふが好きな吸血鬼ってどうなんでしょうか。

「はあ……まあ、一応……多分……自信無くなってきましたけど」

 執事に自信無くされるとか!いいんですかそれで!

 渡されたワンコをモフりながらもお嬢様を見つめ続ける公爵様。

「か、かわ……」とか呟いてます。

 言いたいことは分かります、分かりますよ。

 そうですね、お嬢様は文句なしに可愛いですね。私からは見えませんが、ふわもふを堪能するお嬢様は、きっと女神のごとき美しさと花のような愛らしさが混ざってることでしょう。

 容姿だけは良い親の、良いとこばかり貰われましたから。金髪金眼なんて、吸血鬼にとっては太陽のごとき眩しさでしょう!

 言ってやれ言ってやれ!可愛いって言っちゃれ!
 と、心の中で応援すれば

「カワウソですか!?」

 ってまさかのお嬢様天然発言。公爵様、口を開けたまま何も言えなくなってますよ!

 ぅおぉ嬢様あぁぁ!!!
 
 恋愛偏差値低すぎの主に心の中でツッコミましたよ!
 会計学の本の前に恋愛小説読んで下さい!

「……あれ、完全に墜ちてますよね」
 隣の方に──ヨシュさんとか仰いましたっけ──思わず聞いてみれば。
「墜ちてますよね。完っ璧に」
 同意を頂きました。

 冷血で恐ろしいと評判の吸血鬼公爵様は。
 容姿端麗なお嬢様に恋されたようで。

 ────吸血鬼、チョロいな。

 なんて思ったのは、流石に内緒でございます。


 
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